日本の住宅ローンは「家に貸す」のではなくて「人に貸す」

住宅ローン市場が過熱感を増す中、「事実上与信100%」の状況が生み出されている住宅ローン市場が過熱感を増す中、「事実上与信100%」の状況が生み出されている

と、見出しを掲げると意外に思う方も多いはずだ。もともと住宅ローンは対象物件=「住宅」を担保に住宅購入資金を借り入れはするが、それを長期間にわたって返済するのは「購入者」なので、人に貸すのが住宅ローンであると考えるのが普通だ。

それは一面で正しいのだが、一面では正しくない。なぜなら、金融機関に住宅ローンを申し込む際には、物件の現在価格(現在の価値=担保評価額)を算定し、その価格を上限としてローンを借り入れるのであり、金融機関は物件に相応の経済的価値があることを認めた上で貸し出すからだ。

つまり、原則として物件の担保評価なしには住宅ローンは成立し得ないはずのだが、現実問題としては、住宅ローンは事実上「与信100%」という状況が続いている。
住宅ローンにおける与信(=個人向け信用供与)とは、住宅ローンを借り入れる購入者の「信用力」のことだ。具体的に言えば、現在の年収、勤務先、勤続年数、家族構成などから返済能力がどれくらいあるのかを金融機関が審査し、評価するのである。

もちろん、消費者ローンなど住宅ローン以外に借り入れがあったり、過去に返済が滞った履歴などがあったりすれば、そのぶんだけ審査のハードルは高くなるが、特に信用情報に何も問題がなければ、購入者は金融機関の住宅ローン審査に「合格」することができる。
従来は、金融機関も住宅の担保評価額も相応に勘案して「この物件は担保評価したら販売価格の4,000万円より1,000万円安価だから、3,000万円を上限としてローンを実行する」などと対応していたのだが、現状では住宅の価格査定は、中古住宅でも新築同様に公的な地価(公示地や路線価など)、周辺の売買事例および取引事例、収益還元価格を算定する場合には賃料などを活用し、同時にシステム化することによってロジカルにかつ短時間で算出することができるようになっており(最近では10秒で査定可能と豪語するシステムもある)査定する宅建業者によって査定価格が極端に食い違うことはまずない(もちろん早く売りたいなら安めで、残債が多いので何とか高めでなどの個別の事情が反映されることは往々にしてあるが、築年数や駅距離、面積、構造、敷地形状、想定賃料などから算出される相場価格から大きく逸脱することはない)ので、現在の対象住宅の価値=販売額が多くの場合担保評価額、もしくは担保評価額に近い金額で算定される。

特に公的地価および対象物件周辺の売買事例数が豊富な都市圏では、宅建業者の査定額と金融機関の担保評価額が大きく異なることはごく稀なケースであるから、それならば担保価値を精緻に確認することなく、販売額よりも物件を取り扱う宅建業者の規模や事業実績などを総合的に考慮し信用して(これは与信とは異なるが)、販売額(=査定額)を担保評価額の目安としているのである。

極論すれば物件の担保評価は万一返済が滞った際に必要になることを想定した形式的なものとなっており、金融機関の競争意識も手伝って住宅ローン市場が過熱感を増す中、担保評価よりも人物評価が過剰に意識される「事実上与信100%」の状況が生み出されているのである。

担保評価作業は機械的?

このように現状の担保評価業務は、住宅ローンを申し込んだ購入予定者の総合的・経済的な評価(=与信)のサポートレベルの役割なのであり、人物評価が高ければ担保価値がどうのというシビアな話にはならず、反対に人物評価が低ければ担保評価が相応に重視されるか、もしくは住宅ローン審査そのものが「不合格」という結果になる。

このように、担保評価業務が必要であるにも関わらずそれほど重視されていないように見える要因は、古くは「土地担保融資」と呼ばれ、金融機関が土地・建物を担保評価し抵当権を設定して融資する場合、原則として担保評価額を上限とした金額までとなり、融資時点での評価額(時価評価額)は将来の減損分を反映していないので、経年劣化によって価格が下がり続ける住宅は、資産としての価値が決して高くない、という考え方に基づいている。

