消費税引き上げに伴う住宅購入支援策は4つ

10%への消費増税に向けて、政府は準備に余念がない。

財政バランスをより良く維持するために必要な増税であることにもはや異論はないが、これまで2回消費増税が先送りされた要因である「景気の腰折れ懸念」は依然払拭されていない。そこで政府は(その是非は別として)、約4兆円と見込まれる国庫への消費税収増のうち、軽減税率の適用など2兆円を経済対策に活用すると表明している。

常に景気対策の柱に据えられる住宅需要対策についても、国交省から4点の施策が公表されている(4を除き予算案、関連税制法案が国会で成立することが前提条件)。

① 住宅ローン減税の控除期間3年延長(合計13年):11年目からは建物購入価格の2%を3分割した額と住宅ローン残高の1%のうち小さい額を適用する。
② 住まい給付金の拡充:対象所得上限が775万円に引き上げられ、給付額も50万円に引き上げる。
③ 次世代住宅ポイント制度の創設:新築最大35万円相当、リフォーム最大30万円相当を付与するポイント制度を創設。
④ 住宅取得目的の贈与税非課税枠拡充:現行最大1,200万円を3,000万円まで拡大。

はたして、この住宅購入支援策の住宅政策で景気の腰折れは防げるのだろうか?4名の有識者の方々から見解を聞いてみた。

消費税引き上げに伴う住宅購入支援策は4つ

「住宅取得等資金贈与の非課税枠拡充」が高額帯の物件の追い風に?~坂根康裕氏

<b>坂根康裕(さかね・やすひろ)</b>:住宅評論家。元「住宅情報スタイル 首都圏版」「都心に住む」編集長。ウェブサイト「家の時間」、「【プロ厳選】注目のマンション 2019」主宰。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」がある坂根康裕(さかね・やすひろ):住宅評論家。元「住宅情報スタイル 首都圏版」「都心に住む」編集長。ウェブサイト「家の時間」、「【プロ厳選】注目のマンション 2019」主宰。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」がある

建物のみにかかる住宅の消費税は、取引相手の売主が住宅事業者の場合に適用対象となる。したがって、消費増税に伴う各種特例措置は、新築やリノベーション再販物件等により影響が出やすいと考える。

2019年10月(10%引き上げ)再増税に向け、過去経験した「増税後の景気の腰折れ」を防ぐべく、冒頭の4つの対策が発表された。①~③はその額からしてもいってこいで「増税後に買っても(または取引しても)損はしない」措置と捉えることができる。需要の先食いとその後の冷え込み、つまり市況に人為的な山谷が生じるのを避けるためのものだ。
しかし、④はそのスケールからして別物。しかも、夫婦でそれぞれが直系尊属(親や祖父母)から非課税枠最大額を受け取ると「良質な住宅用家屋」なら3,000万円(それ以外の住宅用家屋は2,500万円)×2で6,000万円(同5,000万円)の予算援助が可能となる。契約締結期間は2019年度内で、次の2020年度にはそれぞれ1,500万円と1,000万円に、さらに次の2021年度(※2021年12月31日まで)は1,200万円と700万円に(現行水準に戻る)。要件のひとつには、贈与を受けた「翌年3月15日までに居住する見込みであること」とある。

リーマンショック後、市場の活性化に「住宅取得等資金贈与の非課税枠拡充」は一定の成果を挙げた。その実績に基づき、今回はさらに上限を引き上げ、極端な段差をつけることで即効性を図ったのではないか。すでに「増税後に買ったほうが得?」といった声が販売現場で出始めていると聞く。マーケットデータを牽引しやすい、比較的利便性の高い高額帯の物件に追い風の効果があるとみている。

増税後のほうが有利になるケースも?駆け込み需要と反動減は少ないと見る~酒造 豊氏

<b>酒造 豊(みき・ゆたか)</b>:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている酒造 豊(みき・ゆたか):(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている

2019年10月の消費税率引き上げに伴う住宅購入支援策として、①住宅ローン減税の控除期間の延長、②すまい給付金の年収要件の緩和、支給額の拡大、③次世代住宅ポイント制度の創設、④住宅取得等のための資金に係る贈与税非課税措置の拡充が用意されている。過去2回の消費税率引き上げ時には駆け込み需要と反動減が生じたことから、よりメリットが大きい支援策となっている。

今回、新たに設けられた次世代住宅ポイント制度では、「環境」「安全・安心」「健康長寿・高齢者対応」「子育て支援・働き方改革」に資する住宅の新築・リフォームに対してさまざまな商品と交換可能なポイントが付与される。新築の場合は最大35万円相当、リフォームは最大30万円相当のポイントが付与される。
子育て世帯や女性の社会進出を支援する観点から、家事負担を軽減する設備(ビルトイン食器洗い機、掃除しやすいトイレなど)の設置にもポイントが付与され、若者・子育て世帯がリフォームを行う場合には、上限を45万ポイントに引き上げ、さらに既存住宅購入に伴うリフォームの場合には最大で60万ポイントまで引き上げられる。既存住宅に対する支援が新築住宅を上回っていることは注目される。

物件価格や自己資金額、年収などによって異なるが、中堅所得層にとっては増税後の方が有利となるケースも多そうだ。アンケート調査などをみると、引っ越し代金や家具家電などは購入時の税率適用となるため、「消費税率引き上げ前に購入したい」との意識も高まっているものの、前回(2014年4月)引き上げ時と比較すると「住宅購入計画に影響がない」との回答が増えている。また、「住宅購入支援策を検討のうえで購入時期を決めたい」との回答も多く、駆け込み需要とその反動減は少ないと思われる。

