考える力とコミュニケーション能力を育てる家
以前ご紹介した「頭のよい子が育つ家」。単に勉強ができる子どもを育てるのではなく、考える力とコミュニケーション能力を育てるのが目的の住環境だ。子ども部屋を作らずにどこでも学べる環境を作り、家族とのコミュニケーションを図りやすくするというもの。
住まいとして、どのような工夫がなされているのだろうか?またそこではどのように親子のコミュニケーションが成り立っているのだろうか? 今回は、実際に「頭のよい子が育つ家」に暮らすご家族に取材をしてきた。
吹き抜けだから、いつでも家族の気配がわかる
神奈川県の閑静な住宅街に建つMさん宅、ご夫婦と小学校3年生の息子さん3人が暮らす家だ。建売だったこの家を購入したのは、2009年。翌年から小学校に通う息子さんの成長を第一に考えての住まい選択だったという。
「この家を見たとき、変わった間取りが印象的でした。柱が少なく、吹き抜けが上手く活きていて解放的。細かく仕切られたスペースがないことが気に入りました。“頭がよい子が育つ家”というコンセプトはそれまで知らなかったのですが、子ども部屋を持たなくてよいという発想にも共感しました」
確かに、Mさんが言うように、こちらのお家は解放感がある。2階建で1階部分にはキッチンとダイニング、リビングスペース、個室が1部屋に、バスなどの水回りがある。2階は、寝室、書斎、今は使っていない1部屋の3部屋。1階の玄関やリビングと2階の2部屋は吹き抜けになっていて、スペース以上に広さを感じられる作りだ。そして、この吹き抜けも家族間のコミュニケーションを促進させる「頭のよい子が育つ家」の特徴の一つでもある。
「この家はどこでも子どもと会話ができます。子どもが2階にいようと、私がキッチンに居ながら会話ができる。いつでも子どもの気配が感じられますし、逆に言えば子どもにも、私たち親の気配を感じることができるのだと思うのです」
ダイニング学習で、学習を習慣化

現在、共働きをしているため、母親のMさんが子どもとコミュニケーションをとる時間は、同時に家事をこなしていることが多い。ダイニングテーブルには漢字の音訓表、世界地図が常に広がっていて、もっぱらこのテーブルが息子さんの勉強机だ。夕方家に帰ってくると夕食までの時間にここで宿題をこなす。お母さんはアイランドキッチンで時に息子さんの質問に答えながら料理を作る。
「ダイニングで宿題をしているので、楽に子どもの様子を見ることができます。これが子ども部屋があって、キッチンを出て宿題を見なければならない場合、親も時間を取りにくいと思います。まだ子どもが低学年なので学校の成績に反映されているかは分かりませんが、家に帰ってきたら宿題をやるという習慣化は間違いなく身につきました。子どもにとっても一人で勉強するのではなく、いつでも親に質問ができる環境は、習慣化しやすい環境なのだと思います」
Mさん宅には立派なピアノがあるが、これもダイニングに置かれている。学校の宿題同様、ピアノ教室に通う息子さんが毎日コツコツと練習を習慣づけるためにも、ピアノの部屋を別に作るのではなくダイニングに置いたそうだ。
「子どものランドセルや教科書も、うちではダイニングにスペースをとって置いています。次の日の学校の準備も目の前でできますし、何よりも隠すスペースがない利点があります。学校から配布されるプリント、テストなども“子ども部屋の学習机”といった隠し場所がないので、すぐに手渡してくれます」
1つの本棚に大人と子どもの本が同居する利点
ほかにも、小さな工夫がMさん宅には溢れている。「頭がよい子が育つ家」を発案したスペース・オブ・ファイブの四十万氏からアドバイスを直接貰ったこともあるという。
「2つほどアドバイスをもらったのですが、1つは本棚では見せたい本を面出しすることでした。うちでは、大人の本と子どもの本を区別することなく1つの本棚にしまっています。もちろん読んでもらいたい本はなるべく面出しをするようにして。すると、いつの間にか児童向けの本だけではなく、大人向けに書かれた本も読むようになっていました。野球が好きなのでイチロー選手の自伝など、まだ難しい表現もあると思いますが楽しんで読んでいます」
Mさん親子は「読書タイム」を持つようにしているそうだ。読み聞かせるのではなく、それぞれが自分の好きな本を読む。結果、息子さんは読書好きの少年に成長しているそうだ。
また、四十万氏からはもう1つアドバイスをもらったというが、それは写真などを飾る場合には子ども目線でも見られる低い位置に飾ることだったそうだ。実践してみると、小学校の友達が遊びにきた際など、写真を目にして話題になるという。
「写真からヒントを得て、うちでは様々なものを子どもの手の届く位置においています。カレンダーもその一つ。大人用とは別に子ども用のカレンダーを貼っておいたら、いつのまにか私の真似をして自分の予定を書き込んでいます。スイミングの進級テストの予定などスケジュール管理のようなことをしていますね」
家全体が子ども部屋
子ども部屋を持たずに、家族がコミュニケーションをとりやすい間取りを実現している「頭のよい子が育つ家」。もちろん家のつくりだけでなく家族の意識が重要なのだが、この家での生活は、子どもに勉強や自立を押し付けるのではなく、自然と学習態度や自立を促せるようだ。
「子ども部屋を持たないという発想は、今の段階では、子どもにとってもよい影響を与えていると思います。大人の物や習慣を見ながら自分の中に取り入れています。息子にとっては、今は家全体が自分の部屋のようです」
いつも家族3人、気が付けば同じ場所に集まっているというMさんのお宅。子ども部屋をつくらないメリットを自然に感じられた取材だった。
2014年 12月21日 11時02分