大きな課題を抱える日本の大都市

現代の日本は急速に進む人口減少や異次元の高齢化、首都直下地震や南海トラフ巨大地震をはじめとする大規模災害の切迫とそれに対する都市の脆弱性、グローバルな都市間競争の激化などさまざまな問題を抱えている。社会情勢や経済情勢が大きく変化するなかで、都市政策もそれに相応しいものへと転換していかざるを得ない。

2001年5月に「都市再生本部」が内閣に設置され、2002年には「都市再生特別措置法」が制定(2011年および2014年に改正)されている。これによって住宅、医療・福祉、商業など居住に関連する施設の立地を一定の区域に誘導する「立地適正化計画」の作成などが制度化された。さらに国土交通省は、2050年を視野にした国土づくりの理念や考え方をまとめた「国土のグランドデザイン2050〜対流促進型国土の形成〜」を2014年7月に策定している。

これらを踏まえて、2015年3月から7月まで7回にわたり開催されたのが「大都市戦略検討委員会」だ。国民の多くが暮らすとともに、わが国の経済を牽引する地域でもある大都市のあり方について「大都市戦略〜次の時代を担う大都市のリノベーションをめざして〜」をまとめ、2015年8月に公表した。

これは主に三大都市圏を念頭に置いて、今後10年程度を見据えた政策のあり方を示す「提言」となっている。ただし、個々の提言は三大都市圏に限るものではなく、特定都市再生緊急整備地域が指定された大都市(東京、大阪、名古屋、札幌、福岡)、あるいは地方ブロックの中核都市(札幌、仙台、広島、福岡)も対象にしたものだ。

今回はこの「大都市戦略〜次の時代を担う大都市のリノベーションをめざして〜」(以下、大都市戦略)において、どのような問題提起がなされているのかを中心に、大都市の将来像を考えるうえで留意しておきたいポイントなどについて考えてみることにしたい。

「大都市戦略」の基本となる視点

「大都市戦略」では、「対流促進型国土の形成」および「コンパクト+ネットワーク」を基本理念としたうえで、次のような大都市の姿を目指すものとしている。

□ グローバルにビジネスがしやすいまち
□ 高齢者が住みやすく、子供が生まれるまち
□ 水や緑にあふれ、歴史・文化が薫る美しいまち
□ 安全・安心なまち

これからの日本において、大都市が地方を含めたわが国の経済を牽引していくための成長エンジンとなること、災害に伴うリスクをコントロールすること、住民の目線で安心して豊かに「暮らし、働き、憩う場」としての質の高い大都市を実現することの必要性などを挙げている。また、昭和30年代以降の大都市圏政策として推し進められてきた首都圏整備法、近畿圏整備法、中部圏開発整備法など「三大都市圏整備計画」とは異なるアプローチを求め、長時間通勤や交通渋滞、災害脆弱性など「20世紀の負の遺産」を解消することも掲げられた。

もちろん、これらの実現性を高めるためには個々の政策へ理念を反映させていかなければならないわけだが、そのための基本方針として次の3つが挙げられている。

□「都市再生の好循環」の加速
□「コンパクト+ネットワーク」の形成
□「災害に強い大都市」の構築(防災・減災)

それではこの3つの基本方針について、もう少し具体的に「大都市戦略」の中身をみていくことにしよう。

「都市再生の好循環の加速」で求められる国際競争力の強化、防災・減災機能

世界銀行が2015年11月に発表した「ビジネス環境ランキング2016」では、世界189ケ国・地域のなかで日本は34位となり、昨年よりも順位を4つ下げた。シンガポールや香港などにも大きく水をあけられ、安倍政権が成長戦略で掲げた「2020年までに先進国で3位以内を目指す」という目標はさらに遠のいている。世界銀行の評価では「税の支払い」についての項目がかなり悪いようだが、「大都市戦略」ではハイクラスホテルの客室数不足、外資系企業のアジア統括拠点数の少なさ、国際会議の開催数の少なさなども課題として挙げられた。

さらに、ビジネス環境だけでなく安心・安全、自然環境・生活環境、歴史・文化における機能の向上なども国際競争力強化のうえで重要な要素とされている。大規模災害のリスクも外国からみれば日本の大きな弱点だろう。災害時において街区規模で業務継続性を確保すること、ライフラインや物流が早期に復旧する自立拠点を形成することなどを通じて、「世界を納得させる最先端の防災・減災機能を実装すること」を課題としている。

