もう後には戻れない、薪ストーブの引力

冬が深まってくるにつれ、ストーブの前やこたつの中で体を丸めたくなる場面が増える。その暖房が、ゆらぐ炎で癒やしを与え、家族のだんらんで心まで温めてくれる薪ストーブだったら、どうだろう。薪ストーブという響きは、どこか憧れを含んだように聞こえる。

そんな思い込みたっぷりの筆者は北海道旭川市でゲストハウスを経営している。本州から移住する際、「雪を見ながら深煎りコーヒーを飲んで、揺れる炎を眺めたい…」と夢見ていた。念願かなって小型の薪ストーブを導入し、早くも2シーズン目に入った。今なお多くの人を魅了する不思議な引力に驚き、すっかりその魅力にはまってしまった。

まず、圧倒的に暖かい。体の表面しか温まらない自宅のFF式ガスストーブと違い、建物が暖まり、やわらかな熱が全身を覆う。芯からのポカポカが持続する。ぼんやり炎を見つめて、うたた寝する。朝食用にチェダーチーズを炙ったり、ピザを焼いたり、カフェ用にお湯を沸かしたり、おやつにサツマイモを焼いたり、調理にも使えるマルチ選手だ。ゲストの満足度も高く、想像以上にいい仕事をしてくれる。

ただ、検討の段階では疑問や不安はたくさんあったし、いいことづくめとはいかない。その「憧れ」ゆえに、落とし穴も潜んでいた。薪ストーブで幸せに包まれるための秘訣を、北国が育てた「筒師」に聞いた。

ゲストハウスの薪ストーブでチーズを炙って楽しむ宿泊者(左上)と、ピザを焼く男性(右上)、調理にも使える天板(左下)。部屋の雰囲気を独特なものにしてくれる薪ストーブの佇まい(右下)ゲストハウスの薪ストーブでチーズを炙って楽しむ宿泊者(左上)と、ピザを焼く男性(右上)、調理にも使える天板(左下)。部屋の雰囲気を独特なものにしてくれる薪ストーブの佇まい(右下)

煙突は命。100軒あれば100通りの煙突がある

倒れた集合煙突を修復する横山さん。素焼きの土管と鉄筋、ブロックを一段ずつ組み上げて完成させる倒れた集合煙突を修復する横山さん。素焼きの土管と鉄筋、ブロックを一段ずつ組み上げて完成させる

教えてくれるのは、「有限会社煙筒の横山」(旭川市)の2人。15歳でブロック建築会社に就職し、31歳だった1986(昭和61)年に独立、集合煙突の施工と煙突掃除を重ねてきた横山愛慈社長と、営業や広報を担う設楽英典さん。「北国で暮らす人の冬の生活を守る」を合言葉にする同社は道内各地で年間400軒の煙突の掃除や、木質バイオマスストーブの施工をしている。

「筒師」と名乗るのは、職人としての自負からだ。横山さんは、ストーブの位置や出力、壁や屋根の条件、部屋のレイアウトなどを見極め、筒状の部材を組み上げて世に一つだけの「煙が通る道」を40年作ってきた。まずは、社名にも表れる煙突へのこだわりの所以を、教えてもらった。

「本州はいろり・こたつ文化ですが、北海道はいろりでは生活できず、寒い生活の中で家族を守るために、独特の暖房文化が築き上げられました。その代表が集合煙突です」と、まずは歴史的背景を。本州では聞き慣れない「集合煙突」は、厳寒ゆえに各部屋の複数の暖房の煙をまとめて排出するもので、古くからの住宅に多く見られる。横山さんはブロック職人の仕事の傍ら集合煙突を学び、2,000本以上を積み上げてきた。最近は北海道でも新築では集合煙突はほとんど見られなくなったが、暴風雪や大雪で倒壊することもあり、その修復も手がけている。

