商店街の空き店舗に不用品を集めてリビングルームを作る

リビングルームを作ると、まず集まってくるのが子どもたちだそうだ。そして、大人たちも巻き込まれだすと、いろいろな変化が起きてくる。写真は北本団地でのイベント風景リビングルームを作ると、まず集まってくるのが子どもたちだそうだ。そして、大人たちも巻き込まれだすと、いろいろな変化が起きてくる。写真は北本団地でのイベント風景

地域を舞台に様々な活動を行っている現代美術家、北澤潤さん。満月の夜にだけ地域の空き家がみんなの食卓に変わる「フルムーンダイニング」、団地の空き部屋を客室に変え、自分で作った電力で一晩過ごす「サンセルフホテル」などこれまで行ってきたアートプログラムは各種あるが、そのうちでも数多く展開してきたのが商店街の空き店舗をリビングルームに変え、そこで起こる変化を楽しむ、その名も「リビングルーム」。

その活動を紹介したテレビ番組に感動、自分が住む足立区でもできないかと考えた人がいる。相談を受けた足立区のNPO活動支援センターでは北澤さんを招聘、活動を知り、実際の空き店舗探しまでを体験するプログラムを実施した。

プログラム初回はそもそも、リビングルームとはどのような活動なのかを過去に行われた事例から知ることから始まった。最初に紹介された事例は埼玉県北本市の団地で2015年までの5年間続けられたリビングルーム。「生活の中におもしろいことを、芸術で街おこしを」という注文から北澤さんは北本団地の商店街の空き店舗を借り、そこにカーペットを敷いた。続いてその空間をリビングルームとして設えるためにリヤカーで団地内を巡り、不用品を集めて回る。そこで集めたもので空き店舗をリビングルームに変えていこうというわけだ。

集まってきたものは物々交換できるようにした。ただ交換するだけなく、そこにエピソードや履歴を残すようにした。たとえば「私が鍋と交換した皿は元々、AさんがBさんのコーヒーカップと交換したものだった」「このミシンは持ち主が50年前、団地に住み始めた時から使っていたものらしい」云々。こうすることで、モノのやりとりにコミュニケーションが生まれる。モノの背景を思い浮かべて、ちょっと嬉しくなったりする仕組みだ。さらに集まったモノを活用してイベントを開いたりもした。

集まった不用品を活かしてイベントを開催

ピアノが来たからコンサートをしよう。料理器具が来たから、2日間だけファミリーレストランを開こう。どうせなら、いつも遊びに来ている子どもたちと一緒にウェイター、ウェイトレスをやろう。8ミリ映写機が来たからホームシアターをやろう。イベントにはいつもリビングルームに集まってくる人たち以外も参加、盛り上がったという。

集まったもの、人でやることが決まるから、やることはその場、その場で変わり、リビングルームにあるものも交換に次ぐ交換でどんどん変わっていく。「モノとコト、人がいろいろに絡まりあい、変化する。そんな場が生まれていました」。

住戸の中のリビングルームは生活する場だが、街の中のリビングルームは「生きている空間であり、自分で育てていく、育てられていく有機的な空間」と北澤さん。その変化を通じて、人が繋がったり、街を見る目が変わったりといろいろなことも起こっていたのだろう。自分たちの関わり方で姿を変える空間とその変化の面白さにはまってしまった人も多かったようで、最初は北澤さんひとりの作業だったものが、次第にスタッフが増え、勝手に動くようにもなっていたという。特に子どもたちは非常に関心を持ったようで、場所ができるとすぐにどこからともなく集まり、リビングルーム作りの主役になった。

北本団地に続き、徳島県両国本町、秋田県北秋田市、沖縄県栄町市場とリビングルームはあちこちに出現していく。日本国内だけではない。ネパールでも1カ月間だけ、リビングルームが作られている。「交換という文化のない、余っているモノや空き店舗のない国でどうなるかと思いましたが、最初は衣類、野菜ばかりだったものの、最終的にはネパールらしいリビングルームができました」。

ネパールほど極端ではないにせよ、国内でやっても場所によって集まってくるモノも違えば、人も雰囲気も違うリビングルームができるのは、その街ごとに暮らしそのものが違うということだろう。足立区でこれをやったらどうなるのだろう、北澤さんの話に参加者がわくわくしているのが感じられた。

左上から時計回りに徳島、沖縄、秋田、そしてネパールのリビングルーム。それぞれに異なる雰囲気の空間が生まれている左上から時計回りに徳島、沖縄、秋田、そしてネパールのリビングルーム。それぞれに異なる雰囲気の空間が生まれている

リビングルームの舞台を探しに足立区関原を探訪

地図を示しながら発表。それぞれが関心を持つ物件の多彩さに圧倒される地図を示しながら発表。それぞれが関心を持つ物件の多彩さに圧倒される

さて、では、リビングルームを作るに際して必要なものは何か。北澤さんが挙げたものは「場所、人、そしてお金」の3つ。北本団地では58m2ほどの商店街中央、目立つ場所にあった空き店舗が舞台になった。そこで、足立区のプログラム2回目では、参加者が4つのグループに別れて街を歩き、リビングルームにできそうな空き店舗を探すことに。舞台は足立区中部、細い路地の多い住宅街の中を商店街が南北に貫く下町、関原である。域内には小さな工場や倉庫なども多く、空き家も少なくないと地元の方々。候補は多そうだ。だが、空き店舗ならどれでも良いというわけではない。

