保有台数が右肩上がりのキャンピングカー。熱視線のワケは
長い休みや秋の行楽シーズンになると、北海道では国道や道の駅で、ツーリング中のバイクや自転車を多く見かける。最近はそれに加えて、キャンピングカーも増えてきたと感じる。
近頃では国内外の自動車メーカーも相次いで車中泊ができるモデルを投入。家に縛られない「バンライフ」という言葉もよく耳にするようになり、キャンプブームの勢いは衰えそうもない。プライベートな空間が確保できるとあって、コロナ禍にもぴったりだ。
キャンピングカーの普及に取り組む一般社団法人「日本RV協会」が発行する「キャンピングカー白書」によると、2020年の全国の保有台数は6.7%増で、右肩上がりに伸びている。
日本RV協会が2020年にビルダーや販売店(全25社)に調査したところ、販売台数はすべてで前年以上となり、10~30%増になったのは全25社の68%に達した。コロナ禍でキャンピングカーが注目されていることが裏付けられた形だ。
北海道は、自然を感じやすいキャンピングカーで気ままに、縦横無尽に走り回るのに打ってつけの地域といえる。北海道の玄関口・新千歳空港近くでプレミアムキャンピングカーのレンタル会社を2016年に立ち上げた後、地元の旭川市でレンタル会社「ウレシカ」を2018年に起業した山岡大介さんに、キャンピングカーの魅力や可能性を聞いた。
“動く事務所”は、愛犬連れのためのキャンピングカー
取材で話を伺ったのは、ウレシカのホームページに記載されている“事務所”。ただ建物は見当たらず、愛犬連れで利用できるキャンピングカーに案内された。「打ち合わせなどは車の中でしています。事務所代わりです」と山岡さんは言う。
この車は全幅は約2mとゆったりしているが全長4.99mと5mを切り、実物は意外なほどコンパクト。「運転しやすかった」という利用客の反応も納得だ。
エアコンやシャワーが付き、乗車は6人、就寝は4人までできるという。家族や仲間同士に程よいサイズ感だった。日本の道を快適に走るために、限られたサイズの中で、スペースを最大限活用しているのは国産ビルダーの腕の見せどころでもある。
需要が多い愛犬同伴の車種だけあって、独特の工夫がある。出入り口近くのフロアには窓があり、ケージを置いて愛犬が居心地よく過ごせる。またカーペットの面積を極力少なくし、清掃の心配を少なくしている。
多彩な車種。リメイクした手軽なハイエースから、ラグジュアリーまで
ウレシカ全体では4台を運用していて、小型トラックをベースに専用の居室をのせた「キャブコン」タイプは、この愛犬用の1台に加え、ラグジュアリータイプが1台、ダブルベッド仕様が1台。残る1台はハイエースをベースに独自にリメイクし、木を基調にした内装にした。
山岡さんは学生時代に自動車部に所属し、手を加えてはレースに出るような生活を送っていた。遠征先では宿泊費を浮かすためにキャンプをしていたので、車でキャンプをすることは日常だった。
社会人になってキャンプをする時間は減ったが、約10年前にキャンピングカーを購入。当時は、マイナス20度にもなる夜に車中泊していると冷ややかな目で見られたが、今ではうらやましがられるようになったという。やがて「自分だけ持っていてももったいない」「キャンピングカーで充実した生活を楽しんでほしい」と思い、起業に至った。
立ち上げた最初の会社では、インバウンド客(訪日外国人客)の需要が大きく、台数も拡大。スキーなどで冬も繁忙期と呼べるほど盛況だった。
山岡さんは稚内などの道北や、知床などの道東、美瑛・富良野など人気の高いエリアのハブに旭川が位置することに着目。北海道でキャンピングカーに乗った経験がある人や、愛犬連れなど、コアな客をターゲットに2回目の起業を果たした。
アウトドアだけでなく、観光も。コロナ禍で見えた変化
ウレシカはすぐに新型コロナウイルスの影響を受けることになったが、山岡さんはコロナ禍での変化を感じ取っているという。
「『ホテルが不安なので、食事をテイクアウトしながら過ごします』という家族連れの利用がありました。このように、以前はアウトドアでの利用が多かったですが、今は密な都市部を離れてゆっくりしたいという需要があり、感覚が変わってきたと感じます」
日本RV協会がホームページ閲覧者を対象に実施したウェブ調査(2021年1月18日~2月17日)では、2ヶ月前の調査と比べ、レンタルなどで乗車経験をした人の割合が増え、アウトドア目的よりも観光地を巡る旅で利用したい人が多いことが分かった。「三密」を避ける空間として、キャンピングカーへの期待があることも読み取れたという。
