1000世帯以上をプロデュースした「頭がよい子が育つ家」

スペース・オブ・ファイブ株式会社 代表取締役 四十万 靖氏。右端に見える同社のイメージキャラクター「4年2組のうしろのこくばん」は、「頭のよい子の育つ家」で育ったある男児が、小学校4年生ながら夏目漱石の『吾輩は猫である』の擬人法を取り入れ、黒板を擬人化して作文を書いた秘話から生まれたキャラクタースペース・オブ・ファイブ株式会社 代表取締役 四十万 靖氏。右端に見える同社のイメージキャラクター「4年2組のうしろのこくばん」は、「頭のよい子の育つ家」で育ったある男児が、小学校4年生ながら夏目漱石の『吾輩は猫である』の擬人法を取り入れ、黒板を擬人化して作文を書いた秘話から生まれたキャラクター

東京に子供の教育学習環境を研究している企業がある。2006年に『頭のよい子が育つ家』を上梓した四十万 靖氏が代表を務める「スペース・オブ・ファイブ」である。

同社では6年にも及ぶ独自の調査・研究に基づき、慶應義塾大学をはじめとする様々な大学と共同研究を経て「頭のよい子が育つ家」の商品化に成功。大手ハウスメーカーなどと提携し、2006年の提供以来、戸建て、マンションを合わせ1000世帯以上で子どもの教育環境に適した居住空間をプロデュースしている。

利用者からの評価は高く、同社がプロデュースした物件で育つ子どもたちは、学習意欲が高く、実際に成績があがることも多いという。

しかも同社が定義する “頭のよい子”とは、「有名大学に入る」といったような単純な切り口ではない。四十万氏によれば「今後の少子高齢社会の中で、国際社会で活躍できる人材」。つまり、日本の未来を担う人材を指しているのだ。

果たして同社が言う“頭のよい子”とは、具体的にどのような子どもたちで、またその教育には住環境がどのようにかかわってくるのだろうか。

実際に、スペース・オブ・ファイブを率いる四十万靖氏に企業理念を含め、お話しを伺ってきた。

優秀な子を育てるのに、「子ども部屋」は必要なし

もともと商社に勤めていた四十万氏。それが居住空間と教育の問題に関わるようになったのは、今から16年前、自身の息子の学習態度がきっかけだったという。

「当時、小学校4年生になる長男が宿題をしていたのですが、子ども部屋でやらずダイニングテーブルでしていたんです。リビングには弟や妹もいてテレビもついていてうるさい。当然妻は子ども部屋で落ち着いてやるように言うんですが、一旦部屋に入ってもすぐに出てきて結局リビングで勉強をしている。なんで自分の部屋でやらないんだろうと不思議に思っていたのですが、聞いてみるとほかの家でも結構そういった話を聞きました。大人の感覚では学習環境として子ども部屋が必要と考えますが、当の子どもにとっては本当にそれが正しいカタチなのだろうか? 学校や塾にそんな疑問をぶつけても要領を得ない。それならば自分で調べてみようと思ったのがきっかけでした」

その後、持ち前の探求心を武器に四十万氏は調査を開始する。子どもが有名私立中学に合格した家庭200世帯を対象に、家庭での学習環境を6年の歳月をかけて実際に足を運んで調べていったという。

そこで見えてきた大きな共通点の一つは、子どもたちは、子ども部屋に留まって勉強はしていないという事実だった。ある家ではリビングにあるちゃぶ台で勉強をしていたし、ある家庭では子ども部屋の学習机は物置と化しており、代わりに持ち運び自由の小さな台が使われていたという。

「結論を言ってしまえば、家庭での学習環境に子ども部屋など必要ないんです」と四十万氏は言い切る。

目指すのは日本の未来を担う人材育成

2005年の小泉内閣当時でさえ、2055年の日本は、65歳以上の高齢者が1000万人以上増加し、15歳未満の子どもは1000万人以上減少すると予想されていた。2055年に日本経済を担う中心世代40代~50代が、今0歳から10歳の子どもたちだ2005年の小泉内閣当時でさえ、2055年の日本は、65歳以上の高齢者が1000万人以上増加し、15歳未満の子どもは1000万人以上減少すると予想されていた。2055年に日本経済を担う中心世代40代~50代が、今0歳から10歳の子どもたちだ

しかも調査を進めるうちに、家庭で子どもたちが何を身につけるべきか、はっきりと見えてきたという。それは、単に暗記力に頼った学習ではなく、考える力とコミュニケーション能力を育てることだった。

