建築学生ワークショップ明日香村2016

国内外で建築や芸術、環境デザインを学ぶ学生たちによる『建築学生ワークショップ』の公開プレゼンテーションが、奈良県高市郡明日香村の『国営飛鳥歴史公園 キトラ古墳周辺地区』で行われた。この『建築学生ワークショップ』は、芸術や建築文化の振興に関する事業を行うNPO法人・アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)が主催する企画だ。

学生たちが通い慣れた大学のキャンパスを離れ、プロの建築家・大学教授等を中心とした16名の専門家(講評者)たちの指導を受けながら、8つのグループに分かれてフォリーと呼ばれる装飾用の小さな建造物をつくりあげていく…この企画は、2001年度から主に関西地区を中心にして実施されており、特に2010年からは会場となる地域との共同開催を行うことで、人とまちと建築芸術を結びつける新しい地域活性イベントとしても注目を集めている。

建築家を目指す学生たちが、このワークショップで学び、得たものは何だったのか?2016年9月4日に開催された公開プレゼンテーションを取材した。

▲今年の会場となったのは、“日本の心の故郷”と称される奈良県の明日香村。<br />7世紀末から8世紀初め頃につくられたとされる円墳『キトラ古墳』を周辺の自然環境や田園景観とあわせて一体的に保全し、<br />飛鳥の歴史・風土・文化を楽しめるように整備された約13.8ヘクタールの公園、<br />『国営飛鳥歴史公園 キトラ古墳周辺地区』が2016年9月24日に開園するため、<br />そのプレオープンイベントとして公開プレゼンテーションが行われた。<br />これまでにも、奈良県『平城宮跡』、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ『竹生島』、<br />和歌山県高野山の『金剛峯寺』など世界文化遺産や名勝史跡を会場としてきたが、<br />今回は特別史跡である『キトラ古墳』と明日香村の地域の歴史へのオマージュを<br />建築作品として表現することが学生たちの課題だ▲今年の会場となったのは、“日本の心の故郷”と称される奈良県の明日香村。
7世紀末から8世紀初め頃につくられたとされる円墳『キトラ古墳』を周辺の自然環境や田園景観とあわせて一体的に保全し、
飛鳥の歴史・風土・文化を楽しめるように整備された約13.8ヘクタールの公園、
『国営飛鳥歴史公園 キトラ古墳周辺地区』が2016年9月24日に開園するため、
そのプレオープンイベントとして公開プレゼンテーションが行われた。
これまでにも、奈良県『平城宮跡』、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ『竹生島』、
和歌山県高野山の『金剛峯寺』など世界文化遺産や名勝史跡を会場としてきたが、
今回は特別史跡である『キトラ古墳』と明日香村の地域の歴史へのオマージュを
建築作品として表現することが学生たちの課題だ

大学の垣根を越えた仲間たちと約2ヶ月に渡って“初めての共同作業”

▲美しい芝生が広がる公園内の8箇所に、8つのグループのフォリーが展示された。プレゼンテーション当日は、多くの見学者を前にリーダーが作品の特徴についてプレゼンを行う。『作品の仕上がり』だけでなく、『プレゼンの上手さ』についても注目が集まった。審査員であるプロの建築家からは鋭い質問が飛んでくるので、いかに的確にその質問に答えることができるのか?学生たちは一瞬たりとも気が抜けない▲美しい芝生が広がる公園内の8箇所に、8つのグループのフォリーが展示された。プレゼンテーション当日は、多くの見学者を前にリーダーが作品の特徴についてプレゼンを行う。『作品の仕上がり』だけでなく、『プレゼンの上手さ』についても注目が集まった。審査員であるプロの建築家からは鋭い質問が飛んでくるので、いかに的確にその質問に答えることができるのか?学生たちは一瞬たりとも気が抜けない

2016年春からの公募を受け、国内外から集まった学生は40名。5月には東京大学・京都大学で基調講演が行われ、7月には会場となる奈良・明日香村へ参加学生が集結。現地説明会と地域調査が実施された。

40名の学生たちは、大学や専門分野の垣根を越えて8つのグループに振り分けられた。通常、学内では一人で設計課題に取り組んでいるため、多くの学生たちにとって今回のワークショップは“初めての共同作業”だ。

キトラ古墳をはじめ、高松塚古墳や石舞台古墳など数々の遺跡や史跡が発掘されている明日香村は、明日香村景観条例・明日香村特別措置法・明日香村風致地区条例等によって歴史的風土の保存が行われており、村内の一棟でも景観を乱すことは許されない特殊な地域。つまりどんなに時代が変化しようと、“これまでも、これからも、凍結が義務付けられた村”である。そうした地域の風土を理解した上で、地域住民にとって何が必要か?地域環境に何が大切か?という手段や方法を検討し、具体的な制作構想をグループの5人のメンバーと一緒に練っていく。

自分の意図することを上手く仲間に伝えられず悩む学生や、目指すべき方向性を途中で見失ったグループ、リーダーとサブリーダーの確執など、実社会でもごく当たり前に起こりがちなトラブルが学生たちに襲いかかり、プレゼンまでの2ヶ月の間に激しく議論することや涙することもたびたびあったという。

