時代を変えるのは、いつだって「若手」だ

そんなキャッチフレーズで、35歳以下の若手建築家による建築の展覧会「Under 35 Architects exhibition2016」(略称U-35)を主催するのは、特定非営利活動法人アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)。U-35の開催は7年目となり、今年は10月14日から17日間、大阪駅北口前のうめきたシップホールで行われた。
これからの活躍が期待される若手建築家に発表の機会を提供し、日本の建築の可能性を提示していくのが狙い。会期中は毎日、関連する建築団体や企業によるコンペティションやワークショップ、出展者や関西で活躍する建築家によるレクチャーなども開催され、多くの入場者が訪れた。

U-35では、全国から出展候補者を公募し、厳正な審査を経て最優秀作品に「Gold Medal賞」を授与する。
今年、出展候補者の審査にあたったのは五十嵐淳氏。1970年北海道生まれで、97年に五十嵐建築設計事務所を設立。「ド派手な服装や歯に衣着せぬ物言いなど、やんちゃな人物像で知られる」と同世代の建築家、吉村靖孝氏が評している(「U-35展覧会オペレーションブック2016」)。
五十嵐氏が選んだのは、川嶋洋平氏、小引寛也氏+石川典貴氏、酒井亮憲氏、竹鼻良文氏、前嶋章太郎氏、松本光索氏の6組。

U-35には、若手建築家や建築を学ぶ学生たちがたくさん集り、にぎわっていたU-35には、若手建築家や建築を学ぶ学生たちがたくさん集り、にぎわっていた

建築の思想を言語化するのに苦労する若手たち

10月15日、グランフロント大阪北館ナレッジキャピタルのナレッジシアターで、U-35の記念シンポジウムが行われた。
6組の若手建築家たちが定員381人のホールに立ち、出展作品のプレゼンテーションを行う。みな1980年代前半に生まれ、大学院進学や設計事務所勤務、海外留学などを経てこの数年のうちに独立している。
出展作品の魅力や特徴、自分の思いを伝えるのに、どこかもどかしさが見え隠れする。緊張しているからだろうか。

川嶋氏は、“都市と空間の関係性”を問い、小引氏と石川氏は、“東日本大震災後の建築のあり方”を提起。
酒井氏は、“人が日常的に集う場所のありよう”を形にし、竹鼻氏は“建築とは違う多分野の力を使う”試みを行った。
前嶋氏は、建築の中に込めた“原風景”を大切に扱い、松本氏は建築家自身が施主と暮らして“体感したスケール感”を設計に生かした。
何にこだわり、それをどう建築作品に落とし込んだのか、視点も手法も多種多様だ。

実際に若手建築家の生の声が聞ける展覧会場では、来場者と熱心なやりとりが交わされた実際に若手建築家の生の声が聞ける展覧会場では、来場者と熱心なやりとりが交わされた

同じ生業に生きているからこそ発せられる容赦ない指摘

記念シンポジウムでは、審査員の五十嵐淳氏ほか石上純也氏、平田晃久氏、平沼孝啓氏ら、U-35の出展者たちより一回り年上の建築家も登壇した。
それぞれ「自分の処女作品」を発表しながら、若い時代の苦労や工夫を話す。そこから出発し、それぞれが歩んできた道の確かさ。建築家としての35歳前後は、その後を決める重要なスタート地点でありそうだ。

最後に、これらのゲスト建築家と出展者6組が壇上に並び、大阪市立大学准教授の倉方俊輔氏(建築史家、ADAN機関誌「建築設計」編集長)がファシリテーターを務めるトークセッションに移る。
「どういう思いで作ったか、見えてこない」
「これは建築でなくインテリアではないのか」
「プレゼンの言葉の使い方が正確でない」
「もっと自分の言葉でコンセプトを提案して」
「今どきのおしゃれリノベーションのようだ」
出展者の作品やプレゼンテーションに対して、先輩建築家の舌鋒は極めて鋭く、辛辣だ。

客席から眺めていると、そんなに言われたら凹むのでは?と心配する一方、上司でもない、同じ会社に属してもいない、独立開業しているという点ではライバルでもあるはずの建築家たちから、率直で真摯な「建築作品」への指摘を受ける。なかなか得難い経験だろう。
出展者の一人、竹鼻氏は、「U-35に選出されて自分の建築作品を展示したことより、今、こうして先輩たちから言われて、今すべきことはもっと自分を見ないといけないことと気付かされた」と答えている。

