「東京一極集中」が日本の出生率を引き下げているのか?

「老いる都市、『選べる老後』で備えを:地方創生と少子化、議論分けよ」
2015年7月、公益社団法人 日本経済研究センター「老いる都市、『選べる老後』で備えを:地方創生と少子化、議論分けよ」 2015年7月、公益社団法人 日本経済研究センター

2015年9月、安倍信三首相は経済政策アベノミクスの新たな3本の矢として、「強い経済」、「子育て支援」、「社会保障」の政策強化を表明した。このうち、第2の矢の「子育て支援」では、約1.4程度の出生率を1.8まで回復することを目指すとしている。
 
出生率の回復に関しては、「どこに住むのか」「どのように住むのか」が、結婚して子供を産むという行動に大きく影響を与える、という主張が最近多くみられるようになった。
最も典型的な例は、日本創生会議・人口減少問題検討分科会が、2014年に発表した「ストップ少子化・地方元気戦略」における、「出生率の低い東京都への人口集中が日本全体の出生率低下に影響を与えている」とする主張であろう。このほか、低家賃の賃貸住宅の不足が、若者の実家離れを妨げて、それが婚姻率の低下や出生率の低下に影響を与えているという主張も聞かれる。

しかし、東京一極集中を是正したり、賃貸住宅への支援を拡大することで、婚姻率や出生率は本当に向上するのだろうか。
先般、筆者もメンバーとなっていた日本経済研究センターの研究会で、「老いる都市、『選べる老後』で備えを:地方創生と少子化、議論分けよ」というレポートがまとめられた。
ここでは、このレポートに従い、「東京一極集中が日本の出生率を引き下げている」という大きなストーリーを検証してみたい。

東京都の出生率からの検証

まず、東京都の出生率が1.13と、群を抜いて低いことをより詳細にみてみよう。
厚生労働省『平成20~24年 人口動態保健所・市町村別統計』によれば、東京の有配偶出生率は1.3を超えており、これは全国の水準から特別に低いというものではない。一方、東京都の未婚率を見ると、他の地域に比較して非常に高くなっている。
このように東京都の出生率が低いのは、「子供を産まない」のではなく、「結婚しない」ことが大きく影響している。

しかし、このことはやや奇妙に聞こえる。
都市の存在意義とは、多様な人々が稠密(ちゅうみつ)に生活し、face to faceのコミュニケーションを可能とするところにあると言われている。この特性は、効率的にパートナーを探すことのできる条件にも該当し、都市とは効率的な結婚市場だと考えられるからである。

つまり、下図にあるように人は都市か地方に生れ、生涯を共にしてもいいと思えるパートナーを探す。しかし、パートナーを探す場所は、自分が生れ落ちた地域である必要はない。豊かな生活を共に目指してくれそうな人、生き方や趣味などが自分とうまく合致する人を、見つけられる確率が高いところで、パートナーのサーチを行う人が、少なからずいるのではないか。多様な人が稠密に集まっている都市こそが、そのようなサーチを効率的に行える場所と、考えることができるだろう。
だが、都市は生活費が高いため、どこでパートナーのサーチを行うかは、その利点とコストのトレードオフ関係にある。

人は都市か地方に生れ、生涯を共にしてもいいと思えるパートナーを探す。</br>しかし、パートナーを探す場所は、自分が生れ落ちた地域である必要はない人は都市か地方に生れ、生涯を共にしてもいいと思えるパートナーを探す。
しかし、パートナーを探す場所は、自分が生れ落ちた地域である必要はない

「結婚後どこに住むか」が与える影響

仮に、パートナーを都市で見つけることができたら、そのカップルはどのような行動に出るだろうか。
都市では、パートナー探しを効率的に行うことができるという利点は、結婚したカップルにはもはや何の意味も持たない。むしろ、生活費が高いためそれがカップルの生活水準を引き下げてしまう。だが、都市から地方に転出するためには、コストがかかる。それは引っ越し費用に限られるものではない。転職やそれまで築き上げたネットワークから切り離されるというコストを伴うであろう。このため、結婚後どこに住むか、これもその利点とコストのトレードオフによって決定されることになる。

このような考え方に従えば、都市における望むパートナーとの遭遇確率が高いほど、都市での生活費用が高いほど、若者はパートナー探しのために都市に集中し、結婚後は地方に転出することになる。その場合、未婚の若者が都市に流入し、結婚後都市外に転出するため、必然的に都市における婚姻率は低くなる。

それは、日本においての東京都と他の地域についてもあてはまるのだろうか?
次回その関係を検証してみたい。

都市における望むパートナーとの遭遇確率が高いほど、都市での生活費用が高いほど、</br>若者はパートナー探しのために都市に集中し、結婚後は地方に転出することになる都市における望むパートナーとの遭遇確率が高いほど、都市での生活費用が高いほど、
若者はパートナー探しのために都市に集中し、結婚後は地方に転出することになる

2015年 11月19日 11時06分