このワークショップで学生たちが学ぶべきことのひとつが『グループ内のトラブルを解決し、一丸となって目標に向かい進んでいくチームワークの重要性』なのだ。

雨も降れば、風も吹く……数々の困難は学生たちにとって貴重な体験に

公開プレゼンテーションが行われる5日前から、学生たちは明日香村に合宿滞在しフォリーの制作に取りかかった。中間発表を経て合宿にたどり着くまでにも、講評者からのアドバイスを受けた作品は何度もデザインや素材が変わっており、当初のプランの原型を留めていないものがほとんどだった。

また、実際に屋外で作業を行っていると、雨も降れば風も吹く。中には公開プレゼンテーションの朝、見学者を出迎える直前に強風を受けてバラバラと崩れ落ちた作品もあり、そのグループは急遽突貫でフォリーを組み立て直す作業に追われることになった。

午後からは各グループごとに持ち時間20分の公開プレゼンテーションを行い、作品に使用した素材の特徴や、提案から完成までの間に起こったデザインの変化、そして、その作品を通じて表現したかったことについての詳細が発表された。このとき、主催者側の取り決めで“プレゼンの台本は一切なし、その場で自分の想いをフリートークすること”というルールが統一されていたため、決して流暢ではないものの学生たちの素朴な言葉で素直な気持ちが述べられ、この2ヶ月、彼らがいかに悩み葛藤し成長してきたかをストレートに窺うことができた。

▲キトラ古墳を眺める芝生の広場に展示された作品たち。<br />上段左から:1班『変わるモノ/変わらないモノ』、6班『ウタヨミ』、4班『水のささらぎ』。<br />下段左から:3班『あっちもこっちこっちもあっち』、5班『NOROSHI』▲キトラ古墳を眺める芝生の広場に展示された作品たち。
上段左から:1班『変わるモノ/変わらないモノ』、6班『ウタヨミ』、4班『水のささらぎ』。
下段左から:3班『あっちもこっちこっちもあっち』、5班『NOROSHI』

デザインには説得力だけでなくプレジャーやハッピーが必要

そして、いよいよ審査結果の発表だ。

最優秀賞に選ばれたのは、『揺れ動く中でみえるモノ』をテーマに、竹材と糸を使って螺旋状のフォリーを制作した2班の作品。

「螺旋は太古から受け継がれた明日香村の時空の流れ、螺旋を留める糸は歴史の中で起こった出来事を表しています」という持井英敏班長(京都工芸繊維大学大学院修士1年ほか4名)のプレゼンを受け、審査を行った講評者からも「重量感のあるキトラ古墳と、はかなげに揺れる螺旋型のフォリーの対比がとても面白い」との高い評価を集めた。

また、優秀賞は8班(西村俊貴班長/東京大学大学院修士1年ほか4名)の『生きる者、生きた者』。全長200mの縄を使って明日香村の人々の生の集積を表し、「その延長線上に今の自分たちがいる」とダイナミックに時のつながりを表現したこの作品は、当初から講評者の注目を集めていた。

特別賞は7班(山崎ひかり班長/千葉大学大学院修士1年ほか4名)の『時をつむぐ場所』。2枚の布と柱を使い、吹き上げと吹きおろしの風によって布がはためく様子を“飛鳥から続くものと確定していない現代”として表現。「説得ではなく共感が得られる作品。デザインには、こういうプレジャーやハッピーが必要だ」との評価が挙がっていた。

▲上:最優秀賞に輝いた2班の作品『揺れ動く中でみえるモノ』。<br />下左:優秀賞は8班の『生きる者、生きた者』。下右:特別賞は7班『時をつむぐ場所』▲上:最優秀賞に輝いた2班の作品『揺れ動く中でみえるモノ』。
下左:優秀賞は8班の『生きる者、生きた者』。下右:特別賞は7班『時をつむぐ場所』

このワークショップの最大の成果は「失敗したこと」

▲建築関係者やサポート企業関係者、アドバイザー、そして地元の人たちが見守る中で行われた公開プレゼンテーション。表彰式では入賞したグループに巨大な吉野杉のトロフィーが授与された▲建築関係者やサポート企業関係者、アドバイザー、そして地元の人たちが見守る中で行われた公開プレゼンテーション。表彰式では入賞したグループに巨大な吉野杉のトロフィーが授与された

こうして、『建築学生ワークショップ 明日香村2016』公開ワークショップの長い一日は幕を閉じた。
審査発表後の総評では講評者から学生たちに向けて
「このワークショップの最大の成果は、君たちが“失敗をしたこと”にある。建築は一人でつくるものではなく、材料、ディティール、そして、いろんな人たちの知恵を借りながらひとつの作品をつくりあげていくもの。今回のワークショップのような経験は、大学の研究室ではなかなかできないことなので、これからもたくさんの失敗を繰り返しながら、立派な建築家・構造設計家を目指してほしい」とエールが送られた。

40名の学生たちの中から、日本の未来の景観づくりを担う著名な建築家がいったい何人誕生するのか……彼らの将来が実に楽しみである。

■取材協力/NPO法人・アートアンドアーキテクトフェスタ
http://www.aaf.ac/

2016年 09月26日 11時06分