
こんにちは、沙東すずと申します。会社勤めのかたわら、旅や生きものに関する本や文章を書いたり、「昆虫大学」というクリエーターイベントを主催したりすることもある会社員です(「メレ山メレ子」名義で長年活動していましたが、2023年に改名しました)。
趣味の一つは「家づくり」です。現在は自身にとって2軒目となる中古マンションをフルリノベーションして入手、壁を自分で塗装するなどして少しずつカスタマイズする暮らしを楽しんでいます。
今回は、1軒目のマンションを売却した経験と、それを通じて感じたことについて書いていきます。
売却物件の詳細
・間取りと広さ:1LDK(購入当時の2DKをフルリノベーション)/45平米
・立地:東急東横線 多摩川駅 徒歩8分
・築年数:52年(2023年の売却当時)
・居住年数:約7年(※うち2年半は上海に出向)
・購入価格:2,730万円+改装費用770万円
・売却価格:3,380万円
・家族構成:一人暮らし
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上海出向中も手放さなかった、大好きな部屋
売却したマンションには2016年に入居。当時空室だった部屋を、半年かけて改装しました。
購入当時から年季の入った物件でしたが、真向かいのマンションを内見に行った際に外観に惚れ込んでしまいました。そのあと何軒内見しても忘れることができず、空室が出るのを待ちに待って購入。

正直言ってフルリノベしても隠しきれない古さはありましたが、建築士さんは背の高い建具や内壁に囲まれたキッチンなど、物件が広く見える工夫を重ねてくれました。

友人に手伝ってもらって壁の一部を塗ったり、ウィリアム・モリスの輸入壁紙を建具に貼ったり、板壁を立てて本棚代わりの木箱を取りつけたりしたのも良い思い出。それまで一人暮らししていた賃貸は狭く、友人を呼べる環境ではなかったので、ホームパーティーも開けるようになってうれしかったです。
購入直後の2017年夏、私は中国の上海に赴任することに。「家を買ったばかりなのに?!」と周囲には驚かれましたが、この出向は社内公募で自ら希望したものでした。
マンションを手放したり他人に貸すつもりはなく、一時帰国時にはすぐ使えるよう、月に一度の留守宅清掃を業者にお願いするなど、大事にしていました。出向時の住居負担は会社持ちで、また中国のマンションは家具付きが基本なので、コストは許容範囲だと感じていました。
2020年4月に帰任を控えていたのですが、突然やってきたコロナ禍により、予定を早めて2020年1月に帰国。というより、旧正月の休暇で一時帰国したら中国に戻れなくなり、そのまま引き上げる手続きをしました。
コロナ禍で一番混乱していた時期でもあり、中国に戻ったら身動きが取れなくなる可能性もあったので、中国に残した荷物は現地スタッフの手を借りて発送してもらいました。結果、2カ月後には船便で日本のマンションに37箱の段ボールが届くことに! 少しずつものを減らしていくつもりが、とんだ痛手です。

