空き家、所有者不明土地……。問題の根源は行き過ぎた細分化、分散化

空き家の根本的な課題、「不動産の物理的細分化、権利的分散化」について聞いた空き家の根本的な課題、「不動産の物理的細分化、権利的分散化」について聞いた

空き家・空き地、所有者不明土地の増加や高経年マンションでの管理組合機能の崩壊など、不動産の所有を巡っては近年、数多くの問題が指摘され、いずれもが根本的な対策を見いだせないままに進行している。それぞれの問題には個別に要因があるが、それを集約して考えると、どの問題にも共通する根本的な課題があると司法書士総合研究所の石田光曠氏。それが不動産の物理的細分化、権利的分散化である。

言葉にすると難しいが、相続の度に土地が小さくなり、所有者が増える状況を想像してみれば分かりやすい。1軒のお屋敷が相続時に売却され、細分化されて5戸の一戸建てが建つ。それにより土地は細分化され、所有権も分散する。日本では戦後、それが繰り返されてきたのである。

売却されない場合でも日本では所有者の死亡と同時に登記の有無には関係なく、暫定的ではあるが当然に所有権が発生してしまう。そこできちんと遺産分割され相続登記されていなければひとつの土地が相続人全員の共有状態になり、活用や売却などに当たっては全員の同意が必要になってしまう。活用、売却などが難しくなる要因である。さらに、その状態が何代か続くと、処分に際しては数百人にハンコをもらわなければならないことになってしまう。

「空き家や所有者不明土地が問題だとされますが、これらは住宅供給や登記制度などで人口予測に沿って適切な政策が採られてこなかった結果。しかし、それ以上に問題なのは細分化した土地、分散した権利をまとめ直す法的スキームがないことです」。

日本と世界、不動産所有のあり方に大きな違い

問題解決の糸口を探るため、石田氏らは世界の不動産所有のあり方を研究、日本と比較してみた。そこにはいくつかの大きな違いがあった。たとえば日本では、土地と建物は別の不動産ということになっている。だが、これは世界でほぼ日本だけの特有の制度だという。ほぼというのは戦前の占領期に韓国、台湾では日本と同じ仕組みが導入されたからで、それ以外の国では不動産といえば土地。建物は土地に付随する付加一体物であるという。

それだけを聞くと日本のほうが建物を大切に扱っているようだが、実態は逆。建物の評価は経年でどんどん下がるのに対し、土地の評価は変わらず、更地のほうが高く評価されがち。そのため、古い建物はどんどん壊されてしまう。

都心のタワーマンションや水源林などを購入する外国人の増加が語られることから分かるように、日本では外国人の不動産所有になんら制限がない。アジアではフィリピンやインドネシアのように一切認めていない国もあれば、韓国などのように場所に制限があるなど、なにかしらのルールがある国が大半。ヨーロッパではEU連合結成時に制限を緩和したものの、元々、土地所有に関する厳しいルールが定められており、外国人による放置に対しても対応できている。一方、何の対応策もない日本においては、外国人の不動産所有の増加は将来の所有者不明不動産を増やす危険がある。問題の解決を図るつもりなら、この問題についても検討すべきであろう。

日本では建物の建設、解体、増改築や土地の分筆は届出制となっているが、欧米を含む多くの国では許可制。都市計画で目指すべきまちの姿に合致しなければ許可されないこともある。だが、日本では防災的に懸念がある場所であってすら、書類に不備がなければ行政はノーとは言えない。しかも、前述したように土地の細分化、権利の分散化のため、それを集約してのまちづくりは非常に難しいことになる。

土地は最終的に誰のものなのか?

それ以外にも欧米では住まい手の変化に合わせて住み替える、不動産そのものに執着しない文化がある。対して、日本では不動産は家族の資産であり手放すことを良しとしない考えが根強いこと、地籍調査が進んでいないこと、土地・不動産の所有者データが不完全であることなどの違いがあるのだが、最も大きいのは土地の最終的帰属者の存在ではないかと石田氏。

「土地は最終的に誰のものかといえば英連邦では国王の、それ以外の国では国家のものと規定していますが、日本ではその点があやふや。欧州を中心にした諸外国では土地の所有権は公共のために制限されることが原則です。ところが日本では制限されないのが原則。不動産は公共の財であるという概念がないのです」。

そのため、周囲に迷惑をかけている空き家所有者が「自分の家だから、どうしようが勝手だ」となり、それに対して行政も「財産権には手出しできない」となるわけである。ゴミ屋敷や景観を無視した建物が建つのも同じ考え方ということだろう。

