縮小する都市の住まい。少子化に適応する不動産市場のジレンマ
都市部の住まいが狭くなっている。国土交通省によれば、首都圏の新設住宅の一戸当たり床面積は、2010年の80.1m2から2024年には71.0m2へと減少した。10年あまりで約5.5畳、「子ども部屋一つ分」の空間が首都圏の住まいから消えたことになる。特に都心の新築マンション市場では、かつてファミリー向けの中心だった70m2台に代わり60m2台が主流となり、近年は50m2台の3LDKも登場している。
一方、子どもの人口は45年連続で減少し続け、日本の少子化は進むばかりだ。
市場が少子化に適応して住まいは狭くなり、狭い家が子どもを持つ選択をさらに難しくしている。この「鶏と卵」のような構造的悪循環を断ち切る術を考えることは、不動産業界だけでなく、日本社会の持続可能性を問う上で極めて重要なテーマであると考える。
「利便性」か「広さ」か、選択を迫られる子育て世帯
現在、住宅価格は一般的な実需層の購買力を超えつつある。デベロッパーは建築コストの高騰分を価格に転嫁しつつも、一般世帯がペアローン等で調達できる上限額に収めるため、専有面積を削ることで総額を調整している。この“住宅版ステルス値上げ”が、結果として子育て世帯の家族計画にブレーキをかけている側面がある。
共働き世帯にとって、時間は最も貴重なリソースだ。保育園の送迎や家事時間の確保を考えれば「職住近接」が望ましく、郊外の広い一戸建てより都市部のマンションが現実的な選択肢となる。しかし、予算に制約があるなかでは「利便性」と「広さ」はトレードオフの関係にある。予算内で「利便性」を追求すれば、住まいは狭くならざるを得ず、「広さ」を選んで長時間通勤を受け入れれば、子どもと過ごす時間が奪われる。
居住面積に見る「子育て損」の実態。大都市圏では6割強の子育て世帯が国の基準未満の広さで暮らす
子育て世帯が過酷な選択を強いられている現実は、データにも表れている。国土交通省の「居住水準の推移」によれば、豊かな住生活に必要な「誘導居住面積水準(※1)」を満たす割合は、全世帯平均では60.4%に達する。しかし、子育て世帯に限ると41.6%まで落ち込み、さらに大都市圏では37.5%と、6割強の世帯が国の推奨水準に届いていないのが実情だ。
(※1)誘導居住面積水準:国が定める「住生活基本計画」に基づき、世帯人数に応じて豊かな住生活を実現するために必要とされる住宅の広さの目安を示したものなお、2026年度からの「住生活基本計画」において、世帯人数に応じた広さの目安であった「誘導居住面積水準」および「最低居住面積水準」は削除されている
●一般型(都市の郊外や一戸建て向け)は、単身者:55m2、2人以上の世帯:25×人数+25m2(3人なら100m2)
●都市居住型(都市部やマンション向け)は、単身者:40m2、2人以上の世帯:20×人数+15m2(3人なら75m2)
LIFULL HOME'Sのデータでも、首都圏における中古マンションの反響専有面積(問合せのあった物件の専有面積)の平均値は、2020年から2025年にかけて6.54m2減少した(66.86m2→60.32m2)。掲載専有面積の縮小幅3.69m2(68.39m2→64.70m2)と比べると2倍近い縮小であり、両者の差は徐々に広がっている。予算に合わせて希望する専有面積を妥協する状況が見て取れる。
もちろん、広さは住まいの一要素でしかない。ライフスタイルの多様化に伴い、トランクルームやコワーキングスペースなどの外部シェアサービスを活用し、コンパクトな住まいで合理的に暮らす選択肢も広がっている。それでも、本来最も広い住空間が必要なはずの子育て世帯ほど、国が推奨する広さに住めていない「子育て損」ともいえる実態は、社会全体の将来を考えれば望ましい状態とはいえない。
現に、国立社会保障・人口問題研究所による2021年度「出生動向基本調査」では、「家が狭い」ことが理想の子どもの数を持てない理由として上位に挙げられている。子どもが成長し、個室が必要になる将来を考えると、スペースの不足は二子以降をためらう大きな壁となり、少子化を加速させる一因となっている。
日本の住宅政策のあるべき姿と海外の事例
現在、国が進める「みらいエコ住宅2026事業」や住宅ローン減税の拡充は、主に購入資金への補助に重きが置かれている。一定面積を満たせば一律であることが多く、広さと補助額が連動していない。しかし、少子化対策の本質を見据えるならば、今後は「居住面積の確保」に直結する制度設計が必要ではないだろうか。
海外に目を向けると、フランスや北欧諸国では家族構成に応じた家賃補助や、子育て世帯への良質な公営住宅の優先供給が行われている。シンガポールでも新婚世帯が優先購入できるHDB(公営住宅)制度があるなど、「家族が増えても住む場所に困らない」という安心感が、社会の基盤となっている。日本でも金銭的支援だけでなく、以下のような面積確保へのインセンティブ設計が検討できる。
●ファミリー物件の供給誘導:
一定以上の規模の開発において、多子世帯向けの広い住戸の設置を義務付ける代わりに、容積率を緩和する。また、既存の公営住宅の所得制限を緩和し、一般的な子育て世帯へ供給していくことも有効である。
●個室数に着目した優遇制度:
子どもの数に応じた部屋数を確保できる住宅に対し、固定資産税の減免や、住宅ローン控除の借入限度額引き上げなどのターゲットを絞った優遇を行う。
●中古リノベ支援:
築古の広い物件を公的に買い取り、または補助金を出して高性能リノベーションを施したうえで子育て世帯に供給する。
住宅を次世代の基盤とし、中古ストックを活用する社会へ
今後、日本が本気で少子化対策に取り組むのであれば、二つの再定義が必要だと考える。
一つは、住まいを消費財や投資対象ではなく、次世代を育む「社会インフラ」と捉えること。二つ目は、年々増加する築古物件を「リスク」ではなく、「資産」と捉え直すことだ。これまでの日本の住宅市場はスクラップ&ビルドを前提とした新築至上主義が続いてきたが、今後の市場においてそのビジネスモデルは限界を迎えるだろう。中古住宅の価値が適切に評価されるシステムを整備し、建てては壊すフロー型から、良質な住宅を長く大切に使うストック型への転換が必要だ。
少子化の要因は、未婚化や経済的不安、育児の偏りなど多岐にわたり、住環境の制約はその一つに過ぎない。しかし、既存の住宅ストックを有効活用し、居住水準の確保を重視した住宅政策への転換は、市場の健全化のみならず、日本社会の持続可能性を考えるうえで必要な道のりではないだろうか。
参照:
※国土交通省:「着工新設住宅の一戸当たり床面積の推移(首都圏)」
※国土交通省:「子育て世帯の居住面積水準達成状況」
※LIFULL HOME'S:掲載専有面積・反響専有面積は縮小傾向、LIFULL HOME'S「首都圏 中古マンション専有面積」調査
※国立社会保障・人口問題研究所:「2021年社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
執筆:LIFULL HOME'S総研 楢崎 美香(ならさき みか)
早稲田大学第二文学部卒。住宅会社を経て、2018年より株式会社LIFULLにて不動産メディア「LIFULL HOME'S PRESS」「住まいのお役立ち情報」の編集を担当。保有資格は宅地建物取引士、二級建築士、2級FP技能士。住宅の専門知識と二児の母としての当事者目線を活かし、マイホーム購入や住宅ローン、子育て世帯の住み替えなど、住まい選びのヒントや課題を発信する。
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