地域によって変わるえびす信仰

西宮神社の亀山剛彦権禰宜にお話をうかがった西宮神社の亀山剛彦権禰宜にお話をうかがった

関西の正月の風物詩ともいえる西宮神社の開門神事は、通称の「福男選び」でも知られている。近年は全国から参拝者が集まっており、参加してみたいと考えている人も多いだろう。
そこで西宮神社の亀山剛彦権禰宜にお話をうかがってきた。

西宮神社の歴史は古く、平安時代の文献にも登場する。明確な時期はわからないが、それよりも昔、和田岬の沖からご神像が流れ着いたのが創始だと伝わっている。
「えびす信仰は全国各地に広まっており、西宮神社はえびす神の総本社とされていますが、契機となったのは徳川第4代将軍家綱公の時代。『西宮神社の頒布するものが、えびす神の正式なお札である』として、江戸幕府に版権を与えられてからです」と、亀山権禰宜は教えてくれた。
各地にお札配布の免状を持った願人が配置され、広く信仰されるようになったそうだ。

全国を巡る芸能の民も、えびす信仰を広めるのに一役買った。彼らは土地柄に合わせて信仰を伝えたので、海のない地域では、漁業の神ではなく田の神として信仰されているなど、地域によって風習が違う。
たとえば、関西でえびす神のお祭りといえば1月10日だが、関東では11月20日がえびす講の日だ。岐阜県あたりに境目があり、西も東も祭りの日には縁起物の熊手が授与されて、おおいに賑わう。関西の「十日えびす」の日には、えびす神を祭る神社は大にぎわいとなってニュースになるが、関東のえびす講も負けずとも劣らない人出になる。たとえば群馬県桐生市に鎮座する西宮神社には、20万人もの参拝者があるそうだ。

また、長野県や新潟県では、各家庭にえびす神の神棚があり、えびす講の日は豪華なお供え物をする風習があった。毎年の春、男性たちは空の升を供えてから出稼ぎに行き、11月20日ごろには戻ってきて、酒を満たしていたそうだ。

自然発生的に始まった開門神事

逆さに飾られる門松は、えびす神への素朴な信仰の名残だ逆さに飾られる門松は、えびす神への素朴な信仰の名残だ

えびす神は漁業の神であり、商売繁盛の神でもあるが、西宮町内の人々にとっては、地域の守り神という意識が強かったとか。十日えびすの参拝者は、西宮神社の門松が逆さに飾られているのに気づくかもしれないが、これも、えびす神が地域の人々に深く信仰されてきた名残のようだ。
「この地域では、9日の夜に、えびす神が神馬に乗って氏子地域を巡行すると信じられていました。当時の門松は竹に松を盛った大きなもので、通りが狭くなるほどでしたから、とがった松の葉先がえびす神にあたらないよう、9日の夜に、逆さにつけかえたと伝えられています」。

西宮神社の十日戎大祭は、10日の早朝4時に執行される。9日の夜12時にはすべての神門が閉ざされ、神職たちは大祭に向けて身を清め、心を鎮める。これを「居籠(いごもり)」と呼ぶが、昔は町人たちも家に籠もって肉食を控え、清らかに過ごしていたという。町人たちは豆腐の串焼きを食べる習慣があったとの記録もあり、豆腐でタンパク質を補っていたのかもしれない。
大祭が終わると神門が開かれ、真っ先にお参りしようとして人々が競うように参道を急いだのが開門神事の由来。自然発生的なもので、江戸時代には始まっていたそうだ。

現代では、1月10日の朝6時に一番太鼓が打ち鳴らされるとともに赤門の扉が開き、参拝者たちは一斉に参道に駆け出す。そして先頭で拝殿に駆け込んだ者が、男女を問わず「福男」となる。
県外から参拝者が集まり始めたのは鉄道ができてからだが、それ以前から、淡路島の漁業関係者が参拝にきており、県内では古くから知られていたらしい。

福男にならなくても、参拝するだけで福がある

テレビの影響もあり、開門神事の参加者は年々増え続け、2015年は5000人もの人々が集まった。将棋倒しの危険もあるので、厳重な安全策がとられている。
「昔は来た人順でしたから、寝袋を用意して1月6日ごろから並ぶ人もいましたが、10年ほど前から安全を期するため、3つのブロックに分けて並んでいただいています。前日夜中のくじ引きで、108人がトップグループに選ばれ、スタート位置も厳密に決められます。その後は集まった順番に、第二グループ、第三グループに並んでいただいています」。

これにより押し合いは緩和されるが、転ぶ危険があるヒールやサンダル、神事に参加するにふさわしくないコスプレでは参加できない。赤門から拝殿への参道は急カーブもあるので、ぶつかる可能性のある樹には、柔らかいマットを巻くなどの配慮もされているそうだ。

しかしなんといっても重要なのは、参拝者の心構えだろう。
「福男になれば一番の福が得られるわけではありません。福男は本来、周囲の人に福を分け与える存在と考えられていました。参拝者全員に福がいただけますので、神事であるということを頭に置き、安全に留意して参拝してください」と、亀山権禰宜は教えてくれた。
人混みが苦手な人は、朝の8時ごろが比較的お参りしやすい時間帯。開門神事が終わり、いっときだけ人の波が引くのだそうだ。10時をすぎると、またたくさんの参拝者が集まるので、空く時間帯を使って、上手に参拝してほしい。
開門神事に参加する人も、神事が終わってから参拝する人も、神様に失礼のないように、そしてほかの参拝者にならないように配慮したいものだ。

そうしてこそ、福が来るというものだろう。

開門と同時に、参拝者たちが拝殿に向かって駆け出す開門と同時に、参拝者たちが拝殿に向かって駆け出す

2017年 01月02日 11時00分