地域再生の一端を担う期間限定の新企画

大阪府住宅供給公社の茶山台団地大阪府住宅供給公社の茶山台団地

大阪府堺市の泉北ニュータウンで、キャンセル待ち状態の人気ワークショップがある。それは、大阪府住宅供給公社の茶山台団地をDIYワークショップでリノベーションする、日本初のプロジェクト「DIYリノベーションスクール」だ。

1967年に団地への入居開始とともに街開きをしてから今年で47年、緑豊かな住環境を有する街として成熟してきた泉北ニュータウンだが、他の郊外型ニュータウンがそうであるように、社会環境や居住者ニーズの変化をはじめ、少子高齢化や人口の減少、住宅や施設の老朽化など様々な問題が表面化している。そこで、街の活性化を図るため「泉北ニュータウン再生指針」が策定され、その指針を基に平成22年「泉北ニュータウン再生府市等連携協議会」が設立。泉ヶ丘駅前地域の活性化や公的賃貸住宅などの再生について、大阪府及び堺市が関係する、都市再生機構(UR)、大阪府住宅供給公社、大阪府タウン管理財団といった公的団体と連携し、泉北ニュータウン再生に向けた取り組みについて協議・検討が進められている。

その地域再生の一環として、茶山台団地を管理する大阪府住宅供給公社とDIYショップのDIY FACTORY OSAKAを運営する株式会社大都、リノベーションなどのデザインを手がける9(ナイン)株式会社が手を組み、「DIYリノベーションスクール(2014年10月4日〜2015年3月14日)」に取り組んでいる。
多くの人が注目しているこの企画、果たしてその内容はどのようなものなのか。スクールが実施されている現地で話しを聞いてみた。

それぞれの業界が抱える問題に挑む、その意気込みとは

スケルトン状態の部屋にてお話しいただく左から山田氏と川原氏スケルトン状態の部屋にてお話しいただく左から山田氏と川原氏

「地域再生に向けた取り組みを行うにあたって、公的機関だけではなく民間企業との連携を堺市が推奨していることもあり、私どもの方から株式会社大都さんに話しを持ちかけました」そう語ってくれたのは、大阪府住宅供給公社の企画グループ グループ長の川原光憲氏だ。
最初は、企画グループ主査の田中陽三氏が難波の高架下にオープンした、体験型DIYショップ・DIY FACTORY OSAKAの存在を知り、地域再生事業に活かせるのではないかと興味を覚えたそうだ。そこで、大都の代表取締役・山田岳人氏と会い話しをすると、次々に「住宅」というツールを使った色んな企画案がでてきて、高齢化が進む団地に若い方が入ってきてくれるイメージが湧いたという。

「DIYショップに来店くださるお客様も、DIYをやってみたいが、どうやればいいのか分からない。そんな方が本当に多いんです」と山田氏は話す。創業78年、総合金物工具商社でもある大都は、ホームセンターなどこの業界の業績不振に眉をひそめる。「この業界はずっと右肩上がりだったのが、ここ4年ぐらい頭打ちになっています」と業界事情を語る。
「DIY文化が海外から日本に入ってきたのは約40年前、店頭に商品を置けば売れる状態が続いたこともあり、利益重視で今日までDIY文化を根付かせることを怠っていたんです」と今までの業界について、赤裸々に語ってくれた。「ドリルください。と言って来店される方は、ほとんどいないんです。棚を作りたいんですとか、壁を塗りたいんですというように、やりたいことのために工具を購入に来る。工具はあくまでツールであって、それを完成させるための手段でしかない。僕たちは、やりたいことを実現する方法を伝えてこなかったんです」というのだ。そして「このスクールでの体験を通して、DIYの面白さや自分の手で完成させる楽しさを、実感してもらいたい」と、にこやかだ。

DIYのやり方が分からない、そんな人が「DIYリノベーションスクール」で学べること

DIYスクールの様子DIYスクールの様子

海外でDIYは当たり前のことで、お父さんから教わったり学校の授業などで学ぶ場があるが、日本では近年、DIYブームが到来しているにもかかわらず教えてもらう場がない。やりたいがその方法が分からない、そんな人の救世主のように現れた「DIYリノベーションスクール」は、どのような内容になっているのだろうか。

このスクールでは、茶山台団地11棟の建物内5戸の住戸内を、参加者が実際に解体しリノベーションする。ほぼ毎週土曜日、朝10時〜夕方5時までの授業で計21日間の講義スケジュールだ。受講料は、1講義で1,000円、全てに参加する通しチケットは10,000円となっている。午前中は、団地内の集会所で塗料やシリコンなどの用途による商品の選び方や工具の種類・使い方・作業中の注意事項など、ハウツー本に書かれていないようなきめ細かなことを学び、午後から実習作業を行う。定員は30名、5戸の部屋にそれぞれ割り振られるため、大工さん+6人が1つのチームとなり、みんなで協力して作業をしている。

