経済損失は5,000億!? 花粉症は国民病

秋葉原にて行われたセミナーには多くの関連企業の担当者が集まった秋葉原にて行われたセミナーには多くの関連企業の担当者が集まった

春先になると、電車の中やオフィスのいたるところでクシャミが聞こえてくる。花粉症に悩まされる人にとって、春は憂鬱な季節だろう。
正確には調査されていないものの、日本の花粉症患者の数は今や4人に1人ともいわれている。花粉症の恐ろしいところは、症状が出ている間、作業効率が劇的に落ちるということ。それによる経済損失は、なんと5,000億円にのぼるともいわれているそうだ。

花粉症の対策には、飛散防止や除去、症状緩和などさまざまなアプローチがある。そのうえ非常に規模の大きい対策が必要とされ、1社だけ、あるいは特定の業界だけでは対策が難しい。そこで、業界横断的に連携を取って花粉症対策に取組もうと設立されたのが、花粉問題対策事業者協議会(JAPOC)である。
JAPOCでは、花粉症対策の啓発のほか、空気清浄機、マスク、メガネ、網戸、繊維について独自基準で審査を行い、花粉に対する効果が認められたものに認証マークを発行している。従来は各社がそれぞれに花粉への効果を謳っていたため、認証制度によって安全性・信頼性を担保できるような仕組みを整えたのだ。

2019年3月、JAPOC主催のセミナーに参加し、花粉症対策の最前線を取材した。

アレルギー対策は官民学連携で取組む必要がある

「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略」の全体像を図示したもの[出典:厚生労働省 免疫アレルギー疾患研究戦略検討会資料](上)、アレルギーポータルのトップ画面。年齢層ごとにきめ細かな情報提供をすることを目指している(下)「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略」の全体像を図示したもの[出典:厚生労働省 免疫アレルギー疾患研究戦略検討会資料](上)、アレルギーポータルのトップ画面。年齢層ごとにきめ細かな情報提供をすることを目指している(下)

基調講演として、前・厚生労働省健康局 がん・疾病対策課 課長補佐(現・国立病院機構三重病院成育診療科医長)貝沼圭吾氏が登壇。国が進めているアレルギー疾患対策について紹介した。

国では2014(平成26)年に「アレルギー疾患対策基本法」が成立。各自治体の医療提供体制等の確保、情報提供・相談体制の確保、研究開発等の推進の3本柱で対策を進めてきたという。2015(平成27)年には、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、食物アレルギーの6疾患を対象に「アレルギー疾患対策基本法」を施行。それぞれについて、重症化の予防および症状の軽減、生活の質の維持向上、研究の推進等を基本的な施策とした。これらの施策をさらに具体的にしたものが2017(平成29)年 3月に厚生労働大臣より告示された「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針」で、アレルギー疾患を有する者が安心して生活できる社会の構築を目指し、国や地方自治体が取組むべき方向性を示した。

基本指針は大きく5つに分けて構成されているが、その中の「研究の中長期的な戦略の策定についての検討」を進めて2018(平成30)年1月に策定されたのが「免疫アレルギー研究10か年戦略」だ。目指すべきビジョンとして「免疫アレルギー疾患に対して、安心して生活できる社会の構築」を掲げ、本態解明、社会の構築、疾患特性の3つの戦略それぞれに目標を設定、具体的な研究にまで落とし込んでいる。

「ビジョンの『免疫アレルギー疾患に対して~』という言葉には、既に発症している患者への対策のみではなく、アレルギー疾患の発症を予防することの重要性を打ち出したいという思いが込められています」と貝沼氏はビジョン決定の意図を語った。

紹介されたのは主に厚生労働省の動きだが、「花粉症対策は1つの省庁だけで行えるものではない」と貝沼氏。
「アレルギーに関する研究や情報提供は厚労省が行うとしても、学校現場での啓発や対策などは文科省、環境対策については環境省など、各省庁が連携する必要があります。花粉症の場合は杉林の管理をする林野庁も関わってくるでしょう。また、国だけでなく、官民学で連携して取組む必要もあるでしょう」

具体的な連携例として、国と関係学会との連携によってオープンした「アレルギーポータル」というウェブサイトが紹介された。ここでは花粉症に限らず、アレルギーに関する情報を提供している。また、医療提供体制の整備としては、各自治体に拠点となる病院を設定し、各地域で受けられるアレルギー医療のレベルに格差が生まれないようにする取組みも各都道府県において進められている。これについては、モデル事業も平成30年度から始まっており、すでに3施設で行われている。

貝沼氏の話から、国がアレルギー疾患について課題意識を持ち、本腰を入れて対策しようとしていることが感じられた。ただ、その成果を患者一人ひとりが感じられるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。

医療における飛躍的な大進歩。新たなビッグデータが可能にする個別化医療

「アレルサーチ®」の画面サンプル。左の画像のようなアンケートに答えることで、右のように花粉症レベルのマッピングなど、花粉に関する情報を入手できる「アレルサーチ®」の画面サンプル。左の画像のようなアンケートに答えることで、右のように花粉症レベルのマッピングなど、花粉に関する情報を入手できる

続いて登壇したのは順天堂大学医学部眼科学教室助教の猪俣武範氏。開発に関わった「アレルサーチ®」というアプリを紹介した。

猪俣氏によれば、現在、医療分野でIoTやAIなどの応用が進んでいるという。これまでにも医療分野でビッグデータが活用されていたが、情報源となるのは電子カルテ、患部の画像や健康診断のデータ、そして調剤データなどだった。多くの患者から広く情報を集め、集合的見地から医療事象を見ていたのだ。
しかし現在では、ウェアラブルデバイスで取得される情報やゲノム情報など、1個体に関する膨大なデータを収集することができるようになった。個別のパターンを多数集めることで、よりパーソナライズされた医療を可能にするという。今までのビッグデータが「Big Small Data」と呼ばれるのに対し、後者は「Small Big Data」と呼ばれる。

