不動産の専門家が集まり、市況を多角的に捉える「住宅市場分析研究会」

世界の中でも類を見ない早さで進む日本の人口減少と少子高齢化。この影響を大きく受ける市場の一つが不動産(住宅)市場だと言われている。2014年に日本創成会議(座長:増田寛也元総務相)から発表された「消滅可能性都市」では、 少子化や人口流出に歯止めがかからず存続できなくなる恐れがある自治体が発表され、東京圏への人口の一極集中という問題が取り沙汰された。また、社会全体の縮小化を一因に引き起こされる"空き家の増加"は、地方都市を中心に甚大な影響をもたらす可能性がある。
「このような不動産市場の諸問題の解決策をいかに発見するか、将来的に起きうる問題の予見はどうすれば可能なのか」
この問いに対し、戦後日本の住宅政策から現在に至るまでの市況分析や不動産市況の変化のメカニズムを、理論と実証から様々な角度から把握しようとしているのが「住宅市場分析研究会」だ。日本大学スポーツ科学部教授/マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員 清水千弘教授を中心に、国土交通省職員や不動産アナリストなどが集まり、3ヶ月に1度、それぞれが独自に分析したデータを持ち寄り意見交換をしている。
今回は、2018年2月20日に開催された第8回目となる研究会の様子をお伝えする。

2018年2月20日、株式会社LIFULLで開催された「第8回住宅市場分析研究会」の様子。<BR />日本大学スポーツ科学部教授/マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員 清水千弘氏を中心に17名が出席した2018年2月20日、株式会社LIFULLで開催された「第8回住宅市場分析研究会」の様子。
日本大学スポーツ科学部教授/マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員 清水千弘氏を中心に17名が出席した

不動産市場のメカニズムを捉えるフレームワーク『4象限モデル』

研究会では、不動産市場がどのようなメカニズムで変化しているのかを捉えるために、マサチューセッツ工科大学不動産研究センターWilliam C. Wheaton元教授がまとめた「4象限モデル」を用いている。これは住宅市場におけるフロー(一定期間の流れ)とストック(一時点での貯蔵量)の関係をモデル化したもので、空き家の発生をはじめとする不動産市場の諸問題を解決する施策の糸口の発見、さらには将来的にどのような問題が待ち受けているのかという予見にもつながるとしている。

【第1象限(北東)】「賃貸市場:賃貸料決定」
一般的に財やサービスの価格は「需要と供給」の大きさによって決定される。しかし、不動産の場合は生産に時間がかかるため、短期的に見た場合には供給量は一定、つまり垂直となる。よって、ある時点での家賃はその時の需要の大きさのみによって決定され、その需要はマクロ的な経済環境や人口の大きさによって決定される。

【第2象限(北西)】「資産市場:価格評価」
第2象限は、家賃と資産価格の関係を示しており、ここでは資産の「価格」が決定される。家賃が高い不動産は資産価格も高くなるが、単純に家賃の水準に比例して価格が決定される訳ではない。経済学では、将来的な収益、つまり家賃の割引現在価値によって決定されると考えられているため、家賃に変わりがなくとも価格は上昇する可能性がある。

【第3象限(南西)】「資産市場:建築着工」
第3象限は、フローの供給水準を決定する住宅着工市場である。不動産を建てるかどうかは、建設費用と第2象限で決定された資産価格の水準に応じて決定される。もし建物を建てて高い収益が得られるとしても、建築費が高ければ利益は少なくなるため、建築を控えるケースも考えられる。つまり建築着工市場は、資産価格と建築費によって決定される。

【第4象限(南東)】「賃貸市場:ストック調整」
第4象限は「ストック調整市場」と呼ばれる。第3象限の建築着工市場で新しい不動産が建築されると、その分不動産が新しいストックとして増加することになる。しかし、建て替えなど古い建物が取り壊されるとストックは減少することになる。つまり、第3象限で決定された建築着工数と滅失した量との差分によって、新たなストック量が決定される。そして、このストック量が第1象限に戻り、需要の大きさによって新たに家賃が決定されるという循環を持っていると考えられている。