初日は、住戸内の壁や床を剥がす解体から始まる。この作業では普段、見ることのない壁の中や床下の構造を目の前で確認できる。その後は、デザインの墨出し、コンクリートへのペンキ塗り、床のしくみを理解しつつ床を張る作業へと進み、間仕切り壁の作成やプロの技を間近で学べる壁塗り、ドアの取り付けから長くきれいにキープするための仕上げ方まで、DIYリノベーションの最初から最後まで一連の作業が体験できる。

参加者の4分の1は、建築などを学んでいる10代〜20代前半の学生で、住まいに関する関心は女性の方が高いのか全体の3分の2は30代〜50代の女性だといい、最高齢は60代だという。参加理由も「中古住宅を購入したので、できれば自分でリノベーションしたい!」というものや「DIYのやり方が知りたかった」という声が多いという。

「DIYリノベーションスクール」の作業風景は、Facebookで随時公開されている。
https://www.facebook.com/danchidiy

参加者にとって現場の作業は「トムソーヤのペンキ塗り」

壁や天井にホワイトのペンキを塗り、床張りを始めたところ。窓側のコンクリート壁は、これから断熱材を用いて施工する壁や天井にホワイトのペンキを塗り、床張りを始めたところ。窓側のコンクリート壁は、これから断熱材を用いて施工する

川原氏も山田氏も、「企画したものの本当に参加者が集まるのだろうか?」と、内心は心配していたんだとか。だが、蓋を開けてみるとキャンセル待ちになるほどの盛況ぶり!ホームページやSNSを通じて、あっという間に情報が拡散したという。

「実際の作業は、壁や床の解体作業やペンキ塗り、壁や床張りといったみんなが嫌がるような工事現場での作業そのもの。本来は、日当を払って職人さんにしてもらうことを、逆に私たちが参加者からお金をもらって作業をしてもらっている。よくよく考えると不思議な光景ですが、帰り際に参加者の方から、楽しかった!とか面白かった!という声を聞いて、これはまさにトムソーヤのペンキ塗り(※)だなと思いました」と山田氏は語る。
(※これは、面倒なペンキ塗りをトムソーヤがあまりにも楽しそうにするので、それを見ていた友人が僕にもやらせて欲しいとお願いする。だが、こんな楽しいこと他の人にさせたくないと断わられ、それならと友人は自分のおやつと引き替えに作業をさせてもらい、いつしか行列ができるというトムソーヤの冒険での一幕)

DIYリノベーションスクールでは、やりたくても出来ない非日常的な作業がメインなのだ。この経験は、実際に自宅でDIYをする際に大いに役立つという。それもそのはず、住宅内の構造が分かれば失敗することも少なく、どうすればいいのかといった応用も効くようになる。このスクールでの成功体験が、DIYに興味を持つ多くの人のやる気につながってくれればと、嬉しそうに山田氏は話す。

子どもの教育や家族のコミュニケーションを深めるDIY

「DIYが出来るようになると何が一番良いかというと、自分でやることで住まいに対する思い入れが変わるし、家族のコミュニケーションが深まることです」と川原氏はいう。「DIYが出来る男性ってカッコイイですよね。お父さんとしても、子どもや奥さんにカッコイイところが見せられますし、家族からの株もグッとあがりますから。それに、子どもと一緒にDIYをすれば、物を大切にするということを覚えるキッカケになります。おもちゃが壊れたら捨てるのではなく、直すという気持ちを持ってくれる。そういう意味では、社会に貢献できるのではと思っています」と微笑みながら話す。「このスクールを通じて、この団地に足を運んでいただき窓から見える自然豊かな風景や、野鳥の鳴き声などを聞きながら実際に住んだときの暮らしもイメージしてもらえると嬉しいです」と語る。

住まいも新築中心の住宅事情から変化していく時代、今までは新しいものを創り出すことで活性化してきたが、人口の減少や少子高齢化によって空き家問題も表面化しつつある。これからは今ある物をどう蘇らせるかが問われる時代に突入している。DIYの文化が根付き、多くの人がリノベーションに興味を持つことで、この産業が活発化し大工の育成にも寄与できるとなれば、住人はもちろん各業界への相乗効果も期待できるのではないだろうか。

次回は、「DIYリノベーションスクール」の体験レポートを紹介いたします!ご期待ください。

取材協力
大阪府住宅供給公社:http://www.osaka-kousha.or.jp/
株式会社大都:http://www.daitotools.com/

左から、大阪府住宅供給公社・企画グループ 田中陽三氏、川原光憲氏、株式会社大都・代表取締役 山田岳人氏、数田知香氏左から、大阪府住宅供給公社・企画グループ 田中陽三氏、川原光憲氏、株式会社大都・代表取締役 山田岳人氏、数田知香氏

2014年 11月27日 11時22分