住宅に多くは求めないという考え方

モバイルハウスで仕事中の西村氏。仲介業の場合、現地を案内するなど人と会わざるを得ない部分を除けばWi-Fiがあればできる作業もかなりある。改修の場合は現地に行かなくてはいけない。その2つをモバイルハウスを使うことでバランス良くこなしているといえそうモバイルハウスで仕事中の西村氏。仲介業の場合、現地を案内するなど人と会わざるを得ない部分を除けばWi-Fiがあればできる作業もかなりある。改修の場合は現地に行かなくてはいけない。その2つをモバイルハウスを使うことでバランス良くこなしているといえそう

昭和の時代はもちろん、平成に至っても、長い間、家を買うことは人生において大きな意味を持ってきた。多くの人が一生のうちに得る収入の多くをつぎ込み、より良い住宅を買おうと考えた。だが、その考え方に疑問を抱く人が出始めている。

最近になって多少景気は持ち直しているものの、その実感が広く行きわたっているわけではなく、限られた、今後も上がりそうにない収入を自分の人生にとって有意義に使うとしたら、その多くを支出すべき先は住宅なのだろうか。モノを所有することにかつてほど意味を見いだせない人も増えており、住宅も同様である。立派な家も所有者が亡くなった途端、お荷物になる状況が身近になってくると、「不動産=資産」と単純には信じられなくもなってきている。

一方でリモートワークの普及や、そもそも出勤しない働き方をする人の増加などで「通勤に便利だからここに住む」という選択をしなくてもいい人が増えてもいる。となれば、自分の考え方ひとつで従来と違う家の選び方もできるわけである。実際、様々にこれまでと違う暮らし方を考え、実践している人がいる。

そのうちの一人、車をDIYしてモバイルハウスにしている神戸市の西村周治氏は神戸R不動産で不動産の仲介を手がける一方、郊外の空き家になった安い住宅を買い取り、それをDIYして貸す大家業を営んでいる。「週に4日は不動産屋さん、3日は大家さんというところでしょうか」

そんな西村氏の家に対する考え方は実にシンプル。寝て、ご飯を食べて、休憩するだけの場所であり、そこに多くは求めないというのである。

住宅ローンのために余計に働くのは嫌

駅からは坂を上りきったところにある西村氏の自宅からの眺望。階段を上った先に絶景が待っている駅からは坂を上りきったところにある西村氏の自宅からの眺望。階段を上った先に絶景が待っている

住宅は機能を求めれば求めるほどに価格が上がっていく。確かに快適にはなるかもしれないし、広い立派な家、みんなが知る場所に住むことはステイタスだろう。だが、そこにはリスクがあると西村氏。

「経済状況が変わったら資産価値が半減することがあるだろうし、震災で潰れてしまうこともありうる。実際、妻の実家は阪神淡路大震災で被災しましたし、先年の大阪の地震では私の実家も壊れました。そんなリスクに加え、高額な家を買ったら、その支払いのために余計に働かなくてはいけない。自分の好きに、ゆっくり働くことができなくなる。それが嫌なのです」

一方で視野を広げれば、最近はあちこちにタダのような価格で手に入る家がある。それをDIYして使えばリスクを背負わずに好きな住まいを手に入れられる。賃貸では好きにできない不自由さがあるが、購入してしまえば自由だ。

そんな考えから、西村氏の自宅は神戸市垂水区の塩屋駅から細い坂道を登りきったところにある廃屋のようになっていた建物を激安で購入し、DIYしたもの。塩屋周辺は住宅価格だけでなく、家賃も安く、自由な雰囲気のあるまちだそうで、その自由さは高額なローン、賃料といった重さとは無縁だからなのものかもしれない。

その家を拠点に辺ぴな場所にある廃屋をDIYしているわけだが、場所が場所だけに足がいる。そこで活用しているのがモバイルハウスだ。

予算10万円、3日ほどでモバイルハウス完成

後部座席を倒して寝室スペースにしているが、仕掛けを見ればこの通り。実に簡単後部座席を倒して寝室スペースにしているが、仕掛けを見ればこの通り。実に簡単

もともとは友人から車を譲ってもらったとき、広い車内を見て「これなら住めるな」と思ったところから始まった。「廃屋の改修には週3日通ったとして4~5ヶ月はかかります。最近は手伝いのイギリス人、ドイツ人のスタッフを連れていくので、どうしても足は必要。また、夜中までかかってしまうこともあるので、いざとなったら寝られる、暮らせるようにしたいと改造を思いつきました」