住宅市場におけるフローとストックの調整関係を明示的にモデル化した、マサチューセッツ工科大学のウィートン元教授の教科書によって紹介された4象限モデル。第1象限(北東)では、横軸にストック水準、縦軸に賃貸料が設定されている住宅市場におけるフローとストックの調整関係を明示的にモデル化した、マサチューセッツ工科大学のウィートン元教授の教科書によって紹介された4象限モデル。第1象限(北東)では、横軸にストック水準、縦軸に賃貸料が設定されている

人口規模で変動する賃料、東京23区の新築マンション価格は高騰

現在、首都圏を中心とした住宅地はどのような傾向が見られるのか。出席者の市況報告の一部を紹介したい。
まず、第1象限にあたる賃料市況について、一般財団法人 日本不動産研究所 吉野薫氏から報告があった。

吉野氏:日本不動産研究所がまとめた2017年9月末時点の『全国賃料統計』から、全国の共同住宅の賃料を見てみると、昨年に続き0.1%増で概ね上昇傾向であると見ています。ただ、都市規模別に見てみると、2017年の政令指定都市の変動率が0.2%増なのに対し、指令都市以外の都市については横ばい、または微減となっており、人口規模によって賃料の変動が異なるという傾向が現れています。

そして、今回の研究会での大きなトピックスが第2象限の価格部分だ。株式会社長谷工総合研究所の酒造(みき)豊氏から、2017年の首都圏における新築マンション価格の依然として上昇が続く状況が語られた。

酒造氏:不動産経済研究所の調査によれば、2017年新築マンション供給戸数は、首都圏・近畿圏共に2016年を上回っており、首都圏については前年比で0.4%増とわずかではありますが、4年ぶりに前年を上回っています。注目すべきは価格です。新築マンションの価格は上がり続けており、2017年の都内23区の新築マンション平均価格は7,089万円と、1991年(8,667万円)以来となる7,000万円超という結果となりました。また、新築マンションの平均価格が1億円以上の自治体が、千代田区:1億307万円(5,311千円/坪・64.15m2)、港区:1億4,170万円(6,506千円/坪・72.00m2)、渋谷区:1億1,009万円(5,261千円/坪・56.02m2)の3つあり、首都圏における1億円以上の供給戸数も1,928戸(昨年1,265戸)に増加しています。その一方で、4,000万円未満の供給戸数は7,709戸にまで減少しており、新築マンション市場は、もはや富裕層を中心にしたマーケットに変わり始めたような印象を持っています。

また、中古市場の動向について、公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会 不動産総合研究所 岡崎卓也氏は、マーケットは引き続き堅調に推移していると見る。

岡崎氏:レインズによれば、中古マンションの平均坪単価は引き続き上昇していますが、グロス価格で見れば首都圏が3,500万円程度、近畿圏で2,500万円の範囲内となっており、実需がマーケットを支えています。これは中古戸建てについても同様です。ただ、首都圏の中古マンションの在庫が増加しており、特に売主物件(事業者買取り物件)の在庫が増え続けている点が懸念材料の一つにあります。

物件価格と併せて注⽬したいのが、購⼊者側の住宅取得能⼒だ。住宅⾦融⽀援機構 主席研究員の松家真⼀⽒は、価格上昇と併せて把握しておかなければいけない要素の⼀つとして、"低金利による住宅取得能力の変化"を挙げた。

松家⽒:住宅⾦融⽀援機構のフラット35利用者調査では、住宅価格の上昇を背景に年収倍率(住宅価格/世帯収入)は上昇しているが、返済負担率(ローン返済額/世帯収入)は横ばいです。これは、超低金利下でローン返済額が軽減され、その結果、取得能力が押し上げられたことを示唆しています。また、総務省の労働力調査によれば、共働き世帯は、2017年平均で夫婦のいる世帯の4割にまで増え、住宅価格が上昇する中、夫婦の収入を合算して連帯債務として借入ができるほか、夫婦各々が借入を行うペアローンでは、より多額の借入が可能な場合もあります。低金利は恒久的ではなく、今後の金融情勢や世帯収入の変化などを考慮の上、余裕をもって計画することが重要です。

