本質的な住宅性能は見落とされがちな日本の住宅

家を選ぶとき、住宅性能についてどの程度気にかけているだろうか。地震大国である日本では、建物の耐震性能に高い関心を持つ人は多く、定められている基準も世界的に見て厳しいと言えるだろう。一方で住宅の断熱性能はどうか。日本の住まいは「夏暑く、冬寒い」というイメージがいまだ強いままで、法的にもまだまだ整備が追い付いていない。省エネの話になると、家電の高機能化に興味はあっても、住宅そのものの機能に気を配れているとは言えない。たとえば太陽光発電のような設備の追加はするが、省エネにつながる住宅機能には手を加えていないことがよくある。
最近になってようやくハウスメーカーなどが力を入れはじめ、「断熱性」という言葉を一般ユーザーでも聞くようになってきた。

そこで今回は、LIFULL HOME'S PRESSのオピニオンリーダーである松尾和也氏にインタビューを試みた。住宅の「断熱」や「省エネ」に関する講演や執筆を多数行うなど、精力的な活動を続けている松尾氏だが、なぜ高断熱住宅の普及に力を入れているのだろうか。きっかけとなった体験はじめ、住宅業界の課題や動向を語っていただいた。

なぜ高断熱住宅なのか、きっかけとなった過去の体験

「業界の講演など外へ出ることも多くなったけど、今でもお客さんとかかわる時間をしっかりとっていて、生の声を忘れないようにしています」という松尾氏「業界の講演など外へ出ることも多くなったけど、今でもお客さんとかかわる時間をしっかりとっていて、生の声を忘れないようにしています」という松尾氏

松尾氏が高断熱住宅に関心を持ったのは、学生時代の強烈な原体験があったからだった。

「高校1年生の頃、父が家を建てたときでした。出来上がった家は新しいはずなのに、なぜか家の中が寒くて暑い。それまで住んでいたボロボロの県営住宅のほうがよっぽど快適だと気付いてしまった。そんな住環境に疑問を持っていた中、太陽熱利用システムの家を知ったんです。この家だったら冬でも暖かく過ごせるのでは、とずっと考えていました」

大学では建築学科で学び、住宅メーカーに就職するも、企画型の設計をやるだけでは本当に設計力を身につけることは出来ないと考え、当時兵庫県で最大規模の建築家事務所に転職。

「当時は寝る間もないくらい多くのマンション設計をしました。でもそこでの設計は、ただ建ぺい率や容積を決めるばかりで、これも違うと感じていた。もっと木造で自然素材を使った高断熱な家を作りたかったんです。父が設計事務所をやっていて、継ぐという意識はなかったんですけど、そこで自由にやろうと思いました」

最初にやったのは事務所のホームページを開設すること。2003年の当時、インターネットを使って受注する個人事務所なんてなかったが、ひたすら情報を発信し続けた。

「ホームページ上ではとにかく断熱の重要性を語りました。実績がないので文字で訴えるしかなかった。その頃はまだ『住と健康』という概念もありませんでしたから。
初めて受注が取れたのは2ヶ月後。チャレンジしてくれたお客さんがいて、そこで建てた住宅がサスティナブル住宅賞を取ったんですね」

松尾氏の設計した家に住んだ人からは、住み心地の違いに驚いたという声が届くそうだ。

ドイツの住宅が優れていると言われる理由

日本の住宅が持つ課題はとても多い。住宅先進国のドイツと比較するとそのことがよくわかるという。

「ドイツの住宅耐用年数は最低でも70年以上。これは一つの住宅を多くの人が住み替えていくことで個人だけではなく、国の資産としても見ているということ。住宅基準を整備することはエネルギーを無駄にせず、国からの支出を減らすことなのに、日本はスキだらけです。

日本では、住宅性能に国の目安はありますけど、これはあくまでもボトム値でしかなく、健康に暮らすための基準ではありません。
耐震値で見ると、等級1は大地震で命を落とさないということがベースで、命は助かるけど、家は住めなくなり、経済的生命は絶たれる。そういう基準だと知らないから、みんなその基準でいいと思っています。だから国も基準を上げることはしません。

