熊本地震で“地震に強い丸い家”として注目を集めたドームハウス

▲ジャパンドームハウスの営業本部長を務める篠崎学さんはゼネコンの出身。「ゼネコンの人間からすると、発泡スチロールは所詮断熱材という認識でしたが、実際に耐久実験を行ってみると、“これは構造材として十分ありえる素材だな”と考えが変わりました」▲ジャパンドームハウスの営業本部長を務める篠崎学さんはゼネコンの出身。「ゼネコンの人間からすると、発泡スチロールは所詮断熱材という認識でしたが、実際に耐久実験を行ってみると、“これは構造材として十分ありえる素材だな”と考えが変わりました」

2016年4月に発生した熊本地震のあと、“2度の巨大地震を受けても無傷だった丸いハウス”として話題になったドームハウス。

その耐震性能はもちろんだが、建設業界の概念を覆す発泡ポリスチレン造、つまり、構造体が軽量の発泡スチロールでできているという点も世間の注目を集めるところとなった。

前回のレポートでは、被災地・熊本県阿蘇郡南阿蘇村の避難施設として利用されている阿蘇ファームランドのドーム型ホテルを取材したが、今回はドームハウス建材メーカーであるジャパンドームハウス(本社:石川県加賀市)を訪れ、担当者に『発泡スチロールでできた丸い家』の開発秘話を聞いた。
※関連記事/熊本地震の被災者を支える阿蘇ファームランド~発泡スチロールでできた防災住宅①

社長念願の“丸い家”、発泡ポリスチレン造のヒントはお菓子の内箱にあった!

▲阿蘇ファームランド内の宿泊施設『阿蘇ファームヴィレッジ』にあるドーム型ホテル。そのユニークな形状は以前から注目を集めていたが、熊本地震の際には全450棟が無傷だったことから、防災住宅として様々なメディアに取り上げられるようになった▲阿蘇ファームランド内の宿泊施設『阿蘇ファームヴィレッジ』にあるドーム型ホテル。そのユニークな形状は以前から注目を集めていたが、熊本地震の際には全450棟が無傷だったことから、防災住宅として様々なメディアに取り上げられるようになった

「当社代表の北川は、もともと石川県で菓子の製造販売会社を一代で築いた人物。全国の菓子メーカーのOEM生産を行っていたため、箱菓子や土産菓子を大量に作る技術を持っていました。

お菓子の大量生産を行う中で、“いつかお菓子の家を作ってみたい。おまんじゅうの中のあんこをくりぬいたようなまぁるい部屋に住めたら楽しいだろうな”という夢を抱くようになり、『丸い家づくり』の構想がはじまりました」と篠崎さん。

最初はいろいろな建設会社に依頼し、「木造にするか?鉄筋コンクリートにするか?」と検討を重ねたが、結果的には「コストがかかるし構造的に難しい」という結論に至ったという。

「諦めかけていたところ、ふと代表の目に留まったのが経木(きょうぎ)と呼ばれるお菓子の内箱でした。菓子の仕切りに使われる経木は、昔は薄い木材でできていましたが、現在は発泡スチロール製のものが使われています。“では、経木と同じように発泡スチロールで金型を造ってしまえば、簡単に『丸い家』ができるのではないか?”というアイデアから、構造体に発泡スチロールを使ったドームハウスづくりがスタートし、まずはグループ企業である熊本の阿蘇ファームランドの宿泊施設として、国立公園の景観と大自然に適したコテージ型宿泊施設のドームハウスを建設したのです」(篠崎さん談)。

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ドームハウスが建築基準法をクリアして国土交通省の大臣認定を取るまでには約6年の歳月がかかった。平成16年にジャパンドームハウス株式会社を設立、現在は北海道から沖縄まで全国で1000棟以上を展開している。

「大臣認定の取得に時間がかかったのは、“発泡スチロールでつくる家には前例がないから”という理由でした。“はたして発泡スチロールが建物の構造体になりうるのか?”という疑問から入っていくため、大学教授や建築士の先生方の協力を仰ぎながらひとつひとつ疑問を肯定していくことから始めました。