「例えば武蔵の中学受験の問題では、“中江兆民(※)の考えを参考に自分の意見を書きなさい”といった難しい問題が出題されています。武蔵の校長先生にお話しを伺ったのですが、武蔵ではこういった問題を昔から出している。なぜかといったら、この問題の解答をみれば、その子がどういう家庭で育ったかが分かるからだそうです。塾で暗記物の勉強をしていてもこういった問題に答えることはできません。常日頃から親子で“お父さん、豊臣秀吉ってどういう人?”といったようなコミュニケーションを取りながら意見交換をしていなければできないものなんです。そのためには隔離された子ども部屋は、適切な学習環境とは言えないわけです」

筆者もこの問題の全文を拝見させていただいたが、言葉は平易なれど質問の意図そのものは、過去の日本の状況を振り返りつつ、グローバル化した現代で個人はどのような指針を持つべきか、そんな企業の入社試験レベルの出題であることに驚いた。

「少子高齢化と言われていますが、“化”なんて甘いものではない。すでにこの国は少子高齢社会なんですよ。2005年の小泉内閣の時でさえ、2055年には人口が9000万人を切ると言われ、そうなると40~50代が日本の総人口を養わなければならなくなる。今予測される数字はもっと少子化が進んでいる。もちろん、日本国内のマーケットは縮小するので当然海外市場で国際競争に勝たなければならない。2055年の40~50代といったら、今の0歳から10歳くらいの子どもたちです。その子たちが国際社会で通用する人材にならなければ、この国に未来はないわけです」

企業はまさに今、グローバル人材を懸命に育てようとしているが、社会に出てからでは遅すぎると四十万氏は指摘する。

「家庭でてきないことを学校でやろうとしても、学校でできないことを企業でやろうとしても無理なんです。小さいうちから考える力、コミュニケーション能力を家庭で養うことが日本の構造問題につながっているわけです」

※自由民権運動の理論的指導者として知られている明治時代の思想家

住環境と学習効果の関係をスコア化して提示

スペース・オブ・ファイブでは、居住空間を30項目に分けてスコアリング。当初の図面を改定しながら60点以上のスコアが出るよう修正し「頭のよい子が育つ家」の空間づくりを行うスペース・オブ・ファイブでは、居住空間を30項目に分けてスコアリング。当初の図面を改定しながら60点以上のスコアが出るよう修正し「頭のよい子が育つ家」の空間づくりを行う

四十万氏が考えたのは、まさにこうした日本の未来を担う子どもたちを育てるための住環境を整えることだった。

そこで四十万氏はまず「頭のよい子ども」の定義を整理し、考える力とコミュニケーション能力を持つ子どもに設定した。自分の考えることを“表現=eXpress”でき、人と“共有=eXchange”し、さらに“探求=eXplore”していけること。これを同社では「3X」と表現し、居住空間に30項目の査定項目を設け、「3X」を生みだしやすい住宅の設計・内装をスコア化している。これまでの調査結果・研究結果をもとに住居の設計プランを同社で査定し、総数60点以上を「頭のよい子が育つ家」として認定する仕組みをつくりあげた。

例えば30項目の1つは「家の中に2カ所以上、落書き感覚でものが書ける場所があるか」というもので、「頭のよい子が育つ家」では特殊ガラスを使ったガラス黒板やダイニングテーブルが導入される。

「あるご家庭では、お子さんがリビングに置かれたガラス黒板に魚へんの漢字をズラリと書いていました。まずここでは書くという行為で“表現”をしています。それを家族の人が目にすることで“共有”する。「すごいね~」なんて褒められると学習意欲はさらに高まりますし、他にはどんな漢字があるかなとみんなで“探求”しやすくなります。こうした工夫のポイントを積み上げることで3Xを育む環境になっていくのです」

ハードとソフトを組み合わせた教育を

「今まで、住宅業界というのは“利便性”ばかりを前面に主張してきました。でも、これからは“社会性”にシフトしていかなければいけないと思います。子どもが社会資本化していく中で、家庭教育の重要性というものをより認識していく必要があるのではないでしょうか」

もちろん、子どもの教育には、インテリアや設計といったハードの側面だけでなく、親子のコミュニケーションの在り方といったソフト面も必要になってくる。その点はもちろん四十万氏も重要視していて、住環境からアプローチすると同時に親側のマインドを変えるためのセミナーや教室を開催している。

四十万氏曰く、「子どもがどういう人間に育つかは12歳までが勝負」。小さなお子さんをお持ちで家づくりを考えているご家庭では、一見の価値がある「頭のよい子が育つ家」ではないだろうか。

2014年 10月23日 11時25分