空き地から広場へ、更地を“居場所”として活用するという決断

京都市内で一番長い商店街、南北に延びる「新大宮商店街」。約1kmの大宮通に180店舗が並ぶ。昔ながらの魚屋さんや洋品店があるかと思えば、話題のチョコレートショップがオープンしたりと、新旧入り混じった魅力を感じられる商店街である。

ここに、今回紹介する「新大宮広場」が誕生したのは2018年11月のこと。商店街の北寄りの紫竹(しちく)通近くにできた100坪の“みんながつくる新たな居場所”である。

上から見ると“コの字型”をしている敷地は、大きく北側と南側に分かれている。北側にはマルチガレージ、テラスデッキ、メインヤードがあり、間に一軒の住居を挟み、南側にはセンターハウスという厨房スペースとトイレが。北と南のスペースはメインヤードから続くサブガーデンでつながっている。

もともとこの土地は「新大宮広場」の発案者・荒川朋彦さんが荒川家代々受け継いだもので、荒川さんから借地をした数名が各々、店舗や住宅を建てていた。そういった建物全てが取り壊されて更地になったのは2017年。

「お店をされていた方が高齢になったり、建物自体が老朽化したりして空き店舗、空き家になっていたんです」と荒川さん。だが、後を継ぐ人が決まらず、それらの物件は宙ぶらりんの状態に。
「借地人の方々は相続の問題もあり、新たに貸すことも売ることもできず…。結果として更地になったわけですが、こうなることも予測されたので、以前から吉田さんに相談していました」

吉田さんとは、地元の不動産会社「株式会社フラットエージェンシー」の会長・吉田光一さん。昔から荒川家と付き合いがあるのだという。

2人が出した結論は、“この土地には店や住宅は建てない、みんなが集まれる空間として活用する”ということだった。

左上/「新大宮広場」の俯瞰図  右上/マルチガレージ。昼はフードカーや移動販売車が利用し、夜間は一般のタイムパーキングとして機能 左下/サブガーデン。飲食スペースとしても自由に使える 右下/飲食店業および菓子製造業の許可も取られているセンターハウス左上/「新大宮広場」の俯瞰図  右上/マルチガレージ。昼はフードカーや移動販売車が利用し、夜間は一般のタイムパーキングとして機能 左下/サブガーデン。飲食スペースとしても自由に使える 右下/飲食店業および菓子製造業の許可も取られているセンターハウス

約1kmの商店街と、地域活性化への想い

その決断に至るまでの思いとは、どのようなものだったのだろう。
吉田さんは「時代の移り変わり」だという。以前は学生向けのアパートやマンション経営もうまくいったが、そういう時代は終盤を迎え、車を持たない時代になっている今、パーキングの経営も難しい。

荒川さんも「住宅を建てるのは商店街では身勝手すぎるかなと。じゃあ店舗にしようとなると、入居者が決まるか、決まったとしても商売が継続できるか。そういう話をしていくなかで、それなら賑わいを生み出したい、地域活性のために何かしたいという気持ちが大きくなっていきました」

新大宮商店街は前述のように、全長が約1kmと長い。そのため、荒川さんによると「北と南では意識が違う」のだそうだ。新しいお店ができたという情報のやり取りも少ないという。
「南エリアは市バスの本数が多い北大路通から近いので、北側よりもにぎやか。北と南で人や情報が循環するには、“たまり場”や“居場所”が必要だと思ったんです。周辺にある大徳寺や金閣寺を訪れる観光客がここに足を向けてくれるきっかけになればという気持ちもありました」

荒川さんが完成までのイメージの軸にしていたのは“フラップレス”のパーキングだったという。フラップレス、つまりロック板が無い駐車場である。
障害物が減る分、使い方の自由度が高くなるし、かつ監視カメラがあるので防犯対策にもなる。イベントのときはここにキッチンカーを止めよう。飲食を楽しむなら、椅子やテーブルも必要だ。座るスペースは車を止めている部分よりも一段高くしておいた方が安全面でいいだろう。大勢の人が集まるなら緑もあった方がいい。イメージはどんどん膨らみ、固まっていった。

