北海道胆振東部地震の復旧・復興の中、「ローカルベンチャースクール」合格生が起業準備を開始

北海道の太平洋沿岸の東胆振地区の中で、山林と田畑、水産資源にも恵まれた厚真(あつま)町。
農業は米やハスカップ、漁業はホッキやシシャモ、林業も盛んな場所であり、また浜厚真の海岸には良い波が来ることから多くのサーファーが訪れる。

そんな厚真町だが、2018年9月に起こった北海道胆振東部地震により震度7の強い揺れに襲われ、土砂災害にも見舞われたことで多くの尊い命が奪われた。
くらしごと取材班が訪れた2019年6月の厚真町は、田んぼでは稲が青々と茂り、浜辺ではたくさんの人がサーフィンを楽しんでいる、風光明媚でのどかな町だった。地域の人たちの生活インフラも徐々に復旧し、一歩一歩着実に復興への道を歩んでいる姿が見てとれる。

その大変な復旧・復興のさなか、厚真町で起業する人を選考する「ローカルベンチャースクール」の第3回となる募集を、震災後わずか2ヶ月後の11月に開始。合格した3期生が、2019年度から起業準備の活動を始めている。

町として、ローカルベンチャースクールにどんなことを期待しているのか、まずは厚真町にこの制度を導入した時の主担当である、林業グループ兼経済グループの主幹・宮久史さんを訪ねてみた。

浜厚真の海岸には良い波が来ることから多くのサーファーが訪れる浜厚真の海岸には良い波が来ることから多くのサーファーが訪れる

ローカルベンチャースクールの立役者は移住者

ローカルベンチャースクールを厚真町へ取り入れた宮さんローカルベンチャースクールを厚真町へ取り入れた宮さん

宮さんは厚真町への移住者で、岩手県出身だという。大学では林業の研究をし、持続可能な社会づくりを模索していた。

縁あって厚真町役場へ入職後、林業一筋35年のベテランであった前任者からの引き継ぎを3年間かけて受けた。林業の担い手や関わる企業・人を増やしたり、林業に触れる機会がなかった町民に森林の楽しさを伝えるNPO法人「あつま森林(もり)むすびの会」の設立に携わる。そんな動きで、林業としては一定の成果が出てきたが、宮さんは町全体として持続可能な地域づくりができているか?と考えたという。

そんな中、岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)でローカルベンチャースクールを立ち上げたエーゼロ株式会社の活動を知ったという。西粟倉村は、村の面積の9割を森林が占める林業のまち。
「ローカルでベンチャーを起こすということが、まずは信じられませんでした。でも、人口1,500人の西粟倉村ができるなら、人口4,500人の厚真町でもできるかもしれない。地域に根ざしたビジネスが生まれれば、まち全体の持続可能性が高まると思ったんです」

そして、エーゼロの牧大介社長とコンタクトを取り、関係性を深めていく中で、2016年度から厚真町でも開催することとなった。

「”厚真町で”本当にやりたいこと」の実現を後押しする

ローカルベンチャースクールは、「厚真町で起業したい人」を募集し、起業に向けての決意やビジネスプランを精査・選考して、合格者を決める仕組み。合格者は、地域おこし協力隊の制度を利用し、任期中最大3年間、町からの財政的支援を受けながら厚真町で起業し自立することを目指すというものだ。

現在は1期生から3期生が、地域での移動手段をITを駆使して補完する地域モビリティインフラ事業、デザインや広告プランニング、馬搬による林業、介助犬の繁殖など、多種多様な事業に向けて厚真町で活動している。

「起業の内容は何を提案してもいい」のだという。
「地域おこし協力隊の募集をしても、本人が本当にやりたいことと、市町村が求めることが合わない場合も多いと思います。本当にやりたいことをやるのが、一番力が出る。だから、提案型の地域おこし協力隊として来てもらい、自分の力を出し切ってもらうことが本人や町民含めてみんなの幸せにつながると思いました」と宮さんは話す。

