
空き家を売却する場合、タイミングによってかかる税金が変わることがあります。また、親が存命である場合と、相続が発生した後では利用できる税制上の特例も異なります。適用となる要件については、判断が難しい部分もあるため注意が必要です。
さらに、空き家を古家付き土地として売却するか、更地にして売却するかも判断が難しい場合があります。この記事では、空き家を売却する際の税金について解説していきます。
この記事で分かること
- 空き家を売却したときにかかる税金
- 空き家を売却したときに利用できる税金の特例
- 空き家を売却するときに注意すべきこと
- 古家付き土地と更地はどちらがお得か
もくじ
- 空き家を売却した場合にかかる税金
- 空き家を売却した際に利用できる可能性がある税金の特例
- 空き家を売却する2つの方法
- 空き家売却の税金に関するよくある質問
- 空き家を売却する場合は、まず不動産会社に相談を
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空き家を売却した場合にかかる税金

空き家を売却したときにかかる税金は、一般的に以下の3つが考えられます。
- 譲渡所得税
- 印紙税
- 登録免許税
ここでは、税金がかかるのはどのようなケースで、どの程度の税額になるのかを解説していきます。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産などの資産を売却することで生じた利益に対して課される税金です。つまり、売却による利益が発生しなかった場合は課税されません。
また、利益が出ていても取得時と譲渡時にかかった経費や特例による特別控除を差引くことができます。それにより、課税譲渡所得(利益)が計算上ゼロになれば税金はかからないことになります。
譲渡所得を算出する計算式は、以下の通りです。
譲渡価格 - ( 取得費+譲渡費用) - 特別控除額 = 課税譲渡所得
次に、上記の計算式で算出した課税譲渡所得に対して、所有期間に応じた税率をかけて譲渡所得税額を計算します。
譲渡した年における、1月1日現在の所有期間が5年超の場合は長期譲渡所得となります。その場合の、税率は合計で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)。5年以下で短期譲渡所得となる場合は39.63%(所得税30.63%+9%)です。
一般的に、譲渡所得税率は所得税(復興特別所得税も合算)と住民税を合計した税率を指すことがほとんどですが、厳密には異なる税金です。
所得税は確定申告で納めますが、住民税は翌年の他の住民税とあわせて納税します。
| 所有期間 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|---|
|
長期 譲渡所得税 |
譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える | 15% |
基準所得税額の2.1% (15%×2.1%=0.315%) |
5% | 所得税15.315%+住民税5%=20.315% |
|
短期 譲渡所得税 |
譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下 | 30% |
基準所得税額の2.1% (30%×2.1%=0.63%) |
9% | 所得税30.63%+住民税9%=39.63% |
※2013年〜2037年までは復興特別所得税が課され、基準所得税額の2.1%を所得税とともに納付する
相続した不動産については、所有期間は親などの被相続人が不動産を取得した日から、相続人が売却した年の1月1日までの所有期間で判断します。
※参考1: 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁
※参考2: 長期譲渡所得の税額の計算|国税庁
※参考3: 短期譲渡所得の税額の計算|国税庁
※参考4:相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期|国税庁
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印紙税
印紙税とは、印紙税法により課税対象と定められた不動産売買契約書など、一定の文書に対して課される税金です。
不動産売買契約書については、その売買価格に応じた印紙税を納めます。印紙税を支払うタイミングは、売買契約締結時です。収入印紙を契約書に貼付し、印鑑などで消印することで納税します。
万が一印紙を貼らない、もしくは消印しなかった場合は、過怠税を課されることがあります。消印も忘れないように注意しましょう。
なお、収入印紙は郵便局や法務局、コンビニなどでも購入できます。不動産譲渡に関する契約書で契約書の記載金額が10万円以上であれば、2014年(平成26年)4月1日から2024年3月31日までの間に作成されるものは、印紙税の軽減措置の対象になります。
契約金額に対する軽減税率は、以下の通りです。
| 契約金額 | 通常の税率 | 軽減税率(※) |
|---|---|---|
