OECDも注目する戦後7回目の国土形成計画

2015年8月に戦後7回目となる国土形成計画が閣議決定され、翌年には中部圏の広域地方計画が策定された。今回の国土形成計画は、人口減少問題に正面から取り組んだ初めての計画であるとして、OECDがレビューのなかで強い関心と高い評価を示しているという。人類史において、現在の日本のように、エピデミックや巨大災害によらない自然的な要因で急激な人口減少や高齢化が起こることはなかったといわれている。しかし、人口減少問題は日本だけでなく、今後世界各国で起こり得る問題と予測され、OECDも日本の取り組みに注目しているようなのだ。

OECDも注目する国土形成計画を推進するうえで、2027年のリニア中央新幹線開通を控え、地域はもとより日本の成長をけん引する役割が期待される愛知県で「平成28年度 国土政策フォーラム in 愛知『我が国の成長をけん引する中京大都市圏づくり~対流を湧き起こすスーパー・メガリージョンのセンターを目指して~』」が開催された。

中京大都市圏とは? スーパー・メガリージョン(広域経済圏)のセンターとしての役割とは? 日本の未来像を垣間見るべくフォーラムを聴講してきた。

コンパクト+ネットワーク&対流が活力維持のキーワード

まず始めに国土交通省国土政策局長の藤井健氏による主催者代表あいさつが行われた。藤井氏は、新たな国土計画には基本的なコンセプトが示されているとし、次のように語った。

「コンセプトの1つは“コンパクト+ネットワーク”という考え方。そしてもう1つは“対流”という考え方です。人口が減少しても活力を維持していくためには地域をコンパクトにする必要があります。ところが、コンパクトにすることでそこから外れてしまう地域があり、また、マーケットが小さくなってしまい広げられないという問題がある。それを支えるのがネットワークです。

しかし、その構造だけではうまくいかないので、対流という現象を起こす必要があります。温度差によって循環が起きる対流現象を地域になぞらえると、異なる個性や多様性のある地域が連携することで人・もの・情報・知識の循環が起こってくる。仮に人口減少したとしてもコンパクト+ネットワークの構造のうえに活発な循環が起きれば活力を維持できるのではないでしょうか。

これを日本国中の大都市から地方までいろいろなレベルでやっていく必要があり、そのなかの中心的で大きな役割を果たすのが、リニアで結ばれる東京・名古屋・大阪間で形成されるスーパー・メガリージョンです。そこでの対流をどう作っていくかが非常に重要というのが今回の国土計画のなかの骨子になっています」

さらに藤井氏は「将来リニアが大阪まで延伸すれば東京・名古屋・大阪間の3大都市圏が1時間で結ばれることになり、山手線1周が1時間であることを考えると大きな変革を起こすだろう」とも述べた。

名古屋を中心に概ね80キロ~100キロ圏に広がる「中京大都市圏」に、スーパー・メガリージョンという広域経済圏が形成されることで日本がどう変わっていくのか、期待が高まる。

大村知事が語る、中京大都市圏づくりにおける愛知県の取り組み

愛知県知事 大村秀章氏による基調講演愛知県知事 大村秀章氏による基調講演

続いて「中京大都市圏づくりにおける愛知県の取り組みについて」をテーマに、愛知県知事の大村秀章氏による基調講演が行われた。さまざまな取り組みについて主要なトピックを述べられていたので、各内容を簡潔に紹介する。

■リニア中央新幹線の開業インパクト
名古屋からリニアを使って2時間で行けるエリアの人口は6千万人、大阪全線開業で6千400万人となり、そのポテンシャルは大きい。

■名古屋駅のスーパーターミナル化と鉄道ネットワークの充実・強化
名古屋市と一緒に進めていく。名古屋駅から40分圏内をいかに増やすかということで、名古屋駅の乗り換え利便性を向上させる。西三河、豊田地区との所要時間短縮、中部国際空港へのアクセス向上、東海道新幹線駅の利活用も進めていきたい。

■広域道路ネットワークの整備
東海地域は3大都市圏のなかでは最も高速道路網が整備できており、引き続きしっかり進めたい。

■中部国際空港の機能強化
2015年に中部空港は1千万人を回復。さらに利用促進を図っていきたい。LCCターミナルビルは2019年完成を目指す。2018年夏を目途にボーイング787の試験号機を格納する建屋を完成させ、物販飲食の整備をする。ボーイングの民間部門拠点であるシアトルにちなみ、シアトルテイストのまちづくりを進めたい。2019年の秋には大規模展示場がオープン予定。また、2本目滑走路に向けての取り組みも進めていきたい。

■港湾の機能強化
愛知県には名古屋港、衣浦港、三河港という国際港湾がある。2016年の貿易は’15年とほぼ横ばいで、輸出が15兆円、輸入7兆円。8兆円の貿易黒字を3つの港で稼いでおり、引き続き整備を進めている。名古屋港は金城埠頭、飛島埠頭の耐震化、衣浦港は中央ふ頭の整備、三河港も埠頭の整備などを進めていく。

