宮崎県第二の都市 都城市に隣接、農畜産業が主産業

平成27年の国勢調査で日本の人口は大正9年の調査開始以来、初の減少となった。率にして0.7%、沖縄県、東京都などの8都県以外はすべて減少しており、全国1719市町村のうち、この5年間で人口が増加したのは303市町村だけである。しかも、増加率の高い市町村は沖縄県、東京都特別区部などの首都圏都心部に加え、政令指定都市とその周辺などとなっている。

ところが、そんな状況下、昭和55年から35年間にわたり、ずっと人口が増加し続けている町がある。宮崎県三股町である。15歳未満の年少人口が県内トップの16.2%でもあるという。私自身、この記事のために取材するまでは申し訳ないことに町名を知らなかったし、これを読んでいらっしゃる方の多くもご存じないのではないかと思う。

位置するのは宮崎県の南西部に広がる都城盆地の東部。県内第二の都市、南九州の要所といえる都城市に隣接し、町の約72%が鰐塚山系に囲まれた平均標高250メートルの台地上にある。基幹産業は農畜産業で特に有名なのは宮崎牛として知られる肉用牛。和牛のオリンピックと呼ばれる全国和牛能力共進会では三股町で肥育された牛が県代表として出品され、2大会連続で日本一に輝いてもいる。2016年3月に東京で初めて開かれた三股町の移住PR&交流会でも見事なさしの入った牛肉が登場、会場を興奮させたものである。

イベントでは町や名産品の説明のほか、ライブも行われたイベントでは町や名産品の説明のほか、ライブも行われた

人口増の要因は立地、自然と独自の子育て支援

町の魅力について力説する西村副町長。会場内には解説パネルも多数町の魅力について力説する西村副町長。会場内には解説パネルも多数

三股町の人口増が始まったのは昭和50年代以降。戦後すぐの人口は1万6,000人ほどで、それ以来、ずっと1万5,000人前後で推移してきたというが、昭和50年代に入り、土地区画整理事業、公営住宅や上水道、道路などの生活インフラの整備、民間による宅地開発、隣接する都城市での大学開設などの影響を受け、徐々に増加。昭和63年11月には2万人になり、平成24年には2万5,000人に。規模は大きくはないものの、着実に成長してきた町というわけだ。

人口増に大きく寄与しているのは立地である。都城市という南九州トップクラスの都市に隣接、三股町役場から都城駅までは数キロ程度しか離れていない。となれば、住宅地としてのニーズが高いのは当然だろう。しかも、三股町の住宅地平均地価は平成27年度で1m2あたり1万7,225円。都城市は2万3,450円である。これだけしか離れていないのに、安くなるなら、そちらのほうが良いと判断する人がいるのは不思議ではない。ちなみに東京23区平均地価は127万2,869円である。

加えて、自然にも恵まれている。春には桜、つつじ、しゃくなげとそれぞれの花の名所で祭りが開かれ、市内を流れる沖水川沿いには新緑、紅葉を楽しめる渓流スポットも点在しているとか。薩摩藩時代からの伝統行事も健在で、四季折々に楽しみがある町という印象である。近くて、安くて、環境が良いわけだ。

だが、三股町が選ばれているのはそれだけが理由ではない。町がポイントとして挙げているのは独自の子育て支援。宮崎県全体では子どもの医療費助成は通院、入院ともに未就学児に限られており、3歳以上には所得制限もあり、年齢によって自己負担金も生ずる。だが、三股町では所得制限、自己負担金はなく、入院に関しては小学生までが対象となる。加えて、病院や保育園、児童館などの情報を盛り込んだ子育てマップを作ったり、生後3カ月の子どもに出生祝い記念品としてスプーンをプレゼントするなど独自の施策も。子育て世代にうれしい町なのだ。

名産品を生んだ進取の精神、粘り強さ

職員さんによる動画の見方説明。良いところだけではなく、全部見て欲しいからこの仕組みにしたとも職員さんによる動画の見方説明。良いところだけではなく、全部見て欲しいからこの仕組みにしたとも