つまり、そもそも土地には担保価値が相応に認められても建物は減損して価値が認めにくいから、全体としての担保評価も徐々に重視されにくくなり、相対的に重要視されるようになったのが人物評価としての与信、ということになる。更に言えば、担保評価作業において、実際に対象となる物件をチェックしに行くという工程はどの保証会社でも皆無である。貸し出したお金を保証しているはずの大切な土地と建物を実際に見に行くということはないのだ。

では、どのように担保評価作業が行われるのか。
まず、土地の担保評価については路線価の○○%(現在では概ね60~80%程度)とする金融機関が多い。ただし、なかには時価の50%までと厳しく算定するケースもある。また、一般に広く知られていて批判も多いのが、建物が木造戸建の場合だ。どのような戸建であっても木造であれば一律20年で価値ゼロと算定されるため、築10年では新築当時の50%、築15年では25%の価額で算定される。20年で価値ゼロなので、1年で5%ずつ一律に価値が低下する計算だ。
実際には築20年を超える木造戸建であっても建物の価額を見て担保評価している事例は相応にあるのだが、やはりこの商慣習(財務省令で木造住宅の耐用年数を22年と定めているからとの説が有力だが、市場価格を税制上の耐用年数で計る根拠などない)は圧倒的多数の事例で採用されており、事実上木造戸建は20年で価値ゼロ=「ゼロ円」になると考えておいてほぼ間違いはない。中には築20年を待たずに価値ゼロと算定されるケースすらある。

誤解のないように断っておくと、このような例からは何にも機械的に担保評価が為されているような印象を受けるが、実際には建物の個別性などを考慮して1件ずつ担保評価=審査が行われている。担保評価作業を効率的に行なうために、いくつか機械的に当てはめられる指標が用意されているというのが妥当なところだ。ただし「長期固定の住宅ローン」の場合は、住宅ローンが実施されたあと金融機関は速やかに住宅ローン債権を住宅金融支援機構に売却し、その時点で「貸し倒れ」リスクはゼロになるから、その点からも建物の一律減価の仕組みは、属性の固まりである住宅の個別性を全く無視するかたちで担保評価されているとの誹りは免れないだろう。

住宅ローンにおいて解決すべき課題とは

長期の住宅ローンを組んで住宅という不動産を購入しても、比較的短期間(木造住宅は20年)でその経済的価値が失われる長期の住宅ローンを組んで住宅という不動産を購入しても、比較的短期間(木造住宅は20年)でその経済的価値が失われる

このように、我が国の住宅ローンは事実上「与信100%」の状況にあることを説明してきたが、長期の住宅ローンを組んで高額な住宅という不動産を購入しても、比較的短期間(木造住宅は20年)でその経済的価値が失われるという状況がこのまま続けば、それこそ住宅を喜んで購入したいという人はどんどん減少することになるだろう。

極論すれば、一所懸命稼いだカネを長期の住宅ローンを組んで不動産につぎ込むのは「カネをドブに捨てるようなもの」だからだ。となれば、それほど大きなコストを使わなくても購入可能な、安価だが住宅としては長期使用が困難な住宅が建設され、不要になったら建て替えるというスクラップ&ビルドの状況が続くことになる。「不動産は大切な資産である」との言葉は、土地に当てはまることはあっても建物に当てはまる可能性は極めて低いと言わざるを得ないのである。

これが、巷間言われるところの「失われた500兆円(※国土交通省が、統計のある1969年以降を対象に、国内住宅累計投資額(住宅に使った金額の合計:約850兆円)と住宅資産額(現在の評価額の合計:約350兆円)の差を調べた結果、約500兆円もの住宅に投資されたお金が消えていることが判明した)」問題として取り上げられるようになったことは、住宅の経済的価値が不当に減損されていることを知らしめるには一定の効果があったと言えるが、残念ながら、問題の解決には至っていない。これでは失われた500兆円が戻ってこないどころか、今後もこの差額が拡大し続けることになる。まずは、今回のテーマでもある「住宅の価値」を早急に見直す仕組みが必要であることは論を俟たない。

