変動金利は0.5%前後&全期間固定でも約0.7% 住宅ローン金利競争に明日はあるのか

アベノミクスの第一の矢となった異次元金融緩和(2013年4月)を契機として住宅ローン金利は大幅に低下し、プロパー融資に打開策のない金融機関もリテール融資に注力したことから住宅ローン金利競争は一気に本格化した。

さらに、2016年2月には日銀がマイナス金利に誘導し、市中銀行の余剰資金は国債購入に向けられて長期金利もマイナスになるという異例の事態を招いた。現在も長期金利は0%前後で推移する状況が続いている。
現状ではネット銀行の伸張や住宅ローン専門金融機関の登場もあって、住宅ローン金利はほぼ限界とも思える水準にまで低下しており、変動金利は0.418%、全期間固定金利も0.680%となっている(最低金利:2019年2月現在)。

住宅ローン金利は、俗にいう「黒田バズーカ」から6年を経ても空前の超低金利状態が続き、最近では借り換え金利をさらに低く設定している商品まで登場するに至って、低金利競争は全住宅ローン利用者を巻き込むまでに拡大している。各金融機関も収益が僅かであることからパイの獲得に注力する結果、競争は激化の一途を辿っているともいえる。

もはやこの“異常事態”が“日常の風景”だが、現政権が交代した際に金融緩和が続く保証はなく、住宅ローン金利はいつか必ず上昇するともいわれる。

果たして、金利が上昇した場合に市場はどのように変わるのか、また利用者が選択できる方策はあるのだろうか。金融政策や住宅ローンの実情に詳しい有識者の見解を聞いた。

変動金利は0.5%前後&全期間固定でも約0.7% 住宅ローン金利競争に明日はあるのか

共働き世帯が増加だが「2人なら払える」は慎重に~松崎のり子氏

<b>松崎のり子</b>:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/松崎のり子:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/

住宅ローン金利が上昇する前に、すでに様々な副作用が起きている。大きなポイントは、首都圏のケースで言えば物件価格の上昇と共働き世帯の増加だ。

共働き世帯の数が90年代の後半から専業主婦世帯を逆転していることは周知だが、住宅ローンにおいても近年では夫婦ペアローンが増加していると聞く。首都圏においては新築マンションの平均価格は5,000万円台中盤で、片働きだけの収入では手が届かないからだ。とはいえ、育児を両立させつつ共働きを続けるには長時間の通勤は難しく、おのずと都心に近い高額物件から選ぶことになる。
低金利ゆえに高額なローンでも容易に組める現状は、しかし危うさをはらんでいる。なぜなら、出産以降の女性の収入は育休取得や時短勤務で下がることが多いからだ。共働きカップルは「2人なら払える」と考えず、今後の金利上昇リスクを考えれば固定金利を選ぶのが妥当だろう。

さらに、昨今の晩婚化・晩産化の影響で、結婚と同時に住宅購入となればローン返済と教育費の調達が同時にのしかかり、繰り上げ返済まで手が回らない。もし40歳で30年ローンを組んだとしても、定年後70歳近くまで支払いが残るため、多額のローンはいっそう禁物だ。晩婚カップルの場合は、結婚前に相応の資産を築いておかないと最後には老後資金で行き詰まる。

なお、住宅ローン契約を、コンビニATM手数料無料やポイント付与といった優遇ステージ判定の条件に入れている銀行も多い。住宅ローンを利用して生活コストをさらに下げるすべはないかも貪欲に探っていくべきだろう。

現在は実質的な金利負担を抑えられる恵まれた環境~岡本郁雄氏

<b>岡本郁雄</b>:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ岡本郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ

住宅ローンの毎月返済額は、金利、借入額、返済期間によって決まる。金利上昇の影響を受けやすいのは借入額が大きく返済期間が長い人だ。借入額が大きく資金計画の段階で返済に余裕がない人は、金利上昇によって毎月のローン返済額が増えれば立ち行かなくなる。一方、借入額が少なく資金の備えがある人なら金利上昇による返済リスクは限られる。

住宅ローンには、全期間固定型、変動型、固定期間選択型の3つの金利タイプがある。金利・返済額が固定される全期間固定型もしくは、一定期間金利・返済額が固定される固定期間選択型なら金利上昇リスクは抑えられる。実際には、変動型に次いで固定期間選択型を選ぶ人が多いが、固定金利の間に借入額を減らすことができれば金利上昇の影響をより小さくすることが可能だ。

不動産価格の動向は、金利動向だけでなく経済環境や需給バランスにもよる。高度成長期の日本や新興国における現在の不動産市場のように金利が高くても価格が上昇を続ける場合もある。しかし需要不足でデフレからの脱却に苦慮している日本では、金利の大幅な上昇は需要を減退させ住宅価格を下げる可能性が高い。需給面を考えると高価格帯の物件がより影響が大きいだろう。また、投資用のアパートやマンションは収益環境が悪化し価格は下がる公算が高い。

今の金利水準は、ローン控除が利用できれば当初10年間は実質的な金利負担がない恵まれた環境だ。購入準備ができていれば、この機会を上手く活かしたい。留意したいのは一般的に住宅ローン金利が確定するのは、引渡し前の融資実行時であること。入居予定が数年先のマンションを購入する際には、金利上昇リスクがあることを頭に入れておきたい。

