「マイナス金利」の導入でも支えきれていない株価の下落

国内経済の雲行きがどうも怪しくなってきている。日経平均株価は2015年4月に20,000円台を回復し、その後は夏場にやや低迷したものの、年末までは比較的堅調に推移してきた。2015年12月にはアメリカが約9年ぶりの金利引上げに踏み切り、国内外の景気回復が本格化するかと感じられていたが、2016年が明けてから日経平均株価は連日、下落が続いた。

その背景にはヨーロッパ株式市場の変調をはじめとした世界的な株安傾向、アメリカ経済の先行き不安、中国の景気減速感、原油価格の下落など、さまざまな要因が絡んでいるようだが、国内の株価下落と同時に(対ドル)円相場の上昇も顕著になっている。

経済対策として日銀は2016年1月29日に「マイナス金利」の導入を発表したわけだが、その好影響は数日しか続かなかった。もはや国内の景気対策だけでは十分な効果が得られないのだろう。2月9日の日経平均株価は918円安で、2013年5月23日以来2年9ケ月ぶりの大きな下げ幅を記録した。その後も下落が続いて2月12日の終値は1万4,952円となり、2014年10月21日以来約1年4ケ月ぶりに1万5,000円を割り込んでいる。銀行株の落ち込みが目立ち、マイナス金利導入の副作用もあったようだ。

2月16日に「マイナス金利」の適用が開始されるのと前後して日経平均株価はやや値を上げたものの、円高傾向はそのまま進行している(2016年2月19日現在)。株価の年初からの下げ幅は、2000年のITバブル崩壊時とほぼ同じ規模のようであり、リーマン・ショック後の2008年10月頃における下落局面と比べればまだ小さいという見方もできるだろう。もし仮に、これからリーマン・ショック後と同じような経緯を辿るとすれば、あと3,000円から4,000円程度の値下がりも考えなければならない。

2016年が明けてから株安、円高傾向が続いている2016年が明けてから株安、円高傾向が続いている

長期金利は低下傾向が長く続いている

それでは「マイナス金利」は長期金利にどのような影響を及ぼすのだろうか。

とくに返済期間が1年以上の住宅ローン金利において、重要な指標となる長期金利(新発10年物国債の流通利回り)の動きは気になるところである。まずは過去からの推移を大まかにみておくことにしよう。下のグラフは1986年7月から現在までの推移を表したものだ。

1991年頃には8%を超える時期もあった10年物国債の利回りだが、その後の低下傾向はグラフをみれば一目瞭然である。この間、国や日銀の政策としては2000年代の量的緩和、2010年代初めの包括緩和の時期を経て、2013年4月4日には大規模な量的・質的金融緩和(異次元緩和)が決定された。

異次元緩和で日銀による大量の国債買入れが始まったわけだが、2014年10月31日には追加金融緩和が決まり、そして2016年2月16日からは「マイナス金利」が導入されたのである。

長期金利はかつて8%を超える時期もあったが、現在はほぼゼロに近い水準で推移している長期金利はかつて8%を超える時期もあったが、現在はほぼゼロに近い水準で推移している

実質的な「マイナス金利」は既に起きていた!?

さらに長期金利(新発10年物国債利回り)の最近の動きをみておこう。「マイナス金利」の導入決定が明らかになった2016年1月29日に利回りは大きく落ち込み、2016年2月9日には株価の急落と合わせて10年物国債の利回りが初めてマイナスを記録して、一時はマイナス0.035%をつけた。長期金利がマイナスとなるのは、スイスに次いで2例目なのだという。

その後、利回りは少し戻したものの、2月16日から日銀による「マイナス金利」(0.1%)が実行されて以降、再び下げ基調が強まっている。

しかし、「マイナス金利」が目新しいものかといえば、必ずしもそうではないだろう。10年物国債が初めてマイナスとなったのは2016年2月9日だったわけだが、1年〜4年物は既に2014年12月からマイナスとなるケースが多くなっている。また、2016年1月29日以降は1年〜8年物が連日すべてマイナスであり、国債市場だけなら「マイナス金利」はそれほど特異なことではない。

また、一般向けの住宅ローンでも、10年あまりで完済できるような地方圏であれば、1%の「住宅ローン控除」(10年間)との差し引きで実質的にマイナス金利となっている例はあるだろう。さらに、銀行預金で「マイナス金利」が適用される可能性はほとんど考えられないものの、これまでも(かなり高額な預金をしている場合を除き)一度でも夜間・休日引出しなどをして手数料を差し引かれれば、実質的にマイナス金利と同様になっているケースは多いはずだ。

つまり、実体上は「マイナス金利」と同じような状態が日常生活の中で以前から起きていたのであり、日銀による「マイナス金利」の導入は“外見が変わっただけ”という見方もできるだろう。

財務省による公表金利(半年複利金利)をもとに作成財務省による公表金利(半年複利金利)をもとに作成

住宅ローンの「変動型金利」は2016年1月に過去最低水準となっている

すべての金利が長期低下傾向を示す中で、一般的に短期プライムレートを指標とする住宅ローンの「変動型金利」も下がっている。ただし、それぞれの金融機関は店頭金利を据え置いたままで、申込者の審査内容に応じた優遇幅を設けている状態だ。最優遇金利の適用後は都市銀行などで0.6%台、ネット銀行では0.5%台のことが多い。

