貴布禰神社が地域の人たちの集まる場となれば…

貴布禰神社の江田政亮宮司貴布禰神社の江田政亮宮司

地域ぐるみでのまちおこしは各地で盛んだが、集会場など集まる場所の確保に頭を悩ますことも多いようだ。
集まって話し合える場がないと、まちおこしの何を決めるのも一苦労である。空き家を譲り受けて集会場にしたり、リーダーの人の家を開放したりすることもあるが、お寺や神社を集会の場とするパターンも多いようだ。

尼崎では、貴布禰(きふね)神社が寄り合い場所となっており、宮司である江田政亮氏自らがまちおこしに力を入れているというので、お話を聞いてきた。
貴布禰(きふね)神社の江田家は400年続く神官家で、政亮氏は17代目。往古尼崎の南部は海の底にあり、1300年代に陸地となったと考えられている。だから海に近く、長洲のあたりは海産物が豊富に獲れたうえ、淀川と鴨川の水運で京都とつながっており、上賀茂神社・下鴨神社の御廚(みくりや・食材を調達する地域)とされていた。そんな縁から、京都の貴船(きぶね)神社から、神様を勧請したのだろう。
現在の尼崎は大阪からも神戸からも近く、活気のあるまちだが、住人自身はどのような印象をもっているのだろう。

江田宮司は「平地なので比較的年配の方でも自転車で移動でき、行動範囲が広いのは魅力ではないでしょうか。また、昔から住んでいる人が多く、地域のつながりを大事にしているまちだと思います。昔、先輩神職から、社会は社(やしろ)で人が会うと書く、人が会っていろんなことを話し合う場が神社だと教わりました。せっかく地域の結束が強いのですから、貴布禰神社が地域の人たちの集まる場となればと考えています」と、語る。

様々な「神事」としてのまちおこしイベント

貴布禰神社で10月に開催される尼芋奉納祭は、まさに地域住人の集まるイベントだ。尼崎は工場が排出する汚染物質と健康被害の因果関係を日本で初めて認めた「尼崎大気汚染公害訴訟」で知られており、公害から脱却したまちとしてPRを考えていた。

そこで注目されたのが「尼いも」だ。その昔、尼崎はさつまいもの産地として知られていたが、台風や高潮で畑がダメになり、昭和30年には完全に絶滅した。だから尼いもを復興し、尼崎のシンボルにしようと考えたのだ。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の種苗管理センターから尼崎にふさわしい芋の種を譲り受け、「尼いも」としたのが20年前。平成22年からは、神事として尼いもの奉納祭を執り行い、尼崎商工会議所が尼いもの蔓を炊き、地元の人たちが尼いもを使ったサーターアンダギ-やかまどで炊いた芋ごはん、おぜんざいなどを作って、お供えにしたり、売ったりしている。さらにお茶会を開いて尼いもで作った和菓子をふるまったり、境内地に作った畑で芋掘り体験をしたりしているとか。お茶会を主催するのは、毎週社務所でお茶の教室を開いている団体。地域の人々が気軽に集える、「神社」という場所だからこそ、多彩な企画が生まれたのだという。

また、今年の4月には神社映画祭と「おみやまるしぇ」を開催。映画祭では、犬の殺処分の映画を上映し、命について考えた。おみやまるしぇは尼崎に関わる10~20代の若者が中心となって企画した、地元飲食店30店舗が境内に屋台を出すイベントだ。その後7月の夏越の祭りでも、12店舗が集まるおみやまるしぇが開かれたという。

「うれしいのは、祭りの意味を理解した上で、企画してくれたことです。40代以上の人は、おじいちゃんやおばあちゃん、両親からお祭りについて伝えられていたりしますが、若い人は知らないことが多く、神事が新鮮に感じるらしいんです。そこで、『もっとみんなにわかりやすく伝えたい』と、参拝者がとっつきやすいように人の形に切り取った短冊を作って、『半年の間にたまったケガレを清めるんですよ』『人形(ひとがた)にいろんなものを移して清めるんですよ』と伝えて、気になることを書いてもらっていました。神事の後、短冊を持ってきて、『宮司さんに預けて良いですか』と言われたとき、ああ、神事をちゃんと理解してくれているなとうれしく思い、すべて丁寧にお焚き上げをしました」

人が集まるだけでなく、神事的な要素がきちんと織り込まれているのが神社ならではだろう。通常150人程度だった夏越の祭りの参拝者も、500人前後に増えたという。

4月のおみやまるしぇでは、境内に地元飲食店30店舗が集まった4月のおみやまるしぇでは、境内に地元飲食店30店舗が集まった

神社を開放する課題も

しかし、開かれた神社ならではの課題もある。
「私自身は恵まれており、今のところ大きな問題に巻き込まれてはいないのですが、たとえばフェスティバル化している夏祭りでは、マナーの悪さが際立っています。もっとも大きな問題は、ゴミと立ちションですね。当社の夏祭りでも、私は神社の中にいるのでわかりませんが、きっと町中でも同じ問題が起きているでしょう。地域住民から『夏祭りをなんとかしてくれないか』という意見が多数を占めるようになれば、廃止に舵を切るかもしれません」と江田宮司。

だんじり関係者は組織がしっかりしており、リーダーがとりまとめているので注意事項は遵守されるが、一般参加者は指導しようがないという。その代わりというのではないが、だんじり関係者が1年に3回地域の清掃奉仕をするほか、100人規模の献血活動をして、地域に受け入れてもらうための努力もしているとか。

「20代前後の若い子たちが『だんじりで神社に関わってなければ、一生献血なんかしていなかったに違いない、きっとゴミ拾いもしてなかった』と言うんですね。社会の役に立つのは楽しいと知る場があるのは良いことだと感じています」

尼芋奉納祭では、尼いもを使ったサーターアンダギーや芋ごはんなどの御供え物が並ぶ尼芋奉納祭では、尼いもを使ったサーターアンダギーや芋ごはんなどの御供え物が並ぶ

尼崎城の再興もまちおこしのチャンス

江田宮司は、ラジオ番組「8時だヨ!神さま仏さま」のパーソナリティも務めている。尼崎青年会議所で活動していたときに、メンバーの僧侶から「ラジオ番組やらない?」と誘われたのが始まりだとか。
1年半後にはキリスト教牧師もメンバーに加わり、3人の宗教者がそれぞれの立場から1つの質問に答えるのをコンセプトに、落語家や義太夫など、あらゆる分野からゲスト迎えてきた。今後も、宗教者に限らず、落語家や大学生や高校生など、ゲストを迎えてさまざまなテーマで話をし、神道や宗教について理解を深めていくそうだ。

また、平成30年度中には尼崎城が再興される予定だが、貴布禰神社は境内地に尼崎城の鎮守であった稲荷神社が鎮座しているなど、結びつきが強い。そこで、「尼崎城といえば貴布禰神社も忘れてはいけない」と意識づけできるように、あらゆる関係者に働きかけている最中だという。

地域住人の活動拠点なだけでなく、心のよりどころともなっている貴布禰神社は、これからも神社らしい立ち位置で、尼崎を支えていくだろう。

ラジオ番組「8時だヨ!神さま仏さま」の収録風景ラジオ番組「8時だヨ!神さま仏さま」の収録風景

2017年 11月22日 11時03分