実際、一度体験するとその魅力に夢中になるケースも少なくないらしい。
「ウレシカ」でレンタルした人の多くは、「予想以上に快適だった」「また借りたい」と感想を寄せたという。これまで利用した客のうち、約3組が購入につながったほど。
「非日常を体験できるツールではありますが、所有を考えている人が検討するきっかけにもなっています」と山岡さん。キャンピングカーは特殊な部品や装備を使い、着実なメンテナンスが求められる。そのため山岡さんは「長い付き合いになるので、いったん借りてみて、自分のライフスタイルに合うか確かめるのがおすすめです」と言う。
アイヌ語で「満たされた暮らし」を意味するウレシカ。「生活の中にキャンピングカーが入るきっかけになれば」という創業の思いがあった。だからこそ、購入に至った客からアドバイスを求められるような関係ができ、手応えを感じている。
駐車スペースのリサーチを。レンタルでは事前の打ち合わせが肝
一方で、大ぶりなキャンピングカーで移動し、快適に利用するうえで気をつけておきたいポイントもある。まずは駐車と宿泊の問題をクリアするための情報収集だ。
都市部では狭い路地で苦労することがあるほか、観光地でも駐車場の区画に十分なスペースがあるかどうかを把握しておくのがベターだ。また長時間停車するとなると、トイレをはじめ安心できる設備が欲しくなる場面が多い。ただ、人気のある道の駅は、宿泊目的の利用は基本的に禁止されているため注意が必要だ。
そこで重宝するのが、トイレや電源設備などが完備された「RVパーク」。日本RV協会が、車中泊に適した駐車場として認定し、道の駅やホテル敷地内などに、全国で約200施設が登録されている(2021年8月末時点、休止など含む)。道内でも増えつつあり、16施設ある(同)。
山岡さんは「この1年でRVパークは増えてきましたし、キャンプ場もキャンピングカーを停められるところが増えました」と話す。キャンプブームで、手軽に始める入門者が増えたことを考えると、RVパークは心強い存在だ。
キャンピングカーも一般車両も駐車しやすくしようという動きもある。摩周湖に近い道の駅「摩周温泉」では、宿泊などを目的にした長時間駐車が多く、駐車できない車両が相次ぐという課題があった。このため、キャンピングカーが宿泊できる、電気設備完備の予約制有料スペースを設置。2019年からの試行で好評だったため、2021年は7月~9月に提供した。
快適にレンタルする際の注意点もある。
山岡さんは「夫婦2人なのかグループなのかといった人員構成と、車内空間のバランスを考えることが大切です。乗車人数はなんとかなっても、就寝となると違ってきます。場合によっては2台に分けたほうがいいこともあります。ミスマッチを防ぐために、事前にレンタル会社と連絡を取り合ってください」とアドバイスする。
可能性にあふれたキャンピングカー。「ブームでなく文化に」
他の人との接触を気にせず、家族や仲間内で楽しく過ごせるキャンピングカー。山岡さんによると、綿密に予定を立てず、宿泊施設を予約しなくても、天気予報や気分次第で自由に動けることに魅力を感じる声が多い。
四季のはっきりした北海道の場合は、夏はテントで宿泊し、冬は暖房を効かせた車内で宿泊するといった楽しみ方もある。
「旭川は多くのスキー場があり、冬のニーズがあります。欧米ではキャンピングカーでスキー場を回るのは一般的になっています。冬こそめいっぱい、北海道を走ってほしいですね」と山岡さんは言う。運転が不安な客のために、冬にキャンプ場まで回送するサービスも請け負っていて、まさに“動くホテル”としての需要があるとみる。
さらに最近では、ウェディングフォトの関係者からのオファーがあり、車内で撮影時の休憩・着替えをするという使い方もあるという。「100Vの電気もエアコンもあり、小さい事務所が走っているようなものです。自分の意思で動かせる部屋であり、家です。生活拠点の1つとしても使っていただけます」と山岡さんは提案する。
日本RV協会のアンケート調査でも、さまざまな使い方ができる可能性が浮かび上がった。自治体などがキャンピングカーを所有して災害時の避難場所として活用することへの期待は大きく、回答者から「移動する観光施設」「移動公民館」というアイデアも寄せられた。
アウトドアだけでなく、気ままで安心な観光の相棒として、そして仕事や災害時の拠点として――。活用のアイデアは広がる一方だ。
自身も“動く事務所”として使う山岡さん。「一時のブームにせず、文化として長く続いてほしいですね」と期待を込める。
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