私自身も何度か大臣認定作業に携わったのですが、途中で心が折れそうになるぐらいの作業量と研究費用がかかりましたね(笑)。ただ、当社代表の“丸い家をつくりたい”という熱い信念は私たちスタッフにも痛いほど伝わってきましたから、その熱意がエネルギーとなって達成できたようなものだと思います」(篠崎さん談)。

地震だけでなく、台風にも強い!無限の可能性を秘める発泡スチロール建材

ドームハウスで使用している特殊な発泡スチロールは、普段わたしたちが魚屋などで見かける保冷箱とは違って、実際に触ってみると軽いのに驚くほど固い。篠崎さんによると、市販の発泡スチロールの発泡倍率が50~60倍なのに対し、ドームハウスの発泡スチロールは20倍に抑えられているため、ひとつひとつの粒が小さく、密度が高く、固くなるのだという。

「発泡スチロールの可能性はまだまだ未知数で、“無限の素材”とも言われています。車の重量に相当する砂袋を載せてもまったくつぶれませんし、南極の昭和基地に持っていかれた発泡スチロールが40年経っても、腐ったり、カビたり、塩害の影響を受けることなく原型のまま戻ってきたというエピソードもあるぐらいですから、経年劣化しにくい素材なのです。

弱点を挙げるとするなら…紫外線ですね。ただし、紫外線に当たらないように外壁を施し塗り替えを定期的に行えば、躯体のメンテナンスはほとんど不要です」(篠崎さん談)

構造パーツは1枚約80kg。10ピースのパーツを組み合わせると1棟あたりわずか約800kgという軽さだ。しかし、“軽い”ということは台風の影響が心配だが、その点はどうなのだろうか?

「最初のドームハウスを建設してからすでに15年が経過していますが、これまで台風被害の報告は受けていません。丸いドームの表面を流れるようにして風が通り抜けていくので、そもそも強風の影響を受けにくい構造になっています。

基礎の上に、内側に返しをつけてL字型に成形した発泡スチロールのパーツを配置し、その上からコンクリートの土間を打つことで建物全体を押さえているため、台風のような強風にもしっかりと耐えます。また、土間コンクリートで建物を固定することによって、地震が発生したときには地面と一緒に建物が揺れて、地震動によるダメージを受けにくくなります。
ここに、“ドームハウスが災害に強い”と言われる秘密があります」(篠崎さん談)。

▲ドームハウスに使われている厚さ20センチの発泡スチロールの壁面パーツ(左上写真)。<br />これだけの厚みの発泡スチロールを構造体として使っているため外気の影響を受けにくく<br />室内の冷気や暖気を逃がさない高い断熱性も認められている。建物の基礎とドームはアンカーボルト等で固定するのではなく、<br />L字型になったパーツの上にコンクリートの土間を打つことで躯体ががっしりと留められている点も特徴だ(右上写真)<br />▲ドームハウスに使われている厚さ20センチの発泡スチロールの壁面パーツ(左上写真)。
これだけの厚みの発泡スチロールを構造体として使っているため外気の影響を受けにくく
室内の冷気や暖気を逃がさない高い断熱性も認められている。建物の基礎とドームはアンカーボルト等で固定するのではなく、
L字型になったパーツの上にコンクリートの土間を打つことで躯体ががっしりと留められている点も特徴だ(右上写真)

約1ヶ月~1ヵ月半の工期で完成、1棟あたりの施工費は約700万円から

『超軽量・断熱性・防災性』に加えて、もうひとつ、ドームハウスの特徴に挙げられるのが『工期の短さ』さだ。

「パネル化されていて軽量なので大型の重機は必要ありません。大人4人ぐらいが集まればわずか1日でドームを組み立てることができます。全体の工期としては、水まわりの工事を入れても1ヵ月~1ヵ月半。木造住宅の工期が最短でも3ヶ月程度であることを考えると、半分ぐらいの工期で建てられるわけですから、スピード感が求められる被災地の仮設住宅等にも適しています。

1棟あたりの価格は約700万円から。坪単価にすると60万~70万ぐらいなので決して安くはないものの、耐震性・断熱性などの性能に加え、店舗の場合はドーム型の建物自体が広告塔としての役割を果たすところなど、付加価値を含めて評価していただいています。

