家主の思い出がたっぷり詰まった空き家を『貸し別荘にする』という新発想
日本国内における深刻な空き家問題については、これまでにも【HOME'S PRESS】内で繰り返しご紹介しているが、今回は古都・鎌倉で『空き家を貸し別荘にする』というユニークな空き家活用法が話題を呼んでいると聞いて現地へ赴いた。
神奈川県発表の資料によると、県下における“利用目的のない空き家(相続等で取得したものの居住予定がない、居住者がいない住宅など)”は5年ごとの調査で約1.6倍ずつ倍増しており、特に高齢者世帯が多い鎌倉・湘南地区では、今後の空家率増加を抑止するために自治体をあげて『空き家バンク』等の取り組みをスタートしている。
その鎌倉において、『空き家を貸し別荘にする』というプロジェクトをはじめたのは、渋谷区神宮前にオフィスを構える『STAYCATION~ステイケイション~』。もともとは別荘建築等を手がける設計事務所から派生した不動産サービス会社だ。
代表の吉村真代氏によると、別荘の設計デザインに携わる過程で鎌倉・湘南エリアの空き家問題に直面し、“新しい器ばかりを作るのではなく、残す工夫をすることも必要なのではないか”と考えるようになった事が、1日1組限定の貸し別荘『COME KAM. OMACHI~カムカムオオマチ~』オープンのきっかけになったという。
街並みと環境保存にもつながる空き家の別荘活用

「一軒家やコンドミニアムを貸しきって余暇を過ごす『バケーションレンタル』は、欧米ではごくごく一般的な空き家活用法として知られていますが、残念ながら日本ではまだ広く認知されていません」と語る吉村氏。
吉村氏は、これまでにも自身の海外生活経験を生かし、1週間単位の貸し別荘『Nowhere resort』を葉山・佐島・秋谷の3ヶ所で運営。“7日間の海辺の暮らし”を体感するバケーションスタイルを提案してきたが、鎌倉市内での空き家問題に直面し、“もっと気軽に、1日から利用できる貸し別荘として活用できないか”と、新しい空き家活用法を発案した。
「鎌倉市内には、街の財産として保存すべき立派な住宅がたくさんあるのですが、地域住民の方の高齢化や家族構成の変化に伴い、家主不在のまま放置されている空き家が急増しています。“思い出の詰まった家を取り壊すのは忍びないし、更地にすると今よりも税金が高くなる、でもこの場所に住み続けることはできない…何か良い方法はないだろうか?”と、あるオーナーの方から相談を受け、貸し別荘にするアイデアを思いつきました。
空き家が増えるということは、地域の防犯性や環境問題にも直結します。“美しい街並みと環境を保存する”ためにも、貸し別荘としての活用は有効な対策だと考えられます」(吉村氏談)。
鎌倉独自の地形・谷戸(やと)を間近に眺める1日からの滞在体験は、
憧れの住宅地・鎌倉での『試し暮らし』にもぴったり!

オーナーから良心的な賃料で空き家を借り受け、サブリース(転貸借)として1日単位で利用者に提供する貸し別荘『COME KAM. OMACHI』は、2014年1月にオープンしたばかり。
家族やカップルで鎌倉を訪れる旅行客がホテル代わりに利用するだけでなく、結婚祝いのパーティやアーティストの作品展の会場等としても活用可能だ。
「住宅街の中に建つ一軒家で1日を過ごすことで、リアルな『鎌倉生活』を実体験できるのは、他の施設にはないメリットでしょうね。
中には“一度鎌倉で暮らしたいと思っていたので、地元のスーパーでお買い物をしたり、地元の方たちとおしゃべりしたり、実際の生活に近い時間を過ごしてみたくて…”と『試し暮らし』を目的に利用される方もいらっしゃいます」と吉村氏。
1日単位で利用する際は、15:00入館~翌日11:00退館。入館時は、提携企業によって運営されている『鎌倉』駅前のデスクで賃貸契約(※)を結んで鍵を受け取り、退館時には鍵を専用ポストに返却する流れとなる。利用人数は4名からとなっているが、利用者側が布団を用意すれば、クラブ合宿のような大人数の利用も対応可能だ。
「建物管理や利用者入館前のハウスクリーニングなどは、地元の主婦アルバイトの方たちがスタッフとして楽しんで参加してくれています。小規模ではありますが、地域の雇用促進にもつながっています」(吉村氏談)。
※1日1組限定、1日ごとに区分賃貸(賃貸を準共有)するシステムのため、一時的な賃貸契約が必要となります。
将来的には都市部でも貸し別荘展開を…
『街に泊まる体験』が空き家問題の改善策に?!
この鎌倉大町での『空き家を活用した貸し別荘』の業務実績を受けて、現在『STAYCATION』には古民家活用の相談が多数もちかけられているそうだ。
「同様のスタイルで、京都市内の住宅地で貸し別荘の計画が進んでいますし、他にも様々なエリアの自治体の担当者の方から相談をいただいているのですが、まずは『地元の生活や、地元の方の人柄が想像しやすく、魅力的な地域であること』を第一条件に、貸し別荘を展開していきたいと考えています。
また今後は、別荘=『郊外のリゾート地に泊まる』というイメージにとらわれず、都心の一戸建てのバケーションレンタルで『街に泊まる』という体験を提案できるようになれば、都市部の空き家問題改善のお手伝いにつながるかもしれませんね」(吉村氏談)。
これから初夏の鎌倉は、新緑の芽吹き、紫陽花の色づき…と、一年で最も“鎌倉らしい”観光シーズンを迎える。鎌倉の空き家問題に一石を投じる『COME KAM. OMACHI』では、今後ハイシーズンに合わせて平均稼働率の向上を目標に、集客PRをおこなっていく。
■取材協力/STAYCATION
http://www.staycation.jp/
2014年 04月28日 12時39分