| 10万円を超え50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
| 50万円を超え100万円以下のもの | 1,000円 | 500円 |
| 100万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 | 1,000円 |
| 500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5,000円 |
| 1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
| 5千万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
| 1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
※2027年3月31日まで
※参考:不動産売買契約書の印紙税の軽減措置|国税庁
登録免許税
登録免許税とは、不動産登記する際に課税される税金です。不動産の慣例に従い所有権移転登記費用は買主が負担するケースがほとんどです。
所有権移転登記時に抵当権が設定されている場合は、抵当権を抹消登記する必要があります。抵当権が設定されていない場合や、すでに抹消されている場合は不要です。
抵当権抹消登記は、不動産の引渡し時に司法書士に依頼するのが一般的ですが、個人でも法務局へ申請すれば抹消登記できます。
抵当権抹消に課される登録免許税は、1つの不動産に対して1,000円です。一戸建てであれば土地に対して1,000円、建物に対して1,000円で合計2,000円となります。ただし、土地の地番が複数あるときは、その数に応じて1,000円ずつかかります。
抵当権抹消登記以外にも、所有者の住所が登記簿上と実際の住所が異なる場合は、住所変更登記が必要です。この場合も土地に対して1,000円、建物に対して1,000円となり、合計で2,000円です。
登録免許税は、印紙税と同様に収入印紙で支払うものですが、司法書士へ抵当権抹消や住所編登記を依頼する場合は報酬と同時に現金などで支払います。なお、抵当権抹消登記や住所変更登記を司法書士へ依頼した場合の報酬額は、10,000〜20,000円が相場となっています。
※参考1:登録免許税の税額表|国税庁
※参考2:抵当権の抹消登記に必要な書類と登録免許税|法務局
空き家を売却した際に利用できる可能性がある税金の特例

空き家を売却した際に利用できる税金の特例は、所有者である親が存命である場合と、亡くなった場合で異なります。
- 親が存命で実家が空き家になった場合
- 親が亡くなった後に空き家になった実家を売却する場合
ここでは、上記2つのケースについて順番に詳しく見ていきましょう。
親が存命で実家が空き家になった場合
親が存命で実家が空き家になった場合には、以下の特例が利用できる可能性があります。
- 居住用財産の3,000万円控除
- 軽減税率の特例(10年超所有している場合)
- 特定マイホームの買い換え特例
ここからは、上記3点をさらに詳しく解説していきます。
居住用財産の3,000万円控除
居住用の財産は、要件を満たせば、その所有期間に関係なく課税譲渡所得から最大3,000万円控除できます。これを一般的に『居住用財産の3,000万円控除』と呼ばれています。
空き家で注意すべき点は、住まなくなった日から3年を経過する日の年の12月31日までに売却しなければならない点です。この特例の適用を受けるためだけに入居した場合や、別荘として利用していた場合、親族間での売買は適用されないので注意が必要です。
また、以下の項目も要件となるのでチェックしておきましょう。
- 売った年、その前年及び前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと
- 売った家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
※引用:マイホームを売ったときの特例|国税庁
なお、3,000万円控除を利用するためには、売却した年の翌年に確定申告する必要があります。
軽減税率の特例(10年超所有している場合)
軽減税率の特例(10年超所有している場合)は、売却した年の1月1日において家屋と敷地の所有期間が、ともに10年を超えている居住用財産が適用となる特例です。一定の要件に当てはまるときは、長期譲渡所得税額の税率がさらに低い税率(軽減税率)となります。
長期譲渡所得金額の6,000万円までは軽減税率の10%になります。
| 課税長期譲渡所得金額(=A) | 税額 |
|---|---|
| 6,000万円以下 | A×10% |
| 6,000万円超 | (A-6,000万円)×15%+600万円 |
※6,000万円超は長期譲渡所得の税率である15%
※2013年〜2037年までは復興特別所得税が課され、基準所得税額の2.1%を所得税とともに納付する
空き家の場合、注意すべき点は、3,000万円控除の要件と同様に、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の、12月31日までに売らなければならないことです。