コロナ禍でろくに外出もできない中、家をちょっとずつ快適にすることが心の支えになりました。急な帰任で一気に増えてしまった荷物を整理したり、リモートワークのための環境を整えたりすることが、先の見えない不安の中での気晴らしでした。
「この家は完成してしまった」と感じて売却を検討
そんなに愛着のあった物件をなぜ売ったのかというと、理由は大きく二つ。一つは「ローンを完済したから」。もう一つは「家づくりが好き過ぎるから」です。
1軒目の物件は住宅ローン減税の対象外だったので、ことあるごとに繰り上げ返済をするようにしていました。ローンの残高が減っていくのが楽しくなり、出向中に増えた海外手当などを積極的に投入した結果、当初の予定より早く、2022年にローンを完済できました。
完済はうれしかったのですが、このあとどうしよう。中国との二拠点生活は整える家が二つあるという点では悪くないものでした。また、磯での生きもの観察が趣味なので、海の近くに週末通えるセカンドハウスを持つことなども考えているのですが、セカンドハウスにかかる資金は住宅ローンのように低金利では借りられません。
そして、家もいい加減手狭になってきていました。かつて賃貸から引っ越したばかりのときは「2倍以上の広さになった! 一人暮らしには十分過ぎる!」と喜んでいたはずなのに・・・・・・。
コロナ禍の3年間で家をいじり回した結果、家具も物もさらに増え、棚をちょっと増やしたくらいではどうにもなりません。この家は私にとって完成してしまった、発展途上の家を整える喜びがカンストした――そう感じたのでした。
セカンドハウスの候補物件を眺めていたある夜、「リモート拠点を増やしても家財道具は増えるだけで、この家が住みやすくなるわけではないだろう。思い切って広い家に引っ越し、また家づくりをするのもいいのでは?」と思いつきました。この家も大好きだけれど、時間がたって好みも変化してきている。とりあえず売れそうか相談してみてもいいかも。
後日、売却・購入・リノベーションをトータルで行う不動産会社のサイトを通じて、すぐ相談のアポを取りました。
購入と売却の同時並行。怒涛のスケジュールが始まる
不動産会社のオフィスで面談した担当者は、事前に記入したシートをもとに査定額を提示してくれました。
物件は東急東横線の多摩川駅近くにあったのですが、「物件エリアもうちの利用者さんのニーズにマッチすると思います」とのことで、提示された金額は「3,680万円」。マンション価格も全体的に値上がりしているし、高めだといいな……とはいえかなり古い物件だし……と思っていたのですが、提示額を見て「つ……強気~!!!!!」と言ってしまいました。
3,680万円は“反響がとれる最大限の価格”とのこと。「3,200万円くらいなら早期に成約するでしょう」とも言ってくれました。その後の問い合わせの推移などを見ても正しい感覚だったと思います。
担当者の説明によれば、住み替えには「売り先行」と「買い先行」があるそう。「売り先行」は旧居の売却代金を次の物件の購入に充てられる一方、購入スケジュールに影響が出る可能性も。「買い先行」はその逆で、購入資金を先に準備する必要がありますが、じっくりと新居を探すことができます。
次の家はフルローンで申し込むつもりだったので「買い先行で、まずは新しい家を余裕をもって探したい」と伝えました。
👉住み替え時の不動産売却の進め方は?売却・購入手順や費用も解説
あくまで住みたい物件があればね、という軽い気持ちで候補物件を内見することにしたのですが、なんと2軒目で気になる物件に出会ってしまいました。新しい家がある街も住みやすそう。部屋の広さも1.5倍になり、新たな家づくりを想像して心が躍ります。
2022年10月中旬に不動産会社に問い合わせ、11月初旬には購入の申し込みをしていました。半年後の5月を入居予定日と定めて、ローンの審査や改装プランの打ち合わせなどを進めていきます。購入と改装の手続きで、いきなり忙しくなってきました。
旧居の売却についても別の担当者がつき、売却をお任せするための専任媒介契約を締結。電子サインで完了し、こういう局面でもオンライン化が進んでいるんだなと感心します。
不動産情報のネットワークシステム「レインズ(REINS)」には間取りなど最低限の情報のみ掲載し、12月には会員専用サイトに載せる写真を撮ることに。副業で文筆活動をしており、部屋の写真を見る人が見れば住んでいる場所がバレてしまう恐れがあったため、転居が完了するまでは不動産会社の会員専用サイトにのみ情報を掲載するようにしました。
家を必死で片付けたものの、家具が多過ぎて雑然とした印象は否めません。住んでいる期間に内見依頼がたくさん来たら面倒かも……と不遜な心配をしていましたが、強気価格で売りに出していることもあり、結局、居住中の内見は1件のみでした。
長引く売却で価格交渉。最終的に300万円値下げ
転居前に内見に来られたのは40代単身の女性。風通しの良さや眺望、共用部分の綺麗さなどを評価してくれるといいなと思いましたが、帰り際に「参考になりました」とコメントされていました。どちらかというとリノベーションの参考にしたかったようで(リノベ好きなので気持ちは分かる)、物が多過ぎて狭い印象を与えてしまったのもマイナスだったかもしれません。