「必要なのは、本気と覚悟。本当に厚真町でやりたいのか。そこがしっかりしていないと最後の踏ん張りがきかないと思いますので、そこは真剣に問います。そして、事業計画については、エーゼロさんの力を借りながら最終選考までにブラッシュアップしてもらい、審査します」

役場の皆さん(左から小山さん、大坪さん、小松さん、宮さん)。地域おこし協力隊任期中の方や、任期終了後に起業した方にも様々な形で寄り添っている。役場の皆さん(左から小山さん、大坪さん、小松さん、宮さん)。地域おこし協力隊任期中の方や、任期終了後に起業した方にも様々な形で寄り添っている。

外からの人の力を受け入れて、厚真町復興の力に

理事兼産業経済課長の大坪秀幸さんは「以前も、移住・定住促進事業を行っていましたが、その時は人数にしか着目しておらず、来てくれた人に何をしてもらうかまでは目が向いていませんでした。移住してきた人がもっと地域で活躍するために、ローカルベンチャースクールのような取組みは素晴らしいと思います」と話す。

「雑談と相談が合わさっての、雑相(ざっそう)を大事にしているんです。話しやすい雰囲気をいかにつくるかですね」
そんな雰囲気から、仕事のアイデアや「これがやりたい」という活力も生まれてくるという。

「町外出身で、社会人を経験した人にはドラマや思いがあります。だからこそ、縁もゆかりもない人であっても、厚真町のことを真剣に考えて一生懸命仕事をしてくれているんですね」

現在は、役場職員の45%が町外出身者。宮さんは、「厚真町出身の職員の同僚や退職されていった先輩たちがいて、その皆さんがやってきたことに対する信頼があるから、私たちが受け入れてもらえて、結果として多様性が生まれていると思います」と語る。

震災後の厚真町の2019年の移住促進事業はというと、一旦様子見の状態。まちづくり推進課総合戦略グループの主幹、小山敏史さんによると、移住に関する問合せは今もあるが、相談を受けてから実際の移住までは数年かかることもあり、被害状況の説明にとどまっているそうだ。移住先の住宅などが確保できれば、体験移住なども再開したいという。

小山さんも移住者で、以前一般企業に勤めていたときに苫小牧市に配属され、隣町である厚真町に住んでいた。厚真町の居心地の良さから転職を決意し、厚真町役場の社会人枠で採用された。移住の決め手にもいろいろあるが、小山さんにとっては「人」だったという。反対の立場で、小山さんが移住フェアで親身に話を聞いてくれたから移住を決めた、という人も多くいるそうだ。

新しい人の力で町を活気づけるためにも、環境の整備が待たれる。

奥の方が大坪さん。大坪さんの周りにはいつも笑い声が飛び交う。奥の方が大坪さん。大坪さんの周りにはいつも笑い声が飛び交う。

ローカルベンチャースクールの今後

エーゼロ厚真取締役の花屋さんエーゼロ厚真取締役の花屋さん

一方震災後、ローカルベンチャースクールは一度は中止も検討されたが、「こんな時だからこそ、外の人の力を受け入れて、復興に向けての力にしたい」という役場の思いをエーゼロが受けて、発災後間もなく募集に踏み切った。

ローカルベンチャースクールの選考や起業のサポートを皮切りに、町と人をつなぐ役割として活動しているエーゼロ厚真の取締役の花屋雅貴さんはこう話す。
「まちの人の暮らしは元に戻りつつありますが、本当にインフラが復旧するまでには10年、20年単位の時間が必要です。町も、移住者の支援に力を入れたいと考えつつ、労力を割けないのが現状。だからこそ私たちがしっかりサポートし、持続可能な地域づくりに携わっていきたいと考えています」

新しい人を柔軟に受け入れ、その声に耳を傾けてきた厚真町。今まで培ったその力を原動力にして、さらに復興は加速していきそうだ。

■取材協力
厚真町役場
エーゼロ株式会社
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◎筆者:くらしごと編集部 桃野文香

2020年 03月31日 11時05分