また、諸外国では不動産の共有は例外的な措置とされる。共有はあくまでも売却してお金で分けるまでの前提と考えられているそうで、それが権利分散、所有者不明化を防いでいる。もうひとつ、相続時に専門家が関与する度合いの違いも大きい。プロが相続手続きに加わり、早期にきちんと揉めないように分割できていれば権利の分散や所有者不明化は防げるはずなのである。

アメリカに学び、日本流のランドバンク制度を

デトロイトのランドバンクのトップページ。現在扱っている物件数などが表示されているデトロイトのランドバンクのトップページ。現在扱っている物件数などが表示されている

これらの比較、研究を通じて同研究所は3つの解決策を提案している。集約、予防、促進である。集約では1960年代頃からの空き家問題解決に貢献してきたアメリカのランドバンク制度に学び、日本版の同制度を提案している。

この制度は空き家・空き地を市場に任せるのではなく、積極的に行政が取得し、さらに処分等に対する制約が多い行政に代わってランドバンクが都市計画に従って適切な活用者に譲渡するというもの。空き家・空き地など不要になった不動産の受け皿であり、あっせん機関といえば分かりやすいかもしれない。具体的には福祉施設が不足している地域であれば非営利活動団体に安価あるいは無償で譲渡する一方で、都心部の活用できる不動産であれば不動産事業者に売却。人口が減少、空き地化が懸念される地域であれば隣家に低廉な価格で譲渡、地域の環境を悪化させないようにするなど、柔軟で公益性のある活用が行われているという。

こうした機関があれば空き家・空き地ばかりではなく、継承者のいない文化財の活用も可能になる。所有者不明の不動産、災害等で甚大な被害が発生した地域の不動産を管理、処分、活用する際も役に立つ。アメリカの場合は行政職員、地域住民代表にNPO代表が役員となり、都市計画や建築、法務の専門家がスタッフとして活動しており、自治体によって独立した特別法人、外郭団体などと位置づけは異なる。

「ランドバンクの目的は人口動向に応じた国土の再利用です。そのためには当然、ランドバンク以前に、国土をどう使うかというマスタープランが必要です。それがなければランドバンクは機能しません。また、ランドバンクを機能させていくためにはスペシャリストも予算も必要。検討すべきことは多々ありますが、今の日本において不可欠な制度であると考えています」。

海外の制度を参考に日本の実情に合わせた新制度を

続いて、予防、促進である。将来的な分散、細分を防ぎ、早期遺産分割を促進するもので、参考にしたのはイギリスで1925年に行われた土地法の大改革とそれに伴う登記制度である。これは特権階級のみが土地を独占相続する慣習があったイギリスで、一般国民による土地所有を可能にした改革だ。その時に、将来の権利的分散を防ぐためにいくつかの工夫が施された。

たとえば、被相続人が死亡しても直ちに相続人に権利が発生しないという相続清算主義。遺言執行者などの管理人によって相続財産が清算された後でなければ財産は相続人に移転しないのである。不動産は一人の相続人に相続されるか、お金に換えて清算されるため、権利は分散しないし、財産の行方がうやむやになることもない。あるいは複数の人が不動産を共同で所有している場合でも、そのうち一名が死亡した場合は、残りの共同所有者だけで処分・管理行為ができるというルールがある。これなら共同所有者の相続人を探す必要もなく、不動産の権利者が増加あるいは不明になることもない。

提言論文ではこうした制度を参考に日本の実情に勘案した、戸籍と登記の一致を促進する新たな登記制度や相続不動産管理人制度、相続情報証明書その他の提案が行われており、いずれもこれまでにない内容。これまでも空き家、所有者不明土地などを巡っては多数の議論が重ねられてきているが、そのいずれもが日本の法律や現状のみを踏まえただけのもの。問題解決には広い視野が必要であることを考えると、ここには学ぶべきものが多い。当該論文は日本司法書士会連合会ホームページ内、司法書士総合研究所のページからダウンロードできるようになっているので、関心のある人はぜひ、ご一読を。

司法書士総合研究所「時代に合致した不動産所有のカタチと制度」
http://www.shiho-shoshi.or.jp/activity/kikan/2678/

司法書士総合研究所は集約、予防、促進の3つの解決策を提案。「時代に合致した不動産所有のカタチと制度」にまとめている司法書士総合研究所は集約、予防、促進の3つの解決策を提案。「時代に合致した不動産所有のカタチと制度」にまとめている

2018年 05月29日 11時07分