売却の担当者は定期的にレポートを送ってくれるのですが、売却については動きのないまま、専任媒介契約を定期的に更新していました。媒介手数料は成約時まで発生しないので金銭面では安心ですが、長引くと心苦しいものがあります。
売却を早期に狙うなら、一時的に賃貸に移ってでも空室にしたりハウスクリーニングをしたりといった努力も有効だったかもしれません。もちろんそれには別の手間とコストがかかるわけですが、高く売りたいからというより「古いなりにいい部屋なのに、あなたのいいところをちゃんと紹介できず申し訳ない……」という気持ちが、わが家に対してありました。
転居後に空室となったタイミングで会員専用サイトだけではなく他社にも情報公開し、専用サイトでも紹介記事を上げてもらうことになりました。ライターさんが実際に部屋を訪れて、部屋の紹介文を書いてもらいます。
引っ越し完了後は部屋の鍵を担当者に預け、空室の内見については不動産会社が対応してくれました。新着記事を見た方からの問い合わせが続き、週末を中心に7件ほど内見がありました。単身女性やDINKsのご夫婦らが内見してくれたのですが、キッチンがコンパクトなことやスペースの使用感への懸念、資金計画が難しいことなどを理由にいずれも購入には至らず。


「天井が斜めになっているのはなぜでしょうか?」という質問が2件ほどあり、私も購入時にドキドキしたんだよなあ……と遠い目になりました。古い造りのマンションでは、コンクリートが部屋の中心に寄って天井に角度が出てしまうんだそうです。大丈夫なのかと聞かれても「私が住んでいる間は大丈夫でした」としか言えない……!
そんな感じでさらに1カ月が経過。あるご夫婦が何度か内見してかなり気に入ってくれているものの、激しめの価格交渉を予定しているとのこと。
この辺で売却の担当者からは「あまり大幅な値引きは厳しいと伝えているが、だんだん新規の問い合わせも少なくなってきたことだし、値下げを考えても良いのでは?」との提案がありました。私も同意見だったのでオンラインで軽く打ち合わせをし、200万円下げた3,480万円で更新することに。もともとの価格がかなり強気だっただけに、特に抵抗はありません。
ご夫婦の進捗だけを待っていると機会ロスにもなってしまうということで、7月下旬にレインズの価格更新を行いました。これに伴い、媒介契約の書類も再度更新することになります。
価格更新したことだし、そろそろ売りたいな……と思っていたところ、さっそく30代単身男性の内見があり、かなり気に入っていただいているとのこと! ただし、希望額から▲100万円の指値(売買にあたって買主が購入価格を指定すること)をしたいとの提案が。この価格交渉を受け入れ、最終的には3,380万円で売却をすることになりました。あまり焦っていないつもりでしたが、このときはやはり肩の荷が下りた気持ちでしたね。
我が名はマンション売れ太郎\\\\٩( 'ω' )و ////
— 沙東すず (@merec0) 2023年9月15日
買主さんに「家への愛着」を肯定してもらえた気分
少し専門的な用語も多くなってしまうのですが、人生で何度もない「家を売る」経験です。契約時のことも振り返ってみます。
売却に伴い、媒介契約時に締結した物件状況等報告書・付帯設備表を見直しました。これは売却物件の現況について売主側が作成するチェックリストで、瑕疵担保にも関わる大事な資料です。
そして、買付より1週間後の7月30日に手付契約を実施。
手付契約時の売主側の持ち物
・身分証
・実印
・一万円の収入印紙
・印鑑証明書
・住民票
・納税通知書
最後の納税通知書は、売却物件に関する固定資産税の確認のために必要です。マイナンバーカードを使ってコンビニで納税通知書を発行してみたところ令和5年度の納税通知書には固定資産税額の記載がなく、都税事務所で発行する時間的余裕がなかったので、固定資産税関係証明書にて後日手続きすることになりました。
最初の1時間は買主に向けた重要事項説明のため、私は買主さんの1時間後に登場。100万円の手付金を受け取ってサインします。この手付金は、なぜか現金でやりとりするのが不動産業界・鉄のルールのよう(※編集部注:不動産会社によって異なります)。受け取ってすぐにキャッシュコーナーで入金します。
買主さんと顔を合わせるのはこの日が初めて。一人暮らしで家づくりが趣味の人は全員友達だと思っているので、根掘り葉掘り聞きたい気持ちを抑えるのが大変です。
「あの家のどの辺が気に入りましたか?」と聞いてみると、「キャンプが好きなので、キャンプ用品がたくさん置ける広い土間が欲しかったんです。あの家も土間が広かったので気に入りました」とのこと。室内に自転車を置くために土間を設えていたのが刺さったようです。広い土間、いいですよね! 私の新居にも土間があります!
自分が工夫した場所が印象に残ったのなら良かった! 私なりの家への愛着を肯定してもらった気分です。