「景況感」による消費マインドの刺激で住宅市場は活性化する~矢部智仁氏

<b>矢部智仁(やべ・ともひと)</b>:ハイアス・アンド・カンパニー(株)執行役員兼ハイアス総研 主席研究員。2009年リクルート住宅総研所長、2014年ハイアス・アンド・カンパニー(株)入社、ハイアス総研 主席研究員を経て、2015年より現職。東洋大学大学院 経済学研究科  客員教授として「PPPまちづくりビジネス論」を担当するほか、国土交通省等設置委員会 委員なども務める矢部智仁(やべ・ともひと):ハイアス・アンド・カンパニー(株)執行役員兼ハイアス総研 主席研究員。2009年リクルート住宅総研所長、2014年ハイアス・アンド・カンパニー(株)入社、ハイアス総研 主席研究員を経て、2015年より現職。東洋大学大学院 経済学研究科 客員教授として「PPPまちづくりビジネス論」を担当するほか、国土交通省等設置委員会 委員なども務める

住宅需要を刺激する政策は住宅投資額の倍ともいわれる経済波及効果がもたらすわけで、住宅政策による景気の底支えに対する寄与とその影響を全く考えないわけではない。しかし、住宅市場の活性化は景気の好況感による消費マインドの高まりの結果であり、住宅政策の効果だけを強調することに意味を感じない。例えば経済成長と関連づけて考えてみる。

初めて3%の税率が導入された平成元年前後3年の住宅着工数は、導入前年を100とすると101、100とほぼ変動がない。同時期の実質経済成長率は6.79%(昭和63年)、4.86%(平成元年)、そして消費税導入翌年(平成2年)は3.42%で平均5%強であったが、その翌年は経済成長率が0.85%と一気に低下。すると住宅着工数も前年比マイナス19.4%と大幅に低下した。同様に5%になった平成9年の前後3年の住宅着工数は100、82、72と続落したが、この時の実質経済成長率は1.08%(平成8年)、マイナス1.13%(平成9年)、消費増税翌年(平成10年)はマイナス0.25%とマイナス成長時代であった。また8%になった平成26年の前後3年の住宅着工数は100、89、93と税率アップの翌年には若干の回復を見せている。この時の実質経済成長率は0.38%(平成25年)、1.35%(平成26年)、消費増税翌年(平成27年)は0.96%、さらに翌年は1.74%と回復傾向をみせた。
このように考えると、着工数は駆け込みによる若干の入り繰りはあるものの、順番的には住宅政策の成果が景気を支えるというよりは「景況感」による消費マインドの刺激が住宅市場を活性化させると考えるのが妥当ではないだろうか。

とはいえ、例えば住まい給付金の拡充でいえば国民生活基礎調査(平成28年)で確認できるように給付対象年収755万円は世帯数の75%を超える世帯をカバーし、実質的には住宅購入を検討するほぼすべての世帯を対象にしたといっても過言ではない。こうした機会が正しく伝わることはひとつのきっかけとしては大きいはずであろう。なお、記載内容は個人の見解に基づくものであり、筆者が所属する組織の公式見解ではない。

現制度下では、ローン減税や住まい給付金の措置に注力を~中川雅之氏

<b>中川雅之(なかがわ・まさゆき)</b>:1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学で、主な著書等に「都市住宅政策の経済分析」(2003年度日本経済図書文化賞)、「放棄された建物:経済学的な視点」(2014年学会賞・論文賞)がある中川雅之(なかがわ・まさゆき):1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学で、主な著書等に「都市住宅政策の経済分析」(2003年度日本経済図書文化賞)、「放棄された建物:経済学的な視点」(2014年学会賞・論文賞)がある

消費税の8%から10%への引き上げを控え政府は、一連の景気対策を決定した。その中でも住宅については、以下の4つの措置がそれらの対策の柱となっている。

1.住宅ローン減税の控除期間3年延長
2.住まい給付金の拡充
3次世代住宅ポイント制度の創設
4.住宅取得目的の贈与税非課税枠拡充

消費税とは基本的には、すべての財やサービスに同じ税率でかかるものであるから、すべてのものの価格が基本的には同じように上昇する。人々の消費行動が「絶対」的な価格水準ではなく、他の財やサービスに比較した場合の「相対」的な価格水準だとすれば、相対価格は消費税によって影響をうけない。このため大規模な財政的な措置を伴う消費税対策は、理論的に求められるものというより、国民を納得させるための民主主義のコストを支払っているものと考えることができるかもしれない。

ただし、2つ留意すべき点があろう。ひとつは、本来消費税の対象となるべきは、毎年の住宅サービスの購入である。つまり、毎年擬制された帰属家賃に消費税は課税されるのが筋であるが、全耐用年数の住宅サービス分の消費税を、住宅購入者は一気に支払う必要があるというのが現在の制度である。購入者側に住宅資金の借り入れ制約がある場合、住宅の購入には他の財やサービスよりも深刻な打撃が生じるかもしれない。また、消費税は一定の逆進性があるとされることにも配慮が必要だろう。

そのようなことを勘案すれば、1、2の措置はそのボリュームはともかく必要な措置と考えることができるだろう。3、4の措置は消費税対策として行われる措置というよりは、より長期的、構造的な措置と考えるべきであろう。そのような意味において、1、2の措置により注力することのほうが、本来の趣旨に合致するものと考えることができるかもしれない。

2019年 03月08日 11時05分