壁が曲面になっているので収納スペースに制約が出てしまう点は今後の課題なのですが、“曲面のスペースをどうやって使うか?”をお客様と一緒に考えることもドームハウスづくりの面白さだと思います。

バリエーションを増やしていくには、またひとつひとつ認可を受ける作業が必要になります。今後は東京ドームのような巨大なドームハウスを造るとか、鏡餅のように重ねて2階建てのドームハウスを造るとか、ゆくゆくは丸い形ではなく四角い形のマンションを建設するなど、発泡スチロール建材でいろいろな建物を造っていきたいですね(笑)」(篠崎さん談)。

▲金型でパネルを製造するため、理論的には無限の展開が可能。<br />ドア・窓・天窓・壁などのパーツを組み合わせていくと何千通りものパターンが存在する。<br />現在はおまんじゅうのような丸いドーム型、かまぼこのようなアーチ型など様々な形状があり、<br />その用途はホテル・住宅に限らず、店舗・幼稚園・教会・農業用ハウス・公共施設と多岐に渡る。<br />※写真はすべてジャパンドームハウス本社にあるモデルハウス▲金型でパネルを製造するため、理論的には無限の展開が可能。
ドア・窓・天窓・壁などのパーツを組み合わせていくと何千通りものパターンが存在する。
現在はおまんじゅうのような丸いドーム型、かまぼこのようなアーチ型など様々な形状があり、
その用途はホテル・住宅に限らず、店舗・幼稚園・教会・農業用ハウス・公共施設と多岐に渡る。
※写真はすべてジャパンドームハウス本社にあるモデルハウス

小型避難施設や農業用施設としても普及促進を目指す

▲独特の丸い形状のおかげで室内の空気が常時対流するため、空気循環がスムーズに行える点もドームハウスの特徴。温度・湿度のコントロールが低コストで可能となる。「日本よりも気象条件が激しい中東や東南アジアでは、植物プラントや水耕栽培など農業建屋としての活用ニーズが高まっています。現在、アグリカルチャー事業分野の研究を大学の研究施設と一緒に進めています」と篠崎さん▲独特の丸い形状のおかげで室内の空気が常時対流するため、空気循環がスムーズに行える点もドームハウスの特徴。温度・湿度のコントロールが低コストで可能となる。「日本よりも気象条件が激しい中東や東南アジアでは、植物プラントや水耕栽培など農業建屋としての活用ニーズが高まっています。現在、アグリカルチャー事業分野の研究を大学の研究施設と一緒に進めています」と篠崎さん

「熊本地震では、阿蘇ファームランド内のレストラン棟など他の施設は壊滅的だったのに、ドームハウスに宿泊していたお客様約200名の方はひとりもお怪我をされることがありませんでした。

中には地震の発生に気付かず“そんなに大きな地震があったの?”とスタッフにたずねるお客様もいらっしゃったそうです。

そういうエピソードが多くのメディアに取り上げられたこともあって、特に熊本県の被災者の方からの問い合わせが増えています。

“耐震性に関しては絶対的に自信があります”ということは以前からPRしていたのですが、結果的には熊本地震によってそれが証明されるような形になりました。

実は、東日本大震災のときも熊本地震のときも、ドーム型仮設住宅の建設を提案したのですが、残念ながら前例がないということで許可が下りなかったため、当社では被災地支援の一環として仮設診療所の建設などをお手伝いさせていただきました。今後は防災性能を生かして小型のドームシェルターや簡易避難施設として認められるように研究を重ねていきたいと考えています」(篠崎さん談)。

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「熊本地震のことでドームハウスが注目を集めるようになったからこそ、これからも安心できる住宅を提供していきたいですね」と篠崎さん。

建設業界の概念を覆す『発泡スチロールでできた丸い家』は、開発担当者の熱意とともに着実に進化を続けている。いつか近い将来、日本の住宅地の風景が“丸いドームが並ぶ街並み”へと変わる時がやってくるかもしれない。

■取材協力/ジャパンドームハウス
http://www.dome-house.jp/index2.html

2016年 11月13日 11時00分