住民参加のタウンミーティングを経て自治会館を作るという取組み

2017年春。この地には企業の研修所、グラウンドがあり、その先に元荒川の河川敷が広がっていた。それが取り壊され、全64戸の住宅地が作られることになった。普通だったら、地元の人が詳細を知ることなく取り壊され、作られたであろうが、この地では普通ではないことが続いた。取り壊しに当たっては建物に別れを告げる棟下式(むねおろしき)が行われ、研修所に残されていた家具や食器などの多くは地域の人たちに引き取られていったのである。

その後、開催されたのが「南荻島未来会議」と名付けられた、この分譲地に新しく作られる自治会館の在り方、使い方をこの地域に住む人、関わる人たちで考える集まりだ。地元の自治会に声をかけたのは住宅地を分譲することになったポラスグループの中央グリーン開発株式会社。

「大規模開発では自治会館を作ることが義務づけられますが、分譲する側が勝手に作っても使われないものになってしまう可能性があります。しかも、南荻島地区にはすでに自治会館があり、よく使われています。だとしたら、新しい自治会館はどのようなものにして、どう使うべきか、地元の方々と話し合って使われる自治会館を作ろうと、自治会に呼びかけることにしました」(中央グリーン開発・戒能氏)。

同社にとっても、声を掛けられた自治会にとっても初の、おそらく全国的に見ても珍しい試みで、未来会議は非常に盛り上がった。初回には50人ほどが集まり、用意していた椅子が足りなかったほどという。

公園と自治会館。お披露目の日には地元高校生による書で彩られた公園と自治会館。お披露目の日には地元高校生による書で彩られた

話し合いの中で川の存在を再認識

様々な年代が集まり、活発に議論が交わされた様々な年代が集まり、活発に議論が交わされた

地域の魅力を語り合い、新しい自治会館をどう使いたいかアイディアを出し、課題について話し合った2017年10月の初回に始まり、2018年1月まで毎月1回、計4回開かれた未来会議でアイディアは次第に具体化されていった。そして最後の会議で決まったのが共有できる場所としての自治会館、新しく作られる緑に彩られた公園、そして昔からある自然・元荒川の3つの拠点を持つ「まちのリビング」というコンセプトだ。

自治会館、公園だけであれば、他の場所にもある施設だが、ここにしかないものが元荒川の河川敷。住宅地の最奥部にある建設予定地に隣接しているのである。このエリアの元荒川は両岸に桜並木があり、知る人ぞ知る花見の名所。それが地域で共有できる拠点の一部にあるというのはなんとも贅沢な話である。地域の人たちにとっても川の存在の大きさを再認識する契機になったという。

「それまでも川の存在は意識はしていましたが、今回、何が地域の財産かを話し合っていく中で、これまで以上に大事にしたいものとして元荒川を認識するようになりました。それまで活動していた川の自然を守る活動などとも連携、地域で一致団結していこうという気運が生まれたと感じています」(南荻島出津自治会・大熊久夫氏)。

こうして生まれたコンセプトを実現、施設を運営していくために未来会議後、「南荻島まちづくりサポーター」が発足。住民有志による集まりで、みずべチーム、アトリエチームの2つからなっており、定期的に集まり、これからを考えていくという。

当初想定より大きな建物になった理由

1年に渡る話し合いの結果、生まれたのは公園に連なる2階建ての自治会館。これまでは平屋のコンパクトなものが作られることが多かったそうだが、住民の要望に応えた結果、当初の想定より大きな建物になった。

「これからの宅地開発は作って終わりではなく、住む人を主人公に、コミュニティが生まれるようなまちづくりをすることも仕事と考えました。そのため、当初想定より大きな建物になりましたが、それがこの地域に笑顔をもたらすことになるならと思っています」(前出・戒能氏)

建物内部も住民の要望を入れ、ほとんど間仕切りのない大きな空間になった。要望を出すだけでなく、できることは自分たちでやろうと机やいすは住民がDIYで作り、2階の床も自ら貼ったという。公園の芝も住民のワークショップで貼られたものだ。建物を作るところまでは分譲会社側の負担だが、それ以降は自分たちで担っていくのだと強く意識されているのである。

