静かなスキー場から世界的リゾートへ発展したニセコ

ニセコひらふ地区。海外資本によるホテルやコンドミニアムの開発が進み、国内有数の国際スキーリゾートへと発展した。ニセコひらふ地区。海外資本によるホテルやコンドミニアムの開発が進み、国内有数の国際スキーリゾートへと発展した。

北海道の「ニセコ」と聞いて、外国人旅行者が行き交い、高級ホテルやコンドミニアムが立ち並ぶ風景を思い浮かべる人も多いだろう。ただし、世界的なスキーリゾートとして知られるニセコひらふ地区があるのは、自治体としてのニセコ町ではない。隣接する倶知安町に位置している。

倶知安町には、JR倶知安駅や町役場、商店、住宅などが集まる市街地がある。その一方で、ひらふ地区には国内外の旅行者を迎える宿泊施設や飲食店が集中する。住民の日常生活を支える市街地と、国際的な観光拠点であるリゾート地区が、一つの町の中に共存しているのだ。

現在の華やかな姿からは想像しにくいが、かつてのニセコは、良質な雪を求める国内のスキー愛好家に知られた比較的静かなローカルリゾートだった。そこから、なぜ世界中の旅行者や投資を引き寄せる場所へと成長したのか。また、観光地としての発展は、地域で暮らす人々にどのような変化をもたらしたのだろう。

ニセコ・倶知安が歩んできた歴史をたどりながら、国際リゾートの発展と住民生活を両立するために必要なことを考えてみたい。

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ニセコひらふ地区。海外資本によるホテルやコンドミニアムの開発が進み、国内有数の国際スキーリゾートへと発展した。ひらふ坂周辺に立ち並ぶホテルやコンドミニアム。海外からの投資を背景に国際リゾートとして開発が進んでいる。

良質な雪を求める愛好家が集まったローカルリゾート時代

ペンション街(看板)。外国人旅行者向けのホテルや飲食店が集まり、多言語表記の案内やバス停も見られる。ペンション街(看板)。外国人旅行者向けのホテルや飲食店が集まり、多言語表記の案内やバス停も見られる。

倶知安町とスキーとの関わりは古い。町の資料によると、1916年には倶知安で最初のスキー大会が開催され、1960年代には現在のニセコひらふ地区でスキーリフトの整備が進められた。

隣接するニセコ町でも、アンヌプリ地区を中心にスキー場や宿泊施設が整えられていく。こうして倶知安町とニセコ町を含むニセコエリアは、国内のスキー愛好家を中心とした滞在型リゾートとして発展してきた。

当時は現在のような国際的な高級リゾートではなく、良質な雪を求めるスキーヤーや家族連れが訪れる、比較的静かな観光地だったという。ペンションや民宿に数日間滞在してスキーを楽しむ旅行が一般的で、大型ホテルやコンドミニアムが並ぶ現在とは、街の景観も大きく異なっていた。

転機が訪れたのは、1990年代後半から2000年代にかけてのことだ。軽く乾いたニセコ特有のパウダースノーが海外のスキーヤーから高く評価され、季節が日本と逆になるオーストラリアからの旅行者を中心に、海外客が増えていった。

長期滞在の需要に応えるため、ひらふ地区ではコンドミニアムやホテル、外国語に対応した飲食店などの整備が進む。海外からの投資も活発になり、国内のスキー愛好家に親しまれてきたニセコエリアは、やがて世界に知られる国際リゾートへと成長したのである。

ペンション街(看板)。外国人旅行者向けのホテルや飲食店が集まり、多言語表記の案内やバス停も見られる。夏季のニセコひらふスキー場。冬は世界中のスキーヤーでにぎわうゲレンデも、夏は緑豊かな景観が広がる。

2,800円のハンバーガーから見えるニセコ・倶知安の物価

外国人旅行者や海外からの投資が増えるにつれ、倶知安町のひらふ地区では、ホテルやコンドミニアム、飲食店などの整備が進んだ。国際的な観光サービスを支える雇用も生まれている。

一方、ラーメン1杯が3,000円、アルバイトの時給が2,000円を超えるといった事例が報じられ、ニセコ・倶知安は“物価の高い観光地”として注目される機会も増えた。現地の物価は、実際にどのような状況なのだろうか。

倶知安町字樺山にあるホテル「Miru Niseko」を訪れ、支配人の中村千恵さんに話を聞いた。

ホテルに併設されたメインレストラン「Black Wood Grill(ブラックウッドグリル)」では、取材時、2,800円のハンバーガーがメニューの一つとして提供されていた。薪火で焼き上げた100%北海道産牛肉のパテに真狩豚の自家製ベーコン、真狩村産のジャガイモを使ったポテトを添えた一皿だ。一般的なハンバーガーと比べれば高額だが、使用する食材や調理方法にも特徴がある。

Black Wood Grillで提供されるハンバーガー。左は2,800円、右は1,500円。北海道産牛肉のパテを薪火で焼き上げ、真狩豚の自家製ベーコンや真狩村産ジャガイモを使用している。Black Wood Grillで提供されるハンバーガー。左は2,800円、右は1,500円。北海道産牛肉のパテを薪火で焼き上げ、真狩豚の自家製ベーコンや真狩村産ジャガイモを使用している。

