平成最後の年、神の都・伊勢に、8体の小さな建築をつくる

建築や芸術、環境デザインを学ぶ学生たちがキャンパスを離れ、初対面同士でチームをつくって実作品をつくりあげる「建築学生ワークショップ」。NPO法人アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)の主催で2001年度から開催されてきた。

2010度からは、平城宮跡、竹生島、高野山明日香村比叡山という特別な場所を舞台とし、「聖地ワークショップ」とも呼ばれている。平成最後の年の舞台は伊勢、テーマは「今、建築の、原初の、聖地から」。伊勢神宮の外宮周辺に、全国から集まった8班40名の学生たちによる8体の小さな建築(フォリー)が出現した。

6月23日に最初の現地調査を行ってから約3ヶ月。学生たちは、コンセプトづくり、エスキース、中間発表と、そのたびごとに第一線の建築家や構造家、評論家らによる講評を受け、計画を練り上げてきた。8月28日からはいよいよ6泊7日の合宿に入り、フォリーの制作に取り組んだ。その成果を披露する、9月2日の公開プレゼンテーションを取材してきた。

いせシティプラザで行われた公開プレゼンテーションの様子 </br>photo@Satoshi Shigetaいせシティプラザで行われた公開プレゼンテーションの様子
photo@Satoshi Shigeta

角材と糸、竹と布、和紙と竹。素材の選択にも工夫を凝らす

公開プレゼンテーションの各班の持ち時間は20分。まず班長が5分程度で発表を行い、残り時間は講評と質疑応答に充てられた。

1班が掲げたタイトルは「支え続け、変わり続ける」。変化によってこそ継承されてきた、伊勢の信仰と自然を表現しようと試みた。完成したフォリーは、ひとつひとつ角度の異なる長さ4mの角材10本と、それを支える短い角材9本で構成されている。角材と地面の間に無数の糸が張られ、角材の強さと糸のはかなさの対比が鮮明だ。

発表者は角材のみで構造が成立していると説明し、講評でも糸が構造がかかわっていない点が惜しいとされた。しかし、構造家は「たまたまかもしれないが、糸も力学的に絶妙に関与している」と指摘。「そこをきちんと見付けなければいけない」と注文を付けた。

2班のテーマは「ケをハレ」。与えられた敷地は、伊勢神宮バス乗り場の三角広場の角という、人目に付く場所だ。そこで、見る時間帯によって角度によって、異なる現象を生むフォリーを目指した。V字に組んだ竹のユニットを組み合わせ、そこに撥水加工を施したオーガンジーを張る。揺れ動く竹、光を透かす布が繊細だ。

講師陣からは「完成しないだろうと思っていた」という声も挙がった、難易度の高いフォリー。オーガンジーの膜に水を流そうと目論んだが、布の寸法から多量の水を溜めることは断念したそうだ。半透明の膜に絡む水滴の光が美しく、「目が覚めたら突然現れたような、ある種の祝祭性が感じられる」という評価を得た。

3班は「あひだ」。神宮の杜に隣接する北御門広場に設置された5つのフォリーの中央に位置する。伊勢和紙の短冊と竹ひごを編んで成形したユニットを組み合わせ、形態の異なる2つの立体を立ち上げた。伊勢のランドスケープを表現したかったという。

和紙と竹を使う発想は評価されたが、施工の完成度には難を指摘された。強風の影響か、立体のひとつがつぶれるアクシデントもあったようだ。講評者からは「竹や和紙をもっと細くするべきだったのでは」「和紙をこよりにして縄をない、二見浦の夫婦岩を模してもよかったのでは」などの改善案が出た。

4班のフォリーは万物に宿る霊魂“アニマ”に形を与える「アニマの骨格」。10.5cm角の木材のみを用い、互いにねじったり交差させたりして構造体をかたちづくった。頂部は神社の「千木」を模し、脚部は鳥居のようでもある。現場では足元の一部を浮かせる試みにも成功した。

角材の構造体は「骨格」のタイトルにふさわしいが、「繊細さに欠け、緊張感がない。浮いていることが不思議に見えない」という辛口評も。「曲げるという観点からはケヤキやヒノキといった樹種を選べるとよかった」というアドバイスもあったが、予算面から杉材を使わざるを得なかったそうだ。

(左上)1班「支え続け、変わり続ける」(右上)2班「ケをハレ」</br>
(左下)3班「あひだ」(右下)4班「アニマの骨格」</br>
photo@Satoshi Shigeta
(左上)1班「支え続け、変わり続ける」(右上)2班「ケをハレ」
(左下)3班「あひだ」(右下)4班「アニマの骨格」
photo@Satoshi Shigeta