といってもそんなにすごいことをしたわけではない。車自体は大型ではあるが普通のVAN。内部については普通の住宅で使うようなフローリング材で床を貼り、座席を倒した上にホームセンターで売っている合板をジャッキで支えてのせ、寝るスペースになるようにしてある。といっても板はただのせてあるだけで、いつでも取り外し可能。人を乗せるときには板を下ろし、座席を上げれば元の乗用車。これなら違法改造車には当たらない。

屋根には1万5,000円ほどのソーラーパネルを2枚貼ってバッテリーと繋げ、車とは別回線で電気を確保した。これによってパソコン、スマホに、夜間の照明、運転席の横に設置した冷蔵庫が稼働できるそうである。作業のうち、水回り、電気まわりの基本的な工事は知り合いの工務店などに依頼したものの、それ以外は西村氏が自分でDIY。所要時間は3日ほど。費用は電気関係、床その他材料費でそれぞれに数万円ほどで完成した。

「調理はカセットコンロでできますし、水はタンク利用で使えますから、車の中でないのはトイレと風呂だけです。でも、トイレは公園や駅など利用できるところはたくさんありますし、風呂は仕事が終わった後、銭湯に行けば問題無し。最近やっている現場の近くには温泉があり、オーナーさんと仲良くなったのでそこに停めてひと風呂浴びることもしばしば。その後、眺めの良い場所に駐車すれば旅行気分です」

仕事場としての家ができ、働き方、暮らし方が自由に

実際の車を見せていただくと、机と椅子があり、スリッパを履いて過ごすような設えで、よくあるキャンピングカーの室内とは異なるテイスト。あえて、普通の部屋が車の中にあるように作ったそうで、家感覚を求めたわけだ。

車中泊では最近、道の駅が多機能化しており、宿泊はさほど面倒ではないとか。地方ならフリーで駐車できる場所もいろいろある。ただし、夏は良いものの冬は非常に寒い。モンゴルの羊毛をもらったので、いずれ羊毛断熱(!)をやろうかと考えているそうだ。

といっても、我が家というほどしょっちゅう車中で過ごしているわけではない。拠点の家があるので、車は仕事場の家と西村氏。「現在は不動産仲介もしていますが、いずれは空き家改修、大家さん業だけで暮らしていきたいと考えています。いつでも、どこへでも動ける仕事場の家があれば、日本中どの地域ででも仕事ができるようになります。車に乗るようになったとき、時間、場所の制約から自由になったと感じたものですが、仕事場の家を持つようになって、さらに働き方、暮らし方も自由になったように思います」

今後、住宅価格がさらに下がれば、都心で働く人でも、都心にはウィークデーを過ごすワンルームを借り、郊外のタダみたいな家をコストをかけずに改修、本拠地にするというようなライフスタイルが可能になるかもしれない。そんなとき、もうひとつ、泊まれたり、働けたりもする車利用のモバイルハウスがあれば好きな時間に移動、移動中に仕事をすることもでき、選択肢はさらに広がる。「大きなオプションとして暮らせる車を考えると、面白くなるんじゃないかと思います」

西村氏自身はすでに完成した家を5軒所有、作業中が2軒あるそうで、安く買ってこつこつ自分で手を入れた家が着実に稼いでくれつつある。自分のペースで好きな仕事をして暮らしていく。そのために不動産、車を使うという考え方、面白いと思う。

左上から時計回りに車上に搭載した太陽光パネル、運転席と助手席の間には冷蔵庫、水はタンク利用で、調理はカセットコンロ利用。パソコン、夜間照明も太陽光パネルからの電力で賄う左上から時計回りに車上に搭載した太陽光パネル、運転席と助手席の間には冷蔵庫、水はタンク利用で、調理はカセットコンロ利用。パソコン、夜間照明も太陽光パネルからの電力で賄う

2019年 06月03日 11時05分