過小な再生投資しか行われていない

日本のマンションの既に20%が築30年以上の物件であり、今後10年で全体の3分の1が老朽化を迎える日本のマンションの既に20%が築30年以上の物件であり、今後10年で全体の3分の1が老朽化を迎える

いまやマンションは、約600万戸に至り、約1400万人が住む一般的な居住形態となっている。戸建住宅と同様にマンションも、築年数を経ると設備や構造が劣化するだけでなく、社会的な居住水準に合わない市場性を失ったものになる。日本のマンションの既に20%が築30年以上の物件であり、今後10年で全体の3分の1が老朽化を迎える。

このような劣化に対して定期的な修繕が必要になるが、場合によっては新たな機能を付加したり、性能を向上させる大規模な改修を行うことが求められる。修繕と改修だけでは対応できない場合には、建替えが必要となる。特に、震度6強の地震に対して倒壊の危険がある、旧耐震基準が適用されている106万戸のマンションについては、耐震改修又は建替えを急ぐ必要がある。

しかし、わが国のマンションストックについて、このような再生投資が十分に行われているとは言いがたい。例えば、平成20年10月時点で建替え事業を完了したのは、129件に過ぎない。

市場価値で評価される株式という資産

マンションに関する不十分な再生投資は、”区分所有権という所有形態に原因がある”という指摘は、これまでにも行われている。
区分所有法では、マンションの所有者は専有部分と共有部分の所有権を持っており、2つを分離して処分することができない。しかし、共有されている資産の管理には同じような問題が発生してもおかしくはない。

例えば、企業の持ち分である株を例にとろう。
価値が10の株式を所有しているA、B、C3人に対して、「企業価値を2倍にすると評価されている投資案件」に関する採決をすることとしよう。株券自体に何か使用価値があるものではないため、投資が企業価値に与える影響の評価が信用できるものであれば、この投資案件は間違いなく可決されることとなろう。

使用価値で評価されるマンションという資産

ところが、マンションの場合は様子が違ってくる。
現在、10の市場価値があると評価される3戸の区分所有権で構成されるマンションを、A、B、Cの3人が所有している。区分所有者の総会において、市場価値を20に上昇させる耐震改修又は建替えの提案がなされている。この場合の市場価値の予想の持つ意味は、株式の場合と大きく異なるだろう。株式のように流動性の高い資産の場合この予想は、「資産価値が10から20に上昇し、100%の収益率を上げること」と同義だ。

しかし、流動性が低いマンションなどの資産の場合は、「『平均的な評価が10』の資産が投資の実行によって『平均的な評価が20』になる」程度の意味しか持たない。マンションのようにそれ自体に使用価値がある資産の場合、その使用価値の評価は、市場でも所有者間でも大きくばらつくことが予想される。

図では現在価値を過大評価し投資後の資産価値を過小評価するA(16→14)、市場価値どおりの評価を行っているB(10→20)、Aと逆に現在価値を過小評価し、投資後の価値を過大評価するC(4→26)の評価が描かれている。
この場合、Aは投資によってむしろ資産価値が低下するという評価をしているため、投資案件に関しては反対する。建替えのように、区分所有者の5分の4といった高い比率の賛成が必要な場合、平均的に資産価値を2倍にする社会的に意味のあるものであっても、この投資案件は実施されない。
建替えだけでなく、大規模改修のような特別多数決が必要な場合は実施できない可能性が高い。

マンションのようにそれ自体に使用価値がある資産の場合、</br>その使用価値の評価は、市場でも所有者間でも大きくばらつくことが予想されるマンションのようにそれ自体に使用価値がある資産の場合、
その使用価値の評価は、市場でも所有者間でも大きくばらつくことが予想される

中古流通市場は共通の尺度を提供する

改修投資の不十分さには、中古住宅市場が未発達であるという日本特有の事情も大きく影響している改修投資の不十分さには、中古住宅市場が未発達であるという日本特有の事情も大きく影響している

なぜこんなことが起こるのだろうか。もちろん建替えなどに関して非常に高い比率の賛成を求める、過度に現状維持的な制度が大きな役割を果たしている。しかし、維持管理投資や耐震改修をはじめとした改修投資の不十分さには、中古住宅市場が未発達であるという日本特有の事情も大きく影響している。

つまり、中古住宅市場が未発達である場合、現在及び再生投資後の資産価値が市場でどう評価されるかという、シグナルを受け取ることができない。この場合、投資案件に関する区分所有者の評価は、非常にばらつきの大きい使用価値によって決定されることになる。これは価値観の相違のようなものだから決着をつけようがない。

もし、中古住宅市場が発達していて、自分は「投資後の使用価値として14」しかないと考えていたとしても、「市場で売却することで20」得ることができるという見込みが信頼性の高いものであれば、Aも投資案件に賛成をした上で売却、移転を行うという選択を行うだろう。
つまり、中古住宅市場の発達は、資産の所有者に対して市場価値という共通の物差しを提供することで、社会にとって意味のある投資を実現することに寄与する。

マンション再生投資と中古住宅流通市場

標準化されているマンションは、日本の住宅市場では最も中古流通が盛んな物件されている。しかし、それでも老朽化に伴って資産価値が大きく低下する。

マンションの中古流通において特に重要なのは、積立金や管理組合のガバナンスのような管理体制に関連する情報開示だろう。これらの情報を開示することを嫌がる管理組合も多いということを聞いている。しかし、マンションは共有財産を管理するクラブに入るようなものだ。そのクラブがどんなガバナンスをとっているのかという情報なしに、適切な評価を行うことができないだろう。

マンションの情報開示と中古住宅流通市場の発達は、双方ともマンション資産の価値向上に大きく寄与する。

2014年 01月08日 09時59分