その他、以下のような要件もあるのでチェックしておきましょう。
- 売った年の前年、前々年にこの特例の適用を受けていないこと
- 売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など、他の特例の適用を受けていないこと ※参考2:マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁
なお、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は併用できます。この特例を適用するためには、売却した年の翌年に確定申告しなければなりません。
特定マイホームの買い換え特例
『特定の居住用財産の買換えの特例』を利用することで、2023年12月31日までにマイホームを売却して買い換えた場合に譲渡所得税を将来に繰り延べられます。
ただし、この特例はあくまでも税金の繰り延べであり控除ではありません。『3,000万円の特別控除の特例』と併用できないため、慎重に判断する必要があります。
『特定の居住用財産の買換えの特例』における一定の要件としては、自分が住んでいる住宅であることや、売却価格が1億円以下であることなどが挙げられます。
空き家の場合、注意すべき点は住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の、12月31日までに売らなくてはならないことです。他にも、売却した年の前年〜翌年の3年間に買い換えなければならない点や、夫婦間や親族間での売買には利用できない点に注意が必要です。
なお、この特例についても確定申告しなければなりません。
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親が亡くなった後に空き家になった実家を売却する場合
親が亡くなった後に、空き家になった実家を売却する場合は以下の特例を利用できる可能性があります。
- 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
- 取得費加算の特例
空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例は、相続などによって取得した親の自宅(空き家)、または敷地を2016年4月1日〜2023年12月31日までの間に売却した場合に利用できる特例です。
一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得金額から最高3,000万円まで控除できます。
この特例を利用するための要件は、主に以下の通りです。
- 親が亡くなる直前まで一人で住んでいた自宅で、かつ1981年5月31日以前に建築された建物であること
- 売却代金が1億円以下であること
また、区分所有建物であるマンションは適用になりません。注意点は、相続の開始があった日から3年目の12月31日までに売却する必要があることです。
この特例は耐震性の低い空き家を抑制することが目的のため、空き家の耐震性が一定基準に満たない場合は適用となりません。耐震リフォームを実施するか、一度取り壊してから譲渡する必要があります。なお、この特例についても確定申告が必要です。
※参考1:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
※参考2:住宅:空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)|国土交通省
取得費加算の特例
相続によって取得した土地や建物を一定期間内に譲渡した場合は、相続税のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できます。
譲渡所得額を算出する際に、不動産の取得時にかかった経費を差引くことができます。この特例が適用となる場合は、相続税をもとに計算した一定金額も取得費(経費)として加算できるため、税金の負担を軽減できるでしょう。
相続税が課税されていることや、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡する必要があります。
なお、この特例についても確定申告が必要です。
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空き家を売却する2つの方法

ここでは、空き家を売却する2つの方法を解説します。
- 古家付き土地として売却する
- 更地にして売却する
空き家を古家付き土地として売却すれば、解体費用は買主の負担になり、経費を抑えられる可能性があります。
ここでは、古家付き・更地にして売却するメリット・デメリットもそれぞれ解説します。空き家の売却を検討している人は、自分に合った方法を選びましょう。
古家付き土地として売却する
空き家を売却する際に、古家付き土地として売却する方法があります。
そもそも古家付き土地とは、中古住宅として販売されている物件とは異なり、資産価値がほとんどない住宅が建っている土地のことです。
古家付き土地として売却するメリット
古家付き土地として売却するメリットは、主に以下の2点です。
- 解体費用がかからない