マンション価格の高騰について、LIFULL HOME'S 総研 副所長 チーフアナリストの中山登志朗氏は、販売側(デベロッパー)の販売戦略の変化も一因として考えられると述べた。

中山氏:都心への物件供給のリスクを背景に、昨今のマンション販売の手法として、できるだけ小分けに分譲して戸数を絞ることで価格を長期的に維持するスタイルに変わっています。ただ、千葉県の例を挙げると、千葉市より先は新築マンションの供給はほぼ無く戸建てが中心になっています。ロケーションや交通利便性を考えなければ3,000万円前半程度で新築戸建てが買える状況にもあり、プライスの設定が23区と郊外とで極端な状況であることは間違いないと思います。

東京23区における1億円超え物件の増加や、共働きによる世帯年収の差など、首都圏におけるマンション購入は、購入できる層とそうでない層の"二極化"がさらに進行している状況と言えそうだ。

平均価格と平均面積の推移(1994~2017年)都内23区と都内23区以外の比較<BR />参照:株式会社 長谷工総合研究所『首都圏・近畿圏分譲マンション市場動向 ~ 2017年の総括と2018年の見通し ~』平均価格と平均面積の推移(1994~2017年)都内23区と都内23区以外の比較
参照:株式会社 長谷工総合研究所『首都圏・近畿圏分譲マンション市場動向 ~ 2017年の総括と2018年の見通し ~』

都心と郊外の住宅価格の二極化。都心の価格高騰はバブルなのか?

また酒造氏は、この二極化する状況を「建築着工」部分から言及した。

酒造氏:2017年の分譲マンション着工戸数は、6万4,755⼾で2000年前半の12万⼾程度から⽐べると、半分程度に減少しています。また、新築マンション供給戸数の内訳をみると、マンションデベロッパー⼤⼿7社である"メジャー7" のシェアが高まっており、2017 年の新築マンション供給戸数3万5,898 ⼾のうち1 万9,476 ⼾(54.3%)がメジャー7が関与した戸数で、供給戸数の50%以上を占めるのは昨年に続いて2年連続です。大手のマンションデベロッパーによるマンション開発は、主に超⾼層物件や高級物件など都⼼が中心となる傾向があり、こうした開発が進むことで、郊外との差がさらに広がっていくということが予想されます。

首都圏のマンション価格が高騰する状況は「バブル」と報道されることも多い。この状況は以前から示唆されており、当初2018年までと見立てられていたものが、今では2020年を過ぎても続くのでは、という論調もある。果たして、こうした状況を出席者はどのように捉えているのだろうか。

中山氏:まず現在のマンション市場が、"バブルなのか"という点です。バブルというのは、その物件が持つ妥当性のある価格をはるかに超えた額で販売され、且つそれがキャピタルゲイン(売買差益)を生み、本来の価値を上回っていくのが特徴だと考えています。2013年くらいまでは、東京都心部の新築マンションの平均坪単価は350万円程でした。それが今では600~800万が当たり前になっており、一般的な給与所得者では手が届きにくい状況です。しかし、当時と比べて高額な現在の物件価格に消費者は慣れてしまっている一面もあると感じています。今後の大きな出来事の一つに、2022年に一斉に起こると言われている生産緑地の指定解除があります。生産緑地が住宅地として再放出され、土地が余ることで価格が下がる可能性も残されています。ただ、東京都心部だとそうした土地はほぼありません。そういう意味では、1%を下回る住宅ローンの超低金利に支えられている今、高額であっても売れ続ける要素が残ってる間は、こうした状況は続く可能性は高く、2020年を超える可能性は十分にあると思います。