まちづくりのスペシャリストも参加して「100坪プロジェクト」が発足

そんな荒川さんと吉田さんが思いを実現するため声をかけたのが、社会的課題の解決に取り組む「京都市ソーシャルイノベーション研究所」の山中はるなさんだった。

山中さんは「いろんな人がいろんな立場で意見を出した方が使いやすい場所ができるはず。そう思って“おもしろそうな人”に呼びかけました。公共性が高いとはいえ営利の部分もあるので、ボランティアというよりも、将来ここで何かしらのビジネスができそうな人やこの場所を活用できる人たちです」。大学教授、マルシェの仕掛け人、商店街の店主、まちづくりのコーディネーターらが集まって、2018年1月「100坪プロジェクト」が発足した。

ミーティングは、2週間に一度というハイペース。
「かなり打ち合わせを重ねました。僕の夢物語だったことを現実にするために行政への許可を取るなど一つずつクリアしていったんです」(荒川さん)

そうして2018年11月、メンバーの思いが結集した居場所、「新大宮広場」が完成した。
「オープンの日を迎えたものの、台風24号とかちあってしまい、実は思った通りの工事ができないままだったんです」と荒川さんは笑うが、吉田さんは「感動で涙が出ました」と振り返る。オープン初日は京都市北区長も挨拶に訪れたり、ワークショップやカフェなどを楽しめるワークショップが行われ、盛況のうちに終えたそうだ。

2018年11月10日、「新大宮広場オープニングイベント-はじまりマルシェ-」の様子 2018年11月10日、「新大宮広場オープニングイベント-はじまりマルシェ-」の様子

「このエリアに住んでみたい」という人を増やすために

取材に訪れたのは2019年3月。オープンして4ケ月がたったころだった。この間、子ども向けのアートワークショップや数々のフードイベント、アウトドアイベントの会場として利用されてきたが、荒川さんの手ごたえはどうなのだろうか。

「イベントの時に、周辺の商店の方から『いつもよりお客さんが多くて焼き芋がよう売れたわ』っていう声を聞いたのは、うれしい話(笑)。ただ、中にはご批判の声もありました。もちろん、それにはきちんと説明はしていますが…」。まだまだ、という表情で話す荒川さん。

「ともかくは、地域の人に気軽に来てほしい。広い場所があるから日曜大工の続きでもしようかなとか、家の中の整理をしたら古着が出てきたから車で運んでガレージセールしようかなって。そういったご希望に応じるさまざまなプランを用意していますので、問合せてもらえれば。センターハウスに関していえば、ここは“大きな台所”をイメージしているんです。いずれは商店街で買ったものを調理して、みんなで食べるような。商店街を盛り上げるためにも役立てたいと思っています」
吉田さんも傍らで、「PTAや女子会の集まりにも利用してもらいたい」と話す。

その一方、荒川さんは地元以外にも目を向けている。「イベントに来てくれた人に『このエリアいいね、住んでみたいね』って言ってもらえるのも一つの理想にしています」。人が増えると、それだけ地域は盛り上がり、商店街の活性化にもつながるというわけだ。

取材時、荒川さんたちは春に向けて緑を植える計画をしている真っ最中だった。青々とした緑の上で子どもたちが走り回ったり、寝転がったり。天気がいい日は、お弁当を持参してピクニックを楽しむのもいいだろう。単なる空き地だった場所にこれから緑が芽を出すように、「100坪プロジェクト」のメンバーの思いも大きく育っていく。

■取材協力
新大宮広場 https://shin-omiyahiroba.com/

「100坪プロジェクト」のメンバー。右から吉田光一さん、荒川朋彦さん、「新大宮広場」のデザインを担当した「STUDIO RAKKORA ARCHITECTS」の木村日出夫さん、山中はるなさん、「フラットエージェンシー」の寺田敏紀さん「100坪プロジェクト」のメンバー。右から吉田光一さん、荒川朋彦さん、「新大宮広場」のデザインを担当した「STUDIO RAKKORA ARCHITECTS」の木村日出夫さん、山中はるなさん、「フラットエージェンシー」の寺田敏紀さん

2019年 05月19日 11時05分