東京の川を走る船が、護岸に光のアートを生み出す

春に入り空気も温もり始めた2018年3月14日夕刻から、東京都中央区や千代田区の河川を舞台に、公共空間である水辺の新たな顔を発見するための社会実験「東京 Wonder Under」が開催された。日本橋川や隅田川、神田川などの河川、約11キロメートルに「ミズベリングシップ」と名付けた船を走らせるだけでなく、同時に、中継ライブ会場ではその様子を見ながら、水辺の活用に詳しい識者らが解説するという構成を取った。主催は、水辺の新たな活用を検討するため一般市民や企業が集まり、2014年に発足した「ミズベリング・プロジェクト事務局」だ。

ミズベリングシップは川を移動しながら、今回のイベントのために積み込んだ最新のデジタル照明装置を使い、万世橋や日本橋付近の高架下、河川の護岸などにプログラミングした映像を投射し、次々に水辺にアートを創り出した。また、橋の下に生じる音響効果を生かし、河川沿いの景色に合わせて音楽を流した。音楽のコンセプトは「祝祭+環境(サウンドスケープ)」だ。主な演出箇所では、ワルツ「美しき青きドナウ」を基調とした曲を使い、即興で音を加えた。

神田川からマーチエキュート神田万世橋やその対岸に向かい、光を投射(写真提供/ミズベリング・プロジェクト事務局)神田川からマーチエキュート神田万世橋やその対岸に向かい、光を投射(写真提供/ミズベリング・プロジェクト事務局)

水辺の活動の背景に、都市のあるべき姿を目指す”アーバニズム”

上/会場で河川を航行中のミズベリングシップのライブ映像を見せつつレクチャーする岩本唯史氏 下/「アーバニズムの構想力」をテーマに講演中の中島直人氏(写真提供/ミズベリング・プロジェクト事務局)上/会場で河川を航行中のミズベリングシップのライブ映像を見せつつレクチャーする岩本唯史氏 下/「アーバニズムの構想力」をテーマに講演中の中島直人氏(写真提供/ミズベリング・プロジェクト事務局)

一方、大手町ファイナンシャルシティ(東京都千代田区)のアトリウムに設けた中継ライブ会場では、ミズベリング・プロジェクト事務局に所属するとともに水辺総研代表である岩本唯史氏の司会によるライブビューイングのほか、東京大学都市工学専攻准教授の中島直人氏による講演が行われた。テーマは「アーバニズム」だ。アーバニズムとは、都市における生活様式の実態と、批判などをもとに目指す都市計画の目標の双方を指す。このイベントを含む、ミズベリングの活動にアーバニズムが根差していることから、識者である中島氏に登壇を依頼したのだという。

「アーバニズムを実践する立場の“アーバニスト”という言葉には、都市計画の専門家と、都市に住み、その生活を楽しんでいる人双方の意味があります」「大きな都市のビジョンがある一方で、そこに住む人たちの“こういう水辺で集いたい”というイメージも大切。身近なところからどう変えていくか考え、実際に住む人が社会実験をしたり、実践したりして、目指すべきビジョンにフィードバックしていく。東京の水辺も、そういった一種のアーバニズムの考え方をもとに活用が広がっていくとよいのではないでしょうか」などと中島氏は話した。

護岸に映し出すアートが、条例違反になることも

その後、ミズベリングシップが中継ライブ会場付近の川端緑道に到着し、その場で船から降りた人々と会場の人々が合流。乾杯が行われ、さらに水辺でのひとときを楽しんだ。

この社会実験を行うに当たり、思いがけないハードルがあった。光の投射をする際、メッセージ性が含まれていたり、ある箇所で一定時間、1種類の画像・映像を固定したりすると広告とみなされ、東京都屋外広告物条例に反するためイベントの許可が下りなくなるのだ。「映像の内容の吟味はもちろん、常に船を走らせ続けることでそうした課題をクリアし、ミズベリングシップの実現にこぎつけました」と岩本氏は話す。

ミズベリングシップの航行と音楽のスケジュール(資料提供/ミズベリング・プロジェクト事務局)ミズベリングシップの航行と音楽のスケジュール(資料提供/ミズベリング・プロジェクト事務局)

水辺の魅力を市民自らが引き出すプロジェクト、”ミズベリング”

