ジャパンネット銀行も業界最低水準の金利で住宅ローン事業開始

2019年7月、ヤフー傘下のジャパンネット銀行が住宅ローン事業を開始した。
住宅ローン事業への新規参入自体は珍しいことではないが、何よりも話題となったのは住宅ローンの変動金利が史上最低水準の0.415%で新規も借り換えにも対応するとしたことだ(固定10年は0.580%)。

また、ヤフーが保有するビッグデータの解析技術や積極的なAI導入によって、コストを削減、審査から契約まですべてオンライン化&24時間申し込み可能とし、さらに保証会社をつけない住宅ローンとすることで、利用者のコストとして特に高額な保証料の負担をなくした、としている。

国内の住宅ローン市場は、2016年2月から導入された日銀のマイナス金利政策継続によって現在まで超低金利状態が続いている。各金融機関は金利がわずかなのでパイを拡充してグロスの収益の拡大を図るか、コストを削減して(ネット銀行が既存銀行より低金利なのはもっぱらこの理由による)超低金利でも収益構造を維持するか、それとも住宅ローンから撤退する(少なくとも積極的な融資を控える)か、などしか方法がない。

このような厳しい商品環境であるにもかかわらず、ここ数年では住宅ローン専門銀行「ARUHI」が提携によって業績を伸ばしているほか、ネット銀行や一部の地銀を中心に住宅ローン貸し出しを相次いで強化(休日対応も実施)するなど、住宅ローン市場は競争がさらに激化している。住宅ローン金利だけでなく、団体信用生命保険の加入料ゼロや8大疾病で返済免除など商品の多様化も進んでいる。

日銀の金融システムレポート最新号にも、不動産業向け貸し出しの対GDP⽐率が過熱を示す「⾚」に転化したこと、住宅ローン残高が対前年比2%程度のペースで増加し続けていることが記されている。
ただし、住宅ローンを牽引しているのはもっぱらネット銀行や一部の地銀のみで、大手行では例えば三菱UFJ信託銀行が新規受け付けを終了しており(三菱UFJ銀行への媒介で事業継続)、みずほ銀行も積極的な融資拡大を控えるなど、事業採算性の悪化による事実上の撤退も見られるようになった。

このように、日銀のマイナス金利政策が維持される前提で、住宅ローン市場は群雄割拠の時代から異業種の参入などを経て、現在ではネット銀行が戦略的に金利を引き下げてパイを拡大しようと目論んでいる状況にある。
今後の住宅ローン市場の動きとその可能性について、市場動向に詳しい専門家の見解を確認する。

ジャパンネット銀行も業界最低水準の金利で住宅ローン事業開始

住宅選びと同様に住宅ローン選びも重要 ~西生 建氏

<b>西生 建</b>:明治大学法学部卒業。住宅情報情報誌、建設会社を経て、1996年エイム株式会社設立に携わり、2008年5月代表取締役。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の設立に携わり、事務局長、理事を歴任。2012年11月にリニュアル仲介株式会社を設立。同社代表取締役。首都圏既存住宅流通推進協議会 代表西生 建:明治大学法学部卒業。住宅情報情報誌、建設会社を経て、1996年エイム株式会社設立に携わり、2008年5月代表取締役。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の設立に携わり、事務局長、理事を歴任。2012年11月にリニュアル仲介株式会社を設立。同社代表取締役。首都圏既存住宅流通推進協議会 代表

2016年8月に史上最低金利となったフラット35だが、昨年12月から再び金利を下げ続けている。2019年9月のフラット35の金利は前月よりも下がり、過去に記録した最低金利の水準まで金利が下がっている状態だ。私は経済の専門家ではないが、米中貿易摩擦等により、比較的安全資産だと考えられている日本の国債や円が買われていることが、再び住宅ローンの金利が下がる要因になっていると考えるのが一般的ではないだろうか。10月の消費税増税後も、トランプ政権が続く限りはこの低金利は続くのではないかと考える。

事業者による買取再販売物件は増税で価格が上がるものの、当社は中古住宅の個人間売買の仲介が主業務であるので、消費増税前の駆け込み需要のような様相は特に感じることはない。住宅ローンの低金利の状態が長く続いているが、当社の顧客が住宅ローンを組む際は、ほとんどの方が固定金利を選択している。当社が固定金利に多少誘導している側面も否めないが、固定と変動で1%も金利が変わらない状況であれば、将来の金利上昇リスクに備え、固定金利を積極的に選択する顧客がほとんどだ。以前は、固定金利といえばフラット35の利用が圧倒的に多かったが、最近は民間の金融機関でもフラット35の金利と同等、もしくは、優遇金利などでさらに低い金利の場合もあり、当社では民間金融機関での固定金利の住宅ローン利用が最近は増えている。また、超低金利で借り入れが可能なので、頭金はあまり多く入れず、借り入れを増やし手元の現金を残しておく顧客が多い。最近はネット銀行なども増えてきているが、取り立てて手数料や金利が安いというわけでもないので、住宅ローンという慣れない借入手続きであることもあり、借入金融機関は不動産仲介会社である当社にお任せいただくケースがいまだほとんどである。
団体信用生命保険で、三大疾病特約や八大疾病特約などの商品があるが、私たちは生命保険とよく比較をしていただくことをお勧めしている。特に、若い方にとっては、同じ保険金を受け取るのに、生命保険のほうが掛け金が安い場合が多いからだ。おおよその目安だが、40歳未満の方にとっては生命保険を選んだほうが安く、40歳以上の方の場合には、団体信用生命保険に特約などをつけていただいたほうが安い傾向があるようだ。