絶妙のバランスを模索し、浮遊感あるユニークな造形を実現したフォリー群

5班のタイトルは「届きそうで届かない」。伊勢神宮の神聖性から受ける印象を表現した。フォリーは木の格子から垂れる10本のカテナリー曲線(重力による懸垂線)で構成される。10本のうち3本で格子を支えており、残る7本はただ垂れ下がっているだけだ。その違いが見た目では分からないため、格子が宙に浮いているように見える。

単純明快な造形でありながら見て驚きがあり、触って構造が分かる体験もおもしろい。講評もおおむね好意的だった。ただ、「もう少し高さがあるともっと良かった」という意見も。また、屋根形状の意味が分かりにくい、タイトルと形態が結び付かないという評価も聞かれた。

6班は「サイクル」。伊勢神宮で日ごと、年ごと、式年ごとに繰り返す祈りの精神の継承を目指す。神宮の石に着目し、縄につながれた細い木材を、石による緊張のみで自立させるフォリーだ。細い縄に編み込まれた石が宙に浮く様子が印象深い。川で拾い集めてきた石を、解体後、また川に戻すサイクルまで考えられている。

講評では、宙に浮く石に対して地面に置かれた石の量が多すぎる点に指摘が集まった。地面に対して木材が立つ角度が垂直に近く、石と縄の緊張感が薄れたのも残念な点だ。いっぽうで、伊勢らしい素材の選択や微妙な力学を成り立たせた努力が評価された。

7班「伝承によって伝わるもの」は、8体の中で最も神宮参道に近い敷地を与えられた。「一日限りの建築なので、構造の極限を目指した」という。内宮と外宮を表現した2つの鳥居状の合板が、ぐにゃりと曲がりながら支え合って立つ。周囲に5色の糸を張り、8体の中で唯一色彩を使っている点も目立った。

講評では、内宮と外宮の軸線を示すはずの鳥居が、互いに曲がっているために意味が分かりにくくなったこと、逆に鳥居の形状が直接的過ぎることなどが批判された。一方で、真摯にスタディを重ねた姿勢、完成したフォルムとディテールの美しさが髙評価を受けた。

八班の「kidzuki」は伊勢の左官に学び、土を突き固める「版築」という技術に挑戦した。色合いの異なる3種類の土を35袋、計500kgを作業場に搬入し、人手で運べる重さのブロックに成形。合宿中の4日間でつくれる45個を積み重ね、流れるような造形をつくった。未来を暗示するため、一部のブロックの端部を宙に浮かせたのも工夫点だ。

何よりもまず「版築」という技術的にも時間的にも難度の高い手法に挑んだこと自体が評価されたようだ。ただ「施工の限界がそのまま造形の限界を決めてしまった」と残念がる声も。「まるで神事のようで、この場にふさわしい。いっそ白い衣装で行ったらおもしろかったのでは」という意見も飛び出した。

(左上)5班「届きそうで届かない」(右上)6班「サイクル」</br>
(左下)7班「伝承によって伝わるもの」(右下)8班「kidzuki」</br>
photo@Satoshi Shigeta(左上)5班「届きそうで届かない」(右上)6班「サイクル」
(左下)7班「伝承によって伝わるもの」(右下)8班「kidzuki」
photo@Satoshi Shigeta

レベルの高い作品が揃った中、「届きそうで届かない」が最優秀賞に輝く

最優秀に輝いた5班の表彰式の様子。伊勢のゆるキャラも駆けつけた photo@Satoshi Shigeta最優秀に輝いた5班の表彰式の様子。伊勢のゆるキャラも駆けつけた photo@Satoshi Shigeta

プレゼン終了後には講評者による投票が行われ、最優秀賞に5班「届きそうで届かない」、優秀賞に7班「伝承によって伝わるもの」、特別賞に2班「ケをハレ」が選ばれた。

個々の講評者からは選に漏れた作品を推す声も聞かれ、いずれも甲乙付けがたい出来栄えだったといえる。例年と比較しても、レベルが高く粒揃いだという感想もあった。ただ、少し残念に感じられたのは「建築」のはずなのに「中に入ってみたい」と思わせる作品が少なかったことだ。

8班それぞれに素材選び、構造の手法に工夫が凝らされ、見学者としてもおおいに楽しめた。これから学生たちがつくっていくであろう、建築の未来に期待を感じる一日だった。

取材協力:建築学生ワークショップ伊勢2018 http://ws.aaf.ac/

2018年 09月29日 11時00分