東京が羨む、水都大阪の突破力

大阪市内には船着き場も多く、気軽に利用できる。桜の時期に乗ったことがあるが、水辺から桜や大阪城を眺めるという他にない経験ができた大阪市内には船着き場も多く、気軽に利用できる。桜の時期に乗ったことがあるが、水辺から桜や大阪城を眺めるという他にない経験ができた

ミズベリングフォーラム2019では33事例の応募の中から選考で選ばれた、北は仙台から、南は熊本までの11事例がプレゼンを行ったのだが、印象的だったのは活動の内容以上に、活動している人たちの個性が強烈だということ。そのうちでも、特にパワフルだったのが大阪の2事例だ。

大阪市は水都再生を目指して2009年にシンボルイベントを開催。以降、様々な事業を推進してきている。しかし、開始時点で10社ほどの船会社はあったものの、互いの関係はあまり良いとは言えない状況。それを10年かけて連携させたのが大阪シティクルーズ推進協議会 事務局長の大江幸路氏。港湾、舟運関係者はそれぞれが一国一城の主で、タフな人たちである。その人たちをまとめるのはどれほど大変だったか。大江氏登場の際には「ゴッドファーザー」のテーマ曲が流れたが、実際にはそんな裏話もあったのかもしれない。

しかし、連携が利益を生むようになったことから舟運は発展、現在では30社ほどにもなっているとか。代表的な例が桜の時期恒例の「大川さくらクルーズ」。複数の水運会社が関わっていることから、10~30分おきに船が出ており、予約無しで気軽に利用できるまでになっているのである。

東京でも以前よりは様々な舟運が楽しめるようにはなってきたが、まだまだ数は少なく、連携はされておらず、早めの事前予約が必要なことが多い。審査員の法政大学特任教授の陣内秀信氏は大阪の状況が羨ましいと述べた上で「東京をご指導ください」と発言したほどだ。

もう一人、強烈だったのが前大正区長(現在は港区長)の筋原章博氏。氏の試みは堤防の外の河川敷を利用(普通は防災的観点から許可されない)、水辺の遊び場を作ろうというもの。会場が沸いたのは常識を超えた試みに加え、氏の「目指す着地点はぎりぎり、アウト」という発言。新しいことをやるためには少しはみ出したところでトライアンドエラーを重ねる必要があるという意味だろうが、それを行政の人が口にするという点に多くの人が変化の兆しを感じたのである。こういう人たちがいれば大阪の水辺はもっと面白くなるかもしれない。陣内先生ではないが、羨ましいことである。

一味違う行政マンがいるまちが面白くなる?!

水辺は民間だけで勝手に使える場所ではないため、大阪市に限らず、各地の活動には行政が絡んでいるケースが多い。面白い活用が行われているまちには個性的な行政マンもいるようで、その中でも印象的だったのが山口県長門市職員の松岡裕史氏。

松岡氏は市内、音信川(おとずれがわ)沿いにある長門湯本温泉の再生を手がけた。11軒しかなかった温泉旅館街のうち、老舗が1軒倒産、以降じり貧だった温泉街を再生するため、行政が跡地を3億円で買収、株式会社星野リゾートを誘致。川沿いの立地を生かして川床を作る計画を立て、とそこまでなら単なる成功物語だが、松岡氏が凄かったのはそこから。

行政、星野リゾートがやってくれると思い込み、地域の再生を他人事として考えていた地元の人たちに「ええ加減にせいよ、3億やぞ」とまちの人たちに行動を促したのである。普通の行政マンだったら、なかなか口に出せない言葉だが、その言葉で住民が奮起、現在では温泉旅館のみならず、まちの空き家活用などにも活動が広がっているという。

もうひとつ、行政にもこんなかっこいい空間が作れるんだ!(失礼)と思ったのが2018年度にグッドデザイン賞を受賞した木曽川沿い、岐阜県美濃加茂市の「RIVER PORT PARK MINOKAMO」。バーベキューができ、各種フィットネスやカヌーその他の水辺のアクティビティが楽しめ、ワークショップやイベントも行われるというコンテンツの多彩さも魅力で、美濃加茂市を訪れる若い女性が増えたとか。その背後には地元の人たちに異動させないで欲しいと請われ、12年間も同じ部署に在籍、10年かけたプロジェクトを支えてきた市役所土木課の大塚雅之氏がいる。役所では2~3年で異動するのが一般的だが、事業によっては継続性も重要なはず。特にこれから重要性を増すであろう、まちの人との協業を考えるとこうした例が増えると成功の可能性も高まるのではなかろうか。いずれにせよ、この公園には行ってみたいものである。

RIVER PORT PARK MINOKAMOプレゼン資料から。失礼ながら、ロゴも写真も行政の資料とは思えないほどにお洒落RIVER PORT PARK MINOKAMOプレゼン資料から。失礼ながら、ロゴも写真も行政の資料とは思えないほどにお洒落

自由に、勝手にやることで変わるものがある

型破りなのは行政マンだけではない。たとえば仙台ゆかりの羽生結弦選手の格好で登場した特定非営利活動法人 都市デザインワークスの豊嶋純一氏は広瀬川流域で「せんだいセントラルパーク構想」を掲げ、それに基づいて川辺での活動を続けてきた。鉄道が開通して以降、人が近寄らなくなった広瀬川沿いを住んでいる人たちが使える空間にしようと2004年から地域紹介の冊子を作り、ガイドツアーを行うなどの活動を続けており、2017年には期間限定の川床も誕生させている。

