大阪府民880万人の防災訓練が行われた

7月29日から全国公開された「シン・ゴジラ」(東宝)とタイアップした「大阪880万人訓練」ポスター(大阪府提供)。ほかに大阪モード学園・三井住友海上とのタイアップも7月29日から全国公開された「シン・ゴジラ」(東宝)とタイアップした「大阪880万人訓練」ポスター(大阪府提供)。ほかに大阪モード学園・三井住友海上とのタイアップも

2016年9月5日午前11時3分ごろ、大阪府内にいる人の携帯電話やスマートフォンが一斉に鳴った。11時に地震が発生したという想定で、「大阪880万人訓練」(主催:大阪府ほか)による訓練用のメールが届いたからだ。
訓練の目的は「様々な情報源から地震・津波の発生情報を認識し、地震・津波が発生した際に行動できるようにする」こと。大阪市内の住宅地でも、「地震が発生しました」「大津波から逃げてください」などと訓練用のアナウンスが響いた。

海溝型地震の「南海トラフ巨大地震」が起きれば、大阪市での建物被害(全壊・半壊)は約29.6万棟、死者数は約12万人と想定されている。木造住宅密集地域やゼロメートル地帯は災害リスクの高いエリアだ。ただし、「迅速な避難をすれば死者数は約8,000人に減る」とも言われている(大阪府防災会議より)。だから災害訓練や日頃の情報収集は重要だ。

また、大阪市と大阪府が共同で行った地震被害想定では、徒歩での帰宅が不可能な帰宅困難者は大阪市内で約90万人、大阪府全体では約142万人発生するという。民間企業を主体とした「帰宅困難者対策協議会」が設立され、大阪駅、難波駅、天王寺駅など主要なターミナルの近くで、企業が対策を立て始めている。

自助・公助による防災・減災の仕組みづくりへ

家を買ったり引越ししたりする時には、どんな特性をもつ町か、そこで被災したらどうなるかという観点から考えることも大切だ。
東日本大震災以降、大規模な災害に際し、行政による“公助の限界”が明らかになっている。いまや個人や地域が主体となる“自助・共助のちから”を高めることが防災・減災を行う上での鍵だ。

激甚災害のたび、日本の防災計画は見直されている。大阪市は2015年2月、「大阪市防災・減災条例」を施行し、公助に加えて自助・共助による防災・減災の仕組みづくりを始めた。
「自助」対策として私たちは何をすればいいのだろう。数百年に一度の激甚災害では、発生直後からインフラの機能がほぼ停止する。国の防災基本計画は、家庭での食糧や飲料水の備蓄を「最低3日間、推奨1週間」と改めた。

食糧に限定せず、医薬品や衛生用品、ガスボンべなど「わが家の1週間に何が必要か」を家族で話し合って用意しよう。地震に備えて家の耐震性を高めることも重要だ。また、自治体で配布されている「防災マニュアル」や「水害ハザードマップ」などを手に入れておこう。大阪であれば、登録しておくと防災情報が送られてくる「防災情報メール」や、スマートフォン用「大阪市防災アプリ」もある。そういった情報収集も万全にしておきたい。

大阪市の市民防災マニュアルと水害ハザードマップ、防災マップなど大阪市の市民防災マニュアルと水害ハザードマップ、防災マップなど

共助の輪をつくり、防災活動を町ぐるみで進める

問題は「共助」の方だ。隣に誰が住んでいるか知らない、会社と家の往復で地域になじみがない…。そんな人は万一の際に助け合えるだろうか。町のどこに避難所があり、どこが危険か知っているだろうか。
「共助」の仕組みを動かすには、町の特性をふまえた防災計画や防災マップが必要だ。大阪市は各地域に「自主防災組織力向上コーディネーター」を派遣し、区役所と連携して地区の防災計画や防災マップの作成や改訂を支援している。また、避難所をつくる訓練のために「自主防災組織力向上アドバイザー」を派遣している。
つまり、防災マップや地区防災計画は、役所がすべて作ってくれるのではなく、住民たちがまちを歩き、危険な箇所、災害時に協力を依頼できる事業所や施設、援護を必要とする人々など膨大な地域の情報を集め、更新する類いのものだ。
大阪市で防災マップを制作したのは市内333地域のうち263地域、地区防災計画を作成したのは同92地域(2015年3月末時点)。防災に熱心な地域では、町会の役員や地域防災リーダーを中心に、PTAや青少年指導員、子供会、看護や心理の専門家、事業所、病院、老人ホームなど防災のネットワークを広げ、防災訓練をしたり、被災時の役割分担を話し合っている。