一方、ドイツでは生活のトータルのマネジメントが整っており、よくできています。
医療を例にすると、ドイツは腕のいい医者が流行って儲かる仕組み。日本は医療行為の点数で報酬が決まる。だから、たくさん処置をして薬を出すほうが儲かるので薬漬けばかりが増えるんだと思います。
住まいも同じで、効果的な情報は共有されず、定量的に基準を決めるだけで解決がないまま。重要でない項目は義務化されているのに、暖かい家に住んだ方がいいというような、絶対やった方がいい項目に関してはなんら義務化されていません。自分で勉強して身を守らないと、健康もお金も守れないというのが日本なんです。

その点、ドイツ(ヨーロッパ)にはエネルギーパスがあり、新古問わず家の燃費が共通の基準で表示されるようになっているから、勉強をしなくてもわかりやすい。日本にはない基準でしょう。
日本の家は、営業トークとカタログスペックで断熱性を判断しなければなりません。要素の1つでしかないQ値ばかりを見ている。車は燃費表示(カタログスペック)の測定環境が決まっているのに、住宅にはそれもないのです」

問題はそれだけでなく、根本的な部分にもあると松尾氏は指摘する。

「日本の製品は多機能だけれど、海外製品でヒットしているものは機能よりももっと本質的な部分がしっかりしています。
車で考えると、日本製はカーナビやバックモニターなど機能は多い。でも車の本質である走る・止まる・曲がるはドイツ車に遠く及びません。このままでは住宅の世界でもそうなってしまいかねない。省エネ住宅を作るとき、『断熱しっかり、暖房ちょっと』と『スカスカの断熱に設備をのせまくる』という家があった場合、同じエネルギー量ならどっちが快適でしょうか。躯体は設備に勝るんですよ」

生き残りを賭けて模索される住宅性能

松尾氏は「長く業界にいるよりも、家を建てたいと勉強した人の方が知識を持っていたりします。そういう人が勉強不足の工務店にあたってしまうことがある。ユーザーの選び方も大切だけれど、工務店も勉強が必要です。しない所が淘汰されていくのは当然でしょう」と話す松尾氏は「長く業界にいるよりも、家を建てたいと勉強した人の方が知識を持っていたりします。そういう人が勉強不足の工務店にあたってしまうことがある。ユーザーの選び方も大切だけれど、工務店も勉強が必要です。しない所が淘汰されていくのは当然でしょう」と話す

近年、松尾氏が感じている住宅業界の変化について聞いてみた。

「ここ数年、高断熱住宅に先駆的に力を入れていた会社から『売れなくなった』と相談を受けるようになりました。確かに、20年前の当時なら高断熱だけがウリでもよかったけれど、今や世間ではそれは普通です。飛び抜けた性能でもない限り、設計力やデザインがないと売れない時代。むしろ有名建築家のような設計力のある人が断熱性に取り組み始めているくらいです。いくら断熱性能が高くてもデザイン力がないとダメ。総合力が必要です。
ラーメン屋がただの"とんこつ味"だけではもう珍しくなくて、売れなくなったのと同じこと。
この業界も成熟してきているので、総合力が高くないと売れません。恐らく、多くの工務店はお客さん目線というより、生き残るためにどうすればいいかと模索しながら断熱に取り組んでいるんじゃないでしょうか」

どういった動機であれ、業界の目線が断熱性能に向くことは悪いことではない。しかし、そこには正しい動機が必要であると語る。

「動機がちゃんとしていないと、正しいゴールにたどり着く人は少ないかなと。
僕がゴールと呼んでいるのは、夏涼しく冬暖かい住宅を経済的に保てる状態のこと。つまり、『イニシャルコスト』か『ランニングコスト』のどちらか一方が安いのではなく、『トータルコスト』が安くなければいけない。それは何年使うことを想定して試算しているかでも変わります。長く使うほど性能を高くした方が、イニシャルコストは高くても、トータルコストは安くなるわけです」

