従来の枠にとらわれない「不動産政策」が求められている

国内の不動産・住宅市場は今、数多くの課題に直面している。

年々深刻化する空き家問題、遊休地や空き地の問題、所有者不明土地、限界マンション、既存住宅ストックの流通促進、不動産市場の透明性向上、IT社会への対応、新しい住宅セーフティネットへの対応、人口や世帯数の減少による需要の低下、少子高齢化、立地適正化計画などによる都市の再整備、農地の活用など、解決しなければならない問題が山積みだ。

これらの課題への取組みは研究者や不動産業界だけにとどまらず、あらゆる業種のプレイヤーが参画し、互いに連携・協力していくことが求められている。そのような中で不動産政策はどうあるべきだろうか。2017年6月26日、「不動産政策フォーラム〜不動産分野の生産性革命〜」(国土交通省・一般財団法人不動産適正取引推進機構主催)が開催された。

国土交通省では初めての試みということであり、まだ試行錯誤の部分があることも否めないだろうが、「従来の不動産分野の枠を超えて産学官が集い、不動産をめぐる課題や展望を共有し、不動産分野の生産性革命の実現を目指す場」として、今後の継続開催も検討するようである。

都市の特徴を踏まえた政策が必要

不動産政策フォーラム第1部の「産・学リレー講演」で、まず初めに日本大学経済学部教授の中川雅之氏が登壇し、「新時代における不動産市場とまちづくり」についてのお話があった。

不動産市場の環境整備や担い手の生産性向上・育成といった「固有の不動産政策領域」では、流通コストの引下げや流通速度の上昇による「既存ストックの流通促進」の必要性、不動産情報ストック整備の重要性などが挙げられた。既存住宅市場に関する日米比較では、日本の生涯持家購入回数が少ないこと、住み替え希望者における実現可能性の低いことなども指摘されている。

また、住宅政策、都市政策、土地政策、地域政策、地方財政政策などの「他政策との組み合わせ領域」では、集積の促進による大都市の生産性の向上、不動産市場における人口減少・少子高齢化のショックの軽減、他のプレイヤーとの連携による新しい再分配スキームへの参加などの課題が提示されたが、その中で説明された「ランクサイズルールによる日本の都市の分布の特徴」は興味深いものだった。

都市雇用圏のデータによる「理論的な都市のサイズ」と「実際の都市のサイズ」の乖離を算出したもので、国内全体でみると「東京大都市雇用圏」は1980年以降、いずれの時期もシェアを上昇させている。ところが、ランク4以上のグループだけでシェアの変化を比較すると、「東京大都市雇用圏さえもその相対的な地位を低下させている」という。

ちなみに、東京大都市雇用圏、大阪大都市雇用圏、名古屋大都市雇用圏に次ぐ「ランク4」は、政令都市レベルの雇用圏であり、このランク4の都市グループの成長率が非常に高くなっているとのことである。

講演をする日本大学の中川教授講演をする日本大学の中川教授

地域密着とグローバル化

続いてヤマトホールディングス株式会社顧問の西澤侑希氏から、同社グループが取組む地域貢献活動について事例報告があった。地元自治体や独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)と連携して行う「くらしのサポートサービス」に関するものだ。

1970年代の高度成長期に開発された大規模ニュータウンでは住民の高齢化が大きな問題となっているが、地域をきめ細かく回る配送事業者ならではの住民サポートサービスがあるという。最寄駅近くにサービスステーションを設置したほか、他の事業者の荷物も集約して届ける一括配送や買い物サポートサービス、家事サポートサービス、さらに高齢者の「外出サポート」や「見守り」にも取組んでいるようである。

「地域密着」という観点で考えれば、今後の不動産業の取組みとして参考にできる部分も多いのではないだろうか。

次に登壇した日本大学スポーツ科学部教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員の清水千弘氏からは、「わが国の不動産投資市場の成長の条件」として主にグローバル市場における日本の不動産の特徴に関するお話があった。

予定時間が押していたために駆け足の講演となってしまったようだが、「アメリカ合衆国において、アメニティが充実している都市ほど人口が多い」「スペインを対象にした研究においてアメニティによる質の高い文化的消費の機会が得られる地域ほど、居住者の収入が高い」という指摘は興味深い。都市の快適性、住み心地の良さは地域の人口を増やすとともに、住民の所得も高めるというものだが、今後の都市再整備において十分に考えなければならない課題だろう。

講演をする日本大学の清水教授講演をする日本大学の清水教授

不動産関連領域が宇宙空間へ!?

「産・学リレー講演」の最後に登壇したのが、株式会社ナウキャスト・データサイエンティストの林祐輔氏だ。同社が手掛ける夜間光画像(衛星写真)と経済指標の関係性に関する研究成果が紹介された。

まだ仮説段階の部分もあるようだが、消費・生産などの産業活動、物流・工場稼働率・電力消費量などによって夜間光が変化し、景気指標との相関性もみられるという。各種の景気指標が1ケ月後、あるいは3ケ月後などにならなければ確定数値が分からないのに対して、2日に1度撮影される画像を分析すれば、即座に景気動向を判断することも可能になるようだ。さらに、将来的には衛星画像を用いた土地利用調査も検討しているようである。

不動産に関する講演としてはかなり異色の内容であり、その後に行われたパネルディスカッションでも、登壇者の大半がこの研究について言及するなどかなり注目を集めていた。データが整備されれば、いずれは不動産流通・不動産投資での活用場面が広がることも期待できそうだ。

不動産関連業務は多様化、不動産会社のあり方も変化が求められる

第2部のパネルディスカッションには、東京大学公共政策大学院教授・城山英明氏、東京大学大学院経済学研究科教授・柳川範之氏、一般社団法人不動産協会副理事長専務理事・内田要氏、一般社団法人不動産証券化協会専務理事・内藤伸浩氏が登壇した。

国土交通省不動産業課長・中田氏の司会により、まず一般財団法人不動産適正取引推進機構総括研究理事・姫野氏から同機構の研究テーマ(不動産取引法務研究会、不動産経済分析研究会、不動産再生研究会、海外不動産取引研究会でそれぞれ9〜10テーマ)が紹介された後、各登壇者からそれぞれの立場における意見が述べられた。話の内容が多岐にわたるためここでまとめることは困難だが、いずれにしても現在の不動産市場を分野横断的な連携で変えていかなければならないことは確かだろう。

以前であれば、不動産会社は売買の当事者になることや仲介することが業務の大半であり、契約に付随する保険業務や建築業やリフォーム業などとの兼業の場合を除けば、それ以外の業務に手を伸ばすことは少なかった。だが、これからの時代は住民サービスの担い手としてさまざまな業種と連携するほか、その調整役として活動することも不動産会社は考えていかなければならない。不動産会社のあり方、地域との接し方は今後大きく変わっていくことになりそうだ。

不動産政策フォーラム第2部:パネルディスカッションの様子不動産政策フォーラム第2部:パネルディスカッションの様子

2017年 07月24日 11時03分