- 固定資産税の軽減措置の特例が適用される
古家が建っている場合は住宅用地となるため、固定資産税の軽減措置の特例が適用される点は大きなメリットといえるでしょう。なお、敷地面積が200㎡までの場合固定資産税は1/6、200㎡を超える部分は1/3です。また、都市計画税は面積にかかわらず1/3となります。
古家付き土地として売却するデメリット
古家付き土地として売却するデメリットは、主に以下の2点です。
- 最低限の管理とメンテナンスが必要となる
- 水道や電気、ガスなどの契約を継続している場合は基本料金が発生する
空き家は劣化しているケースが多いので、最低限の管理とメンテナンスは必要です。万が一、自治体から「特定空き家」に認定されてしまうと、住宅用地の軽減措置の特例の対象外となる可能性もゼロではありません。
また、メンテナンスのために水道や電気、ガスなどの契約を継続している場合は、基本料金が発生します。空き家は放火の心配もあるため、ゴミの不法投棄などがないか定期的に現地の様子を確認する必要もあるでしょう。
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更地にして売却する
空き家を解体して、更地にする売却方法もあります。
そもそも更地とは、建物や建築物などがない状態の宅地のことです。一般的には、借地権のような土地の利用を制約する権利が付いていない宅地を指します。
更地にして売却するメリット
更地にして売却するメリットは、主に以下の通りです。
- 買主は解体費用がかからないため買い手がつきやすく、早期に売却できる可能性がある
- 建物に関する契約不適合責任を考慮しなくてよい
- 古家付き土地に比べて管理しやすい
上記以外にも、建物の固定資産税が発生しない点や、水道などのライフラインも解約すれば月々の基本料金が発生しなくなる点などはメリットとなります。
更地にして売却するデメリット
更地にして売却するデメリットは、主に以下の通りです。
- 更地にするための解体費用が発生する
- 住宅用地ではなくなるため、固定資産税などの軽減措置を適用できない
- 翌年の固定資産税と都市計画税が高額になる
居住用財産の3,000万円控除を利用するためには、古家を取り壊した日から1年以内に売買契約を締結しなければなりません。さらに、住まなくなった日から3年経過する日の年末12月31日までに引渡す必要もあります。
したがって、売買契約日のタイミングに注意が必要です。また、更地にして売買契約日までに貸し駐車場として利用した場合などは、3,000万円控除が利用できなくなります。
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空き家売却の税金に関するよくある質問

最後に、空き家の売却についてよくある質問を紹介します。
- 住んでいない家を売却する方法は?
- 空き家を売却する際に注意すべきことは?
- 空き家の売却後に確定申告は必要?
住んでいない家を売却する方法は?
住んでいない家を売却する場合、依頼する不動産会社に鍵を預けて、担当者に立会ってもらう方法が一般的です。住んでいない家の場合、内覧希望があるたびに個人で立会うのは困難であり、遠方であればなおさらです。
建物の状態を確認するために、ある程度足を運ぶ必要はありますが、庭木や雑草の状態などは不動産会社の担当者に報告してもらいましょう。
空き家を売却する際に注意すべきことは?
資産価値がない古家付き売地として売却する場合は、買主と相談して建物の契約不適合責任を免責してもらいましょう。特に、買主がリノベーションして住む場合などは注意が必要です。
空き家を相続した場合は、不用品などの整理に時間がかかるため、売却までに時間をかけてしまいがちです。しかし、税制上の特例を利用する場合は3年以内が要件のため、なるべく早く売却した方が良いでしょう。
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空き家の売却後に確定申告は必要?
空き家であっても、不動産を譲渡したことにより、利益が発生した場合は翌年に確定申告する必要があります。
また、税制上の特例を利用する場合も、確定申告しなければ適用にならないので注意が必要です。
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空き家を売却する場合は、まず不動産会社に相談を

これまで解説してきたように、空き家の売却については、さまざまな進め方や複雑な税金の手続きがあります。そのため、空き家を売却する場合は、まず不動産会社に相談することをおすすめします。
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こうしたサービスを活用することで空き家売却をスムーズに進めることができるでしょう。
記事監修
桜木 理恵(さくらぎ りえ)
私鉄系不動産会社にて売買仲介営業として約8年従事。積水ハウスリフォーム株式会社にてリフォームアドバイザー(営業)として5年従事。公益財団法人日本英語検定協会にて英語検定の普及活動(営業)として1年半従事。三井住友信託銀行にて不動産事務などを経験。22年4月からwebライターとして活動中。