ただ、構想と聞くとオーソライズされたものかと思うが、実際のところは民間が未公認で勝手にやっているもの。船橋市の非公認キャラクターのようなものだが、活動している人たちは真剣に面白がっている。たとえばハンモックダス文明というプロジェクトがある。これは名称の通り、ハンモックをとにかく出し、併せてコーヒーを出すなどというもの。それだけ聞くと冗談のようだが、この活動を通して公共の場でどこまでが許されるかを探ってきたという。

全国で建物や公共建築物など多様な場をリノベーションしてきた審査員の株式会社オープンAの馬場正尊氏はその熱さに感動。自らも仙台で活動していることもあり、豊嶋氏に「一緒にプロジェクトをやろう」と提案した。これからの仙台の水辺に期待!である。

他にも自分がやりたいから勝手に始めたというプロジェクトは多かった。その中でもなるほど!と思ったのは愛知県豊田市でトヨタロックフェスティバルなど、地元のカルチャーを作ってきたと評される神崎勝氏の言葉。

元々は地元に遊び場がない、だったら自分で作ってしまおうと思って始めたもので、まちを良くするためではなかったというが、続けているうちに「河川敷も含め、景色が変わったと感じるようになった」とか。自分がやりたいことを勝手に周囲を巻き込みながら続けることでまち全体が変わるということだろう。日本では「勝手に」「自由に」という言葉は時としてあまり良くないことのように取られるが、いやいや、そんなことはないわけだ。

仙台で実験的に作られた川床。京都などではお馴染みの風景だが、他の都市ではなかなか出会えない仙台で実験的に作られた川床。京都などではお馴染みの風景だが、他の都市ではなかなか出会えない

隅田川に湯船を浮かべる、ファスナーで川を開く

次回、こうしたアートイベントが行われる時はリアルに隅田川で見たい!次回、こうしたアートイベントが行われる時はリアルに隅田川で見たい!

東京の水辺でも破壊力のあるイベントが行われている。隅田川を舞台にしたアートプロジェクト「隅田川森羅万象墨に夢」である。このプロジェクトはすみだ北斎美術館の開設をきっかけに2016年に始まったもので、芸術文化に限らず、森羅万象あらゆる表現を行っている人たちがつながりながら、この地を賑やかに彩っていくことを目指しているという。隅田川はかつて両国祭り、月見、花見に花火と東京の文化を育んできた場である。そこを舞台にすることで、水辺が新たな文化揺籃の地となることを目指しているというわけだ。

いくつか、過去のプロジェクト時の写真が披露されたのだが、いずれもぶっ飛んでおり、アートの持つ力をまざまざと感じた。たとえば、川の上に吊るされたミラーボールならぬミラーカーを囲んでのディスコ、都市の境界である川を開いていくファスナーの形の舟、浮かぶ風呂「湯船」、船の上でのゴルフなど普通の人では思いつかないような表現がてんこ盛りである。

もちろん、簡単に実現できたわけではない。隅田川は東京都の河川局の管理下にあり、川には治水、防水という非常に現実的な観点がある。船の往来が多いことから、警察も絡んでおり、こうした人たちに許可を得なければならないのである。プロジェクトの説明に「何を考えているんだ」と呆れられたこともあったと事務局の萩原康子氏はさらりと語ったが、本当は呆れられただけではなかったのではないかと推察する。それを実現させる裏方があって水辺は使えるようになってきたのだなあと思った。

水辺には危険もある

イベントでは最後に当日の来場者が投票、オーディエンス賞を選んだのだが、ダントツで1位となったのは愛知県岡崎市のMAKITA BOYS。彼らは市内を流れる乙川(おとがわ)に架かる殿橋の欄干に出現した野外カフェ・殿橋テラスを撤去するためのグループで、グループ名は使っている電動工具のメーカー名に由来する。簡単に言えば解体チームである。

殿橋テラスは河川区域内の橋台下流側に足場を組み、ウッドデッキを敷いた上に、店舗の躯体が乗った仮設工作物だ。台風などで水位の上昇が予想される場合にはウッドデッキ以下は岡崎市が、それより上部はMAKITA BOYSが撤去を担当する。撤去している間は営業ができず、営業再開にはもう一度組み立てる必要があり、解体は誰にとっても嬉しくない作業だ。だが、いつもは穏やかな川にも天候によっては増水その他の危険が潜んでいる。面倒であっても、安全に川を使うためには解体も時には必要なのだ。

彼らの活動に来場者の多くが川を使う場合のルールを再考したのだろうと思う。自然とはいつもにこにこしている親切な存在ではない。それを知りながら、どう付き合っていくか。MAKITA BOYSの活動はそれを改めて教えてくれたのである。

ちなみに昨年の撤去は4回。その手間を省くために常設にするという案もあるそうだが、そうなると解体チームの出番は無くなる。楽ちんになるめでたい話だが、彼らの姿を見られなくなるのは残念という感想も。人間もまた、わがままなものである。

解体チームとは言うが、カフェの運営者、設計者など所属はそれぞれ。解体時にのみ集まる人たちである解体チームとは言うが、カフェの運営者、設計者など所属はそれぞれ。解体時にのみ集まる人たちである

2019年 05月19日 11時00分