時間をかけて町営住宅を作る理由

完成予定図。長屋式の住宅が20戸、それ以外に町に開かれた共用施設なども作られ、川沿いが一新する完成予定図。長屋式の住宅が20戸、それ以外に町に開かれた共用施設なども作られ、川沿いが一新する

細長い徳島県神山町の中心部、鮎喰川(あくいがわ)沿いのかつて中学校の寮があった大埜地(おのじ)で町営住宅の建設が始まっている。移住者、サテライトオフィスで有名な町だから、そうした人たち向けかと思う人もいるだろうが、そうではない。そうした人たちも含まれるかもしれないが、地元の人や神山に戻ってくる人たちも対象となる。

「当初は若者定住住宅という案がありましたが、以前から町域が広いため、自宅に帰ると近所に友だちがいないなど子どもが育つ環境への問題がありました。数年かけて話し合ってきた結果、子育て世帯を中心にした住宅を作ることになりました」。(神山町総務課主事・馬場達郎氏)

戸数は全20戸。第1期は2018年夏に家族・夫婦向けの約87m2の4戸の入居が予定されており、2019年度末くらいまでかけて少しずつ作られていくという。一般に公共事業で住宅が作られる場合には全体を一括で発注することが多いが、時間をかけて少しずつ作るのには理由があった。地元の材を使い、地元の大工が作れるようにするためである。

「大規模な建設工事となると地元の会社、大工では対応できず、徳島市など地域外の大手事業者に発注せざるを得ません。でも、それでは地元の大工が自分のまちの事業に参画できず、腕を磨くチャンスを逸することになります。また、町のお金を町外に出してしまうことにもなる。だったら、二戸一棟などの木造建築にして、長い開発期間をかけて建てるようにすれば地元の職人さんにやってもらえます。また、近くには小学校があり、子ども達には地元の職人さんたちの働く姿を見せることもできます」。(神山つなぐ公社住まいづくり担当・高田友美氏)

地域の職人が地元の材を使って作る

小さな自治体の場合、その中でもっとも大きな発注元が自治体であることはよくある話だ。そのお金を自治体内に循環させず、他地域の会社に払うのは地域の経済にとって得な話ではない。だが、これまでの公共事業の支出の多くはそうした形で行われてきた。発注、工事の監理の楽さなどが優先された結果だろうが、地方がどんどん疲弊していく中、そろそろ見直しが必要だろう。

地元の人が建てるだけではない。使われる木も地元産で、しかも町が購入した。倉庫を見せていただくと最初に建てる4世帯プラス町民に広く開かれた共用施設『鮎喰川コモン』のうちの「まちのリビング・図書室」分の杉、檜が積まれていた。「普通は施工会社が材料を手配、それで建設しますが、そのやり方だと地元産の木を使ってもらえない場合もある。そこで町が買って支給する形にしてあります」。(神山町総務課主事・北山敬典氏)

以前は林業も盛んだったという神山町だが、現在は国内の住宅着工数の減少やプレカット工法の台頭に伴う木材価格の低迷などにより林業の担い手が少なくなったことから、手入れをされないまま放置されている森林も少なくない。その影響で川の水が減る、紅葉しにくきなどの状況が出始めており、今回、町の木を使うことで町民には森林にもう一度目を向けて欲しいという。

言葉で聞くと美しいが、現実的には外材を使うほうが安いケースは多々ある。その点を聞くと、価格だけの問題ではないと北山氏。「地域内で経済を循環させる効果を優先、多少高くても地元の材を使うことで地域に仕事を回し、それによって地域にお金が回る、加えて地域の山に目が向き、山に手が入るようになればと考えています」

出番を待つ神山町産の木材。必要に応じて購入していく計画だ出番を待つ神山町産の木材。必要に応じて購入していく計画だ

100年、200年使える住宅、歴史を尊重した作り方を

写真右手のフェニックスは寄宿舎の中央にあったもの。これを残すだけでなく、館銘板も残してどこかに設置したいとのこと写真右手のフェニックスは寄宿舎の中央にあったもの。これを残すだけでなく、館銘板も残してどこかに設置したいとのこと

人材、木材だけでなく、地元にあるものを使うという意味ではかつてあった中学校の寄宿舎「青雲寮」を解体したコンクリートのガラも現場で小割り、再生砕石として使うという。産廃として捨てるのではなく、利用できる資源は大切に利用したいという取組みだ。「この土地は河川が曲がる内側にあるため、過去に浸水の記録はありません。ですが、より安全性を高めるため、住宅地盤を少しかさ上げする予定で、ガラの一部はそのために使います。サイズによっては歩道の下に詰めて集水トレンチにしたり、道路の路盤材として敷き込むなどの使い方も考えています」。(北山氏)

地中に埋没している基礎は資源として使い、撤去してあえて軟弱な地盤に戻すことはせず、シンボルとなっていた植栽もそのまま残すという計画である。過去に1154名の寮生がここで中学校生活を送ったという寄宿舎の歴史が大事にされていることが分かる。

