高円寺に誕生したJRの旧社宅をリノベーションした賃貸マンション

東京都杉並区の東端に位置する「高円寺」。駅の周辺には、1989年に直木賞を受賞したねじめ正一の著書のタイトルでもある『高円寺純情商店街』をはじめ、10ケ所以上の商店街がある。
2017年3月31日、JR中央線の西側の高架下を7分ほど歩いた北側に、JRの旧社宅を一棟丸ごとリノベーションした賃貸マンション「アールリエット高円寺」が誕生した。
その特徴は、小さなショップなどを営みながら居住も可能な店舗兼用住居や、ものづくりのアトリエとしても使える土間付きの住居など、住むだけでなく「自分の手で暮らしを、仕事をつくる」という暮らし方を目指している点だ。
この建物は、1965年(昭和40年)に旧国鉄職員の社宅として竣工。社宅の需要縮小に伴い2016年3月に閉鎖の後、JR東日本のグループ企業である株式会社ジェイアール東日本都市開発(以下、ジェイアール東日本都市開発)が再生プロジェクトを進めてきた。
また、今回、都市空間や公共空間のリノベーションを多く手がける株式会社オープン・エーがデザイン監修を担当し、開放スペースを活かした入居者向けのイベント開催の運営は、まめくらし研究所(株式会社まめくらし)がサポートをしていくという。

長年、社宅として使われてきた建物がどのような姿に変わったのか。2017年3月に開催された内覧会で、本プロジェクトを担当したジェイアール東日本都市開発 オフィス・住宅事業本部の大野勝弥さんに物件を案内していただいた。

アールリエット高円寺A棟の外観。A・B棟の2棟があり、どちらも1階部分が敷地と一体化しているのが特徴だアールリエット高円寺A棟の外観。A・B棟の2棟があり、どちらも1階部分が敷地と一体化しているのが特徴だ

地域性を反映した店舗付兼用住宅や土間のあるA棟

(写真上)A棟1階の店舗部分。目の前の広場とは階段でつながっており、非常に立ち寄りやすい印象に。<BR />
(写真下)A棟3階の土間のある部屋。モルタルに着色を施している。窓には同じ視線を走り抜けるJR中央線の高架橋が見える(写真上)A棟1階の店舗部分。目の前の広場とは階段でつながっており、非常に立ち寄りやすい印象に。
(写真下)A棟3階の土間のある部屋。モルタルに着色を施している。窓には同じ視線を走り抜けるJR中央線の高架橋が見える

「アールリエット高円寺」は2棟の配置で、A棟(28戸)とB棟(20戸)の住宅とA棟(2区画)の店舗からなっており、住宅48戸は全て52.04m2、主に2LDKの間取りとなっている。
このうち、A棟の1階は、通りに面している立地を活かし、地域住民が立ち寄ることができる2つの店舗専用区画と4戸の店舗兼用住宅としてリノベーションされた。
「2017年3月時点で、2つの店舗区画はカフェとクラフトビールを提供する2店舗の入居の申込みがありました。4戸の店舗兼用住宅も募集を開始した当時はどんな業態が集まるのかまったくわからない状態でしたが、結果的には様々な業態の方から入居の希望をいただいており、高円寺エリアで"自宅に住みながら自分らしいお店を構えたい"という強いニーズを感じました」と大野さん。また、こうした期待は住居の応募状況からも感じることができたという。
「A棟B棟いずれもエレベーターがないにもかかわらず、5階の部屋から順番に埋まっていき、入居の申込をいただいたほとんどが30~40代のカップル層でした。そもそも高円寺は、ワンルームタイプとファミリータイプの物件が多く、カップル層に最適な2LDKの間取りが極めて少ないエリアです。また、この一帯が第一種低層住居専用地域ということもあり、辺りは低層階の建物が中心です。高円寺エリアでここまで眺望が開けている物件はそう多くありません。」と語る。