住宅選びと同じくらい、住宅ローン選びも重要だ。お客さまのマネープランをよく理解し、最善の提案をするのも不動産仲介事業者の大きな役目だ。

家の持つコスト ~清水千弘氏

<b>清水千弘</b>: 東京大学空間情報科学研究センター特任教授、日本大学スポーツ科学部教授(統計学担当)、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員。1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授、ブリティッシュコロンビア大学経済学部客員教授、シンガポール国立大学不動産研究センター教授等を経て、現職。専門は、ビッグデータ解析、不動産経済学、スポーツデータサイエンス。主な著者に『市場分析のための統計学入門』『不動産市場の計量経済分析』『不動産市場分析』など。国際的な学術誌には50本以上の論文が公刊され、日本語での論文を入れると100本を超える。社会資本整備審議会専門委員、内閣府統計委員会専門委員、金融庁金融研究センター特別研究員を務める清水千弘: 東京大学空間情報科学研究センター特任教授、日本大学スポーツ科学部教授(統計学担当)、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員。1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授、ブリティッシュコロンビア大学経済学部客員教授、シンガポール国立大学不動産研究センター教授等を経て、現職。専門は、ビッグデータ解析、不動産経済学、スポーツデータサイエンス。主な著者に『市場分析のための統計学入門』『不動産市場の計量経済分析』『不動産市場分析』など。国際的な学術誌には50本以上の論文が公刊され、日本語での論文を入れると100本を超える。社会資本整備審議会専門委員、内閣府統計委員会専門委員、金融庁金融研究センター特別研究員を務める

現在の住宅市場は、マイナス金利の下で、有史上、最も低い水準の費用の下で形成されている。持ち家の費用の測定は、理論的には、ユーザーコスト法と呼ばれる手法から推計される。ユーザーコスト法とは、持ち家を保有することの費用を網羅的に計上していくわけだが、住宅ローンの金利や損害保険料、固定資産税などの費用から計算される。その中心的な費用項目が住宅ローン金利となる。

このような市場を生み出す背後には、住宅ローンの供給主体や商品開発の構造変化が存在している。メガバンクや地方の中核金融機関においては、企業融資を重視したローンの貸し出しポートフォリオがとられてきたという歴史があり、リテール部門への参入の歴史は浅い。そのような中で、コーポレイトファイナンスから出発した審査体制や商品設計が継承されており、住宅ローンのようなリテール部門においては過剰な体制がとられていることが多い。その中で、リテールに特化して費用をできる限り削減した金融機関が誕生し、住宅ローン市場での存在感を増すことは自然な流れである。このような動きは、既に2000年代初頭からあった。現在のAI等を用いた審査体制は、当時から確立されていた。つまり、現在の状況は、技術がもたらした変化ではなく、マイナス金利下において、そのような構造変化へと必然的に変化せざるを得なくなったことで進んだものと考える。

しかし、このような市場では、消費者は、大きなリスクを抱えていることに注意しなければならない。ユーザーコストの測定方法としては、住宅ローンの金利や損害保険料、固定資産税などの費用に対して、住宅の価格変動コストを含める方法もある。そうすると、金利や保険料や税金で費用がかかったとしても、住宅価格が大きく上昇したときには、持ち家を持っていることで、そのような費用を帳消しにするくらいの利益が出る。その一方で、下落してしまったときには、それを保有していたことによって支払わなければならない費用が大きく上昇してしまう。そうすると、現在の住宅市場の費用は、一見、我々が経験したことがない低水準ではあるものの、将来において住宅価格が低下してしまうと、消費者は高い費用を支払うことになる。

住宅価格が持続的に上昇するということはない。住宅価格の下落のコストは、金融機関は免れることはできるのであろうか。免れないときには、どのような社会的な費用が発生するのであろうか。

不動産の「目利き力」がこれまで以上に求められる ~𠮷田 資氏

<b>𠮷田 資</b>:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など𠮷田 資:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など