2015年後半からはこの「優遇幅の拡大による競争」も目立つようになり、2016年1月は変動型の最優遇金利が過去最低の水準にまで下がった。三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行などが年0.625%、三井住友信託銀行が年0.6%で、いずれも過去最低水準となったのだ。

ただし、三菱東京UFJ銀行で変動型の最優遇金利(最大年1.85%の引下げで、年0.625%を適用)を受けられるのは、2016年1月に導入した「毎月型」(通常は年2回の金利見直しを毎月実施するもの)を選んだ場合に限られる。銀行側のリスクを減らすための方策であり、将来的に金利上昇が起きたときには十分な注意が必要だろう。

その一方で、三菱東京UFJ銀行は1月末からグループ会社の「カブドットコム証券」を通じて、住宅ローンの取扱いを始めた。2月の適用金利は0.580%(変動型)であり、他のネット専業銀行と比べても遜色のない水準に抑えている。都市銀行とネット専業銀行の競合も、今後ますます激しくなっていくが予想される。

住宅ローンの店頭金利は大きく動いておらず、審査によって優遇幅を決めることが多い住宅ローンの店頭金利は大きく動いておらず、審査によって優遇幅を決めることが多い

2月は「10年固定型金利」が過去最低水準に、今後はさらなる低下も

変動型住宅ローンの金利が過去最低水準となった2016年1月に続き、2月は10年固定型の金利が過去最低水準となった。三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行が2月から最優遇金利を年1.05%に引下げ、先行したみずほ銀行と並んだのだ。

しかし、これは1月下旬までの金利動向をもとに設定されたものであり、メガバンクも他の金融機関も1月29日に発表された「マイナス金利導入」を盛り込んでいなかった。

そのため、まず新生銀行が2月1日から適用したばかりの住宅ローン金利を早くも2月3日に引下げたほか、メガバンクも金利の見直しに動いている。三井住友銀行が2月16日から、りそな銀行が2月18日から、みずほ銀行が2月22日から、それぞれ10年固定型の最優遇金利を0.9%に引下げたほか、横浜銀行が2月18日から店頭金利そのものを引下げるなど、地方銀行でも金利の見直しが相次いでいる。

住宅ローンの適用金利が月の途中で引下げられるケースは、2013年8月のみずほ銀行など前例はあるものの、数多くの金融機関が見直しに踏み切ることはかなり異例だといえるだろう。その一方で、三菱東京UFJ銀行は3月1日から10年固定型の最優遇金利を他行より低い年0.80%に引下げることを発表した。2月中に引下げた他のメガバンクなども追随することが予想され、3月はさらに低金利競争が繰り広げられることになりそうだ。

また、「フラット35」(返済期間21年以上35年以下、融資率9割以下)の2016年2月の最低金利は1.48%で、9ケ月ぶりの低水準となったが、3月はさらに下がって過去最低だった2015年2月の1.37%を下回る可能性もあるだろう。

このまま金利低下傾向が続けば、いつかは住宅ローンそのものが「マイナス金利」になり、お金を借りたら顧客が利息をもらえる状況になることを期待する人がいるかもしれないが、残念ながらそのような可能性は極めて低いと考えざるを得ない。

各国中央銀行によるマイナス金利政策はスウェーデン(2009年7月)、デンマーク(2012年7月)、欧州中央銀行(2014年6月)、スイス(2014年12月)で導入されているが、このうち住宅ローン金利がマイナスとなる商品はデンマークで事例があるのみとされる。ただし、この場合も日本とは異なるローン手数料の仕組みがあり、顧客の実質的な負担はプラスになるという。

金融機関側からみれば、住宅ローンの金利をマイナスにするくらいなら「貸さないほうがマシ」という判断が大勢を占めるほか、極端な低金利状態が続けば金融機関の収益を圧迫し、逆に住宅ローン金利を引上げる動きが出てくることも考えられる。金利以外の部分で顧客の負担を増やすこともありそうだ。

さまざまな要因を孕みつつ、次の消費税率引上げに向けた駆け込み需要の盛り上がりが予測される2016年9月までは、このまま住宅ローンをめぐる低金利競争が続く可能性は高いだろう。日銀が「マイナス金利」の幅をさらに拡大する局面があるかもしれない。
だが、このまま「マイナス金利」政策が続けば年金や生命保険の運用利回りが低下し、将来的に家計を直撃することも考えられる。近い将来に予想外の金利急騰、急反発が起こる可能性も考えておかなければならない。

既に住宅ローンを借りている人が「借換え」を実行する、あるいは引渡しまでの期間が比較的短い既存住宅や完成済の新築住宅を購入するなら、超低金利のメリットを最大限に生かすことができそうだ。
しかし、引渡しが1年後、2年後となるような新築マンションを購入したとき、多くの住宅ローンではその引渡し時点における金利が適用されることをしっかりと理解しておきたい。
それまで現在の超低金利状態が続いている保証はないのだ。

多くの住宅ローンではその引渡し時点における金利が適用される多くの住宅ローンではその引渡し時点における金利が適用される

2016年 02月26日 11時08分