急速な高齢化に追いついていなかった相続法

日本の高齢化が止まらない。『平成29年版高齢社会白書(概要版)』(内閣府)によると、1980年に9.1%だった高齢化率(総人口に対する65歳以上の割合)は、2016年時点で27.3%に増加した。約40年前は10人に1人以下だった高齢者が、現在では4人以上になっているのだ。

このように世界でも類を見ないスピードで高齢化が進む日本。ところが高齢者の生活を保護することなども目的とする相続法は、1980年以降の約40年間大きな見直しはされていなかった。つまり、時代の変化に追いついていないということになる。今後はさらに高齢化が進む見通しで、相対的に相続開始時における配偶者も高齢化していく。その保護は急務といえるだろう。

そこで2018年7月、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(相続法の改正)が公布された。この相続法の見直しは、急速な高齢化に対応するもので、残された配偶者の居住の権利を保護するための方策などが盛り込まれている。

1980年に9.1%だった高齢化率(総人口に対する65歳以上の割合)は、2016年時点で27.3%に増加した。2025年には30%に達する見込み(出典:『平成29年版高齢社会白書(概要版)』(内閣府))1980年に9.1%だった高齢化率(総人口に対する65歳以上の割合)は、2016年時点で27.3%に増加した。2025年には30%に達する見込み(出典:『平成29年版高齢社会白書(概要版)』(内閣府))

被相続人の意思にかかわらず最低6ヶ月間は居住を保護

同法改正のなかの配偶者の居住権保護のための方策は、大きく分けると2つある。1つは遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限る配偶者短期居住権。もう1つは配偶者がある程度長期間、対象となる住宅に住み続けられるようにするための配偶者居住権だ。

●配偶者短期居住権(配偶者の居住権を短期的に保護するための方策)
配偶者が相続開始時に被相続人(亡くなった人)の建物に住んでいた場合は、原則として両者の間で使用貸借契約が成立していたと推認されて住み続けることができる。しかし、従来は遺言によって第三者に建物が渡ってしまう(遺贈)といった被相続人が推認を認めない意思を表示していた場合などは、住み続けることができないケースもあった。

そこで今回の改正では、相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいた場合は、以下の期間、無償で住み続ける権利(配偶者短期居住権)を得ることができるようになった。

・配偶者が建物の遺産分割に関与する場合は、建物の帰属が確定するまでの期間(最低6ヶ月は保障)。

・建物が第三者に遺贈されたり配偶者が相続を放棄した場合は、建物の所有者から配偶者短期居住権の消滅請求を受けてから6ヶ月。

要するに配偶者短期居住権によって被相続人の建物に住んでいた配偶者は、被相続人の意思にかかわらず最低6ヶ月間は居住が保護されるようになる。

預貯金を相続したうえで自宅に住み続けることができる権利

●配偶者居住権(配偶者の居住権を長期的に保護するための方策)
従来、配偶者が被相続人の居住建物を相続する場合は、現金などほかの財産を相続できない場合があった。

従来の例
相続財産:自宅(2,000万円)+預貯金(3,000万円)=5,000万円
相続人:配偶者と子ども1人
この場合、配偶者とその子どもの相続する割合は1(2,500万円):1(2,500万円)となる。そこで配偶者は住み続ける家として自宅(2,000万円)を相続すると、預貯金からは500万円しか受け取れない。それだけの現金では老後の生活に不安を覚えるケースもあるだろう。

このようなことから今回の改正では、居住建物に対して配偶者には配偶者居住権、他の相続人には負担付き所有権を設定し、居住建物の価値から負担付き所有権の価値を差し引いた金額を配偶者居住権に与えることができるようになった。

たとえば、上記の例のように自宅の価値が2,000万円だった場合は、子どもは1,000万円分の負担付き所有権を取得し、配偶者も1,000万円分の配偶者居住権を取得することが可能になる。その結果、相続分が2500万円ある配偶者は、2,500-1,000万円(配偶者居住権)=1,500万円の預貯金を相続したうえで自宅に住み続けることができる。老後資金が従来よりも1,000万円増えるわけだ。

以上のように今回の相続法の改正は、配偶者が亡くなった後も安定した生活を継続できるようにするものだ。ただし、全員が上記の例にあてはまるわけではなく、自宅の価値や配偶者居住権と負担付き所有権の割合などはケースバイケースで決まる。そのため、実際にそのときが来たら、税理士など専門家に相談することも検討したい。

配偶者居住権のイメージ図。子どもは1,000万円分の負担付き所有権を取得し、配偶者も1,000万円分の配偶者居住権を取得することが可能になる。その結果、相続分が2,500万円ある配偶者は、2,500万円-1,000万円(配偶者居住権)=1,500万円の預貯金を相続したうえで自宅に住み続けることができる。ただし、実際の自宅の価値や配偶者居住権と負担付き所有権の割合などはケースバイケースで決まる(出典:『配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)』(法務省))配偶者居住権のイメージ図。子どもは1,000万円分の負担付き所有権を取得し、配偶者も1,000万円分の配偶者居住権を取得することが可能になる。その結果、相続分が2,500万円ある配偶者は、2,500万円-1,000万円(配偶者居住権)=1,500万円の預貯金を相続したうえで自宅に住み続けることができる。ただし、実際の自宅の価値や配偶者居住権と負担付き所有権の割合などはケースバイケースで決まる(出典:『配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)』(法務省))

2018年 09月11日 11時05分