■自動車産業の高度化
水素ステーションを整備しており愛知県は17基18カ所で日本一。今後も整備を続けていく。自動走行の実証実験を実施。2016年度は愛知県内15の市町で一般公道を使い、ドライバーが乗って自動運転モードにして手を離す、レベル3の実証実験を行った。2017年度はドライバーが乗らず遠隔操作での一般公道の実証実験を行いたい。

■航空宇宙産業の振興
平成23~27年までに生産額が4千700億から8千500億と倍近く伸びた。輸出が1千500億から4千400億と3倍近く伸びている。また、MRJの試験機3機がシアトル郊外に到着。市場投入は延期が発表されたが、成功するよう愛知県も全面的に携わっていく。

■愛知県国際展示場の整備
2019年に、空港島に国際展示場を完成させる予定。2020年10月にワールドロボットサミットを開催することが決定。経済産業省と愛知県の共催で行われ、日本で初開催ののち世界で開催するための試み。内容は、5万平米のロボットの最先端の見本市や、ロボットの競技大会。生産現場での組み立て競技、家事支援・介護支援の競技、災害の際の競技、ジュニアの競技、ロボットのサッカーなどが種目で、インフラ災害分野の一部は福島県の南相馬市で開催される。2017年度に肉付けをしていきたい。

■地域魅力の発信と広域観光の推進
2016年12月に山・鉾・屋台行事がユネスコの国連文化遺産に登録された。日本全国33の国の重要文化財の山車祭りが登録されたなかで愛知県は5つと最も多く、三重県3つ、岐阜3つ、富山が3つと、中部地区で16を占めている。愛知県内には山車祭り150、山車が400数十両、からくりのついた山車が160両あり、これをもっと盛り上げていきたい。また、武将観光、三英傑と忍者、産業観光もしっかり盛り上げていきたい。

■第20回アジア競技大会
昨年9月に2026年アジア大会を愛知・名古屋で開催することが決定。これからしっかり中身を詰めて盛り上げていきたい。

講演の最後に、大村知事は次のように語った。

「愛知県は6月に人口が750万人を突破しました。5月には名古屋市の人口が230万人を突破しています。愛知・名古屋の人口の伸びは自然増と社会増の両方があり、理由はやはり産業集積です。愛知県の場合、大手の流通の方にお聞きすると子ども用品がよく売れるそうです。そのため他の地域とはまったく別の商品戦略やっているそうで、そういうことに対応していくうえでも中京大都市圏集積をさらに生かし、もっと元気な地域づくりをしていきたいと思います」

有識者はどう考える? 中京大都市圏に期待される役割

パネルディスカッションでは各業界の有識者が意見を述べたパネルディスカッションでは各業界の有識者が意見を述べた

続いて行われたパネルディスカッションでは、スーパー・メガリージョンのセンターとしての中京大都市圏に期待する役割や地域づくりの方向性などについて、有識者がそれぞれの立場で意見を述べた。各パネリストの発言のポイントを紹介する。

≪中京大学経済学部客員教授・学校法人梅村学園評議員 内田俊宏氏≫
「国際競争力をより強化していくには、中京大都市圏のなかでの産業競争力の引き上げが必要です。中部の方向性としては次世代のものづくり、自動車、航空宇宙、ロボット、IoT、訪日客、農業、福祉産業。これらを中心に産業競争力を引き上げていくうえで、中京大都市圏を中心としたスーパー・メガリージョンの形成は不可欠。次世代のものづくりの生産性を上げるためのインフラ整備も必要ですが、国際的なビックプロジェクトやイベントを目標年次に据えて、それに民間投資を誘発していく動きが求められます。」

≪愛知大学 地域政策学部教授 戸田敏行氏≫
「名古屋圏からやや離れた三遠南信エリア(愛知・静岡・長野)が中京大都市圏をどう見るかという視点で、名古屋にリニアが開通したときに、周辺都市の自立性が出て、中京大都市が都市連合となり、その多様性がさまざまな付加価値を積み上げていくことが望ましいと考えます。
三遠南信エリアは、大伊勢湾環状地域を構成する中核的な都市圏の形成というビジョンをもっています。名古屋との関係を除いて周辺の都市圏の機能性はありえません。三遠南信には地方都市があり中山間がありますが、大都市がない。リニアで変化する名古屋には大都市の魅力があり、国際的に突きぬけた魅力を期待します。それが周辺都市を生かして引きつけていく条件だと思います。
行政の単位は県や市町村がありますが、どういう広域行政ができるのか。三遠南信ではそれぞれやり方が異なり、南信州の長野側は広域連合という特別自治体をつくり、遠州側は浜松、大政令市をつくって合併でやっています。東三河は大村知事が就任時に東三河県庁という総合県庁をつくり、日本で唯一副知事が常駐しています。そこから市町村の広域連合、経済団体の広域連合が出てきました。これからの人口減少を考えると広域的な行政の合理化、変革を考えざるを得ず、そういった都市圏でのしくみも重要だと思います」

