長期金利は世界的な景気後退局面懸念から利下げによる低下の可能性

米国連邦準備制度理事会(FRB)は2019年7月末の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利であるフェデラル・ファンドの誘導目標を2.25~2.50%から2.00~2.25%に0.25ポイント引き下げることを決定した。

利下げは2008年12月(0.75ポイントの引き下げ)以来10年7ヶ月ぶりのことだ。利下げを主導したFRBのパウエル議長は、米国経済の見通しは依然として良好との認識を示した上で、世界的な成長鈍化や貿易政策の不確実性などによる下振れリスクを防ぐための保険的措置と説明している。

アメリカの政策金利が10年ぶりに引き下げられたことで、今後世界的な利下げ競争が起きる可能性が出てきた。各国とも自国通貨の為替レートを安く誘導することで輸出を拡大し、経済成長の鈍化を未然に防ぐ意図が働くためだ。

これらの動きにより、国内の住宅ローン金利にも長期的には利下げ圧力が強まったという見方ができる。
まず、変動金利の基になっている短期金利は、日銀が2016年2月にマイナス金利に誘導してから概ねマイナス圏で推移しており、2016年以降の変動金利の金融機関店頭での適用金利は、ネット銀行など金利をさらに低く設定している金融機関との獲得競争もあり、長期的に低下傾向にある。

現状ではメガバンクはいずれも0.525%前後でほぼ横並びだが、住信SBIネット銀行が0.447%、他にはじぶん銀行およびARUHIが0.457%など、軒並み0.5%前後での設定が多数を占めている。

一方の固定金利の基準となっている長期金利(新発10年もの国債の金利が代表例)も2018年末以降低下傾向にあり、その影響を受けて10年固定、35年固定などの住宅ローン金利は引き下げられるケースが目立つ。上記の住信SBIネット銀行は10年固定で0.650%、21年以上全期間固定でも0.720%と1%を大きく下回る設定が為されており、じぶん銀行も10年固定が0.590%、35年固定で1.680%となっている。またARUHIは15~35年固定の金利が0.540%と極めて低い水準に設定されている。

2019年10月から消費税10%へ引き上げとなり、住宅購入支援策として住宅ローン減税の13年への期間延長、次世代住宅ポイントの適用、すまい給付金の収入および給付上限の引き上げ、住宅購入目的の贈与税非課税枠の拡大などの“大盤振舞い”となっている。
この状況下で毎月の返済に直結する住宅ローン金利は今後世界的な金融情勢の影響を受けてどのように推移する可能性があるのか、利用者の関心は高い。時事解説では専門家独自の見解を比較掲載し、その可能性を検証する。

※各金融機関の金利は2019年8月上旬時点

長期金利は世界的な景気後退局面懸念から利下げによる低下の可能性

住宅ローンの低金利はまだ続く見通し ~岡本郁雄氏

<b>岡本郁雄</b>:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ岡本郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ

金融機関が決定する住宅ローン金利の水準は、調達金利の高低やローン市場の動向に左右される。中でも影響が大きいのが日本銀行の金融政策の運営方針だ。日本唯一の中央銀行である日本銀行は、物価の安定と金融システムの安定を目的に運営されている。2013年1月の金融政策決定会合により消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を採用しており、2016年からの「マイナス金利付き・量的金融緩和」は、その実現のための手段である。

日本銀行の施策にもかかわらず、消費者物価指数(総合 全国)は2016年-0.1%、2017年+0.5%、2018年+1.0%と目標値に達していない。2019年7月の数値は+0.5%であり「物価安定の目標」達成には程遠い状況だ。消費者物価指数は消費税額も含んで算出されるが、2014年4月の消費税引き上げ時は、消費が一時期大きく落ち込み物価も低迷した。長期プライムレートは、2014年4月以前の水準を一度も上回っていない。

9月も利下げを決めた米国連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など世界の中央銀行が金融緩和へと舵を切るのは、世界経済の成長率鈍化が影響している。IMF(国際通貨基金)が2019年7月に発表した世界経済の見通しは、2019年の経済成長率が3.2%と前年の3.6%よりも伸びが縮小。中でもユーロ圏は、1.3%(2018年1.9%)となっておりドイツは0.7%(2018年1.4%)と低成長に陥っている。アメリカも成長率鈍化の見通しだ。

日本銀行の黒田総裁の任期は2023年4月まであり、金融政策は現体制下では変わらないと思われるので金利の動向は消費者物価の行方次第。その中で、為替相場は経済や輸入物価を左右するため消費者物価に影響があり、大幅な円高ならマイナス要因。為替の予想は難しいが、金融緩和余地が少ない円が高くなるリスクは小さくない。IMFによる2020年の日本の経済成長率の見通しは0.4%であり、当面は金利が大きく上昇することは考えにくいだろう。

一方、住宅金融支援機構発表の「2018年度の業態別の住宅ローン新規貸出額と貸出残高」によれば、主な機関等の住宅ローン新規貸出額は、前年度比で2.0%減少している。住宅ローン市場が拡大しなければ、金融機関の金利引き下げ余地は小さいと推察する。現在は固定金利も含め金利が低水準で、住宅ローン利用者のメリットは大きい。消費税引き上げに伴う住宅ローン控除の拡充など支援策も手厚く、住宅を買うならこの機会を上手く活かしたい。

消費税率アップの住宅ローンへの影響は限定的 ~田中歩氏

<b>田中 歩</b>:さくら事務所不動産コンサルタント。信託銀行にて企業不動産・相続不動産などを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」に参画田中 歩:さくら事務所不動産コンサルタント。信託銀行にて企業不動産・相続不動産などを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」に参画

