資本の集中と所得分配の不平等

2014年4月に英語版が、2014年12月に日本語版が発売され、今や世界的ベストセラーとなっているトマ・ピケティ著『21世紀の資本』2014年4月に英語版が、2014年12月に日本語版が発売され、今や世界的ベストセラーとなっているトマ・ピケティ著『21世紀の資本』

トマ・ピケティ著「21世紀の資本」が世界的なベストセラーになっている。
資本収益率が成長率より高いために、資本の集中と所得分配の不平等が進んだという。

東京圏の経済については、特に土地資本に関してピケティと同様の主張ができる。すなわち、東京圏においては都市集積に伴う土地資本への集中によって著しい資産格差が生じている、という主張である。

この主張は、所得格差や地域格差は土地代に吸収され、おのずから解消されることも示す。また、平成21年全国消費実態調査によると、二人以上の世帯を対象にこうした格差をジニ係数で比較すると、住宅・宅地資産では0.579、貯蓄現在高では0.571と上位者層に偏るのに対し、年間収入では0.311とより公平という実態が明らかだが、土地資本格差に関する主張はこうした実態とうまく整合する。

以下で、この主張を実証分析に基づいて説明してみよう。

都市集積の利益はすべて地主の利益に帰着する

都市集積の利益はすべて地主の利益に帰着する…というのは、都市経済学でいう資本化仮説である。
都市集積の利益は、情報収集の費用が安くなって都市の生産性が上がることで生まれる。より高い収入が得られるので働く人も会社も都市に集中するが、その分、都市の家賃や生活費、通勤費用などは上昇して実質的な生活水準が都市と地方とで差がなくなる時点で、人口の純流入は止まる。こうして生産性が高くなった分はすべて、土地代の上昇に吸収される。

この仮説は実際に東京圏でほぼ成り立っている。東京圏の市区別に、横軸に納税義務者一人当たり総所得(総務省「市町村税課税状況の調」より)、縦軸に住宅地公示地価(国土交通省「平成26年地価公示」より)をとってみると、ほぼ直線状(決定係数0.813)に並ぶことが分かる。都市集積によって、人々の所得が上がる分が土地代に吸収される様子が示される。

さらに戸建て(土地120m2、建物100m2)を取得・居住することを前提として、実質的生活水準を調べてみよう。
都市になるほど工事費も高くなり(東京187千円/m2、地方150千円/m2)、物価も地方を100として東京は106になる。こうした要因を加味して住居費を除いた実質所得について東京も地方も変わらなくなるのは、住宅資本に対して年2.3%の水準であることが分かる。
つまり、
住宅資本の限界生産力-住宅資本の減耗率=実質利子率=2.3%
という場合、東京圏では都心も地方も実質的な生活水準は同じなのだ。

少なくとも東京圏においては、人々や会社の圏内移動が自由であるために、地域間格差は自ずから解消されると言える。こうして都市集積の利益は、すべて土地代の上昇に吸収されて地権者の利益となる。

東京都 市区別所得と地価の関係。</br>都市集積によって、人々の所得が上がる分が土地代に吸収される様子が示される
東京都 市区別所得と地価の関係。
都市集積によって、人々の所得が上がる分が土地代に吸収される様子が示される

土地資本の分配に偏りがあった

土地資本の分配に偏りは、戦後の農地解放と宅地解放が影響している。
当時のGHQが中国の共産革命の波及を恐れて、農民や市民を地主にして保守層にしようとしたものだ。農地解放によって、たまたま目黒や世田谷で小作をしていた農民が、数百、数千坪の大地主になる。累進在率で資産に対して最高90%もの財産税が課された結果、旧華族等が不動産を手放して、当時の借家人が土地家屋の払下げを実質的に受けることになった。
こうして東京の大地主の多くは、勤労ではなくて「運」によって土地を自分のものにした。こうした状況で、高度成長期が始まった60年代前半に地方から東京に186万人、後半にも136万人の純流入が起きる(内閣府「地域の経済 2011」補論1.戦後の首都圏人口の推移より)。その受け皿として、東京の地主たちは敷地の一部に、木造賃貸アパートを建て、あるいは宅地として細分化して売却して利益を得た。70年代に高額納税者番付に不動産業が多数を占めていたことを思い出す。このようにして東京の地価は高騰して、その分の土地差益が地主たちに帰着する。