またA棟の3階住戸は、リビングが全面土間になっている。3階部分を土間にした理由について大野さんは、
「線路沿いに建つA棟のうち、特に3階部分は高架橋と同じ高さにあるため、音やプライバシーなどの影響を最も受ける場所でした。一般的な住居としての使用が難しいならば、逆にこの立地の特徴を活かし、陶芸や絵画などを楽しむアトリエとして活用できないかと思ったんです。作品を窓に並べてギャラリーのような使い方もできると思います」と語る。

家庭菜園や食事を楽しむファミリー層向けのB棟

A棟の1階が店舗と店舗兼用住宅で地域に開かれているの対し、B棟1階の4つの住居にはそれぞれの専用庭がついている。B棟は主にファミリー層の入居を想定しており、家族で家庭菜園や屋外での食事を楽しめるスペースとしている。
専用庭は、B棟の全部屋のベランダから見える位置にあるため、庭にいる住人とベランダを通じて上の階にいる住人との交流も想定しているという。そのため、B棟1階に入居を希望する世帯は、上層階への入居を希望する世帯と比べてコミュニティを重視している場合が多いそうだ。隣の専用庭との間には腰の高さほどのフェンスの仕切りしかなく、非常に開放的な印象だ。

また、B棟には和室が用意されている点もA棟との違いだ。敷かれている畳は、一般的ない草の畳ではなく"和紙畳"を採り入れている。い草に比べて日焼けによる色あせやが少なく、ダニなども発生しにくく子どもがいる家庭に配慮した仕様になっている。

B棟1階の各住居に付いている専用庭。家庭菜園の他にも、テーブルセットや自転車置場など、様々な用途に活用できるB棟1階の各住居に付いている専用庭。家庭菜園の他にも、テーブルセットや自転車置場など、様々な用途に活用できる

塀の撤去がもたらした地域住民とのコミュニケーション

(写真上)改修する以前は、敷地の周囲をコンクリート壁で囲まれていた<BR />(写真下)塀が撤去されたことで、垣根がなくなり、立ち入りやすい雰囲気に変わった(写真上)改修する以前は、敷地の周囲をコンクリート壁で囲まれていた
(写真下)塀が撤去されたことで、垣根がなくなり、立ち入りやすい雰囲気に変わった

旧国鉄時代からこの地に佇む元社宅のリノベーションは、地域住民の関心も高いようだ。
取材中、物件の前に立ち止まって建物を眺めたり、自転車から降りて内覧会の案内を読み込む人を何人も見かけた。
「この地域は地縁の方も多く、古くからこの建物をご存知の方も多くいらっしゃいます。今回のリノベーションにより、最も物件の印象を変えたポイントの一つが"塀の撤去"でした。もともと敷地はコンクリートの厚い壁で囲まれおり、どこか薄暗く閉鎖的な印象でした。それが、今回の改修でその塀を撤去することで、建物の全体像がはっきりと見えるようになり、開放性と明るさが劇的に変わりました」と大野さん。

塀を撤去し、建物の全体像や開放スペースが見えるようになったことで、地域住民からもスペースの活用についての意見をもらうことも多くなったそうだ。
「町内会の方々とのお話をする中で、このスペースをバザーなどで使いたいなど、この場所を活用したいという声を聞くことができました。また、地域住民との会話の中から開放スペースの新しい活用方法についてのアイデアが生まれたこともあり、開発期間中、この建物は長らく地域の皆さまに見守られていたんだと感じた瞬間でした。」

敷地の北側にある元テニスコートだったスペースは、ハーブガーデンへと変わっている。かつては盆踊りや夏祭りなどの際に開放されていた経緯もあったため、引き続き地域の皆さまが集い、コミュニケーションが生まれるスペースとして使っていきたかったと大野さん。現時点では、植栽管理の範囲と位置付けているものの、将来的には入居者が自主的に手入れができるようにしたり、採れたハーブを地物として1階の飲食店で利用することも検討しているという。

50年以上前の旧国鉄時代に竣工し、どちらかというと内に向いていた住まいが、1棟リノベーションによって地域住民や自治会とのコミュニティ形成を目指す地域に開けた場所へと変わった。住宅街に登場した「アールリエット高円寺」の存在が、今後地域にどのような変化をもたらすのか楽しみである。

2017年 05月26日 11時05分