金利競争は限界。急騰はないが海外投資家の動向などが変動の要因に~田中 歩氏

<b>田中 歩</b>:さくら事務所不動産コンサルタント。信託銀行にて企業不動産・相続不動産などを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」に参画田中 歩:さくら事務所不動産コンサルタント。信託銀行にて企業不動産・相続不動産などを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」に参画

平成30年度の全国銀行の預貸金利ざやは10年前の0.56%から0.22%まで低下しており、金利競争は限界だろう。また、国内金融機関をこれ以上疲弊させることができないという事情から、日銀がさらに低金利に誘導することもないだろう。

ところで、現在は景気に過熱感があるわけではない。また、財務省は国債利払いの関係から市中の国債を買い取り続けることで金利上昇を抑えざるを得ない状況にある。よって、一般に予想可能な近未来という意味で、今後5年程度は金利が急騰することはないと考えている。

一方、日銀の国債保有残高は全体の4割強となり、日銀が国債を買い取れる余地は少なくなっている。社会保障費が今後も増加していくことが予想される中、国債を発行しては買い取るという財務ファイナンスと呼ばれる状況にいずれ陥る可能性がある。
また、国債保有者は国内投資家だけではない。海外投資家による国債保有率はこの10年で倍の11.3%(約126兆円)にのぼる。国内投資家に代わってドル金利との差からマイナス金利で国債を買っても儲かる海外投資家の国債保有率が高まる傾向にある。もしこうした状況が5年、10年と続き、彼らが日本の財政に不信感を抱けば、いずれ金利を抑制できなくなる可能性は極めて高くなる。

問題はこれを受けて如何なる選択をすべきかである。仮に35年の元利均等返済で3,000万円借りた場合、変動金利0.5%と固定金利0.7%では後者の利払いが約113万円(年間約3.2万円)上回る。これが金利上昇に対する保険料として高いか安いかだ。ちなみに変動金利が16年目に0.9%に上昇しその後不変だった場合、どちらも総支払金利は同程度となる。私の感覚だと、リスク見合いの保険料としては決して高くはないのではないかと感じるが如何だろうか。

低金利政策は長期的には大きな負荷をもたらす可能性も~清水千弘氏

<b>清水千弘</b>: 日本大学スポーツ科学部教授(統計学担当)、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員。1967年 岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授、ブリティッシュコロンビア大学経済学部客員教授、シンガポール国立大学不動産研究センター教授等を経て、現職。専門は、ビッグデータ解析、不動産経済学、スポーツデータサイエンス。主な著者に、『市場分析のための統計学入門』、『不動産市場の計量経済分析』、『不動産市場分析』など。国際的な学術誌には50本以上の論文が公刊され、日本語での論文を入れると100本を超える。社会資本整備審議会専門委員、内閣府統計委員会専門委員、金融庁金融研究センター特別研究員を務める清水千弘: 日本大学スポーツ科学部教授(統計学担当)、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員。1967年 岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授、ブリティッシュコロンビア大学経済学部客員教授、シンガポール国立大学不動産研究センター教授等を経て、現職。専門は、ビッグデータ解析、不動産経済学、スポーツデータサイエンス。主な著者に、『市場分析のための統計学入門』、『不動産市場の計量経済分析』、『不動産市場分析』など。国際的な学術誌には50本以上の論文が公刊され、日本語での論文を入れると100本を超える。社会資本整備審議会専門委員、内閣府統計委員会専門委員、金融庁金融研究センター特別研究員を務める

適正な住宅価格とは、いくらなのであろうか。この問題は、各国において様々な議論がなされてきた。マサチューセッツ工科大学不動産研究センターが2018年に出版した、「Real Trend:米国の不動産市場の未来」では、第二章において、「住宅の取得能力」について整理した。その中では、世界的に低金利が続く中で、世界の主要都市で上昇をし続ける住宅価格と家計の住宅にかけることができる費用との関係について言及している。

米国では、住宅の費用として年収の3割以上はかけるべきではないといった議論が展開されてきた。日本でも、1980年代の中ごろから始まった不動産バブルの時には、住宅価格の適正な水準は、年収の5倍程度であるとされた。現在の低金利の状態は、短期的な見かけ上での住宅取得能力を高めている。それ以上に住宅価格が上昇する中で、その価格高騰が家計をひっ迫させているという。
日本では、都心部の一部の地域ではマンション価格が高騰した。現在の低金利の状態は、中央銀行により政策的に誘導されたものである。金融政策の一般的なルールとして、テイラー・ルール(Taylor rule)と呼ばれるものがあるが、それは、インフレ率の目標値からの乖離と、GDPギャップの長期均衡値(NAIRU)からの乖離に対応して、操作変数である短期金利をシステマティックに変更させていこうとするものである。そうすると、わが国においてデフレが続く限りにおいては、短期金利を低下させるように動くことは合理的に見える。しかし、潜在成長率が低い現在の環境下では、効率的な将来の見通しに基づき政策を変更する、つまりフォワードルッキング・ルールを採用したとしても、目標インフレ率をゼロに設定した時には、マクロ経済を不安定にする可能性があることも報告されている。

住宅ローンは、長期金利として決定されるものであるが、変動金利の中では短期金利に誘導される形で初期段階では低い金利が設定される。そのような中では、資産市場に局所的なバブルをもたらしたり、長期的には、現在の取得者に大きな負荷を与えたりすることが予想される。具体的には、ローン破たん者の急増である。現在の低金利政策は、一時的な住宅市場の活況をもたらしているが、将来においてどのような遺恨を残すのか、慎重に観察し続けていかなければならないであろう。

2019年 03月20日 11時05分