「ショールームで『このストーブ素敵だね』と思っても、煙突のことは頭にないものです。でも、ストーブの機能を100%発揮させるためには、煙筒が命といえます。そして、100軒あれば100通りの施工があります」と横山さんは言い切る。煙突は暖かい煙を、強く引き上げるための道。風向きや外気温、雪の量などあらゆる環境を想定し、いかにスムーズに上昇気流を生むことができるか、煙突の完成度がものをいう。

「薪ストーブ難民」にならないために

後悔しないコツを教えてくれた社長の横山さん(左)と設楽さん後悔しないコツを教えてくれた社長の横山さん(左)と設楽さん

理想の煙突を作るには、建物の構造に合わせて煙突の場所や工法、ストーブの性能などをトータルで考える必要がある。横山さんによると、新築時に陥りがちなのは、図面が出来上がって最後にストーブ関係を考えること。本来は平面図の検討段階で、玄関や浴室、トイレなど生活上必要な場所とストーブの位置関係を考え、空気の流れをシミュレーションすべきだという。

「見栄えがいいからと、よく吹き抜けの下にストーブを置きがちです。でも暖かい空気は上に行くので、居間など一番必要なところが寒くなることがあります。なのでまず居間を十分暖め、そこで余った熱を吹き抜け部分に誘導し、階段で下ろしていくと自然に暖まりますね。ファンを無理に回す必要もない。設計の段階からアドバイスを受けることが大事です」と強調する。

換気システムにも要注意だ。新築住宅は高気密・高断熱で、24時間換気システムが多いため、「薪ストーブにとっては苦手な環境」(設楽さん)。システムの仕様を調整したり、給気口を追加するなどの対応が必要なこともある。換気システムで強制的に排気されると、自然給気で空気を取り込み、上昇気流で燃焼力を高める薪ストーブは力負けして、空気が逆流してしまう。筆者も設置当初、換気扇を回したまま着火し、煙が充満して火災報知器を鳴らした失敗がある。

設楽さんによると、新築時にストーブと煙突の施工を工務店に頼んだが、換気システムへの未対応と不十分な施工が原因で、部屋が汚れて困り、頼る先がなくなって「煙筒の横山」を訪ねるケースが年に数件ある。「これは『薪ストーブ難民』です。北海道に憧れて移住し、北海道の工務店に任せれば大丈夫だろうと。本当に悲しいことです」

「煙筒の横山」の施工例のうち7割は既存の物件という。新築とは違ったポイントがある。

設楽さんは「薪ストーブを念頭に置いていないので、ハードルが高く、断られるケースもある」と指摘する。例えば軒が出ている住宅なら、水平方向に距離を稼いでから垂直に立ち上がらせる必要があるため、技術力が求められる。予算面からも、北海道なら集合煙突が既にある物件を探すのがベストという。半面、24時間換気が導入されていないことが多いため、新築より空気を取り込みやすいという利点もある。

建物の新旧を問わず、ストーブ本体の「落とし穴」も潜んでいる。

横山さんは「『ほかの暖房もあるし、薪ストーブは小さくてもいい』という声がよくありますが、大きな間違いです」ときっぱり言う。薪の暖まり方を知ると、灯油や電気、ガスの暖房と併用していても徐々に薪の割合が高まる。やがて主力暖房になり、性能を超えて酷使し、壊してしまう例がいくつもあるという。また調理できるという点を考慮せず、小型の機種に甘んじるパターンが多い。多彩な使い方ができ、建物全体を暖めるのに十分な機種を選ぶのがコツだ。

欠かせないのはコストの計算と、年に1度のメンテナンス

薪ストーブは高価なイメージがあるが、確かに初期費用は安くはない。

設楽さんによると、新築住宅に煙突を組み、一定水準の薪ストーブを置くと100万円コースになる。ただ工夫の余地はあり、「集合煙突のある既存物件なら、半値くらいまで抑えられる。なくても、中古ストーブや性能に問題ないB級品の煙突を使え、新品の組み合わせより数分の1で見積もることもできます」と指南する。かつては、退職後のスローライフを望む人の相談が多かったが、最近は中古で予算を抑えて薪ストーブを手に入れたい若年層が増えてきたという。

