何が1997年以降の住宅着工戸数の低下を引き起こしたのだろうか

前回は、バブルの崩壊がGDPの0.4程度のキャピタルロスを日本経済に発生させるようなショックであったにもかかわらず、人口要因がその後の住宅着工を下支えする形で、住宅市場の急速な収縮が起こらなかったことに言及した。
それでは、本当は何が1997年以降の住宅着工戸数の低下を引き起こしたのだろうか。

第8期住宅建設五カ年計画を始め、世帯増と住宅の滅失によって、住宅着工戸数の予測を行っているこの時期の予測は、大きく下方修正されている。これらの予測は何を間違ったのだろうか。世帯予測は社会保障・人口問題研究所の予測を用いているため、大きな間違いはない。もう一つの可能性は、滅失率に関する推計が過大である可能性である。

■計算式
住宅の滅失率(※建替え率)=
(当該年の前年まで5年間の着工戸数合計―(当該年の住宅ストック数―5年前の住宅ストック数))
÷5年前の住宅ストック数

を算出し、時系列で記述したものが下図である。
図から明らかになるのは、1990年代半ばに滅失率の急速な低下がおこっていることである。この時期に建て替え時期を迎えた1970年代ストックの滅失率が低いため、新築住宅着工戸数はこの時期大きく減少する。

そのような意味において、住宅市場はバブルの崩壊というキャピタルロスの発生や所得の低下の影響よりも、人口要因の影響や住宅ストックの物理的属性の影響を大きく受けると考えることができるかもしれない。

住宅の滅失率の推移</br>注)建築着工統計報告時系列一覧(国土交通省)(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/jouhouka/sosei_jouhouka_tk4_000002.html)及び住宅土地統計調査より作成住宅の滅失率の推移
注)建築着工統計報告時系列一覧(国土交通省)(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/jouhouka/sosei_jouhouka_tk4_000002.html)及び住宅土地統計調査より作成

少子高齢化において、どのような住宅市場を予想することができるだろうか

それでは日本がこれから本格的に迎える人口の少子高齢化を踏まえれば、どのような住宅市場を予想することができるだろうか。

以下では、将来推計人口(「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所))と、2008年の各年齢階級別の持家需要率、借家需要率を用いて、2010年以降2050年までの持家需要指数を推計している。

図においては、2020年代を通じて持家需要指数が低下し、2030年代にそのスピードは、やや緩和されるものの低下し続けることが示されている。2050年ころまでには、持家需要指数及び借家需要指数ともに0に近い水準になっている。

つまり、2050年程度には、マクロな意味では建替えを除けば、新規着工がいらない社会になる可能性があることを意味している。

将来の持家需要指数の推計将来の持家需要指数の推計

アジア諸国への教訓として意味があるもの

このようなことを踏まえれば、アジア諸国への教訓として意味があるものは、バブルの崩壊に基づくものではなく、人口減少、高齢化を先に迎えた住宅市場を抱える国としての教訓かもしれない。

今後日本が新築住宅に頼らずとも、既存住宅ストックを回し続けることで国民の生活の質を向上させることのできる仕組みを作り上げることに成功したのであれば、非常に有効なモデルをアジア諸国へ提供することにつながるのではないだろうか。

ソウルの風景ソウルの風景

2015年 08月12日 11時12分