また、IoTの登場は、医学研究の在り方も変えた。これまでの研究は医療機関を中心に行われていたため、データを取るには患者に病院まで来てもらう必要があった。しかしIoTなどの技術を活用すれば、患者が家に居ながらにしてデータを集めることができるのだ。

最も身近で研究に利用できるデバイスがスマートフォンだ。Apple社のiPhoneでは、Research Kitという医療研究アプリ向けのフレームワークを利用して作成されたアプリで、所有者のさまざまな健康状態を取得することができる。「アレルサーチ®」もResearch Kitを利用して作られたアプリの一つだ。
「アレルサーチ®」は花粉の飛散量など、花粉症の人が知りたい情報を提供し、使用者はアンケート形式で毎日花粉症の症状について情報を入力する。ひと言に花粉症といっても、目の痒みなどの感じ方は人によって異なるもの。アプリで集計するデータは、その感じ方の違いをどう可視化するかや、花粉症によって落ちるとされている労働生産性に関わる研究などに使われるという。

全国のユーザーからデータを収集できるので、「場所を問わずたくさんのデータが集まるのがアプリを使った研究の良いところ」と猪俣氏。一方で、iPhoneユーザーしか使えない、年齢層が偏るなど、制限されたものになってしまうため、疫学的データとして使うのは難しいようだ。
「欠点があることもわかったうえで、きちんとした臨床データと補完し合いながら活用していくべきでしょう」と猪俣氏は述べた。

花粉対策の最先端

多様なニーズに合わせたマスクを取りそろえたユニ・チャーム株式会社のブース(上)、株式会社サンエスでは空気清浄網戸「ナノキャッチ」を展示(下)多様なニーズに合わせたマスクを取りそろえたユニ・チャーム株式会社のブース(上)、株式会社サンエスでは空気清浄網戸「ナノキャッチ」を展示(下)

会場にはJAPOCの会員企業がブースを出展し、最新の花粉対策アイテムを紹介していた。

花粉対策の第一歩といえばマスク。ユニ・チャーム株式会社のブースでは、さまざまな大きさ・形のマスクが並んでいた。最近は症状が出ていなくても予防のためにマスクをしたり、女性ならすっぴんを隠すためのマスクをしたりと、利用シーンも多様化。それに合わせて、マスクの種類も増えてきているそうだ。
広報室の渡邊仁志さんは、「マスクをつけるときは、まず半分に折って鼻の位置を合わせてから、顎までマスクを広げてかけてください。正しいつけ方をしないと、花粉は18%程度しか防げません」と教えてくれた。

家電メーカー、ダイキン工業株式会社のブースでは空気清浄機を展示。家庭での花粉対策の定番だ。
寝るときや出かけるとき、空気清浄機をオフにしている人も多いと思うが、実は間違い。花粉は粒子が大きく重たいため、部屋の空気を常に動かしておかないと、床に落ちてしまう。そうすると、空気清浄機では除去できず、掃除機で吸い取るしかなくなるのだそうだ。
「花粉がひどい時期は24時間つけっぱなしで大丈夫です。窓を開けた後や洗濯物を取り込んだときなど、花粉がたくさん入ってくるときは一時的に『強』モードなどにして、外出時や就寝時は『弱』にするなど、調整しながら使ってください」と広報グループの垣永大輔さん。
また、空気清浄機の選び方として、「〇畳用」という数字の見方も教えてくれた。
「エアコンと違い、空気清浄機は30畳用など、大きな数字で表示されているので少々わかりづらいかもしれません。これは30分できれいにできる面積を表しているので、例えば6畳の部屋で30畳用を使用すると、5倍の速さで空気をきれいにできるということなんです」
空気清浄機選びの参考にしてみてほしい。

住まいの領域でも花粉対策が進んでいる。株式会社サンエスから出展されていたのはフィルター付きの網戸。網戸が二重構造になっており、間に集塵フィルターが入っている。このフィルターによって花粉やホコリを吸着し、必要ないときにはフィルターを外して普通の網戸として使うこともできるそうだ。
「通常の網戸の2倍くらいの価格ですが、換気をするときに開ける窓だけでもこれに替えると効果的です。家のマスクのようなものと思ってもらえればよいでしょう。この網戸を使って外部からの花粉の侵入を減らし、それでも入ってくるものには空気清浄機などで対策するのがよいと思います」と広報の谷岡俊幸さん。花粉症の人は窓を開けるのにもかなり勇気がいるが、この網戸を導入することで気兼ねなく換気ができそうだ。

縦横に連携をとって進める花粉症研究

花粉症について、国や大学、企業のさまざまな取組みを概観することができた今回のセミナー。共通していたのは、「予防が大切」というメッセージだった。
また、花粉対策アイテムも日進月歩だが、これまで明確な基準がなかったというのには驚いた。より効果的な花粉対策をするためにも、JAPOCマークの有無を確認してほしい。

年々患者が増えている花粉症。産学官の連携だけでなく、縦軸・横軸の両方で連携をとりながら、研究が進められていくことに期待したい。

JAPOCでは1月23日を花粉対策の日として対策を呼びかけるほか、花粉症対策のステージ構成フレームワークを策定しているJAPOCでは1月23日を花粉対策の日として対策を呼びかけるほか、花粉症対策のステージ構成フレームワークを策定している

2019年 04月13日 11時00分