約120年ぶりに大改正された民法。賃貸借契約に関わる3つの改正ポイント

現在の民法は、1896年(明治29年)に制定されたものである。
そのうち、債権関係の規定について、およそ120年ぶりの大改正となる民法改正法が2017年の6月に公布された。改正点はおよそ200項目、私たちの生活への影響も大きいため周知期間は充分に設けられ、施行は2020年の4月1日とされている。

前回、民法改正による賃貸借契約への影響をお伝えした(『敷金と原状回復ルールが明確化。改正民法の成立で住宅の賃貸借契約はどうなる?』)が、そのポイントは以下の3つである。

1)敷金および原状回復のルールの明確化
2)連帯保証人の保護に関するルールの義務化
3)建物の修繕に関するルールの創設


これらも踏まえて、国土交通省の賃貸住宅標準契約書が改定されたというので、同省 住宅局住宅総合整備課賃貸住宅対策室の亀井さんにポイントを伺ってきた。

「民法改正に加えて、近年の家賃債務保証業者の利用増も受け、新たに『家賃債務保証業者型』の標準契約書を作成するとともに、従来のものを『連帯保証人型』として『極度額の記載欄』を追加、『サブリース住宅原賃貸借標準契約書』の改定も行いました。これらは、参考資料とともに公表しているので、賃貸住宅の契約書のひな形としてご活用していただきたいと思います」(亀井さん)。

今回は、特に敷金・原状回復、建物の修繕と賃料減額、そして借主の債務保証に関する規定を中心に、賃貸住宅標準契約書の変更点と注目点をお伝えしたい。

「賃貸住宅標準契約書」の改定ポイント~敷金

国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 賃貸住宅対策室 課長補佐 亀井さん国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 賃貸住宅対策室 課長補佐 亀井さん

「今回の民法改正では、国民にとってわかりやすいものとする観点から、これまでに確立された判例法理や法解釈が明記されました。これにあわせて、標準契約書でも条項の追加や明確化を行いました」と、亀井さんはいう。
改定された賃貸住宅標準契約書(貸主:甲、借主:乙)を見てみよう。まず、敷金については、

旧)第6条2項 「乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺することができない。」
新)第6条2項 「甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって当該債務の弁済に充てることを請求することができない。」


と、家賃滞納が発生した場合等には、貸主は、明渡し前でも敷金を充当できることが明記された。一方、借主の債務不履行時の敷金の返還に関しては、

旧)第6条3項 「(前文省略)~債務の不履行が存在する場合には、差し引くことができる。」
新)第6条3項 「(前文省略)~債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。」


と改定され、返還すべき額は、「当然」滞納家賃等を差し引いた額とされたことが反映されている。ちなみに差し引く債務の内訳を明示すべきことは、新旧同じである。

「賃貸住宅標準契約書」の改定ポイント~原状回復

賃貸物件の明け渡し時の“原状回復”については、貸主と借主の見解の齟齬が出やすくトラブルが多かった。
「現在は、さすがに入居時の状態にまで“新しく戻す”のではなく、"通常損耗や経年変化を考慮する”という考えが根付いてきています。民法にも規定された原状回復の定義にあわせて、“経年変化を除く”ことを追記しました。」(亀井さん)

具体的な変更は以下、
旧)第14条「乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。」
新)第15条「乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。」


とされ、例えば震災や、借主と無関係な第三者がもたらした損耗等のように借主に責任がない場合も除かれることが明記された。

「賃貸住宅標準契約書」の改定ポイント
~建物の修繕に関するルールの創設と一部滅失等による賃料の減額等

新たに民法に規定されたルールが修繕に関する項目である。第9条の「契約期間中の修繕」では、

新)第9条第3項 「乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し必要について協議するものとする。」
第9条第4項 「前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に関する費用については、第1項に準ずるものとする。」


と、借主の修繕権が明記された。
また、第12条「一部滅失等による賃料の減額等」に関する規定では、

新)第12条 「本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。」
第12条2項 「本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、残存する部分のみでは乙が賃借をした目的を達することができないときは、乙は、本契約を解除することができる。 」


と、ある。これまでは、例えば、借主の非なくトイレや風呂が使用不可になった場合、借主は家賃の「減額を請求できる」とされていたが、民法改正後は、使えなくなった割合に応じて、「当然に減額される」こととなった。これを受けて、家賃の当然減額やその程度などについての協議が規定された。しかし、家賃減額に関する明確な基準や事例の蓄積は多くなく、新しい民法の施行時に混乱が生じるおそれもある。このため、国土交通省では、家賃減額に関する最近の裁判例や実務の動向をとりまとめた「相談対応事例集」も公表している。

「賃貸住宅標準契約書」の改定ポイント~連帯保証人の極度額

最後に借主の債務保証について、民法改正で個人根保証契約に極度額の設定が要件化されたことに対応している。『連帯保証人型』の頭書には、連帯保証人の極度額を記載する欄が設けられ、第17条では、

新)第17条 「連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。 」
第17条2項 「前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。」
第17条3項 「丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。」
第17条4項 「 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。 」


と規定され、連帯保証人が保証する限度額等が明確にされた。

亀井さんは、「しかし、具体的な極度額をいくらにするのか、その相場についてはまったく蓄積がありません。このため、家賃債務保証会社や管理会社にご協力いただき、8つの家賃帯ごとの損害額や家賃滞納の発生から明渡しまでに掛かった期間等をまとめた資料を作成しました。こうした資料も活用して、保証人の方にも理解をしていただいた上で、“いくらの負担になるのかわからない…”といった不安が払しょくされるよう、極度額を設定していただきたいと思っています」という。『家賃債務保証業者の損害額に係る調査』、『家賃滞納発生に係る調査』および、『裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査』の結果として、具体的な数字がまとめられた極度額に関する参考資料が公表されている。

「ただ、極度額が示されると、これまでは比較的安易に保証人になっていた親戚や知人の方が躊躇することも考えられます。もとより、昨今の人間関係の希薄化なども背景に、家賃債務保証会社の利用がいまや新規契約の7割を超えました。今後、さらに増加するでしょう。そこで、今回の改定では、賃貸借契約のひな形として、借主の債務保証を“人”ではなく、“機関保証”によるものが必要だと判断し、『家賃債務保証業者型』を作成しました。昨年10月からは、家賃債務保証業者の登録制度もスタートさせています」と亀井さんは強調する。

2020年の4月1日の新しい民法の施行日を前に、今回の『賃貸住宅標準契約書』が、貸す側も借りる側も、そして連帯保証人、家賃債務保証会社も含めて、円滑に賃貸借契約を結び、トラブルを未然に防ぐための合意に基づいてすみやかな運⽤の手助けになるよう期待したい。

2020年の4月1日に施行される民法改定に伴い、改定された『賃貸住宅標準契約書』2020年の4月1日に施行される民法改定に伴い、改定された『賃貸住宅標準契約書』

2018年 06月22日 11時05分