気になるランニングコストは、十人十色という。北海道だと薪は一冬に6~8立法メートルは必要とされ、すべて購入すると他の暖房より割高になるが、原木や建築廃材が手に入れば費用はかからないからだ。筆者の場合、成長の見込みのない木を選び、重機を使わずに薪を作っている木こりから購入していて、価格は1立法メートルで2万4,200円。全量をまかなうと財布が冷え切るため、知人やご近所の人が持ち込んでくれた庭木や、廃材を加えてバランスを取っている。

削れないコストはメンテナンスだ。横山さんは「火災対策は宿命です。ストーブは灰が詰まると燃焼効果が下がり、煙突はすすの蓄積や劣化で火災の原因になる。年に1回は必ずメンテナンスを。専門店にお願いするのが安心の一歩です」と強く訴える。手入れを欠かさず、状態の良い薪を使っていれば、薪ストーブは一生ものになるという。

このほか、薪を十分に乾燥させるのに必要な薪小屋や薪棚を作ると、その設置費用もかかる。

筆者に薪を供給してくれる木こりの清水省吾さん。薪の調達費用や、保管場所を作る費用など、考えるべきコストは多岐にわたる筆者に薪を供給してくれる木こりの清水省吾さん。薪の調達費用や、保管場所を作る費用など、考えるべきコストは多岐にわたる

憧れだけでは続かない。薪ストーブ以外の正解も

設楽さんは、北海道庁から委嘱され「地球温暖化防止活動推進員」として学校などで講演している。筆者のゲストハウスでは2019年、旭川市主催の小学生向け温暖化対策ツアーが開かれ、講師として設楽さんが親子連れに薪ストーブの魅力や役割を説明した。

二酸化炭素の排出量と吸収量を同じにする「カーボンニュートラル」や、エネルギーの自給、脱・化石燃料…。環境負荷を減らし、持続可能な社会づくりを考えれば、薪など木質バイオマスの有効活用は避けて通れない。

それを推進するためにも、設楽さんは「薪ストーブには覚悟が必要です」と語気を強める。

「単なる憧れだけで薪ストーブを始める人が、失敗しています。買ったはいいもののオブジェと化した例がけっこうあるんです」と言う。1シーズン分の薪をストックし、小屋や薪棚に移して乾燥させ、着火から始める。「その煩わしさを考えずに、カタログ写真のような火を囲んだだんらんの楽しみだけを思い描いていると、『こんなはずじゃなかった』となります」。例えば共稼ぎ世帯で、夜遅くや朝に着火して暖まるのを待てるか、どうか。「覚悟をもって導入した人はずっと続きますが、少数です。自分たちのライフスタイルを考えて、大変さを楽しむ人じゃないとできません」

筆者も、朝食提供時間に適温になるよう暗いうちから火をつけ、建物全体を暖めてから調節するが、「自分で火をつくる」という楽しみが勝っているからこそできることだ。

「そこまでできない」となったときに、多くは化石燃料に回帰するという。ただ設楽さんは「化石燃料の対極は薪だけ、と思われていますが、別の選択肢もあるんですよ」と言う。間伐材などを粉砕・圧縮した固形燃料を使うペレットストーブだ。「自動着火やタイマー機能など、石油ストーブ並みに便利で、薪ストーブのように極端に生活スタイルを変えなくてもいいんです」と利点を語る。知名度が低いため、薪ストーブを使うほどの「覚悟」を持てない場合にペレットは適任という。目指すのはあくまで、「入り口」の森と「出口」の消費者をつなげ、恵みを循環させる社会だ。

建物の現状や予算を踏まえ、専門家と一緒に考えることで、ストーブの種類も煙突の形も、おのずと決まる。その出発点は、望む暮らしを思い描き、憧れだけではない「覚悟」を持つことだ。

「煙筒の横山」ショールームに並ぶペレットストーブ(右)。左は、薪とペレットのハイブリッド型「煙筒の横山」ショールームに並ぶペレットストーブ(右)。左は、薪とペレットのハイブリッド型

2020年 12月23日 11時05分