当然だが、目指すものは100年、200年使える住宅だという。神山の杉を使い、構造の分かる柱を隠さない作り、温かく、環境性能の高い家である。敷地内には木質バイオマスボイラー棟を建設、町内で生産されたペレットを燃料にボイラーから作られた熱を各戸に送る地熱供給システムを構築するとも。

住宅のみならず、敷地内の植栽も長い目で考えられている。町内にある城西高校神山分校の生徒たちが2016年秋から山で地元の樹木の種を集めており、現在、学校の温室で苗として育てられている。それらが住宅を彩ることになるのだ。苗から植えてと考えると緑陰を落とすようになるまでにはかなりの時間がかかるだろうが、住んでいる人はもちろん、関わった生徒たちにも成長を眺めるという楽しみがある。地域の在来種を主軸にした植栽であり、神山らしい景観が生まれてくるはずだ。

川沿いには町の人に広く開かれた空間も

住宅建設のために神山町に居を構え、現地で監理にあたる神山町のあす環境デザイン共同企業体の吉田涼子氏(左)、池辺友香子氏。知らない人にも寛容なまちで住みやすいとお二人住宅建設のために神山町に居を構え、現地で監理にあたる神山町のあす環境デザイン共同企業体の吉田涼子氏(左)、池辺友香子氏。知らない人にも寛容なまちで住みやすいとお二人

神山らしさは間取りにも現れている。建築設計を担当した神山町のあす環境デザイン共同企業体の面々は地元の古い住宅を見学。そこにあった気軽に人を招く文化を伝承するような間取りを基本とした。具体的には南側に大きな庭を設け、土間を介して住宅と繋がるような間取りである。「1階には土間と小上がりを設け、個室はあえて作っていません。多様化する暮らしに対応できるよう、1LDKや2LDKといった間取りに規定されない作りを考えました」。(神山町のあす環境デザイン共同企業体・吉田涼子氏)

デザインでは将来も意識した。「100年、200年後に残り続けられるものと考え、流行りのデザインを持ち込むのではなく、この町の風景に合うデザインを目指しています」。(神山町のあす環境協働企業体・池辺友香子氏)

敷地内に生まれるのは住宅だけではない。川沿いには前述した共用空間「鮎喰川コモン」が建設される。そのうちの「まちのリビング・読書室」は2階建て。1階はまちのリビングと位置づけられる放課後・休日の小中高校生の居場所であり、未就学児と親たちが集える場であり、大人たちが習い事をしたりというような多目的スペース。2階は20数席ほどの読書室になる予定で、川沿いには遊歩道も作られる。また、その先には宿泊・オフィス棟の計画があるとも。

敷地内には町の常識と異なる部分もある。駐車場だ。神山町に限らず、住宅に駐車場を作る場合には家の前に作るのが普通。便利だからだ。だが、ここでは駐車場は住宅エリアの外に住宅とは段差を付けて作られる。子ども達にとっての安全を最優先した結果である。また、まとめて作ることで敷地内に占める道路の面積を減らし、土地を有効利用することにもなるという。

4世帯に11世帯が応募。子育て環境が選ばれている

第1期の説明会は2017年10月に終わり、12月には選考結果を通知した。「説明会では50人分の席を用意したものの、それほどは集まらず。ただ、参加者はほぼ全員申し込むつもりで参加されており、最終的には4世帯に11世帯の応募がありました。町内、県内はもちろん、関西、首都圏からも参加があり、手応えを感じました。2期目は、1期で完成した建物を見ていただけるので、さらに応募が増えそう。子育て環境を重視して応募された方が多かったのが特徴です」。(馬場氏)

今後は単身者の共同生活用2戸、障害者などを意識したバリアフリー仕様2戸なども作られる予定で、いろいろな人に来て欲しいと馬場氏。といっても基本的には子育て世帯が軸となっており、しかも、期限があるのがミソ。高校生以下の子どもがいることが条件になっているのである。これは同じ年代が一時期に入居、そのまま同じように年を取るようなことになることを防ぐため。できれば期限が過ぎても町内に暮らし続けて欲しいというのが本音だろう。

また、これまで町内では生まれ育った家に住み続けるのが基本で、ライフスタイルの変化に応じて住替えるという発想はなかった。この集合住宅を計画、推進していく過程ではその点にも着目した。この住宅を含め、多様な住宅ができることで町内に住み替えという選択肢ができれば、一人暮らし高齢者が手に余る大きな住宅から近隣の、生活に適した住宅に住み替えるという流れも生まれてくるかもしれない。
                     
大埜地は全35世帯の小さな集落で、現在は子どもゼロ。そこに20世帯が新たに入り、文化施設ができる。子どもも一気に増えるだろう。自治会の人たちはその日を楽しみにしているそうである。3年後、殺風景な工事現場が子どもの声の聞こえる賑やかな場になると想像するとワクワクする。

現在の建設地にはガラの山と工事車両があるだけだが、いずれは子どもの声が響く楽しい場所になるはずだ現在の建設地にはガラの山と工事車両があるだけだが、いずれは子どもの声が響く楽しい場所になるはずだ

2018年 01月22日 11時03分