良質で魅力的な既存住宅の流通を促進するには

「若年世帯・子育て世帯の住まいの夢を叶える」と題した住生活月間フォーラム。住生活月間実行委員会主催、国土交通省後援により開催された「若年世帯・子育て世帯の住まいの夢を叶える」と題した住生活月間フォーラム。住生活月間実行委員会主催、国土交通省後援により開催された

10月31日に、「住生活月間フォーラム」が開催された。これは、「若年世帯・子育て世帯の住まいの夢を叶える」と題して、良質で魅力的な既存住宅の流通促進のためには、何が必要か、その課題と解決策を考えるフォーラムだ。

パネルディスカッションでは、パネリストとして地域子育て支援拠点事業を行う「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」理事長の奥山千鶴子氏、子育て世代の生活情報誌として人気を集める『サンキュ!』編集長 武田史子氏、そして大規模にマンションリノベーション事業を手掛ける株式会社インテリックス代表取締役社長 山本卓也氏が登壇。HOME’S総合研究所 副所長の中山登志朗氏がコーディネータを務め、それぞれの立場から意見を交換した。

ニーズが広がる日本における既存住宅流通は、現状どのようなフェーズを迎え、そしてどこに課題があり、解決の糸口をどのように探るべきか。パネルディスカッションでは、こうした全体像を浮き彫りにすると同時に、中古住宅を購入するうえで重要な視点などについても話し合われている。

フォーラムで話し合われた内容は、消費者にとっても有益な情報が多く紹介されていた。住宅購入の選択肢の中に中古物件の流通が台頭してくる中で、新たな住まい選びへのヒントとして参考にしていただきたい。

子育て世代では、「安さ」から「自分なりの価値観」を求める傾向に

基調講演とパネルディスカッションのパネリストとして登壇した株式会社ベネッセコーポレーション 『サンキュ!』編集長 武田史子氏基調講演とパネルディスカッションのパネリストとして登壇した株式会社ベネッセコーポレーション 『サンキュ!』編集長 武田史子氏

来賓挨拶として登壇した国土交通省大臣官房審議官 伊藤明子氏は、まず始めに「少子高齢社会を迎える日本では、住まいに対する高齢者に向けた対応はよく議論をされてきたが、それを支える若年世代への対応がまだまだ不十分」と話す。

そのうえで、生活の基盤であり、夢の実現という点で家を持つということは重要、「若年世代をサポートに役立つ制度や補助の整備も進められているが、まずは、若年世代が抱える住まいに対する意識を捉えた上で、既存住宅の今後の促進を進めていきたい」と本フォーラムの主旨を語った。

これを受けて、基調講演では、若いママに選ばれる生活情報誌No1のブランドを保持する『サンキュ!』編集長の武田史子氏が登壇。「今どきの子育て世代マーケットについて」同社の力量あるマーケティングの成果を踏まえた、リアルな子育て世代の価値観が発表された。

1号あたり2000人にアンケート調査を行う徹底したマーケティングを実施する同誌では、リアルな主婦をとりまく環境と意識の変化を分析、「ひと昔前の節約ブームから、今は節約疲れも見え、限られた予算の中で豊かさを求める“自分なりの価値観”を重要視するようになっている」という。

しかも、晩婚化・晩産化が進み、女性も仕事を持つことが当然となる中で、従来の年齢マーケティングは通用しなくなっている点を強調。「安さ」「お得さ」「流行」の選定基準から「本当に得か」「自分が満足できるか」へ主婦の基準が変化してきていることを紹介した。

また読者の住宅事情の分析では、6割が持ち家を取得し、共働きの影響から親との近居・隣居が増加傾向にある点を紹介した。さらに同誌では今年10月号で初のリノベーション企画を行っている。「新築傾向はまだまだ地方を中心に高いものがあるが、リノベ企画に対する反響は高く、単なる節約のためではなく、自分らしくカスタマイズできる点にニーズが高い」と武田氏は分析する。

「新築信仰」は今後崩れていく

NPO法人子育てひろば全国連絡協議会 理事長の奥山千鶴子氏。同法人では地域の子育て支援拠点事業を展開し、子育て世帯と地域のつながり、定住のための地域づくりなどを手掛けている。「住環境の問題で子どもの数が決まっていくようなことがないように、今後は多様な住まい方が必要」というNPO法人子育てひろば全国連絡協議会 理事長の奥山千鶴子氏。同法人では地域の子育て支援拠点事業を展開し、子育て世帯と地域のつながり、定住のための地域づくりなどを手掛けている。「住環境の問題で子どもの数が決まっていくようなことがないように、今後は多様な住まい方が必要」という

続くパネルディスカッションでは、良質で魅力的な既存住宅の流通を促進するための課題や取り組みが話し合われた。コーディネータの中山氏は、すでに日本が空き家問題など「家余り」になっているものの、バリアフリーや省エネ基準などに代表される良質な物件が限られていることを前提条件として提議。そのうえで日本人の「新築信仰」の現状と今後が議論された。

これに対して、中古マンションのリノベーション事業で業界のパイオニアであるインテリックス 山本氏は、「これまで既存住宅の流通は全体の15%にとどまってきたが、2016年の住宅流通推計では、新築が3.5万戸に対し中古が3.8万戸と初めて逆転する見通しになっている。また、2009年に一般社団法人リノベーション住宅推進協議会を設立したが、会員数117社でスタートしたものが6年で737社と急増。参加する企業を見ても新築事業を推進してきた大手ディベロッパーの姿も多い」ことを紹介。現在の新築信仰が薄れていくと同時に、今後はリノベーションを経た中古流通が一般化することを示唆した。