人が集まる場というリビングルームの意味を考えると、多くの人が集まりやすい、目につく場所であること、集まっても周囲に迷惑をかけないこと、子どもが集まっても危なくないことなどなど、いくつか気にしなければならないポイントがある。そうした点を考慮、私が参加したCグループはエリア中央にある区の社会福祉協議会などの入った建物周辺、コンビニや銭湯、八百屋などのある通りを重点的に探してみることにした。他のグループも同様に、それぞれに理想の条件を設定、探して歩いたようである。

エリア内を探し歩いた後は街づくりのNPOが管理する「愛恵まちづくり記念館」で中間発表。それぞれのグループが探した候補店舗を地図上で確認、歩きながら撮影した写真を見せあってのプレゼン合戦が行われた。建物の面白さをアピールするグループあり、角地の視認性の良さを良しとするグループあり、スーパー内の空き店舗を提案するグループありと目のつけどころはそれぞれ。いつも見慣れている街を人が集まりやすい場はどこかいう観点で見るだけで、これだけ発見ができると思うと、リビングルーム以前に空き店舗探しが新鮮だった。

地元情報の生き字引に、街を見るノウハウなど、街歩きには発見多数

全員で候補物件を見ながらの帰路。個人的には奥に見える銭湯が気になって仕方がなかったのだが……全員で候補物件を見ながらの帰路。個人的には奥に見える銭湯が気になって仕方がなかったのだが……

プレゼン後はそのうちの物件のいくつかをピックアップ、全員で物件を見ながら帰ることに。そこで驚いたのは、この街に70年以上住んでいるという参加者の情報の深さ。誰かが「この建物は空いているの?」と聞けば「営業は辞めたけれど、持ち主は住んでいる」「こっちの建物は何年前から空いている」と地元ならではの答えが即座に戻ってくるのである。これから地域で何かをやろうという人は、こうした生き字引のような人を探して、協力してもらうのが手かもしれない。

また、空き店舗利用にあたっての北澤さんの視点も興味深かった。参加者が面白いと見つけた空き店舗の隣の空き店舗を見て「どうして、こっちは候補にしなかったの?」とか、「ここは不動産会社が募集をしているから、安く借りるのは難しそう」「目に付く建物だけれど、住居部分があるから実際に使えるスペースは狭くなりそう」などなど、長年街の空間を変えることを意識して、街を見てきた人は他の人とは一味違う視点を持っているように感じた。ひとつの建物がどう使えるかは多方面から考えないといけないわけだ。これも街づくりにあたっては大事な観点だろう。

個人的には関原の変化を如実に感じた。ここは東武伊勢崎線西新井駅周辺で再開発が行われていた時期に何度か歩いたことのある地域で、その当時に比べると、だいぶ空き店舗が増え、道行く人の年齢が上がっている。梅島から関原にかけては区画整理が進み、きれいになったエリアを抜けていくのだが、整備された場所に隣接しているだけに、その差を大きく感じる。とはいえ、以前と同様に安い八百屋あり、食欲を刺激する焼き鳥屋さんの煙あり、さらには新しくできた美味しくて安いお弁当屋さんありと、まだまだ活気は残されている。今後、リビングルームのような試みが街を元気にしていけば面白いと思う。

さて、足立区にリビングルームは誕生するのだろうか?

このイベントで、そしてこれからの活動で舞台となる関原の商店街。昔ながらの店に新しい店も入り混じる、ごく普通の商店街だが、地元では欠かせない存在。今後が楽しみだこのイベントで、そしてこれからの活動で舞台となる関原の商店街。昔ながらの店に新しい店も入り混じる、ごく普通の商店街だが、地元では欠かせない存在。今後が楽しみだ

参加者がピックアップした空き店舗に北澤さんがジャッジを下しながら歩き、戻ってきたのはこの日の集合場所だった東武伊勢崎線梅島駅近くにある足立区の梅田地域学習センター。そこでメンバーはもう一度、北澤さんが「これならできるかも!」と認定した8物件をチェック。充実した成果に満足したものの、今回のプログラムはここまでで終了である。今後はどうなるのか?

リビングルーム実現へのステップで言えば、次は空き店舗の所有者にプロジェクトの概要を伝え、貸してもらえないかという交渉をすることになる。そこで借りられれば、いよいよプロジェクトが開始することになるわけだが、その間には資金を集める作業なども必要になる。場合によっては参加者が自腹で出資することもありうるわけだが、両日のプログラムに参加した人の中には実際のリビングルーム作りまで漕ぎつけたいと考えている人が少なくない様子。足立区NPO活動支援センターでも、やりたい人がいれば可能な限り、バックアップするとのこと。

そこでまずは参加者のフェイスブックページを作るなどして情報を共有、実現に向けてできることから始めてみることに。「アートと経済活動は違う。リビングルームは直接に地域を変えるものではない」と北澤さんは仰るものの、街がいつもとちょっと違う姿に見えてきたり、親近感を持てるようになることで何か、変わるものがあるはず。その変化を体験できることを期待、私もプロジェクトに参加させていただく予定だ。次は足立区にリビングルームが生まれる日をレポートできたらうれしい。乞う、ご期待である。

北澤潤八雲事務所
http://www.junkitazawa.com

リビングルーム
http://www.livingroom.junkitazawa.com

2015年 06月12日 11時06分