首都圏における価格帯別の新規供給戸数<BR />参照:株式会社 長谷工総合研究所『首都圏・近畿圏分譲マンション市場動向 ~ 2017年の総括と2018年の見通し ~』首都圏における価格帯別の新規供給戸数
参照:株式会社 長谷工総合研究所『首都圏・近畿圏分譲マンション市場動向 ~ 2017年の総括と2018年の見通し ~』

マンションの老朽化の先に待ち受ける都市の姿とは

二極化が進み、人口の高齢化が進んだ郊外を中心とした都市は、今後どのような姿になっていくのか。研究会の最後のトピックスとして、清水氏から第四象限であるストック調整、「都市の老朽化」について話題提供があった。
日本の住宅政策の歴史の中で、マンションの建設が一気に進んだことで生じている問題が「マンションの老朽化」だ。戸建て住宅と違い、マンションは区分所有法によって、建て替えには5分の4の居住者、持ち分の賛成が必要であり、区分所有権の解消のためには全員同意が必要となるなど、マンションストックを更新、滅失させるためには大きな社会的コストがかかる構造となっている。
清水氏は、このマンションの老朽化と地価の減少という、マンションの地域集積による外部不経済の発生という点についてこう語る。

清水氏:人口減少や高齢化が進むとわかっている中で、今後老朽化したマンションがどこの地域にどのくらい増えるのかを見立てるのも私たちのテーマの一つです。私たちが作成したマンションデータベースによれば、2030年を超える頃に首都圏から20~30km圏を超えたあたりで価格の低下が起こり始めます。また、これまでの研究結果から、建築後25年以上を経過したマンションが集積している地域においては、戸建て住宅価格を低下させる影響があることがわかっています。
これを前提に、将来の首都圏人口の動態を見てみると、2015年を基準とした場合に、2040年の総人口は10%減の0.9倍となるのに対し、75歳以上の後期高齢者人口は1.52倍となります。一方、老朽マンションの戸数は2.54倍と、人の高齢化以上の早さで老朽化が進むことがわかっています。都心の10km圏以内であれば、高額なマンション建設やオフィス建設などの活発な開発で新陳代謝が起こっているため大きな問題ではないと考えています。しかし、20~50km圏以遠になると、不動産の開発は一気に縮小してしまい、取り残されるのは建て替えの難しい老朽化マンションです。

今後、こうしたマンションの老朽化が進む地域には何が求められてくるのだろうか。酒造氏は、マンション管理を行う企業の立場から、今後マンションの価値を維持していくために必要な要素について次のように語る。

酒造氏:マンションの価値に差を⽣み出す重要な要素の⼀つに、"キーパーソン"の存在があると考えています。ここにずっと住んでいくという気持ちが強い⼈がマンションにいた⽅が、良いコミュニティが形成され、結果的にマンションの価値も維持・向上していくと感じています。これは、マンションにかぎらず、エリアマネジメントを通じたまちづくりにも通じる部分があります。さらにいうと、将来的には、そうした"キーパーソン"になる人をマンションの管理会社も含めて、⽣み出していくことが求められてくるかもしれません。

清水氏は、空き家の問題は、空き家の周辺が悪化するだけでなく、その周辺へと波及することで都市全体を衰弱させる外部不経済を与える点にあるとしている。今後、地方都市を中心にこうした問題が今以上に大きくなることは想像に難くない。つまり、こうした地方都市の空き家問題が、大都市においてはマンションの老朽化という問題が加わり、より大きな問題となる可能性が高いのだ。
不動産市場の諸問題の解決に向けては、まずは不動産市場で今起こっていることを的確に理解し、どのように変化していくのか見立てを立てることが必要不可欠である。
「住宅市場分析研究会」の活動から生まれた知見が、今後の住宅政策に与える可能性に注目していきたい。

老朽マンションと人口動態:2005~2040<BR />
参照:『都市の老朽化-人口とマンションの老朽化に見る未来-』中川雅之・齊藤誠・清水千弘老朽マンションと人口動態:2005~2040
参照:『都市の老朽化-人口とマンションの老朽化に見る未来-』中川雅之・齊藤誠・清水千弘

2018年 03月19日 11時05分