また、2018年4月に改正公布される「宅建業法(※2)」では建物現況検査(=インスペクション)について媒介契約時や重要事項説明時、売買契約締結時に各々建物の状態について説明もしくは書面を交付する義務が発生するのに対して、住宅ローンが現状の仕組みのままでは建物の「個別的な違い」や「メンテナンスの違い」を反映した積極的な評価が進まず、インスペクションを実施する意義が全くないとは言わないものの、薄れてしまうという懸念は払拭されないままとなる。(※2 媒介契約時にインスペクション事業者の斡旋の可否を通知する義務(§34の2 1-4)・重要事項説明時に買主に対してインスペクション結果を説明する義務(§35 1-6の2)・売買契約成立時に建物状況確認事項について書面交付する義務(§37 1-2の2)が2018年4月1日より改正・公布される。)

これを解決するには、住宅ローンの評価手法を見直し(金融庁の指導・通達もあって簡単にできることではないが)、住宅の個別性、例えば修繕履歴やリフォームによるバリューアップを評価項目に加えるとか、せめて物件の検査(=健康診断)による現状を適切に評価し担保価値に含めることを可能にすれば、住宅の維持・管理を適切に行うことによって、将来の売却価格にも大きく影響を与えることができるようになる。インスペクションを実施している住宅と実施していない住宅とで、担保評価額および売却額に差が発生するようになれば、それこそ「大切な資産」である住宅を「経済的価値があるもの」として適切に維持・管理するモチベーションにつながっていく可能性が高まる。

健康保険に加入するのに健康診断は原則必須だが(なかには自己申告で足りる保険もある)、住宅も瑕疵保険に加入するためにはインスペクションが必要というルール作りは既に為されているのであり、あとは、その検査結果を経済的価値に結びつける手法があれば(そしてその手法を採用する金融機関があれば)、住宅の「価値」が適正に維持される市場が形成されることになる。

それでも立ちはだかる「壁」

これらの課題を解決するには、ここに述べた以外にも幾つか手法が考えられるのであり、つまり解決できないものではないことが概念的には明らかなのだが、制度の「壁」や国交省と金融庁という省庁間の「壁」によって、現実には解決に向けてのハードルが決して低くない課題となっている。

上記の通り、機械的な担保評価を改めて物件の「特性」に応じた担保評価を実施し、かつリフォームや補修を実施した部位について、その価値の上昇分を担保評価に適切に加える新たな評価手法を開発するべきだし、実際にトライアルで手法は開発されてはいるのだが、その手法を採用して宅建業者が査定しても、担保評価の局面では活用されない=担保評価が期待されたようには出ないのである。

国交省もただ手を拱いていたわけではなく、かねてから住宅ローンの評価手法を見直し、適切に維持管理された住宅については「ノンリコース・ローン」「リバース・モーゲージ」の対象とするよう、金融庁を通じて金融機関に働きかけを行なったが、効果は極めて限定的で、インスペクションの実施をコアとした住宅価値の適性評価はほとんど進んでいないのが実状だ。

今後の少子化・高齢化の進行による家余りの状況が拡大するなか(現状でも約800万戸の住宅が空き家と算定されており、数年後には1,500万戸を超えるとの推計もある)、従来の担保評価が改定されないようでは、スクラップ&ビルドの住宅市場構造=新築重視政策が維持されることとなる。この状況を打開するため、住宅ローン評価手法にメスを入れることが、最も効果が高い住宅価値の維持向上機能を付与することができるものと考える。

もうこれ以上、金融機関が中古住宅に「冷たい」ままでは、日本の住宅政策自体が立ち行かなくなる。この「歪み」を矯正することが日本の住宅市場を少子・高齢化社会に対応させるための「はじめの一歩」なのだ。

金融機関が中古住宅に「冷たい」ままでは、日本の住宅政策自体が立ち行かなくなる。</br>この「歪み」を矯正することが今後の日本の住宅市場の「はじめの一歩」となる金融機関が中古住宅に「冷たい」ままでは、日本の住宅政策自体が立ち行かなくなる。
この「歪み」を矯正することが今後の日本の住宅市場の「はじめの一歩」となる

2018年 01月15日 11時05分