道民でさえも「どこだっけ?」となりがちなまち

東京五輪まであと2年。
新しく参入した注目度の高い競技のひとつに『ボルダリング』があげられるのではないだろうか。ボルダリングは高さ約3〜5mの壁に固定された取っかかりを、ロープを使わずに手足のみで登るというスポーツ。メジャーになってきたこのスポーツは初心者でも始めやすく、その手軽さから各地の公園や幼稚園にまでボルダリングの壁がつくられるなど、子どもたちのスポーツ推進にも一役買っているようだ。

今、人口2,000人にも満たない北海道の田舎まちに、ボルダリングジムをつくろうとしている若者がいる。彼の名は、近野永(こんのひさし)さん。2017年9月から浦臼町の地域おこし協力隊としての活動をスタートさせた。

浦臼町は札幌から車で1時間半程度のところにあり、近隣にも滝川市や砂川市といった比較的大きな市がいくつかある。しかし、北海道民でさえも「浦臼町?羅臼じゃなくて?」と、世界遺産の知床がある羅臼町に知名度的には負けてしまっているまちでもある。

車を走らせれば、確かにこのまちは田舎だった。若い人たちが近隣都市に流れ出ているせいもあって、あまり見当たらない。『活気溢れたまち』とは少し遠いかもしれないというのが正直な印象だ。

しかし、こうした何もないまちにこそ宝が埋まっている。
この写真は、そんな田舎まちである浦臼町の神社で近野さんが撮影した一枚。この神社は、自然が美しい季節になるとカメラが趣味という人々がこぞって訪れる人気のフォトスポットだ。インスタ映えする、フォトジェニックな写真が撮れる。ここは、リスをはじめとする動物や自然が美しく共存しているまちなのだ。

浦臼神社で撮影された一枚。浦臼町には野生の動物も多い浦臼神社で撮影された一枚。浦臼町には野生の動物も多い

多趣味な若者が行き着いた先は「何もない?」田舎まち

知っていますか?浦臼町知っていますか?浦臼町

近野さんはカメラが趣味?と思いきや、それだけにとどまらなかった。その他に登山、珈琲焙煎、絵画、彫刻、ギターなどなどその趣味は多岐に渡る。どれも決して中途半端なわけではなく、全てにおいて極めている…そんな多趣味で器用な人間がなぜこんな田舎まちに?という疑問がまず浮かぶ。

彼は北海道空知エリアに位置する赤平市で生まれ、進学の度に北海道内を点々とした。そして、就職を機についに北海道を出て神奈川県の不動産会社に勤めることになったのだが、都会での日々の暮らしの中で「自然ともっと遊びたい」という欲望がふつふつ湧き上がってきたという。その想いはとどまることを知らず、タイミング良く求人が出ていたアウトドア(登山専門)のお店「秀岳荘」に応募し北海道へUターン。旭川市で再スタートを切ることになった。

大好きなものに囲まれての仕事は、彼にとってとても至福の時間だった。
しかしそんなある時、とあるまちの役場で働く友人に『地域おこし協力隊に向いていそう』と言われ、「協力隊とは一体?」と調べてみるうちに興味が湧いていったという。

「実際まちおこしを自分一人の手で成し遂げることは到底難しいこと。でも、自分の力が少しでも役に立つのなら…」そういう想いで、彼は協力隊としての活動拠点を探し、たまたま求人募集のタイミングも合った浦臼町の地域おこし協力隊となったのである。

さらに興味深いのは、彼が協力隊の拠点を探していた際に第一優先としていたのは「より田舎であること」。「僕、ものすごく田舎!というところの方が好きなんですよね」とはにかむ近野さん。さらには「せっかく協力隊として行くなら、まだ多くの人に知られていない田舎の方がやりがいがあると思ったんです」と、言葉を継いだ。

田舎に眠ったクオリティの高い音楽機材と共にチャリティイベント

浦臼町に来て、早速自らが手掛けたイベントの1つがチャリティライブだ。その名も「愛は浦臼を救う」。このイベントは2018年2月に開催した。

「こんな田舎な小さなまちではありますが、お祭りなどで使用している音楽機材のクオリティが凄く高いということに気づきました。自分自身もギターを弾いたりと、音楽も好き。たまたま役場の直属の上司にも音楽好きの方がいて『音楽イベント、やっちゃう?』そんなノリで開催を決定したんです」。

このように風通しの良い役場は珍しいのかもしれない。そして、何より近野さんがみんなから愛されていることも大きいだろう。こうして実現に向けて動き出したイベント計画。出演者は、バンドやソロで出るなど自由。浦臼町出身のシンガーソングライターや、若手有志が集まった。もちろん、近野さんも音楽好きの上司も、イベントを運営しつつも出演者としてステージに立った。

訪れた町民たちからは「イベントが少ないこのまちで、こういうことを開いてくれて嬉しい。また開催してね」と声をかけられたそう。人口が減っていく浦臼町。当然イベントも減っていき、さらに活気が薄れていってしまう。しかしこの日は間違いなく、この場に活気が溢れかえっていたことは来場者たちの笑顔が物語っている。
ただ、今回のイベントの来場者の年齢層は高かった。「浦臼町に若者はいるんですが…」と近野さんは笑い、「今後の課題としては、若者たちを動かすこと」と語った。

将来的に近野さんに突き動かされた若者たちが、まちの主体となって盛り上げていける未来を描いている途中だ。

町民たちも笑顔で参加町民たちも笑顔で参加

浦臼町での次なる構想は…

冒頭でも少し触れたが、近野さんはボルダリングジムをつくるのが直近の目標だと話す。すでに役場にも自作の企画書を携えプレゼン。目指すは、このまちのスポーツ推進事業になることで、現在はジムとなる空き倉庫を探しているところだ。
もしかしたら将来、浦臼町からボルダリングのオリンピック選手が生まれるかもしれない。その種は近野さんが間違いなく今、蒔いている。

同時に、浦臼町の情報発信力が弱いというところにも着目。近野さんは今、FacebookやTwitter、インスタグラムなど様々なSNSを駆使し、浦臼町の発信を積極的に進めている。写真が得意な彼が撮影した浦臼町の姿の写真は、ネットにのって多くの人に届けられている。名も知られず、他のまちと混同されがちだった浦臼町が『どこのまち?』から『あのまちのことね』と人々の認識が変わる日もそう遠くはないのかもしれない。

今でこそよく耳にするようになった「地域おこし協力隊」は任期が3年と決まっており、任期終了後そのまちを出ていってしまう人も残念なことに多いのが現状だ。しかし近野さんは「任期が終わっても定住するつもりです。せっかくこのまちに来れたんですから!」と満面の笑み。さらには、「最近スーパーが出来たんですよ!これでこのまちにお金が落とせる」と浦臼町への強い愛をひしひしと感じた。

若者が都会へ流動していく流れは止められないし、悪いことではない。広い世界を見て、視野を広げるには早い方がいい。近野さんのように一度都会を知った人がそのまちで得た知恵をもって、田舎のまちをつくる、そういう人は今も尚増え続けている。「田舎だから何もできない」それはきっと間違っていて、実は田舎にこそ、豊かな暮らしの原石が転がっているのかもしれない。大切なものはコンビニがある便利さでも、人口の多さでもないのではないだろうか。浦臼町の今後が楽しみである。

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◎筆者:くらしごと編集部 津山理彩子

田舎の自然がそのまま映し出された美しさを多くの人にも知ってほしい田舎の自然がそのまま映し出された美しさを多くの人にも知ってほしい

2018年 09月01日 11時00分