50代は子育て時代よりも長い老後を良く生きるためのスタート地点

セミナーでは土屋貞雄さん、末光弘和さん、小野由紀子さんのほか、デザイナーの小泉誠さん、日本におけるプロボノの草分け「サービスグラント」の代表理事嵯峨生馬さん、三井のリフォーム住生活研究所所長の西田恭子さんと様々な人が発言セミナーでは土屋貞雄さん、末光弘和さん、小野由紀子さんのほか、デザイナーの小泉誠さん、日本におけるプロボノの草分け「サービスグラント」の代表理事嵯峨生馬さん、三井のリフォーム住生活研究所所長の西田恭子さんと様々な人が発言

さる10月16日から11月11日に「都市型コンパクトライフのススメ展」という展示が行われた。サブタイトルに「ふたり暮らしの50平米 GOOD OVER 50'S」とあり、50代の夫婦がこの先の人生をどんな住まいでどう生きるかをテーマにしたものだった。面白いのは50代という、一般的にはまだ老後と思われない年代がターゲットだったことである。しかも、リアルサイズの住宅モデルが用意されてもいた。ここでは住宅モデルの設計を手掛けた建築家の末光弘和さん、展示を企画したリビングデザインセンターOZONEの安藤幸子さん、11月3日に行われたシンポジウム「大人世代のコンパクトライフを考える」参加者の言葉から、50代からのコンパクトな家、暮らしを考えてみよう。

まずはなぜ、50代か。建築家で無印良品の家などを手掛ける土谷貞雄さんはシンポジウムの冒頭で「50代は子育てが終わり、夫婦2人に戻る時期」と位置付けており、以降の人生をいかに生きるかを考えるタイミングではないかと発言。また、インテリアデザイナーで一般社団法人ケアリングデザイン理事の小野由記子さんは「長生きをするようになった社会では人生は小さい頃の教育だけでは生きていけなくなってきています。そこで後々のことを考えるなら、まだ早いと思うかもしれないけれど、50歳で一度、これからの人生を考え、学んでみることが大事なのでは」とも。平均寿命が80歳を超えた今、老後は子育て時代よりも長くなっている。もっと年を取り、実用に迫られて住まいを考える前に、自分の意思でデザインできるうちに老後の暮らしを考え始めたほうが良い、そういうことだろう。

住宅の面積は狭くても、広い、豊かな暮らしはできる

建築家の末光弘和さん。取材の中で出た「今の建物はどこに建てても同じ、でも本当は農業同様、場所によってその場にベストな建物は違うはず」という言葉が印象的だった建築家の末光弘和さん。取材の中で出た「今の建物はどこに建てても同じ、でも本当は農業同様、場所によってその場にベストな建物は違うはず」という言葉が印象的だった

そこで作られたのが建築家の末光弘和さん、末光陽子さんによる約55平米の集合住宅の一室。当初、企画を担当したリビングデザインセンターONZEの安藤幸子さんは一戸建てを想定、小住宅の得意な建築家に依頼することを考えていたそうだが、一緒にシンポジウムの企画に携わった土谷さんとのやりとりを通じて、老後の住まいの意味は建物としての家にあるのではないことに気付いたという。「土谷さんが『会社員じゃなくなった後、仕事をどうするんだろうね?』と一言おっしゃった。そこで気づいたのですが、老後の暮らしをどうするかは社会とどう関わるかということであり、狭い空間をどう使うかがテーマではないと。そこで、地域社会圏というテーマで活動している末光さんにお願いすることになりました」。

コンパクトな暮らしに関心があり、また、その土地の環境に配慮した住まいを意識してきたという末光さんがこの依頼に対し、提案したのは各住戸の周辺に広々としたウッドデッキのある集合住宅。背景にあったのはかつて福岡市で手掛けた地中に半分埋まったような住宅での経験だった。

「斜面地に取り残された変形の敷地があり、そこに70平米台の家を作りました。福岡では珍しいオープンハウスを開いたところ、なんと400人くらいが訪れた。瞬間的にも30人くらいが家の中にいたのですが、この面積で30人がいてもまったく狭さを感じない。それは外とうまく繋がり、取り込んでいるから。そこで今回も家自体は狭くても、外の空間を活用することで広がる住まいを提案したのです」。

住戸を狭くして生み出した共有空間で社会とつながる

各住戸の周りに共有のスペースが広がっていることが分かる模型。緑も多く、豊かな雰囲気がある各住戸の周りに共有のスペースが広がっていることが分かる模型。緑も多く、豊かな雰囲気がある