もっとも、中村さんによれば、ニセコ・倶知安で販売されている商品がすべて高額というわけではない。メディアやSNSでは特徴的な価格の商品に注目が集まりやすいものの、地域には比較的利用しやすい価格帯の飲食店や商品もあるという。

Miru Niseko支配人の中村千恵さん。価格設定の背景や、国際リゾートならではの運営環境について話を伺った。Miru Niseko支配人の中村千恵さん。価格設定の背景や、国際リゾートならではの運営環境について話を伺った。

「価格が高い商品だけが目立ちますが、ニセコ・倶知安にはリーズナブルに利用できるお店や商品もあります。また、『外国人旅行者向けだから高い』という単純な理由だけではありません。店舗や宿泊施設を運営するには、人件費や賃料などのコストがかかります。特に繁忙期が限られる事業では、短い営業期間で年間の収益を確保しなければならず、そうした事情も価格に反映されています。もちろん、価格に見合う品質と味をお届けできるよう、食材や調理方法にもこだわっています。」(中村さん)

観光地で目につく価格だけを切り取ると、地域全体の物価が極端に高くなったように映る。しかし、その背景にあるのは、サービスを担う人材の確保や高い賃料、季節による需要の差といった地域特有の事業環境だ。商品の価格と働く人の賃金は、国際リゾートを支える経済構造のなかで密接に結び付いている。

リゾートで働く人が近くに住めないという矛盾

観光開発が地域経済を活性化させる一方、その影響は住宅事情にも広がっている。

同じ倶知安町内のエリアでも、地価に差が出ている。国土交通省の2026年地価公示によると、2026年1月1日時点におけるニセコひらふ地区の住宅地の標準地価格は、1m2当たり20万円だった。これに対して、JR倶知安駅北側に位置する北7条西2丁目の住宅地は、1m2当たり3万5,000円となっている。両地点は立地や土地の条件が異なるため、価格だけを単純に比較することはできない。それでも、同じ倶知安町内にありながら、リゾート地区と市街地では不動産市場の性格が大きく異なることが読み取れる。

こうした地価上昇は、土地を所有する人にとっては資産価値の向上につながるが、住宅を購入したい人や賃貸住宅を探す人にとっては負担の増加につながる。倶知安町でも、従業員向け住宅の不足が課題となっており、ひらふ地区で働きながら、市街地や近隣自治体から通勤せざるを得ないケースもみられる。

住宅を確保しにくい状況の影響を受けるのは、季節労働者だけではない。地域で働き続けたい若者や子育て世帯、医療・福祉・小売業など、観光以外の仕事を担う人にとっても、住まいの確保は定住を左右する重要な要素となる。

また、冬季に観光客や季節労働者が集中すると、道路交通や除雪、医療、買物、ごみ処理といった生活インフラへの負担も増えやすい。観光地としての活力を保ちながら、地域で働き、暮らす人々の生活基盤をどのように整えていくか。国際リゾートとして次の段階へ進むための、重要な検討課題といえるだろう。

倶知安市街地の住宅街。リゾート地区とは異なる落ち着いた住環境が広がり、地域住民の暮らしを支えている。倶知安市街地の住宅街。リゾート地区とは異なる落ち着いた住環境が広がり、地域住民の暮らしを支えている。

国際リゾートの成長を地域の豊かさにつなげるために

ニセコ・倶知安の発展を支える海外からの観光や投資は重要だが、世界情勢や景気変動に左右されやすい課題も少なくない。

大切なのは海外からの投資を問題視することではなく、開発の利益を地域内で循環させ、住民の暮らしや地域産業の成長へつなげる視点だ。具体的には、地元事業者の取引参加、住宅整備、インフラへの再投資、環境を守る開発ルールなどが求められる。

その取り組みとして、倶知安町は2019年に宿泊税を導入し、宿泊料金の2%(2026年4月からは3%)を徴収している。これは観光客増加やまちづくりの財源であり、二次交通の運行、タクシー不足対策、エリアマネジメント、ロードヒーティング整備などに活用されている。

さらに、町全域を景観計画区域に指定した。中でもリゾート景観重点地域では建築物の高さ等に基準を設け、総合計画において誰もが「ずっと住みたい」と思える環境づくりを目指す。

今後の方向性としては、冬に偏る観光需要を春夏秋にも広げ、農業や自然体験などの地域資源と結び付ける手法が挙げられる。将来開業する北海道新幹線の倶知安駅についても、市街地に人や消費を呼び込む玄関口としての活用に期待がかかる。

ニセコ・倶知安が持続的に歩む鍵は、高級施設を増やし続けることではない。観光の利益が地域を巡り、働く人も住民も発展を実感できる仕組みが不可欠となる。世界的な観光地としての顔と住民の生活の場を無理なく結び付ける試みこそが、次の時代を形づくっていくに違いない。