ただ、住民間の温度差は否めない。町会活動に参加しない人も少なくないし、災害がわが身にふりかかると実感していない人もいる。
大阪市の危機管理室は、「防災訓練への参加はもちろん、お祭りや講習会、何でもいいから地域のイベントに参加したり、近隣の人と会ったら挨拶したり、コミュニティにかかわってほしい」という。

自分たちが暮らす地域の特徴を知り、安全・危険な箇所はどこか住民が歩いて調べる。2016年6月25日に住之江区南港で行ったまち歩き(CERD提供)自分たちが暮らす地域の特徴を知り、安全・危険な箇所はどこか住民が歩いて調べる。2016年6月25日に住之江区南港で行ったまち歩き(CERD提供)

平時から顔の見える関係を地域で作る

都市の防災研究とともに、市民に対する防災教育をしているのが大阪市立大学の都市防災教育センター(CERD)だ。同大は、東日本大震災をきっかけに都市防災研究プロジェクトを立ち上げ、2015年にCERDを設立した(*)。専門分野を横断する組織で防災研究、防災教育を行い、住民・行政と連携した「いのちを守る都市づくり」を進めている。

単に建造物やライフラインなどの防災力を見直すことではなく、地域で暮らす「人のちから」、そこで営まれる「コミュニティのちから」を高めることで、市民の命を守り、災害発生直後の対応と復興を進め、災害への備えも含めて取り組む長いスパンでの活動だ。
小中学生への防災教育、地域住民による合同訓練、町の調査、避難所の作り方、障がい者や妊婦など災害弱者への理解など、多彩なプログラムが組まれている。

CERDで、生活科学の分野から研究や調査、市民との交流をしている野村恭代准教授(大阪市立大学大学院生活科学研究科)は、「災害発生時に必要となるのは、日頃からのつながりを基盤とした人と人との『支え合い』。だが、普段していないことは災害時にはさらにできなくなる。平時から顔のみえる関係を築くことが地域防災力の要」と話す。
野村先生は、「まず多様な人が地域にいることを知ってほしい」という。地域との接触が少ない人は、地域の中で高齢者や障がい者、病人、妊婦、子ども…などが、どう暮らしているかが見えていない。災害弱者を助け、被災時の支援からこぼれ落ちる人をなくす意味でも、地域に誰がいるのか意識して見ることだ。
また、防災の拠点づくりや防災訓練・学習をする時には、「社会福祉協議会や大学の研究者など専門家に加わってもらうといい」と話す。府や市と言った大きな単位や大きなテーマでなく、地域という小さな単位で、地域特性を考え、女性や子どもが親しみやすいテーマで防災学習をする。平日の昼間だけでなく休日や夜にも機会を広げ、参加者を増やす。
「防災を意識すると、地域のつながりを生むきっかけになる」と野村先生。

自分の住む地域の特徴や課題を見つけ、つながり、災害に備えていこう。

*CERD(Center of Education and Research for Disaster)
医学、看護学、都市健康スポーツ研究、生活科学、理学、工学、都市研究、創造都市、経営学、経済学、文学、法学など多くの組織を横断して作られた大阪市立大学の都市防災教育センター

避難時にどう暮らすかにも日頃の訓練が生きる。16年1月9日に開催された段ボールでベッドを組み立てるワークショップ(CERD提供)避難時にどう暮らすかにも日頃の訓練が生きる。16年1月9日に開催された段ボールでベッドを組み立てるワークショップ(CERD提供)

2016年 09月25日 11時00分