消費税率が8%から10%になるとしても、この税率アップが原因で住宅ローン金利が変化することはないと考えている。

消費税率が3%から5%に上がった平成9年4月前後について振り返ってみると、確かに消費税率の上昇で景気が悪化したと言われている。おそらく、今回の税率アップで再び同じようなことが起こるのではないかと危惧されている方も多いのではないだろうか。

実際、景気一致指数のひとつである有効求人倍率についていえば、平成8年は0.72倍であったが、消費税率アップ以降下落し、平成9年に0.69倍、平成11年には0.49倍まで下落したし、遅行指数の完全失業率は3.4%から4.7%まで上昇したという実績が当時の消費税増税にはある。

平成26年に8%まで税率をアップした際は、有効求人倍率は平成25年の0.97倍から平成28年には1.39倍まで上昇、完全失業率も平成25年の4.0%から平成28年の3.1%となり、景気悪化を示す数値とはならなかった。これは、有効求人倍率と完全失業率に現れているように、平成26年の景気が平成9年よりも良かったことで税率アップを吸収できたことと、黒田日銀総裁による異次元緩和によるところが大きい。

今回の税率アップについてはどうだろうか。

まず第一に強調したいのは、現在の景気がかつてに比べて良いということだ。有効求人倍率は1.61倍、完全失業率2.4%だ。バブル絶頂期において前者が1.30倍、後者が2.3%だったことに鑑みると、消費税率アップで景気が悪化したといわれる平成9年の状況とは全く異なる。平成26年改正の時期と比べても現在の景況感は極めて良い状況だ。こうした状況においては消費税率の2%アップが景況感を一気に悪化させ、金利低下を促すとは思えない。

また、仮に景況感が悪化したとしても、変動金利は銀行の収益構造から考えれば、預金管理手数料を全面的に実施するといったことがない限り、これ以上の低下は厳しい。固定金利は長期金利の低下に伴い低下することはあるだろうが、変動金利と変わらないレベルにある現在、その低下余地が大いにあるとは考えにくい。

金利低下があるとすれば、国際経済動向の変化による影響は注視すべきだろう。出口戦略を探っていた米国と欧州が再び金融緩和に乗り出す中、日銀は国内経済への副作用を意識しつつもどこまでそれに追従できるのかという点は金利を読むにあたって重要なポイントだ。今回の消費税率アップが住宅ローン金利にもたらすインパクトは限定的ではないだろうか。

長期金利の低下は、マンション市場にどのような影響をもたらすか~坂根康裕氏

<b>坂根康裕</b>:住宅評論家。元「住宅情報スタイル 首都圏版」「都心に住む」編集長。ウェブサイト「家の時間」、「【プロ厳選】注目のマンション 2019」主宰。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」がある坂根康裕:住宅評論家。元「住宅情報スタイル 首都圏版」「都心に住む」編集長。ウェブサイト「家の時間」、「【プロ厳選】注目のマンション 2019」主宰。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」がある

住宅ローンの金利は、長期金利の変化に連動する。したがって、長期金利の低下は価格相場の底上げを意味する。同じ返済額で借り入れを増やすことができるからだ。2019年9月時点、すでにマンションの価格上昇は顕著だから、今後すべてのエリアで上値を追求するような展開は想像しにくい。値下がりする可能性が低減したと解釈するほうが自然か。

また、投資需要が高まる。物件の条件が同じでもイールドギャップ(実質利回り-調達金利)が好転し、検討しにくかった案件も対象になり得るからだ。すでに「投資用として魅力的な立地なら、更地の段階で2回転3回転も珍しくない」(業界関係者、「回転」は「転売」の意味)といわれるほど旺盛ではあるが、さらに拍車がかかるだろう。ただし、立地の見極めは厳しくなっているので、実際には「二極化の深耕」が進むことになる。

さらに、1%を下回る水準での金利低下だから起こり得る事を2点取り上げたい。
ひとつは、借入金利が住宅ローン控除率(直近年末残高の1%)を下回る「差の拡大」をして、控除限度額をできるだけ享受しようとする高収入世帯のマイホーム購入意欲を一層刺激せしめること。自己資金の頭金投入額を抑え(つまり、あえて多く借入れ)、ローン控除期間終了(10年~13年)直後に繰り上げ返済をしてトータルコスト(=支払った金利の総額-還付された控除の総額)を下げるといったアイデアさえ選択できる。共働きでそれぞれが借入する世帯らが、子どもを預けながら通勤しやすい利便の良い好立地物件(高額帯マンション)の需要を一段高めると予測する。具体的には駅前再開発タワーや都心(港区や中央区等)・城南(品川区や目黒区等)立地だ。

ふたつめに、返済額に占める元本の割合が高いことから、リスク(価格下落)を取りやすくなること。超低金利は、元本が減る(=借金が資産に置き換わる)スピードが早い。加えて、ネット・AIの普及や各種市場データにアクセスしやすくなったこともあって、残債と相場動向を常にウォッチして「今売れば手元にいくら残るか」をいつでも簡単に把握できる環境が整っている。

最後に、節税目的の需要が前述の「魅力的な立地」のマンション相場をさらに押し上げるとみている。相続税対策に効果的な実勢価格と評価額のギャップが安定して大きい物件に、それらが全国から集まってくるからだ。

2019年 10月07日 11時05分