上/高速道路の高架下に映像を投射。橋上では、突然現れたシップを見ようと歩行者が次々に足を止めた 下/高架下や橋の下では光の演出とともにプログラミングした音楽を流した。それぞれの橋の形状による反響を生かし、音楽を選択(写真提供/いずれもミズベリング・プロジェクト事務局)上/高速道路の高架下に映像を投射。橋上では、突然現れたシップを見ようと歩行者が次々に足を止めた 下/高架下や橋の下では光の演出とともにプログラミングした音楽を流した。それぞれの橋の形状による反響を生かし、音楽を選択(写真提供/いずれもミズベリング・プロジェクト事務局)

そもそもミズベリングとは、どういったプロジェクトなのだろうか。

日本では、その昔、川は周辺の街並みなどと溶け合って美しい風景をつくっていた。ところが、高度経済成長期以降は排水路として効率化が優先され、住む人たちと水辺とは隔絶されてきたという。そのため、水辺環境への社会の関心を高め、新たな活用の可能性を見出すべく立ち上げられた官民一体の協働プロジェクトがミズベリングである。国土交通省の水管理・国土保全局が管轄だ。

「2013年12月に“水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会”が持たれ、水辺をよくするには、市民から愛されるにはどうしたらいいか、本気で活用するための投資方法とは何か、などを議論しました。そのとき、①まちにある川や水辺空間の賢い利用、②民間企業などの民間活力の積極的な参画、③市民や企業を巻き込んだソーシャルデザイン という基本コンセプトを明確化。大切なのは行政の意向ではなく、市民から注目され、さまざまな意見や提案が上がるような活動に育てることなのです」と岩本氏。

全国約60ケ所で、さまざまなミズベリング活動が展開中

その後、東京都に限らず、全国約60ケ所で、水辺について自由に話し合う「ミズベリングテーマ会議」が行われた。その結果、現在稼働している水辺での具体的なプロジェクトは計約60。たとえば昨今では、和歌山市水辺まちづくり調査や、佐賀市中心部の活性化を狙った、ミズベリング佐賀による「さがクリークネット」戦略の仮設構築、乙川沿いの飲食店利用を鑑みた愛知県岡崎市での社会実験「おとがワ!ンダーランド」などがある。

「ミズベリング・プロジェクト事務局はこれまで、水辺は皆さんの生活や遊び、アート活動などのフィールドでもあることをアピールしてきました。この4年間の活動で、全国的にその機運は高まってきたのではないでしょうか。これからも活用を望む人が増え、全国各地の水辺で官と民が垣根を越えて、水辺のあり方を模索していけるような機運を高めることが私たちの課題です。一方、水辺ではこれから持続可能な賑わいの創出、居心地のいい場所の創出など、事業を生み出す企業の出現が望まれています。企業などがどのように関わって公共空間である水辺を魅力的にしていくのか、当事務局としても応援していく必要があると思います」と岩本氏は話す。

海に囲まれ、近隣に川が流れ、水と親和性の高い日本。それぞれの地域の特性に見合う、楽しい使い方を考えられるのは、やはり住民たちだ。使いこなして親しみを持つことで、水辺とそこに流れる水をきれいに保とうという意識も高まるだろう。水辺に親しむほどに、相乗効果で水辺の環境が良くなっていきそうだ。

左上/ミズベリング・プロジェクトや水辺の活用のノウハウをまとめたビジョンブックやパンフレット 右上/ミズベリング佐賀は、中心市街地のクリークの活用を進めている 左下/福井県越前市の日野川では、地元の飲食店経営者がバーを営業する「おしゃれなリ・BAR」を開催 右下/大阪市土佐堀川沿いでは堤防上に足場を組んで川床を設け、「北浜テラス」として賑わいを呼ぶ(写真提供/左上以外いずれもミズベリング・プロジェクト事務局)左上/ミズベリング・プロジェクトや水辺の活用のノウハウをまとめたビジョンブックやパンフレット 右上/ミズベリング佐賀は、中心市街地のクリークの活用を進めている 左下/福井県越前市の日野川では、地元の飲食店経営者がバーを営業する「おしゃれなリ・BAR」を開催 右下/大阪市土佐堀川沿いでは堤防上に足場を組んで川床を設け、「北浜テラス」として賑わいを呼ぶ(写真提供/左上以外いずれもミズベリング・プロジェクト事務局)

2018年 06月08日 11時05分