12人の建築家がずらりと並んだ風景は圧巻。自由闊達な意見が交換された12人の建築家がずらりと並んだ風景は圧巻。自由闊達な意見が交換された

建築家に必要はものは建築設計に対する執着心や愛着、愛ではないのか

「設計途中で努力したことはわかるが、最終的なアウトプット(=建築物)に人が集まる、人が感動するということが抜けているのではないか」
「具体的に建築に落とし込んだ結果、そこが本当に居心地のよい空間になっているか」
「建築家自身が、建築作品に対してもっと言語化できないとだめだ」
「プロジェクトとして閉じている。もっと建築は開かれているべきではないか」
本質を突く先輩建築家たちの指摘と、それに対応する出展者とのやりとりに、会場の参加者も巻き込まれていく。

4時間以上に及ぶプレゼンテーションやトークセッションを経た後、酒井亮憲(さかいあきのり)さんにGold Medal賞が授与された。
審査委員長の五十嵐氏がこう講評する。
「建築家にとっての本質は、建築設計に対する愛着であり、執着心であり、愛に現れているのではないでしょうか。出展者のどの作品にも、こだわった部分や一定の執着心は見られますが、最終的にはそれを削ぎ落としてしまったり、さらりとしすぎたりしています。酒井さんは、建築家として言語化できていない未熟さをもちつつ、ものに対する執着や愛を最も強く感じました」

全国公募を経てファイナリスト6組の頂点、Gold Medal賞は、プロテスタントの礼拝堂を設計した酒井亮憲さんに全国公募を経てファイナリスト6組の頂点、Gold Medal賞は、プロテスタントの礼拝堂を設計した酒井亮憲さんに

遅咲きの職種だが、次代を拓く建築家であれ

Gold Medal賞を受賞した酒井さん。施主とは15年にわたっていろいろな設計に携わり、礼拝堂の新築を手がけたGold Medal賞を受賞した酒井さん。施主とは15年にわたっていろいろな設計に携わり、礼拝堂の新築を手がけた

酒井氏は、美術教師をする傍らキリスト教会の牧師を務める施主と、15年にも及ぶ付き合いを続けており、80人ほどが集まる礼拝堂を設計した。「単に宗教的な祈りの場所としてだけでなく、地域の人が多様な目的で日常的に“集う場所”として設計を工夫しました」と話す。
今日は何の目的で集うのか。そこで何をするのか。同じ空間をどう使い分けるのか。どう椅子を並べ替えるのか。集う場所にどんな光や音が降り注いでいたらいいのか。
目的や用途に応じて椅子を配置する手がかりとして、床石の種類や質感を工夫し、床には椅子1脚分の円を散りばめた模様を描いた。床の意匠が椅子を配置するきっかけとなり、集いの空間をドラマティックに演出する。
建築の外観は階層性をもたせた単純な形態とし、多方向的で不確定な日常の行為を「包む」ような形に。イギリスで廃棄される予定だった椅子をみつけて急遽、輸入し、手入れをした。

建築作品にはどれも、建築家の視点や想いが反映されている。その一方で、施主は何を思っているのか。建築家の手を離れてから一人歩きする建築は、どう歩んでいくのか。
使い手たちにどう愛されるかを想像できるという点で、酒井氏の作品にはシンパシーを感じた。

「そもそも建築家という職業は遅咲きだ」というのは、建築史・建築批評家の五十嵐太郎氏だ(「U-35展覧会オペレーションブック2016」)。
10代で芽が出て世界にはばたくスポーツ選手・アスリートたちや、20代でデビューし、多くのファンを得る音楽家・アーティストたちに比べれば、40代でも若手と呼ばれる建築家は遅咲きの部類に入るかもしれない。
若手建築家たちはU-35への出展を機に、建築家としての長い道の途中にある、重要な通過点を超えた。その先に長く続く道のりで、さらなる成長と成熟を期待したい。

特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
http://www.aaf.ac/

Under 35 Architects exhibition
http://u35.aaf.ac/

2016年 11月11日 11時05分