災害リスクの高い日本では
リダンダンシー(多重性)機能を持つ国土形成構築も必要

国土政策では災害リスクの対応策も重要なポイントとなる国土政策では災害リスクの対応策も重要なポイントとなる

≪一般社団法人中部経済連合会 専務理事 小川正樹氏≫
「メガリージョンは単にリニアで結ばれればできるわけではなく、各都市が個性を発揮し国内外と連携することで全体としての大交流ができます。こうしたなか、中部においては世界から求められる役割をいかにつくりだしていくか、中部のポテンシャルを生かした魅力づくりをもっと進める必要があると思っています。
具体的に何をするかのアイデアを、ものづくり、観光、物流、定住促進の観点からお話しします。
ものづくりの現場が海外に流出するなか、この地域の役割はイノベーションの拠点を担うことです。自動運転が検討され実施されていますが、そういったことにより社会のシステムや安全環境、高齢化対策が変わっていきます。新しい、ことづくりを考え進めていくことが大切で、中経連としても国内外から専門家に集まってもらいディスカッションをしています。これからは皆さんと一緒に交流イノベーション拠点を名古屋に作っていきたいので、いろいろなアイデアをいただきたい。
観光は昇龍道という広域観光周遊ルートがスタートし、5倍の勢いで伸びています。アジアの成長、円安で支えられてきましたが、今後は各国や、国内外の競争の時代だと思っています。しっかりマーケティングをし戦略を立て、プロモーションをして観光需要をつかみたい。
物流拠点については、2017年秋に長久手市にイケアができますが、イケアの物流センターがすでに2008年に愛知県弥富市にでき、アマゾンは多治見市に物流センターをつくっています。この地域がすぐれたインフラ、素晴らしい高速道路網を生かした物流拠点ということです。工場立地のみでなく物流拠点としても注目いただくと、よりスーパー・メガリージョンのセンターという機能が発揮できると思います。
定住については、これからはテレワークの時代に入り、ときどき仕事場に行くという生活スタイルも可能になるのではないかと思います。そうなるには、それぞれのまちがより住みやすさを磨いていくことが大切です。
海外の方にもこの地域は評判がよく、アジアの海外赴任者にどこが住みやすいまちか尋ねたところ、名古屋は7番目と良い評価を受けています。2017年はロボカップがあり、2020年にはワールドロボットサミット、2026年にはアジア大会があります。それぞれを国際都市へのマイルストーンと捉えながら頑張っていくことが大切だと思います」

≪国土交通省 中部地方整備局長 塚原浩一氏≫
「中部の発展を支えるためには安全な基盤が必要です。中部圏の広域地方計画のメインコンセプトが産業技術のグローバルハブであり、そのなかでリニア効果の最大化がうたわれていますが、その前提となる安全安心といった環境整備が必要です。日本全国、中部圏は特に災害リスクの大きい地形で、河川は急流で地質はもろく土砂災害も多い。濃尾平野は日本最大のゼロメートル地帯で雨も非常に多い。海岸線は自然環境としてはいいですが、南海トラフの津波のことを考えると非常にリスクがあります。
2013年にスイスの保険会社が世界各国の都市の自然災害のランキングを発表しており、1位は東京横浜、2位はマニラ、3位は中国、4位は大阪、5位はインドネシアジャカルタ、6位が名古屋です。スーパー・メガリージョンに重なる地域が、全世界において自然災害のリスクが高いということが世界的な認識です。
そういった災害リスクに対処するため、南海トラフ地震対策の中部圏戦略会議があります。私どもが事務局を務め、産学さまざまな機関が入って取り組みを進めています。人命を守ることは最優先課題ですが、中部圏の場合、経済発展を担ううえで社会経済活動の継続性を確保することが重要です。特に人やものなどの流れを確保するためのネットワークの多重性、代替性を重要課題として整備を進めています。
自然災害リスクを抱える都市ではバックアップ機能を持つことが重要であり、その機能を担う中部圏の役割は非常に大きいと考えます。スーパー・メガリージョンの機能を担っていくためには、リダンダンシー(多重性)機能を持った国土の形を築くことが必要と考えています」

私たちの国のかたちは役割を担う誰かがつくるのではなく、私たち一人ひとりのさまざまな思いや考えが結集してつくられるものだと思う。未来の日本をどんなかたちにしていきたいのか、このフォーラムを機にきちんと考えてみたいと感じた。

2017年 03月01日 11時04分