また、大都市がゲートウェイ機能を果たしつつ地方都市への訪日観光客の集客を促進することも重要課題として挙げられているが、そのためには「外国人にとって分かりやすい案内システム」を作ることも欠かせない。公共交通機関の案内表示などでも、外国人だけでなく日本人にとっても分かりづらい例は依然として多いだろう。

土地利用に関しては民間都市再生事業の推進だけでなく、「細分化された土地を集約・整形し、一体的な敷地として活用する大街区化等を推進すべき」という提言もされている。だが、それに先立って「これ以上の細分化を抑制すること」を明確にするべきではないだろうか。

これまで拡大を続けてきた大都市は大きな転機を迎えているこれまで拡大を続けてきた大都市は大きな転機を迎えている

大都市でもコンパクト化が重要な課題となる

日本で進行する人口減少や高齢化は大都市も例外ではない。「コンパクトシティ化」は地方都市の問題と捉えられがちかもしれないが、「大都市戦略」のなかでは「コンパクト+ネットワークの形成」が重要な課題として位置付けられた。次の時代を見据えながら鉄道沿線へ医療・福祉、子育て支援、商業・業務などさまざまな都市機能を計画的に誘導・集積させることで、次第に居住そのものを誘導するとしている。「公共交通を軸とした都市構造の再構築」だ。

大都市圏にあっても、将来的には鉄道駅から離れた地域のニーズが落ち込むことを十分に考えておかなければならないだろう。「大都市戦略」では、「縁辺部での開発圧力の低下を好機と捉え、水と緑・農の保全・再生を促進していく」ことも提言されている。その一方で、「高齢者ができるだけ住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、地域包括ケアと連携したまちづくりを推進することが重要」ともしている。駅から相当に離れた地域に住む高齢者に対し、どのような指針を示すべきなのか、「鉄道沿線まちづくり」の具体化にあたっては高いハードルも少なくない。

また、駅周辺にさまざまな生活支援機能を誘導するのと同時に、拠点病院や大規模商業施設、文化ホールなどの高次の都市機能については沿線の市町村間で分担・連携していくことも提言されている。だが、それによって駅間あるいは市町村間の格差が拡大するのであれば地域住民の合意形成は困難だ。しっかりとした将来像を提示しなければ、「大都市戦略」が想定する10年は話し合いだけで終わりかねないだろう。

さらに、「大都市戦略」では「民間団体による空き家、空き店舗等の改修や利活用など民主導のリノベーション事業を促進し、低未利用不動産の再生に加え、産業の育成や雇用機会の創出を図るべき」としているが、都市のコンパクト化によって加速する「縁辺部での空き家、低未利用地の増大」にどう対処するのか、土地所有に関する法整備、税制上の支援などを含めて検討すべき課題は多い。

災害に強い大都市の構築は喫緊の課題

首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの発生懸念が取りざたされるようになって久しいが、危機が遠のいたわけではなく、むしろそのリスクは年々高まっているといえるだろう。人口や資産が集積し日本経済の中枢機能も担う大都市が甚大な被害を受ければ、その影響は計り知れないものとなる。とくに東京や大阪では密集市街地の改善、地下街の安全性向上、災害発生時における避難者・帰宅困難者の安全確保なども大きな課題だ。

「大都市戦略」では復興事前準備の推進、広域での相互応援体制確保、災害に備えたエネルギーの自立化・多重化の推進(BCDの構築)なども課題として挙げられている。BCDとは、災害時にエネルギーの安定供給が確保される業務継続地区(Business Continuity District)を指す。また、大都市では公共施設の整備が早かったぶん、その老朽化も深刻な問題となっている。

政策の方向性としてこれらの課題への取り組みのほか、防災性の向上に特に資する民間都市再生事業の促進、民間の施設整備に合わせた避難施設や備蓄倉庫などの確保、地域住民による主体的な防災まちづくり活動への支援強化なども提言されている。しかし、どれも一朝一夕には進めることのできないものであり、地域ごとに優先すべき課題は異なるだろう。

「大都市戦略」に示された提言を今後の政策へ盛り込んでいくことだけでなく、国民の一人ひとりが当事者意識を持って取り組むことが重要だ。それと同時に大都市と地方都市、町村部が連携していくことも欠かせない。大都市が疲弊すれば地方都市も打撃を受け、地方都市が衰退すれば大都市の継続性も失われる。地方創生の動きと合わせて互いに補完していくことが求められる。

2015年 12月08日 11時06分