目先のコストではなく、適切な期間を含めたコストまで見積もって提案できる。そんなゴールにたどり着けている会社は、松尾氏から見るとまだそう多くないようだ。

高断熱住宅のメリットをもっと多くのユーザーに届けたい

一般ユーザーの住宅性能への関心はどう見えているだろう。

「住宅性能について知らないからと、気づきもせずに断熱性の低い家に住んでいる人が多い。もし事実を知ったらもっとやりようがあったのにと悔しく思うはずです」

しかし、一般ユーザーが住宅性能について情報を知ろうと思っても、学校では習わない、知るきっかけもなかなかない。そんな中に、【暑さの7割寒さの6割は窓が原因なのに、日本の窓は中国の最低基準以下】のようなコラムを発表したところ、想像以上の反響があったそう。気になっている、興味を持っている人はとても多いのだ。
ユーザーは賢くなるしかないのだろうか?

「たとえば今のエアコンは、高性能化に見合う適切な部屋の広さ表示がされていません。これは国が1964年に制定した基準のままで、変えていないから。本来は国が気付いて書き換えていくべきなのだけれど、そうはいかないのが現状。だからユーザーは勉強したほうがいいですね。日本は健康もお金も勉強して自衛しないと、人生を快適に生きていくのが難しい。
ファイナンシャルプランナーも税金やローンの話ばかりでなく、暮らしの中のお金の使い方をマネージメントしていけるように、もっとこういう知識を持つといいんじゃないでしょうか」

では、ユーザーが住まいの断熱性能に興味をもったら、なにから手を付けたらいいのだろう?

「内窓を付ける、在来⼯法の風呂をユニットバスにする、2階の天井や屋根、1階床の断熱補強。この3点だけで劇的に変わります。天井は冬より夏に断熱効果あり。これだけで不動産価値が上がります。温熱的に最悪な部屋は使われない、無駄な部屋になってしまいます。

日本は住み替えやリフォームを好まず、ライフスタイルに合わせて適応させないので、不動産が死んでしまう。ほとんど使われていない2階の空き部屋等を空き家と換算すると、空き家率はもっと高いはずです。それを有効活用できるようになれば、すごい経済効果になるでしょうね」

先日、松尾氏のコラムが「ホントは安いエコハウス」(出版:日経ホームビルダー)と題して書籍化された。エコ住宅やエネルギーについて、常日頃から考えていたことがテーマになっているという。しかし、この本も業界では話題になっているものの、一般ユーザーにはまだ届いていないと松尾氏は感じている。

「書籍は一般向けに書いたものではないので、理解するのは難しいと思います。なのでもっと一般ユーザーに届けるにはと考え、今、『みかんぐみ』の竹内さんとセルフ高断熱リノベーションの運動を広げていこうとしています。新築の着工数は、住宅の全体数でみたら1%程度しかありません。もっと既存住宅を高断熱化していかないとならないでしょう」

今回のインタビューを通じて最も印象的だったのは、松尾氏がなぜ高断熱住宅を選択するのかという理由についてだった。

「なぜ暖かい住宅がいいとか、健康に暮らすとか言っているのかというと、もっと大本を辿ると『幸せに暮らしたい』からです。
その中の要素に『豊か』があって、それは『幸せ』とよく似ています。昔の『豊か』は高級品やモノだったけれど、今はもっと本質的になってきている。そこに必要な要素が"健康"であったり"時間"であったりする。日本人は働きすぎというけれど、働き方を変えるのは難しい。だったら家を変えて、時間の使い方を変えればいいじゃないですか」

高断熱住宅というとエネルギー効率ばかりに目を向けてしまうが、本来の目的は「健康に暮らす」こと。住まいがどんな存在であるのかを改めて考え、ユーザーとして賢い選択をしたいものである。

日経ホームビルダーから出版された「ホントは安いエコハウス」 。</br>勘違いしやすい日経ホームビルダーから出版された「ホントは安いエコハウス」 。
勘違いしやすい"住宅とエネルギー"の事が、多くのデータと共に解説されている

2017年 12月28日 11時05分