集積された医療施設と地域構造の転換と人口移動

奄美群島の人口は前回の大牟田市と同様に激しい人口減少を経験している地域だ奄美群島の人口は前回の大牟田市と同様に激しい人口減少を経験している地域だ

前回は、かつてないスピードで少子高齢化を迎える我が国での人口構成の変化は、医療・福祉需要にどのような影響を与えるのだろうかというテーマを取り上げた。
NIRA(総合研究開発機構)が2010年に発表した「『まちなか集積医療』の提言」において述べられているように、病床規模は医業収支比率に正の効果を与えている。集積の経済として、病院間の近接性の増加は、病院のコストを低下させる。また、急性期病院での治療後、速やかに回復期リハビリ病棟、療養病床へ転院できなければ、在院日数が延びて、救急病床の確保が困難となるなど、医療施設と高齢者関連施設の集積を求める指摘は以前から行われている。
実際、東海大学メディケアセンターでは、外来診療、在宅診療、訪問看護・介護、デイサービス一体型の事業を展開し、一定の成果をあげている。

そもそも介護、福祉サービスは、労働集約的な技術を用いているため、集積の経済が強く働く。
このような意味から、現在需要が上昇している医療・介護・福祉に関するサービスを、効率よく需要者に届けるためには、集積の経済を発揮させることが有用であろう。医療サービスの技術的特性を踏まえれば、病院と介護施設、高齢者住宅などの関連サービスが地域的に集積したクラスタを作ることで、限界費用を低下させ供給の増加を効率的に達成できる可能性がある。

しかしこのような医療政策は、政策の前提となる地域構造のイメージについて大きな転換を要求する。
つまり、「全ての地域において病院が配置されている」地域構造から、「特定の地域に集積された医療施設とネットワークによりアクセスを確保した」地域構造への転換である。このような地域構造の転換は、必然的に人口移動をもたらすことが予想される。

空間的に医療集積はどのような地域で形成されるべきか

既存商店街が衰退し都市の中心部に空地や空き店舗が広がる中心市街地問題。写真は、店舗兼住宅の廃墟既存商店街が衰退し都市の中心部に空地や空き店舗が広がる中心市街地問題。写真は、店舗兼住宅の廃墟

では、空間的に医療集積はどのような地域で形成されるべきだろうか。

一定の都市集積が既にある地域がその候補として挙げられるが、中心市街地は注目に値する。既存商店街が衰退し都市の中心部に空地や空き店舗が広がる中心市街地問題は、郊外のGMSなどとの競争により、中心部の最有効使用が変化したものの用途転換できない状況として説明される。

この場合、有効な政策は郊外部の商業立地を規制したり、中心部の商業施設への財政移転を行うことではない。
そのため、中心部での土地利用転換を促すことが求められる。その選択肢の中には、当然医療系、高齢者サービス系の土地利用も存在する。

高齢者のための現実的な集積医療とは

医療・福祉クラスタの形成は、中心市街地問題の解決のためだけでなく、より広域な地域に対して医療サービスを提供する施策として、積極的な位置づけを行うことが必要であろう。
その際に意識すべき空間的範囲は、現実の行政界にとらわれない、人々が通勤し、消費し、居住する現実の都市圏単位を想定することが適当だ。しかし、このようなまちなか集積医療を進めることは、特に高齢者を中心とした住民の移動が必要になるのではないか。
一方、高齢者は足が重いことで知られている。2008年に厚生労働省から発表された第6回人口移動調査によれば、5年前の住居と異なる居住地に住む者は、20代、30代では5割を超えるものの、65歳以上になると2割を下回ることが報告されている。
この理由の一つは、高齢者は持家率が高く、その処分が困難な場合には高齢者の移動可能性は著しく低下する、ことが挙げられる。このため、中古住宅市場を整備し、現在居住している住宅が適切な価格で売却できる可能性を高める必要がある。現在、中古住宅市場の環境整備は進められつつある。しかし、中古住宅売買の際の品質情報の提供にはまだ改善の余地があり、更に金融機関が建物の品質を考慮して融資を行う状況には至ってない。
高齢者が自分の住宅を売却しない場合、現在の持家を賃貸化するという選択肢がある。しかし、借地借家法の正当事由借家の場合、家主側が賃貸借契約の更新を実態上拒否できないため、一旦賃貸にした場合にはもう返ってこないというリスクを背負うことになる。
このようなことができるのは、都市部に限られているのではないか。過疎地域や中山間地で高齢者の集積を図るような試みは現実的だろうか。

集積が求められる典型例:奄美群島の加計呂麻島

私は先日奄美群島の加計呂麻島の高齢者施設を見学する機会を得た。
奄美群島の人口は昭和30年に20.8万人だったのが、現在11.9万人となっている。前回の大牟田市と同様に激しい人口減少を経験している地域だ。その群島の一部の加計呂麻島は1547人の離島であり、近くに人口100人台の二つの離島が存在する。そして、島の高齢化率は6割程度と言われている。
このような離島において、既存の診療所を改修することで、診療所と一体となった介護型老人ホームが運営されていた。島は一周すると半日くらいかかる30程度の集落で形成されている。このような空間的な配置では、訪問介護、看護や送迎が必要なデイサービスの採算をとることができない。まさに集積が求められる典型例のように私は感じた。
しかし、島の高齢者はなかなか現在の住宅を離れようとはしないようであった。Sense of placeとはそれほどまでに強いということだろうか。しかし、この状態は社会にとっても高齢者にとってもあまりよい状態ではないように、私には感じられた。
人口移動はこれからの日本の社会の効率性を維持するキーワードではないだろうか。

奄美群島の人口は昭和30年に20.8万人だったのが、現在11.9万人となっている奄美群島の人口は昭和30年に20.8万人だったのが、現在11.9万人となっている

2014年 03月12日 09時45分