また、子育て広場全国連絡協議会の奥山氏は、子育てを行う若年世代の視点から中古流通への期待を示す。

「ひと昔前は、子育て環境も踏まえ郊外に家を購入し、ご主人の通勤時間には目をつぶるというケースも多くありました。しかしこれだけ女性が仕事を持つと郊外に家を建てることが現実的ではなくなります。都心回帰という流れになる中で、新築よりも安価に購入できる中古物件の流通が進めば、待機児童が問題も踏まえながらよりよい場所に住まいを購入する選択肢が増えると期待します」。

徐々に整いつつある中古住宅流通の制度

株式会社インテリックス代表取締役社長 山本卓也氏。いち早く、中古マンションのリノベーション再販事業を展開し、販売累積17,000戸を超える実績を持つ。安心のアフターサービス保証制度を導入しているほか、今後は戸建リノベーションの再販事業も展開する予定だ株式会社インテリックス代表取締役社長 山本卓也氏。いち早く、中古マンションのリノベーション再販事業を展開し、販売累積17,000戸を超える実績を持つ。安心のアフターサービス保証制度を導入しているほか、今後は戸建リノベーションの再販事業も展開する予定だ

次に議題となったのは、「今後、既存住宅の流通が増加していく流れのなかで、安全・安心をどのように担保できるのか?」という問題だ。新築物件の場合はディベロッパーが万一倒産した際にも10年保証の仕組みが成立しているが、中古物件の場合は宅建業者の仲介では2年保証などが行われているのみ。個人売買になると保証がない現状を前提に有識者の見解が語られた。

インテリックスの山本氏は、自社の取り組みついて紹介している。
「リノベーションを行う際に、まずはインスペクションを行い、現状問題がある部分だけでなく、例えば数年で問題が出そうな特に給排水管などの重要なインフラについては、あらかじめ改修したうえで保証を行います。さらにどこをどうリノベーションしたか詳細な『工事説明書』で個別に明らかにすると同時に、個別保証を行うことで不用意なトラブルを避ける仕組みを展開しています」

また『サンキュ!』編集長 武田氏は、自身が5年前に中古物件を購入しセルフリノベーションを行った経験をもとに、インスペクションの普及の重要性や有益情報の一般化について次のように語った。

「私が物件を購入したのは5年前で、インスペクションという言葉を知らない状況でしたが、耐震性やシロアリ、水回り、電気設備などの状況は気になりそれぞれの業者に診断は行いました。ただし、個別で行ったため非常に手間がかかると同時にいざ改修となった際の金額に妥当性があるのかもわかりませんでした。そうした点で今後、インスペクションや保証を一元化できる取り組みが進んでいくことは消費者にとっても関心の高い点だと思います」

コーディネータの中山氏は、こうした議論をうけて、既存住宅に関する検査などの公的制度の存在を提示。具体的には、リフォーム工事前の住宅検査や工事計画書の確認を条件とし、最長10年の金利優遇を行う「フラット35リノベ」。リフォーム費用の一部が補助される「長期優良住宅課リフォーム推進事業」。そして、検査箇所に重大な欠陥が見つかった場合、保険金が支払われる「既存住宅売買瑕疵保険」を紹介した。

また、こうした情報が現在、一般消費者にほとんど知られていない状況を早く脱することが望まれるとし、さらには、今年2016年6月に「宅建業法の改正」が行われたことに注目。宅建業者に対し、インスペクション事業者の斡旋の可否を示すなどの義務が課せられ、現在では一般的に認知されていないインスペクションが今後普及していく予測を示した。

中古物件の価値が見直される社会へ

HOME’S総合研究所 副所長 中山登志朗氏。不動産市場に関するデータと知見を広く提供し、近著には、首都圏鉄道路線のエリア価値を独断で公表した『沿線格差』がある。中古住宅購入においても、売却などの出口戦略を意識することが重要というHOME’S総合研究所 副所長 中山登志朗氏。不動産市場に関するデータと知見を広く提供し、近著には、首都圏鉄道路線のエリア価値を独断で公表した『沿線格差』がある。中古住宅購入においても、売却などの出口戦略を意識することが重要という

最後に議題となったのが、「中古住宅の流通が進んだとしても残る、将来的な住み替えなどへの不安」についてだ。例えば築25年の物件をリフォームし、10年後に住み替えを検討する場合、内装は10年だとしても築35年となる物件に価値があるのかという将来的な不安に対してだ。

パネリストからは、こうした点では、再建築不可などの土地の持つポテンシャルを吟味する必要があるのと同時に、大きな基準としてエリアの選択がこれまで以上に重要になるという見解を示した。共働きが進む中で都市部の人気沿線エリアはやはり今後も価値が続き、逆に駅近であっても郊外のエリアでは苦戦が強いられるとの見方だ。

さらに、日本が独自に形成してしまった「住宅の価値」と「築年数」の関係を見直す時期にきているとの意見もあがった。欧米やヨーロッパでは築年数を気にして物件を購入する感覚はなく、日本でも「駆体」と「インフィル」を分けて考え、住宅の価値観を変えていく啓蒙も必要だとした。

このフォーラムで見聞きし、感じるのは確実に中古住宅の流通が本格化するという潮流だ。すでに制度も少しずつであるが整いつつある。もちろんインスペクションを進める「宅建業法改正」も施行されるのは2018年6月の2年後。まだ中古物件流通は始まったばかりというところだが、安全や安心を提供する制度や一括で担当する事業者も登場している。

今回フォーラムで語られたポイントをぜひ消費者目線でも活用していただきたい。

2016年 11月14日 11時05分