話を聞いていて感じたのは自治会の力だ。多くのまちで自治会、町内会が高齢化などによって機能しなくなっていると聞くが、この地域では未来会議出席者が多かったことから分かるようにきちんと活動が継続されている。大熊氏によると南荻島周辺は古くからの地域とは異なり、ここ30~40年で移り住んできた人が中心で、緩やかで干渉し過ぎない関係が培われてきているとか。その緩やかさが活動の活発さに繋がっているのだとしたら、自治会や町内会の在り方を考える上で参考にすべき点があるのではなかろうか。

左が1階、右が2階。いずれも広々とした空間で、DIYによる部分も多い左が1階、右が2階。いずれも広々とした空間で、DIYによる部分も多い

川沿いの遊歩道の延伸、船着き場と活用への夢も多数

階段自体はなんの変哲もないものだが、これがあることで川への心の距離が縮まった。そして堤に上がるとこんな風景。中央にあるのは桜で、対岸にあるのが宮内庁の鴨場。春の桜、緑の情景を心の目で見ると、どうだろう、素晴らしい眺めが見えないだろうか階段自体はなんの変哲もないものだが、これがあることで川への心の距離が縮まった。そして堤に上がるとこんな風景。中央にあるのは桜で、対岸にあるのが宮内庁の鴨場。春の桜、緑の情景を心の目で見ると、どうだろう、素晴らしい眺めが見えないだろうか

見た目には地味だが、実は大きな存在が公園から河川敷への階段である。河川敷は埼玉県が管理しており、隣接する公園は分譲会社から市に移譲された市有地で管理者が異なる。加えて河川敷と公園の間には堤があり、水害への懸念からこうした場所に建造物を作る許可はなかなか得にくい。分譲会社だけで許可を得ようとした場合、難しかった可能性もある。だが、ここに階段を作り、河川敷を利用することが地域のためになると市が判断、県と協議した結果、可能になったという。

実際、ここに階段が作られることになり、川が近くなったことで住民の行動が変わった。河川敷に繁茂していた雑草をなんとかしようと、みんなで踏みつけてミステリーサークルを作ったり、七夕に水辺で乾杯するイベントが開かれたりと、川をきれいにしよう、もっと使おうと考えるようになってきたのだ。

それは市も同様。下流側では整備されている川沿いの遊歩道をこの地域まで延伸しようという計画が浮上しているのである。住民側からは、その際にはカヌー利用時などに使える船着き場を要望したいという声も出ている。物理的には階段がひとつ生まれただけだが、それによる心理的な効果は絶大。面白いものである。

地域の学生、新しい住民も参加

お披露目での太鼓イベント。その奥ではマルシェも開かれていた。下は説明を聞いたモデルルームの室内。川の近くに住むのも良いなあと思ったお披露目での太鼓イベント。その奥ではマルシェも開かれていた。下は説明を聞いたモデルルームの室内。川の近くに住むのも良いなあと思った

こうして完成したコミュニティ拠点の完成お披露目イベントが開かれたのは2019年1月12日。雪がちらつく中、会場には300人を超す人が集まり、完成を祝った。

可能性を感じたのはこの日、司会を務めたのが地元にある文教大学の学生だったこと。越谷キャンパスには教育学部があり、学生たちは様々なサークルなどを通じて地元の活動に参加しているのだ。また、同大学の和太鼓サークルの演奏や、地元の越谷西高校書道部の生徒による書道パフォーマンスもあった。前出のサポーター会議にも学生など若い人たちが参加しており、今後も若い感覚、力を取り込んだ活動が続きそうだ。

また、誕生したばかりの住宅地ながら、今回のお披露目イベントには分譲地の入居者が10組ほども参加。自治会館「みずべのアトリエ」のオープンで、入居者にも参加意識が強まっているのだろう。新しい自治会館は既存の、定期利用の多い集会所と異なり、誰にでも使えるものとして計画されているという。入居が進むにつれて、新たにこの地に住むようになる人達もこの一画に馴染み、さらにその周辺にある南荻島というまちの一員としてこの施設を使いこなす日が来ることだろう。

個人的には次は桜の時期に訪れてみたいと思った。対岸には北越谷第五公園、宮内庁の埼玉鴨場など緑の濃い場所があり、そこに満開の桜が色を添える風景はさぞかし美しいだろう。それを目前にできる「まちのリビング」、かなり羨ましい存在である。

2019年 02月24日 11時00分