そして現在でも、東京都区部では大地主が宅地を独占している。
区部において大規模土地(2000m2以上)を所有する個人・法人は14,502人、こうした大地主は区部の宅地面積の30.8%を占めているのが実態である(東京都「東京の土地 2012」平成25年12月より)。土地所有者に限って下図のようにローレンツ曲線を描いてざっとジニ係数を求めると、62%にも達するほど資産分配において著しい不平等を示している。

ちなみに所得のジニ係数になるが、その数値が60%以上になるのは、ボツワナ、ハイチ、ナミビア、セーシェル、南アフリカといった国家くらいである(世界銀行「所得・消費の分配(格差の状況)」2014より)。

土地所有者に限って下図のようにローレンツ曲線を描いてざっとジニ係数を求めると、</br>62%にも達するほど資産分配において著しい不平等を示している土地所有者に限って下図のようにローレンツ曲線を描いてざっとジニ係数を求めると、
62%にも達するほど資産分配において著しい不平等を示している

大地主に有利なように制度(税、建築等)が定められる

膨大な土地資産を背景に、大地主は政治的な影響力を備える。
シャウプ勧告では固定資産税は土地価格の1.75%とされていたが、評価額は取引価格の20%ほどに抑えられ、アパートでも小規模宅地優遇税制が受けられるなど、数々の軽減措置で実効税率は0.2%になる。譲渡課税も2分の1課税や買い換え特例によって骨抜きになる。相続税も、うまく節税すると実勢10億円でも数千万円の納税で済む。

また用途地域指定の際には都心部の地主たちは区議に働きかけて商業地域として300%ほどの高い容積率を認めさせた。その後も、総合設計制度や都市再生特別措置法などの施行によって、容積緩和による資産差益(数千億円から数兆円にも上る)を享受している。

このようにして、都市集積によって生じた資産差益への課税は緩く、土地所有者の手元に大半の利益が残ることになった。

土地資本の収益率は、勤労所得の蓄積より高い

都市集積が続く間は地価が高騰し、土地差益を得られた。
運用面では、最近のREITの利回りで平均3%。仮に資産価値2億円ほどの都心のペンシルビルを保有していると、何も働かなくても所得は600万円。ペンシルビルやアパートを持って業者に管理してもらえば、都内の平均世帯収入分を稼ぐことができる。それ以上に土地資本があれば、よほどの贅沢をしない限り、現在も資産課税が緩いので手元におおかたのお金は残る。これらを元手で不動産を買い集めれば、さらに土地の寡占化が進む。売却しても、長期譲渡所得税(10年超)の税率は軽減措置を受けて、課税所得6,000万円まで14.21%、6,000万円超の部分は20.315%という率である。

一方、勤労者は一生懸命に働いて所得を上げても、所得税などの負担は累進で嵩む。
所得695万円超で税率23%、1,800万円以上では税率40%、従って、あまり手元に資金は残らない。土地代が高いので、土地・家屋も30年以上のローンを組んでようやく手に入れることになるぐらいである。不労所得が勤労所得に勝る、いまの東京圏はどうもそんな社会である。

こうした大地主による土地資本の寡占化のメカニズムが、東京圏では強力に働いている。
以前から主張しているのだが、根本の対策は数々の減免措置を廃止して、固定資産税率を土地の実勢価格の1.4%課すことだろう。

大地主による土地資本の寡占化のメカニズムが、東京圏では強力に働いている大地主による土地資本の寡占化のメカニズムが、東京圏では強力に働いている

2015年 01月27日 11時09分