だが、イベントに参加してみて、そうした数値では表せない、人を惹きつける町の雰囲気を感じた。たとえば、会場では「覗きながらぐるぐる回って見てください」と段ボール箱を渡された。360度VR動画というものだそうで、回るにつれて画像が動き、周辺360度の町の様子を見ることができる。「川と山があって、空気がきれいな田舎と言うだけならどこにでもある。だったら、実際に見てもらおう、どうせ見てもらうなら良いところだけではなく、360度、丸ごと見てもらおう、できれば目新しくて、人目を惹くもので見てもらおうとこれを作りました」(三股町役場産業振興課・宇都雅大氏)。進取のサービスの精神があるのである。

進取の精神で言えば、名産品のひとつに日本茶があるが、最近ではごく一般的になった水出し緑茶を考案したのは三股町にある、明治29年に茶作りを始めた上水園という製茶会社だという。夏に暑い思いをして茶を入れてくれる祖母の姿に何かできないかと三代目が考えたそうで、当初は茶は湯で入れるものとさんざんにバッシングされたという。それに30年間耐え続け、今があるというから、進取の精神に加え、辛抱強さもある土地柄なのだろう。同社ではカフェインゼロで子どもやアスリートが飲める日本茶も作っているそうで、いずれはそうした商品も日本全国に知られていくことになるかもしれない。

名産品としては中村食肉という精肉の生産や加工・流通を行う会社が開発した万能スパイス「マキシマム」もある。これはナツメグやクミン、パプリカなど一般的なミックススパイスに入っている香辛料に加え、カツオエキスや醤油などが入った品で、日本人のテイストにはぴったり。だが、これも発売から20年は鳴かず飛ばずだったそうだが、その後、一気にブレイク。今では県内のスーパーには必ず置かれており、さらには多数のテレビ、雑誌にも登場する人気ぶり。気の長い人たちが住む町なのであろう。

ちなみに平成20年からはそれまで細々と作り続けられていた胡麻を名産品にしようと町内でプロジェクト委員会を立ち上げ、様々な製品を生み出しているという。地域の差別化のためにその地になかったモノを持ってくる例が少なくないことを考えると、元々自分たちの町にあったものに時間と手をかけて名産にしていこうという姿勢には好感が持てるというものだ。

移住者にはうれしいフレンドリーな雰囲気も

ポークという被り物をしているが、持っていらっしゃるのは名物の宮崎牛ポークという被り物をしているが、持っていらっしゃるのは名物の宮崎牛

もうひとつ、非常に気持ち良かったのはイベントに参加している町職員の人たちがフレンドリーで、かつ楽しそうであった点。それぞれが胡麻や肉などの被り物をしてもてなしてくれたのだが、カメラを向けるとVサイン。町をアピールしたいという気持ちがストレートに伝わってきた。

もちろん、みんながみんな、そういう人たちであるというわけではないが、副町長の西村尚彦氏によると、三股町には来る人拒まずの雰囲気があるという。「元々、三股の人たちは穏やかでのんびり。ある年齢以上には保守的、人見知り、恥ずかしがりなところはありますが、それでも飛び込んでいくとウェルカムと迎えてくれます。当初はとっつきにくいと誤解されるかもしれませんが、決して入ってきてほしくないわけではありません」。

ところで、現状、人口が増えているならどうして移住イベントが必要なのかと思うかもしれないが、そのあたりも先取りのようである。「現在、町に移住してくる人は県内中心。でも、これからは県外からも来てもらいたい。人口自体は増えているものの、高齢化は進んでおり、今の時点では県内屈指の若い自治体ですが、これからは変わっていく。それを見越して新しい産業、ネット環境などを整備、人を呼びたい。これまで外で自分の町を発信したことがなかったので、これからがスタート。差別化を考えながら一歩ずつ地道にやっていこうと思います」。

全国区レベルの名所があったり、すごい企業があるわけではないものの、なんだか、気持ちの良い人たちがいる場所。そんな印象を受けたが、実際はどうなのだろう。機会があれば一度訪れてみたいところだ。

三股町移住情報サイト みまた~ん
http://www.mimaturn.com/

2016年 06月04日 11時00分