さらに買主さんの改装の見積もりやローンの本審査を待ち、9月中旬に本契約を行うことになりました。これが正式な物件の引渡しとなります。
買主さんは公務員で、勤め先の専用組合で融資を受けるとのこと。ローンの承認も銀行より速かったようです。そのため、決済の場所はなんと霞が関の某庁内! めったに行かない場所なのでテンションが上がります。
引渡し前に残置物を全て処分するため、軍手やゴミ袋、ゴムハンマーを持って部屋に向かいました。置き型コンロやメタルラック、そしてベッド1台を解体し、粗大ごみ置き場へ少しずつ運搬。これがかなりの重労働でしたが、なんとか一人でやり遂げた頃には日が落ちて真っ暗に。疲れ切って部屋を後にし、行きつけだった焼き鳥屋さんで祝杯をあげました。
本契約の当日は不動産会社の売主・買主双方の担当者と登記変更の手続きをしてくれる司法書士さん、買主さんと私で、某庁の信用組合がある一室に集まりました。組合職員の方による送金を銀行のアプリで確認し、領収書と売買契約書にサインをして手続きは完了です。
本契約時の売主側の持ち物
・登記識別情報通知
・身分証明書
・実印
・売却物件の鍵
・登記費用(2万円弱)
買主さんは最初の話では部分的に改装をする予定でしたが、リノベ担当者と打ち合わせしているうちにフルリノベーションへと傾きつつあるよう。
売却に出すときは「このテイストを気に入ってそのまま大事にしてくれる人だったらいいな」という気持ちもありましたが、もともとリノベ好きな人向けの会社に依頼しているので、やはり改装が前提になるんですね。
いっそ私の部屋の原形をとどめないくらい、買主さんなりの好きを突き詰めた部屋にしてほしいです。陰ながら応援しております!
旧居の反省点を生かせる! 住み替えという選択肢
築50年以上のマンションを購入時より高く売却できたのは東京23区内ならでは、という気がしますが、770万円をかけたリノベーションへのこだわりは資産価値に大きく反映されたわけではなかったです。7年分の償却を考えれば、損はしていないと思いますが。
お金の勘定はともかく、家づくりの楽しさや部屋で過ごした時間といった使用価値を考えれば、旧居を買って住んだことは間違いなくプラスでした。旧居で暮らして良かった点と反省点は、余さず次の家づくりに生かされています。




Webサイトへの情報公開や価格更新など、段階的に盛り上がりポイントを作って売却につなげてくれた担当者に感謝しています。問い合わせや内見をしてくれた方々、買主さんとの直接のやりとりは少なかったものの「自分のための家づくりって楽しいよね」というシンパシーを感じました。
この記事を読んでくれた方の中には、ご自身で売却や住み替えを検討されている方もおられることでしょう。売却に当たってはやることは多いものの、私の場合は基本的には担当者にお任せすることができ、難しさは感じませんでした。
すぐに売却しないとしても、現時点でのだいたいの売却額を知っておくことは今後の人生プランを考える上でマイナスにはならないはず。住み替えという選択肢を持つためにも、一度相談されてみると良いのではないでしょうか。
プロフィール

はてなブログで #家を売る お題を募集中!
この記事は、LIFULL HOME'S 不動産売却査定とはてなブログによる特別お題キャンペーン#家を売るへのお手本投稿として、フルリノベーションした中古マンションを住み替えた体験をブロガーで作家の沙東すずさんに執筆いただきました。
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※特別お題キャンペーン「#家を売る」は、はてなブログのお題として募集しています。はてなブログをお持ちでない方はブログを開設して、ご参加ください。
※2024年6月25日11:00ごろ、記事の一部を修正しました。ご指摘ありがとうございました。
編集:はてな編集部