住宅ローンの事業環境は、継続的な低金利環境に加え、ネット銀行等の新規参入に伴い顧客獲得競争が激化しており、厳しい状況にある。しかし、住宅ローンの新規貸し出しに積極的に取り組む金融機関は依然として多いようだ。住宅金融支援機構「2018年度民間住宅ローンの貸出動向調査」(以下、「貸出動向調査」)によれば、「今後、新規住宅ローンに積極的に取り組む」と回答した金融機関は、約7割を占めた。住宅ローンは、たとえ利ざやは薄くとも、個人の顧客と生涯の資産形成に関われる重要な商品と位置づけ、積極的に貸し出しに取り組む金融機関も多い模様だ。契約手続きの電子化等による販売の効率化を図る取り組みも見られる。

住宅ローンをはじめとする住宅市場を中長期な視点で考えるにあたり、人口減少と高齢化の進展は無視できない。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によれば、2030 年以降、すべての都道府県で人口減少が始まり、本格的な人口減少局面を迎えることとなる。また、老年人口比率(65歳以上人口の占める割合)は、2015年の 26.6%から、2035年には32.8%へ上昇し、3人に1人が高齢者となる。

ニッセイ基礎研究所の分析では、人口減少および高齢化の進展に伴い、2035年の新設住宅着工床面積は、現在の7割程度の水準まで減少し、一部の都道府県では、半分以下の水準まで落ち込む可能性がある。今後の経済環境等に左右される面があるものの、新築住宅市場の縮小に伴い、住宅ローン市場も縮小が避けられないと思われる。

一方、従来型の住宅ローン市場の縮小が見込まれるなか、「リバースモーゲージ」型住宅ローンに注目が集まっている。「リバースモーゲージ」とは、自宅を担保に資金を借り入れ、死後に売却し返済する仕組みである。高齢化の進展に伴い、老後資金の不足の問題が世間をにぎわしているが、その対策の一つとして、「リバースモーゲージ」に期待が寄せられている。リクルート住まいカンパニー「住宅購入・建築検討者調査(2018年度)」によれば、リバースモーゲージの内容認知率は約4割に達しており、消費者の関心は高い。また、「貸出動向調査」によると「リバースボーゲージ」を扱う金融機関は2016年度の10.7%から2018年の19.9%へと約2倍に増加するなど、金融機関も注力し始めている。

ただし、「リバースモーゲージを取り扱ううえでの課題」として、「高齢者及び相続人への商品説明」や「地価下落リスクの管理」が挙げられる。「リバースモーゲージ」の取り扱いを増やす金融機関は、これまで以上に地価下落リスクの厳格な管理や、不動産市場に関する深い理解・知見が求められるだろう。今後は、不動産の「目利き力」が、各金融機関の優勝劣敗を左右する鍵になると思われる。

住宅ローン業界における変化と新しい動き ~伊集院悟氏

住宅ローンは、貸し手である金融機関にとっては、貸し倒れのリスクが少なく、安定的な融資と言える。日銀がマイナス金利政策を導入し、超低金利状態が続く中、ネット銀行などで参入の動きが見られる。ネット銀行の場合は店舗を持たないことなどによりコストカットし、その他の金融機関より低金利を実現させている。ただし、住宅ローンという金額の大きい借り入れを、非対面で行うことへの消費者の心理的抵抗感などもあり、シェア拡大に関しては懐疑的な見方もある。ネット銀行は親会社やグループ会社で本業が別途あり、単体での収支意識よりも、ブランディングや認知度向上、付随サービスと連携した顧客囲い込みの側面も強い。そのような中、住信SBIネット銀行では住宅金融支援機構から、「フラット35」などの100万件を超える融資実行の加工データの提供を受けることが決まった。データをAIに学習させ、住宅ローンのAI審査の精度を高める。一般的に審査の判定結果がグレーゾーンの場合は却下されるなど、審査は保守的になりがちだが、審査精度の向上でリスクを少なくし、融資実行件数、規模の拡大を目指す。

フラット35の融資実行件数で9年連続トップとなるアルヒは業績が好調だ。そもそもアルヒの事業モデルは、住宅ローンを扱うその他の金融機関とは大きく異なる。アルヒはローン貸し付けや債権を請け負う手数料ビジネスであり、一般的な金融機関のように、借受金利と貸出金利の差額が利益となる「利ざや」ビジネスではないため、市場の金利変動などのリスクを受けにくい。

最近は、金融機関と住宅ローン借入者をマッチングさせるサービスが生まれ、アルヒが力を入れる金融機関からの住宅ローン事業の受託業務などの取り組みも進んでおり、これまでの住宅ローン業界における金融機関と消費者の一対一の関係に変化が生まれている。

伊集院悟:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。観光業界専門紙記者などを経て、2015年末に不動産経済研究所に入社。「日刊不動産経済通信」で行政担当を経て、2019年2月から流通業界を担当。仲介業を中心にリノベーション、賃貸住宅管理、不動産テックなどの分野を取材している。1980年生まれ

2019年 11月11日 11時05分