といっても、ただ単に外に空間があるという意味ではない。「作ったのは一室だけですが、全体は集合住宅。各戸の面積を減らすことで、全体で使える面積を作るというやり方で家自体は狭くても、外とつながる新しい豊かさのある暮らしを提案したかったのです」。

たとえば75平米の住宅を30戸作るのではなく、各戸を65平米にし、そこで生まれた10平米を30戸分持ち寄れば300平米となる。それを全員が使えるスペースに充てようというわけである。共有のライブラリーがあれば自分の家の本棚は小さくて良い、そういう考え方である。実際、この住戸では外に共有のお風呂があるという想定で、自室内にはシャワーのみが設置されている。

「昔の下町では家の外に盆栽やら、自転車やらがはみ出していて、そこに会話が生まれ、コミュニティが育まれてきた。ところが今の暮らし、特に集合住宅はがっちりと囲われていて、その中にさらに部屋があるという閉じた空間。孤独死や不登校、引きこもりという問題はそこから生じているとも言えます。また、震災後、人とのつながりがないことへの不安、家と職場以外の居場所、サードプレイスを求める気持ちが出てきており、自分の部屋の一部を街に開くというような暮らし方があってもいいんじゃないかと思います」。

引きこもる老後を開かれた、楽しく、安心な老後にする仕組み

リアルサイズの住宅モデルではウッドデッキに面したダイニングキッチンが開かれた空間となっており、時として共有スペースにある菜園で栽培された野菜を使った料理を出すカフェにもなるという想定。その背後にあるリビングは段差を付けることで雰囲気は伝わるものの、プライベートな空間となっている。階段を上がってしまえば別空間というわけである。

「自分自身、一人になりたい時間と社会とつながっている時間のどちらも欲しいと思いますし、人によってそのバランスはそれぞれ。ですから、その時々で、どの程度開くかは自分で決められるようにしておけば、無理なく家を開けるのではないかと思います」。

カフェという設定には老後も社会とつながる暮らしが具現化されている。このところ、高齢者の引きこもり事例をリアルに聞く機会が増えているのだが、社会と交わらなくなると人生は楽しくなくなるだけではなく、寿命さえ縮める。また、経済面は老後の大きな不安のひとつだが、こうした場で小商いをすることはその解消につながり、かつ生きがいにもなる。より良い老後を考えるにあたり、家を開くという方法は示唆に富んでいるのではないかと思う。

もうひとつ、この家で面白いのはカフェにも使えるダイニングキッチンは同時に玄関でもあり、応接間でもあり、仕事場にもなりうるということ。これも狭くても豊かな空間の使い方のポイントだろうと思う。

左上から時計回りにカフェにもなるダイニング、階段を上がったところにあるリビング、リビングの窓からダイニングを見下ろしたところ、リビングの隣にあるベッドルーム。洗面所、シャワールームはベッドルームの脇にある左上から時計回りにカフェにもなるダイニング、階段を上がったところにあるリビング、リビングの窓からダイニングを見下ろしたところ、リビングの隣にあるベッドルーム。洗面所、シャワールームはベッドルームの脇にある

今求められるのは、選択性のあるゆるいつながり

場所だけでなく、エネルギーや雨水なども共有できるよう、住戸の周りにもさまざまな工夫が場所だけでなく、エネルギーや雨水なども共有できるよう、住戸の周りにもさまざまな工夫が

震災以降、人とのつながりを求める人が増えたとはよく言われることである。だが、その以前には田舎の濃密すぎる人間関係、しがらみが嫌で都会に出てきた人が多かったはずで、それが互いに干渉しない、冷たいと言われる人間関係を生んできた。今、震災の危機感を経てつながりを求める動きがあるとして、それがかつてと同じものになってしまっては再び同じ轍を踏むことにもなりかねない。この住まいを通じて末光さんが考えるかつてと今のコミュニティの違いは何かを聞いた。

「昔のコミュニティは中心がひとつしかなく、強制感があった。ところが、今は同じ人がいくつものグループに所属し、中心も複数あって選択性がある。この選択性があるという点が大事なんだろうと思います。自由さを担保した共同体というところでしょうか、家を開くにしても、どこかのコミュニティに属するにしても自分で選択して決めることができる、そこが大事ですね」。

そこに住んでいるからと有無を言わさず取り込まれるものではなく、個人が自分の選択でゆるく繋がるもの。こうしたコミュニティが多く生まれてくれば、暮らしはずいぶん変わる。我が家が狭くても、豊かな暮らしを実現できるのではないかと思う。特にシニア以降の人生を自分らしく生きるためには、社会とどう関わっていくかが重要であるとすると、関わり方も自分なりに考えておく必要があるのかもしれない。

2014年 12月03日 11時11分